• 検索結果がありません。

教員のフィードバックの影響

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 158-163)

第 4 章 メタ認知の活性化を目指す活動の効果検証

4.3 教員のフィードバックの影響

本節では、学習者が毎回の授業で記述した内省文に対して教員が行ったフィードバ ックの記述文とそれに対する学習者の反応を分析して、教員のフィードバックが学習 者に及ぼした影響を観察する。

4.3.1 分析の手続き

分析の対象としたデータは、2014年度から2017年度の4期にわたる授業で学習者 の内省文に対して教員がフィードバックした記述文(コメント)と、コース終了後の 調査に協力した学習者の半構造化面接調査結果の文字化資料である。記述文は、教員 が行ったフィードバックの傾向を捉えるために用いたものである。内省文と同様の分 析手法で内容分析を行った。コード化に際してデータの切片化は行わず、文脈性を重 視しつつ記述の意味に着目して検討し、一まとまりの意味を示す部分を一単位(分析 単位)とした。その上で、類似した内容の単位を集め、それぞれのまとまりが特徴的 に示している概念にカテゴリー名を付し、【 】で表した。

面接調査資料は、フィードバックに対する学習者の認識を把握するために使用し、

得られた回答を一覧にした。文字化はできるだけ忠実に行ったが、フィラーの一部、

沈黙、文末表現などは文意を損ねない範囲で適宜簡略化し、意図が伝わりにくい箇所 に(筆者注)と表して補足した。

分析は、筆者が行い、その結果を日本語教育及び日本語教育研究に十分な経験を持 つ協力者 2 名に示して、分析手続きの過程と結果を精査し、3 名でほぼ一致に至るま で検討を繰り返し、妥当性を確保した。

4.3.2 結果及び考察

(1) フィードバックの記述文から得られたカテゴリーとその具体例

4 期間の記述文から得られた 204 の分析単位から、【学習ストラテジーの知識の補 足】、【学習ストラテジーの使用の促し】、【学習ストラテジーの有用性への気づきの促 し】、【同意・共感】、【称賛】、【励まし】、【気づきへの評価】、【意味づけ・価値づけ】、

【問題意識の喚起】、【目標の提示】という10のカテゴリーを得た。以下に、各カテゴ リーに含まれる具体例の一部を示した。記述文の冒頭の番号は、授業実施年度と週を

150

表す(例「1402」は14年度の第2週目、「1510」は15年度の第10週目の授業)。

【学習ストラテジーの知識の補足】

1409 主題文だけでなく「しかし」や「だが」などの接続詞にも着目するといいですね

1504 タイトルのパラフレーズ(くり返しや言いかえ)が、キーワードになることが多いです。

1507 文章構造の特徴を知ることはストラテジーとして使用できますね。テキストの情報を活

用するストラテジーです。

【学習ストラテジーの使用の促し】

1511 前回の経験を生かしてうまくいく、そして、自分のレポートに生かせる、ようにストラ

テジーをかんがえてくださいね。

1703 今はちょっと、くやしい/もどかしい気持ちかもしれませんね。何かいいストラテジーは

ないかな?自分の勉強方法も考えてみたらいいかも?

1708「資料を読み取り自分の意見をまとめる」という作業は大学で必要なスキルですね。自 分に役に立つストラテジーを見つけたり意識したりして活用してください。

【学習ストラテジーの有用性への気づきの促し】

1604 タイトルを読んで予測するストラテジーが新しい発見ですね。目的を持って読むことに

なるから効果的です。

1612 他の人と協力する・意見を聞く・アドバイスをもらう―などは有効なストラテジーだと

分かりますね。アウトラインを考えるのは今後に生かせそうですね。

1711「見直す」ということが大事なストラテジーですね。見直すことで気づきが生まれて、そ の気づきを生かしてさらによりよくすることができるからです。今日の気づきをレポー ト作成に生かしてください。

【同意・共感】

1414 最終の発表のためにどんな準備をすればよいか明確にすることができましたね。

1507 そうですね。私も大切なストラテジーと思います。

1513 分野によって、いろいろな書き方があります。いずれにしてもいつアクセスしたかを示

すことが大切だということですね。

【称賛】

1410 ペアの活動で積極的に活動できましたね。長い文章をよくがんばって読みました。

1410 興味のあるテーマの文章だったんですね。ストラテジーをよく意識して読みましたね。

1710 冬休みまでにインタビューをしたんですね。○さんの意欲がとてもいいです。文章は難

しく感じても内容(テーマ)はおもしろいですよね。

【励まし】

1414 自分が選んだテーマについてしっかり準備をしてがんばってください。

151

1512 データを根拠に自分の主張をどうまとめるか?!むずかしいかもしれませんがチャレ

ンジしてみましょう。いろんなストラテジーを使ってがんばってください。

1605 日本人学生と会話をするチャンスになるといいですね。がんばって。

【気づきへの評価】

1607 「すこしずれている」ことになった理由が自分で分かったのですね。その「気づき」が

とても意味があるよね。次に生かして。

1611 課題を設定することは、考えなければならないことなので、かんたんではありませんね。

でも、今日のような気づきが次に必ず役に立ちますよ。

1709 おもしろい問題ですよね。新しい気づき(それまで考えたことがなかったこと)という

のはとても意味があるよね。いろんな人(日本人だけでなく)の意見を聞いてみましょ う。

【意味づけ・価値づけ】

1408 要約すれば、文章の内容で、特に主題や筆者の伝えたいことがよく分かるということで

すね。

1410 つまり、「読む」ということは認識を変えるということですね。

1407 つまり、読む目的や必要に応じて、読み方も変わるということですね。これらのストラ

テジーを使い分けてください。

【問題意識の喚起】

1402 いいですね。登場人物が読み手の心を引きつけますね。ジャンルによって、何がちがう

のでしょう?

