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コース実施結果からの示唆

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 116-121)

第 3 章 開発した日本語コースとその実施結果

3.3 コース実施からの示唆

3.3.2 コース実施結果からの示唆

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ジー指導に関する研究で課題とされていた、学習者の意識化が行動に反映される過程 の詳細な観察(金, 2004; JACET学習ストラテジー研究会, 2005)に繋がった。本実践 が、学部レベルでの学習ストラテジーの包括的な指導方法の開発(アプドゥハン, 2006,

2008; 中井・鈴木, 2014)や上級レベルの学習者に必要な高次のストラテジー指導(藤

田他, 2018)に寄与し、学習者の認識への働きかけの効果がまだほとんど確認されてい ない学部の初年次段階のメタ認知の発達の実態の一端を捉えたと考える。

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しろ、いくつかの比較的短期間で仕上げられる主題に取り組み、同じ手順を繰り返す 経験を提供するほうが有効であると考えられる。

初年次の学習者たちの多くは、自己主導型の学習を行った経験が乏しいだけでなく、

多くの履修科目の予習や復習、提出課題などを抱えて時間的切迫を感じている。はじ めから主題についての情報収集や発信内容の編集を綿密に行う大きな規模の活動を課 せば、負担感を持つ学生が出る可能性がある。そこで、それらをやや簡略化した中で 課題解決プロセスを踏む短期終結型の活動をいくつか行った後、大きな規模の活動に 取り組むようにするのが有効であると考えられる。短期終結型の活動をいくつか繰り 返して行うことは、様々な事情を抱える学部留学生の活動形態として適切性が高いと 考えられる。自己主導型の学習経験の少ない学生にとっては、同一活動の反復による 経験の蓄積となって成功体験に結びつくことが期待され、他の履修科目で多忙な学生 には、負荷の軽減が意欲の維持に繋がると推察される。

③ 主題設定の方法

課題解決学習の主題は、学習者が発案することが理想的ではあるが、教師の関与や 主導を退ける必要はなく、漸進的に学習者主導の度合いを高めていくことが望ましい と考えられる。

学習者たちの多くは、学期当初の時点では課題解決学習の経験が極めて乏しく、活 動の実態を具体的に想像することが難しい。そのため、学習者たちに、追求する意義 があって、興味深く、かつ、活動負荷が過大になりすぎないなどの条件を満たす主題 を見つけるよう期待することは、必ずしも適切だとは考えられない。そこで、はじめ の1回目、あるいは、2回目ぐらいまでは、いくつかの候補を教員側から提供して選 ばせ、3回目、あるいは、2回目と3回目は、この中から選ぶか他から選ぶかなど学 習者が判断する機会を設けるなどのやり方が考えられる。その際、候補の中に、特定 のよくある話題や分野に偏らないように多様な主題を混在させて、学習者の視野が自 然に広がるようにすることが望ましいと考えられる。

④ 獲得を目標とするストラテジーの種類と数の想定

取り上げるストラテジーは、はじめは特定のストラテジーに焦点化して選定し、利 用場面を拡張してその種類と数を増加させていく方法が望ましいかもしれない。

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既存知識の獲得が主眼となる高校までの学習方法から転換して、大学で学ぶための 主体的な学習技能を獲得することは、初年次の日本人学生にとっても優先される課題 であるが、第二言語で日本人学生と伍して学ぶ学部留学生には、大学での学びに必要 なストラテジーの獲得が一層求められていると言える。学部留学生に提供される日本 語科目で時間数が限られた中では、それを効率よく行うことが必要となる。そこで、

大学での学びの基盤となる受信・発信活動に有用な基本的ストラテジーに重点をおき、

日本語の文章構造を効率よく把握する読解ストラテジーで、ライティングにも役立つ ストラテジーを初めは一つずつ丁寧に指導し、課題解決学習で反復して応用練習を積 み重ねることが効果的であると考えられる。

以上の活動形態の検討に加えて、今後の課題として、日本人学生との協働活動の在 り方を発展させることも考える必要がある。日本人学生ならびに周囲の日本人との交 流活動は、多くの学部留学生が強く希望するものであり、人間関係構築への支援に繋 がるだけでなく、オーセンティックな活動が留学生の可能性を引き出すことが期待さ れる。従来、交流を目的に行われてきたインタビュー活動を、さらに協働する活動内 容の質を高めて発展させていく試みが考えられる。

