第 3 章 開発した日本語コースとその実施結果
3.3 コース実施からの示唆
3.3.1 実施した 4 期の展開
第Ⅰ期は、受講生の読解能力の向上という課題に対応するために、日本語の文章構 造への意識を促す読解ストラテジーに焦点化して、効率的な読解に資するストラテジ ーを意識的に利用する活動を重点的に行った。その結果、学習者から、自律性育成の 必須要素であるストラテジーを利用する積極的な態度(Wenden, 1991)やストラテジ ーの有効性(Oxford, 1994)への気づきが観察され、ストラテジーに対する意識の向 上が認められた。しかし、AJが目指す汎用的能力や論理的発信力の育成に直接働きか ける活動が十分ではなく、こうした活動に対する学習者の関心も高いことが捉えられ た。そこで、ピア活動やインタビュー活動などを組み入れた総合的な活動の中で、学 習者が課題意識を持って課題を解決していく機会を増やすことが学習者の意欲を維持
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(2) 第Ⅱ期
第Ⅱ期は、総合的な活動によって多様なストラテジーを利用する機会を提供した。
「課題設定(問題発見)→課題解決→まとめ」というプロセスを内省しつつ遂行して いく課題解決学習を行い、資料読解、インタビュー、レポート作成などで必要となる ストラテジーの利用を想定し、特に、日本語の文章構造に注目した読解とライティン グの受信・発信活動に共通して必要となるストラテジーの意識的使用を重視した。学 習者の反応から、認知プロセスの外化(溝上, 2014)を行いながら課題解決学習に興味 を持って取り組んだことが窺われたが、メタ認知活性化の前提となる課題解決学習の 主題に対する関心の強弱が学習意欲の維持に影響することが判明した。そこで、1 つ の課題解決学習にかける時間や主題の種類を工夫する必要が認識された。この工夫は 同一活動の反復が増えることになり、レポートの作成技能が不十分な留学生には好都 合であると考えられた。また、内省活動を行う熱心さにも学習者によってかなり差が 見られ、この活動の目的についての理解を促す工夫が必要であると考えた。
(3) 第Ⅲ期
第Ⅲ期は、課題解決学習の回数を増やして同一活動を 3回繰り返す経験を与えた。
課題解決学習の中で、日本語の文章構造に注目した受信・発信活動に共通して必要と なるストラテジーに焦点化して、メタ認知の活性化をさらに促した。課題解決学習の 主題は、同世代の考え方に触れ、自分たちの生き方を考える契機となるようなものを 硬軟織り交ぜて提供し、多忙な学部留学生の実情を考慮して余裕のある計画を設定し た。その結果、ストラテジーの知識を獲得しそれを意識的に使用してみるという経験 が一定の効果を上げたことが観察され、学部留学生に特徴的なレポート作成や論理的 な表現力に対する困難(長野・峯, 2005; 村上, 2000)への対応に繋がるとともに、認 知・学習言語能力(CALP)の獲得・向上(Chamot & O’ Malley, 1994, 1999)を促し たことが窺われた。学習したストラテジーの別の技能での応用を想定したり、インプ ットされたストラテジーの中から取捨選択や能動的選択を行ったりしていたことが捉 えられ、メタ認知が統合的に促されながら(三宮, 2008)発達したことが認められた。
また、同一活動の反復が経験の蓄積となり、課題解決学習の学び方を繰り返す過程で
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他者のコントロールから離れて(Little,1991)、自己の学習の様々な側面に関する決 定(Holec, 1981)を内省に基づいて行う様相が見られ、ストラテジーだけでなく自己 の学習に関する意識の活性化が捉えられた。さらに、ピア活動が学習プロセスの楽し さを支える上での重要な要素(大島, 2005,2007)となるとともに学部留学生が望む 人間関係構築の有益な手がかりになっていた。大半の学生が課題解決学習を有用と評 価し、自己の有能感の向上へと繋がったと見られたが、学習スタイルの拡張に消極的 な学習者も存在し、そうした学習者への支援方法が課題となった。
(4) 第Ⅳ期
第Ⅳ期は、日本語の文章構成に問題を抱える受講者に対応するため、読解活動の発 展としてストラテジーの意識的利用と書く活動を組み入れた課題を課外に課すこと、
レポートの推敲のプロセスをクラスで共有することなどに留意し、レポート作成への 負担を軽減した。学習者の反応から、自分にとって最善の選択肢(青木・中田, 2011)
を選んで活動を進め、ストラテジーと自己の学習への意識を向上させたことが観察さ れたが、学習者が動機を高く保って課題解決型の活動を円滑に行うためには、活動負 荷の調整という問題があり、それへの対応が求められると考えられた。課題解決型の 発信活動に帰結する活動においてストラテジーの利用を促進することが効果的である ことは確実だが、動機の維持に影響する学習者の要因によりよく対応するためには、
多様な複数の主題を取り上げるだけでなく、活動負荷を学習者の事情に応じて可能な 限り変化させることが一つの解決となる可能性がある。
このように、4期にわたる縦断的な教育実践は、概ねAJ教育が目指す汎用的能力や 論理的に考えをまとめて発信する能力(門倉, 2006)の育成支援に繋がり、先行研究で 指摘されていた諸課題の解決に資するものとなったことが窺われた。学習ストラテジ ー意識化の活動が、単一のストラテジー知識の獲得とその有効性の実感にとどまらず、
内省に基づいて、能動的に選択して以後の活動で使用する、他の技能での応用を想定 して認識する、自分の言語や過去の学習と結び付けて考えるなど、有機的な影響を及 ぼしていた。このことから、内省活動によるメタ認知的活動が、ストラテジー、すな わち、メタ認知的知識を精緻化させ、さらにメタ認知的活動を洗練させるという循環
(三宮, 2008)によりメタ認知の向上を促進したと推察される。この結果は、ストラテ
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ジー指導に関する研究で課題とされていた、学習者の意識化が行動に反映される過程 の詳細な観察(金, 2004; JACET学習ストラテジー研究会, 2005)に繋がった。本実践 が、学部レベルでの学習ストラテジーの包括的な指導方法の開発(アプドゥハン, 2006,
2008; 中井・鈴木, 2014)や上級レベルの学習者に必要な高次のストラテジー指導(藤
田他, 2018)に寄与し、学習者の認識への働きかけの効果がまだほとんど確認されてい ない学部の初年次段階のメタ認知の発達の実態の一端を捉えたと考える。