1404 隠れたカリキュラムは面白いテーマですね。年齢や性別だけでなく、ほかにもありそう

ですよ。考えてみてください。

1413 見通しを持つことは大切なことですね。「難しいかなあ」という予想ですが、さあ、これ

からどうしますか?解決の見通しは?考えてみてください。

【目標の提示】

1506 もう少し詳しく述べてみよう。「よかった」「すごい」などはとても便利な言葉ですが、

何がどのようによかった、すごかったのかを表現する習慣は役に立つと思いますよ。チ ャレンジしてみて!

1712 まわりの人と日本語で会話をする(おしゃべりをする) つもりでインタビューしてみ てください。いろいろな意見を集めて自分の考えを深める材料にしましょう。

1414 目標を明確にする、そのために何をすべきかを洗い出す、困難な場合は修正するという

プロセスに意味があるので、「変える」ことは悪いことではありません。「調整力」も大 切な能力ですね!自分で納得できる方法でがんばってください。

上のように、教員はフィードバックで、当該授業で利用を促した学習ストラテジー の【知識の補足】をしたり、具体的な場面を提示して【使用の促し】や【有用性への気

152

づきの促し】を働きかけ、学習ストラテジーについての認識を補ったり発展させたり していた。また、【同意・共感】し、【称賛】や【励まし】を行うとともに、【気づきへ の評価】をして学習者自身による気づきの意義を示唆したり、学習者の行動や認識へ の【意味づけ・価値づけ】を図ったり、【問題意識の喚起】や【目標の提示】を行い、

学習者が当該授業の内省を次の方法の選択や計画に生かせるように助言していた。

(2) フィードバックの記述文の全体的な傾向

収集された全記述文のカテゴリーに含まれる分析単位数を調べ、含まれる単位数が 多い順に、表4-14に示した。

表4-14 フィードバックの記述文の全体的な傾向

表4-14が示す通り、【学習ストラテジーの使用の促し】に含まれる単位数が最も多 く、次いで【同意・共感】、【学習ストラテジーの有用性への気づきの促し】、【励まし】

が目立つが、【意味づけ・価値づけ】から【学習ストラテジーの知識の補足】までの各 カテゴリーのフィードバックも、さほど多くはないが、同程度になされている。

(3) フィードバックの学習者への影響

コース終了約2週間後に行った面接調査結果から得られた、フィードバックに対す る学習者の認識を表4-15に示した。下線は、学習者の認識の中心的な部分と思われ る箇所に筆者が施したものである。

カテゴリー 分析単位数

【学習ストラテジーの使用の促し】 51

【同意・共感】 31

【学習ストラテジーの有用性への気づきの促し】 25

【励まし】 23

【意味づけ・価値づけ】 16

【問題意識の喚起】 14

【目標の提示】 13

【気づきへの評価】 11

【称賛】 10

【学習ストラテジーの知識の補足】 10 合 計 204

153

表4-15 フィードバックに対する学習者の反応

表4-15から、教員のフィードバックが、概ね肯定的な影響を及ぼしたことが認め られた。学習者は、称賛や励ましなどの好ましいコメントだけでなく、間違いの指摘 や注意なども肯定的に受け止めていた。また、「したこと」へのフィードバックだけで なく、「次にやること」への具体的な指示をもらうことも歓迎し、フィードバックのコ メントを自分が取るべき方法を選択する際の参考にしていた。学習への指導的コメン トのやりとりという認識にとどまらず、フィードバックを教員との双方向の意思疎通 の場と捉え、教員に「理解してもらえる」、「理解してもらえた」という認識が、「見守 られている」というように好ましい連鎖を生むとともに、意欲の喚起や学習者が次の

回 答 例

・先生と話してるみたいな感じですね。

・先生とやり取りをした感じがいい。

・私はフィードバックが大好きです。それしか自分がどこの点が悪いのか、よくないのかを 見つけることができないので。

・もし、学習ストラテジーが間違ったら、先生が注意してくれて、ああ、前回のストラテジ ーは少し勘違いがあった…とか思う。

・今回の授業でたとえば、これ、リフレクションで先生も間違ったところを直してくれて自 分も、自分の日本語ももっと上手になれると思いました。

・時々文法的なまちがいもあるんですよね、それをみたら、ああ、これからこう書くんだな あって思う。役に立つと思います。

・コメントのほうが、コメントしてくれたほうがいいです。自分のまとめがいいか悪いか、

それと、もっと具体的な、これから、これからの指示とかされるんで。

・いいだと思います。自分の理解ことを先生に伝えることから、これからの、先生はどのよ うな、学生、学生の考え方はどのようなことを、考えているかを、先生の立場から見ると 役にたつかなと思います。

・たぶん、自分の意見を理解してくれている、なんか、先生は、あたたかい、見守ってくれ ている、ちょっと感動した。

・コメントのことから、これからが役に立つことがあると思います。(筆者注:たとえば?)

自分がもっとがんばるという気持ち、気持ちが出す、出します。

・「早速使ってみて下さい」とか。応援するみたいなと思います。(筆者注:使ってみた?)

使ってみました。

・たとえば、なになにに悩んだときは、先生は、「次は、何々したほうがいい」とアドバイ スをしてくれたりしました。だから、もっと、頑張りたい。

・なんか、先生のフィードバックを読んだらいいことがもらえますけど、私はちょっと、先 生の書いたことがいつもちょっとだけ読みました。フィードバックはちゃんと読んだらい いと思います。

・先生のフィードバックは、本当に役立っています。たとえば、ストラテジーの使い方はち ょっと分からないとき、先生の意見とか採用して、そして自分で考えて、もっと、一番、

私にとって一番いい方法を選んでできる。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 158-163)