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本論文のまとめ

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 164-172)

第 5 章 結論

5.1 本論文のまとめ

本研究では、学部留学生の自律的学習能力の向上を支援する教育方法を探索するた めに、自律的学習能力の中核要素とされるメタ認知の活性化を目指して、「学習ストラ テジーの明示的な提示とその行使機会となる課題の提供」とその活動について内省し 評価する「内省活動の定期的実行」という二つの学習活動を組み入れた日本語コース を4期にわたって実施し、これら二つの活動の有効性を検証した。

第1章では、本研究が必要とされる背景と目的を述べ、探索方法の概略を示した。

本研究の背景として、産業社会から知識基盤社会への大きな変動に伴い、学校教育 が社会から獲得を要請されている諸能力について概観し、「生きる力」や「学士力」と いった表現で示されるポスト近代型能力の獲得が期待されている現状を捉えた。従来 型の「一定の学力」の育成ではなく、変化に柔軟に対応し新たな価値を生み出してい く汎用的能力の育成が現代の大学教育に求められているのであるが、従来型の能力の 獲得が不必要になったわけではない。求められる範囲が拡大したと言えるこの状況を 乗り切って自分の力を伸ばしていくためには、自律的学習能力の獲得が必要なのであ る。自律的な学習能力は、社会のパラダイム転換により到来した予測困難な時代には ますます重要性を増している。

大学で基礎教育の一環として提供されている日本語科目は、学習条件が不確定で学 習者特性も多様であるため、コース設計にあたって日本人学生を対象とした一般科目 以上に柔軟な調整が求められることが多い。アカデミック・ジャパニーズの能力や学 習技能の向上を図るためには、留学生の特性を理解してその弱みに配慮し強みを生か

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すよう調整を図り、適切な学習活動を考案することが必要である。

次に、アカデミック・ジャパニーズ教育が目指す「市民としての力」は「学士力」の 中心概念である「生きる力」に通底していることを確認した。大学の留学生教育にお ける日本語教育の役割は、「現代社会を市民として生きる力」に繋がる自律的な学習能 力の涵養を図ることであると考えられた。

以上の検討から、本研究は、日本の大学で学ぶ学部留学生の自律的学習能力の向上 を支援する日本語教育方法を開発するために、留学生対象の日本語科目において、自 律的学習能力の向上に資するとされるメタ認知の活性化を促す活動を組み入れた授業 を行い、その効果を検証し、教育方法への示唆を得ることを目指すことを述べた。

第 2章では、学部留学生の自律的学習能力の向上を支援する活動を考案する前提と して、自律的学習能力に関連する主な先行研究や能力向上支援のために開発された教 材を検討し、併せて、留学生の持つニーズと可能性を把握して、本研究で行う学習活 動開発の方針を得た。

まず、「自律的学習能力」という概念の理解とこの能力の育成方法に関するこれまで の主要な研究を概観し、自律的学習能力向上を支援するコースを開発及び実施するた めの基本的知識を確認した。「自律的学習能力」(learner autonomy)の概念が着目さ れるようになった背景とこの概念の発展の過程を概観し、「自律性」の向上が教育的支 援によって可能であると見なされていること、自分の学習を観察・分析し次の行動を 企画する「メタ認知」が「自律性」の中核要素であること、行動にあたって意識的に方 法を選択し行使する「ストラテジーの知識と技能」と自己の活動を客観的に観察して 分析し次の行動を企画する「内省行動」が必須要素であることを確認した。

次に、日本語教育の分野での関連研究と教育実践を概観した。学部留学生を対象と するアカデミック・ジャパニーズ教育が究極の目的とする「市民としての力」は、「学 士力」の中心概念である「生きる力」に通底し、「自律的に学ぶ力」がそれらの必須要 素と見なされていた。こうした認識に基づいた実践研究が既に行われ、教育方法開発 への示唆が豊かに提供されているが、ストラテジー指導と初年次段階のメタ認知の発 達を継続的に観察して効果を検証することは、いまだ試みられていないことが認めら れた。

一方、学部留学生の実態調査結果からは、多くの学部留学生が「自律的に学ぶ力」

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について支援を必要とする状況にあることが判明した。さらに、学部留学生たちは、

留学成功の要件として人間関係の維持に関わる日本語力と自律的な学習能力を重要視 していることが分かり、これらの調査結果も、学部留学生教育の内容と方法を開発す る上で重要な示唆となった。

