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本研究における学習方法開発の方法

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 54-58)

第 2 章 自律的学習能力育成に関連する研究の動向と学部留学生の現状

2.3 本研究における学習方法開発の方法

本節では、前節までの議論に基づき、本研究で開発する学習方法の目標と内容と学 習活動の在り方を確認した上で、その妥当性を検討する方法を示す。

2.1 では、学部留学生の自律的学習能力の向上を支援する活動を考案する前提とし て、関連する主要な研究を概観して「自律的学習能力」という概念を検討し、自分の 在り方を観察し分析し取るべき行動を決定していく「メタ認知」が中核要素と見なさ れていることを確認した。続いて、「メタ認知」の向上は、正規の学校教育を通して支 援することができ、課題を解決するための「ストラテジー」を切り口として用いるこ

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とと自己の学習についての「内省活動」を組み入れることが有望であることを認識し た。多様性への対応を前提とする日本語教育の分野では、早くから学習者の「自律性」

の重要性が認識されていたが、2002年のAJ の導入を機に検討されたAJの教育理念 において明確なものとなり、学部留学生への AJ の教育が目指す「市民としての力」

が、「学士力」の中心概念である「生きる力」に通底し、「自律的に学ぶ力」がそれらの 必須要素と見られていることを確認した。近年、AJの理念を学習活動に組み込み、具 体的な学習活動の開発へと繋ごうとする研究が積極的に行われており、教育方法開発 への大きな示唆を得た。しかし、ストラテジー指導と初年次段階のメタ認知の発達を 継続的に観察して効果を検証することは課題として残されていることを確認した。

2.2では、学部留学生の持つニーズと可能性を把握し、自律的学習技能を伸ばす学習 活動を行う必要があることを明らかにした。彼らは、勉学に関する目的意識や自分の 抱える困難についての自覚の高さゆえに成功に関する強い不安を抱いており、困難に ついての認識をその原因の分析や対処方法の考案に必ずしも結びつけられておらず、

大学での学び方について支援を必要としていることを捉えた。また、学部留学生の多 くが、留学の成功の基本条件として、人間関係の維持に関わる日本語力と自律的学習 を重要視していることも判明し、自律的学習能力の向上を目指す支援が学部留学生に 必要とされている現状を認識した。

以上の検討に基づき、本研究で開発する学習方法の目標を自律的学習能力の中核要 素であるメタ認知の向上におく。2.1.1 で既に述べたが、本研究では「自律的学習能力」

を「自分が当該の時点で取り得る最善の方法を選択して実行し、かつ、自分の学習を 客観的に観察・分析して次の計画に活かす能力」と定義する。したがって、「メタ認知 の向上」とは、「学習に関わる方法の選択及び実行、自己の学習の客観的観察・分析の 次の計画への活用」を学習者が行うことができるようになることである。本研究で開 発する学習方法においては、様々な活動を通してメタ認知を活性化させることを最優 先事項と見なす。

上の目標を達成するために、学習ストラテジーの知識及びその利用のための機会を 与えることをシラバスの要とする。学習ストラテジーとは「自己の学習を効率的なも のにするために学習者が行う認知的な調整行動」であり、認知活動の結果としての行 動や技能を意味する「学習スキル」とは区別される。前節の調査で明らかになった学 習者にとって重要度の高い困難を取り上げ、困難の克服には何らかの意図的に計画さ

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れたストラテジーを用いることができることを伝え、具体的なストラテジーの例を提 示し、それを使用して行うべき活動とそのための素材を提供する。

したがって、授業における学習活動としては、学習ストラテジーを利用して行う課 題に取り組むことと、その活動について内省し評価することを規則的に継続して行う。

具体的には、ストラテジーを使って読解や文章執筆を行うだけでなく、AJをめぐる議 論の中でその重要性が指摘されていた「問題発見解決学習」を可能な限り取り入れる。

併せて、経験の質を変化させる重要な要素(デーイ, 1975; Kolb, 1984)とも見なさ れている内省を定期的に行うように位置づけ、目的に沿って(梶田, 1994)内省の深化

(Moon, 2004)を図る活動を行う。「評価」と「計画」の両面を持つ内省活動を個人で 行うだけでなく、大島(2005, 2007)などを参考にして、他者とともに観察を深め合 う活動もできるだけ取り入れる。