以上の議論から、本研究において開発するコースでは、「メタ認知」の活性化を目指 し、その直接的表れの一つと見なされる「学習ストラテジーの理解と行使」と、メタ 認知の発達を促す「内省活動の実行」を基本方針として、それに資する学習活動を考 案して実行し、学習者の認識と行動の変化を観察してその効果を検証すべきと考えら れた。この確認を踏まえて、本研究で考案し、実施する学習活動の妥当性を検証する 方法として、アクション・リサーチの形をとること、学習者自身の学習に関する観察 や評価を資料としてそれらを内容分析の手法で質的に分析することを述べた。

第 3章では、前章での結果をもとに考案したコース・デザインを提示し、その実施 結果を報告し、4期にわたる実践の総合的分析に基づき、活動形態、学習素材、担当者 による学習者への対応の3点から、望ましい支援の方法について考察した。

まず、先行研究の概観と学部留学生対象の調査から得られた示唆に基づいて開発し た日本語コースの概要を示した。コース設計の基本方針は、「学習ストラテジーの理解 と行使」と、その活動についての「内省活動の定期的実行」という二つの学習活動を 授業の必須項目と位置付けたことである。教育実践と調査を行った場は、九州地区の 某国立大学工学部の学部留学生に提供されている日本語科目「日本事情」であった。

受講者の数や身分をはじめとする学習条件は学期ごとに大きく異なり、個々の学習者 の背景や特性も多様で、一貫したシラバスに基づく授業を毎回同じように実施するこ とは困難であったため、基本方針に沿って学習活動を考案しておき、各期の学習者の ニーズと(二度目の実践以降は)前回の実践の反省に基づいて、使用教材や学習活動 の種類や量を調整した。各実践の「受講者」、「シラバスの設計及び調整」、「活動例及 び学習者の反応」、「メタ認知活性化を促す活動に対する学習者の反応」、「実践から判 明した課題」の5点について、2014年度から2017年度に実施した日本語コースの実 践状況を報告し、併せて、成果物として各受講者が提出したレポートを提示した。

第Ⅰ期(2014年度)は、コース開始時のアンケート調査から読解能力の向上が喫緊 の課題であると判明したため、効率的な読解に資するストラテジーを意識的に利用す

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る活動を行った上で、課題解決型の活動を一部取り入れた。

第Ⅰ期の実践の反省点は、読解活動を重視したため読解ストラテジーの行使技能に は明らかに向上が見られたが、汎用的能力、思考力、及び思考の結果をまとめて発信 する力の育成など課題解決プロセスの遂行に直接働きかける活動を十分に行うことが できず、自律的学習能力の根幹をなす力の向上を支援する活動が不足していたと思わ れたことである。読解のスキル強化の必要性が高いとは言え、受講者自身が発信活動 にも強い関心を示していたことから、読解を行ったとしても発信に結び付けることが、

最終的には学習者の意欲を高く保つことができると考えられた。そこで、次回の実践 では、ピア活動やインタビュー活動などを組み入れた総合的な活動の中で、学習者自 身が課題意識を持って課題を解決していく活動を行う機会を増やすことにした。

第Ⅱ期(2015年度)は、課題解決学習を2回コースに組み入れた。4技能全てを用 いる必要のある「課題設定(問題発見)→課題解決→まとめ」というプロセスに4~5 週を費やし、これを 2度繰り返した。留学生の要望が高かった日本人学生との交流活 動を取り入れ、読解ストラテジーを意識的に利用する活動は交流を行うための準備と して行った。「課題設定(問題発見)」への意欲を喚起するために、主題を異なる視点 から捉えた文章やグラフなどの資料を提供し、資料読解、インタビュー、レポート執 筆を課し、読解以外のストラテジーを使用する機会が生ずるようにした。

第Ⅱ期の実践から浮上した問題は、主題への関心の強さが学習者によって異なり、

関心が薄い学習者は4~5週間の活動に集中することが難しいということであった。課 題解決学習自体は歓迎されたが、1 つの課題解決学習にかける時間や主題の種類を工 夫する必要があると思われた。そこで、次回の実践では、課題解決学習のサイクルを やや短くして多様な主題を扱うことにした。作成するレポートの数が増えれば、日本 語技能の向上を目指す学習者にとって有益となると思われた。また、内省活動を行う 熱心さにも学習者によってかなり差が見られ、この活動の目的についての理解を促す 工夫も必要であると考えられた。

第Ⅲ期(2016年度)は、課題解決型活動を3回にし、同様の技能を使用する回数を 増加させるとともに、主題の多様化を図った。同世代の考え方に触れ、自分たちの生 き方を考える契機となるような硬軟織り交ぜた主題を提供した。読解する資料の量と 作成するレポートの数は増加したため、日本語の読解ストラテジーの知識やレポート の構成や表現についての基礎知識を強化することができた。一方、この活動の学習負

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