上の確認を踏まえ、本研究で考案し実施する学習活動の妥当性の検証は、必然的に アクション・リサーチの形をとることになる。アクション・リサーチは、「実践・観察

→内省→計画修正のサイクル」(Kemmis & McTaggart, 1988; Nunan, 1989)の下に、

教師自身が授業を通して「系統的に持続して行う反省的授業研究」(佐野, 2000, p.9)

とされ、一般的には、「問題の確定・予備的調査・仮説の設定・計画の実践・結果の検 証」という段階が踏まれるが、内省的な循環による実践(Wallace, 1991)という条件 下であれば、段階設定は柔軟に変更され得る(佐野, 上掲)。

本研究は、様々な不確定要素に対応することが必要な日本語科目において自律的学 習能力の向上を支援する方法を開発するものであるため、「先行研究の知見と学習条件 の検討に基づくシラバスと活動方法の設計→授業実践と資料の収集→観察と分析、そ れに基づく実践方法修正→再度の実践と資料の収集→再度の観察と分析、実践方法修 正」というように、実践と検証を繰り返しながらよりよい支援方法を探索していく。

学習活動の妥当性の検証のためには、毎授業の最後に記述する内省文、授業に関す るアンケート、教員による行動観察の記録、及び学習者の成果物を資料として、質的 に分析する。併せて、学習者自身のある程度長期にわたる観察や評価を資料とするた めに、適宜、面談調査も行うことにする。

資料は、テキスト化したものを内容分析の手法で分析する。内容分析の定義は、研 究者によって若干の異同があるが、一定の手続きを用いてデータを目に見える形にし て推論できる状態にすることが目的とされる(上野, 2008)ことは共通している。「表

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明されたコミュニケーション内容の客観的、体系的、かつ数量的記述のための調査技 術」(ベレルソン, 1957, p.5)、あるいは「データをもとにそこから(それが組み込まれ た)文脈に関して再現可能で(replicable)かつ妥当な(valid)推論を行うための一つの 調査技法」(クリッペンドルフ, 2003, p.21)といった記述から分かるように、テキスト の字面そのものに拘泥せずその意図する意味内容の類似性に基づいて分類し、ある事 象を客観的に捉えようとする。具体的には、単語レベルまたは文脈レベルで分析単位 を定め、個々の単位を意味内容の類似性に基づいて分類・命名し、それらの概念の関 係性を理解することによって当該の事象の本質を明らかにしていく。本研究は、研究 対象とするサンプル数が少なく、また、初年次の学習者の自律的学習能力の発達過程 については、量的検証の前にまず質的解明を行うことが必要な段階にあると考えられ るため、質の解明を目標とする。

質的研究の特徴は、研究対象がその複雑な姿のままに自然な日常の文脈の中で研究 され、様々な要素が個別の具体的な文脈から分離されることなく捉えられる点にある

(フリック, 2011)。研究の妥当性は、研究結果が実証的な資料に基づいているか、結 果は現場や日常生活との関連性が高いか、研究のやり方に十分な省察が加えられてい るか、などが中心的な基準になる(フリック, 上掲)。本研究においては、アクション・

リサーチ、すなわち、実践と検証を繰り返しながら自律的学習能力向上のためのより よい支援方法を探索していくという形で、資料に反映された学習者の認識やそれに関 わる要因の分析結果を具体的な実践という文脈の中で再検討していくことにする。収 集したデータの示す意味の核心に可能な限り肉薄するため、分析単位は文脈レベルと し、データの切片化は行わない。資料の文脈性を重視しつつ、自律的学習能力の必須 要素である「ストラテジー」と「自己の学習状況」について触れた部分に注目して分 析する。コーディングは、「各資料への暫定的なラベルづけ→ラベルの精査→類似する コードのグループ化→カテゴリー化」という手続きで行う。

ラベル・コード・カテゴリーの分類・命名は、まず筆者が行い、その結果を日本語教 育及び日本語教育研究に十分な経験を持つ協力者 2名に示して、分析手続きの過程と 結果を精査し、3名でほぼ一致に至るまで検討を繰り返し、妥当性を確保する。

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