(2) 学習素材

教師主導型の活動はもちろん、学習者主導型活動への導入としても、資料を提供す ることが必要となる。どのような素材をどう使うか、検討しなければならない。

① 用いる素材のタイプ

学習者主導型のコースだからといっても、自作資料や生資料が効果的で優先して用 いなければならないとは限らず、どれも用いてもよいが、著作権侵害、回収などへの 慎重な対応が必要となる。

学習者主導の課題解決学習では、課題解決プロセスの遂行が重要となるため、学習 活動の目的に沿う素材の活用が優先的な問題となる。課題設定段階では、相反する、

あるいは矛盾するなどの同一主題に関する視点の異なる資料など、問題意識を喚起す る複数の素材が相応しい。課題解決段階では、学習者の認識の拡張や深化に役立つ素 材を用いれば、まとめの発信活動で自己の考えの根拠を示して述べる材料として役立

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つ。著作権侵害や回収などへの対応を慎重に行いつつ、学習者向けの市販教材や生資 料、それらからアイデアを得て作成した自作素材などを学習過程の目的に応じて組み 合わせて使用すれば効果的である。

② 素材の使用上の工夫

使用する素材については、素材理解が目的化して主体的活動を行う時間と活力が不 足する事態に陥らないように、個々の学習者への負荷の量を適切に調整することが重 要である。

日本語科目を受講する学習者間では、日本語能力の違いだけでなく、出身が漢字圏 か非漢字圏か、どんな学習の進め方を好むかなどの違いが大きく、多様な対応が求め られる。ふりがなを付ける・付けない、リライトして簡略化する・しない、用語解説を つける・つけない、などの観点で教材を準備し、学習者の判断に任せて自由に選択さ せることが負荷の量の調整に繋がる。但し、学部留学生には、学部生として日本人学 生と同等に近い処理を日本語で行う能力が求められることを考慮すれば、やや負荷を 伴っても全員同じ資料を使用して読み応えのある資料を解読する経験も必要である。

(3) 担当者による学習者への対応

主体的学習を行う能力の獲得をよりよく支援するためには、教師の直接的関与の妥 当な質と量が重要になる。担当者による学習者への対応では、学習活動の円滑な遂行 と学習終了後の内省への関与の2点が問題となってくる。

① 活動動機の維持への関与

学習者の学習活動への一定の動機を維持するためには、教師の直接関与の質と量の 適切性に最大の注意を払う必要がある。

学部留学生たちは、勉学という目標に対する信念の強さゆえに失敗に対して敏感な 傾向があり、そこに「学習」についての想定の違いや個人の性格の影響が重なるなど、

多様な背景を有しており、活動動機の維持に対応するためにはこれらへの配慮が欠か せない。必ずしも直接関与が望ましいとは限らず、関知しているが直接関与せず、留 学生仲間、日本人の友人などに関与を求める方が効果的な場合もある。授業運営の面

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で行える教員の直接関与として、学習者に対する十分な観察のもとに、段階的な評価 の機会を設ける、考えるプロセスの価値への気づきを促すなどの工夫が考えられる。

② 学習者の内省文への関与

内省文に現れた学習者の認識や行動に着目して、教師の所見をなるべく「普通の」

日本語表現でフィードバックすることが望ましい。

フィードバックは、学習者の安心感や意欲の向上に繋がり、異文化の中で学ぶ学部留 学生には高等教育段階の学生であっても精神的な支援に繋がる。当該授業に関する、

もしくは当該授業から派生する話題に焦点化して、学習者の認識や行動への評価、共 感、助言、励まし、気づきの促し、意味づけや価値づけなどを行うことが有効である と考えられる。フィードバックは、言語の正確さや適切性についての指導を目的とす るものではなく、学習者の内省に対して「伴走者」としての反応を示し、彼らの内省 への刺激や激励となることを期待して行うものである。したがって、学習者の日本語 の運用力がまだ十分とは言えないとしても、「一人前の大学生」というアイデンティ ティへの尊重を示すことが極めて重要である。フィードバックの言葉遣いについては、

過度に曖昧な表現や複雑な構造は避けつつも、学習者向けの調整を行い過ぎないよう 留意することが適切であると考えられる。

以上のように、本章では、受講者の数は限られているが、4期にわたる教育実践を通 して継続的な観察を行い、これまでほとんど捉えられていなかった初年次段階の日本 語学習者の認識と行動の様相を明らかにした。授業に組み入れたメタ認知活性化を促 す活動が学習者の自律的学習能力向上に寄与したことを観察し、その結果に基づき、

自律的学習能力の向上を図る望ましい支援の方法について考察した。しかし、学習者 の認識や行動の変容を明らかにするまでには至っていない。そこで、次章では、メタ 認知の活性化を促す活動による学習者の認識の変化の様相を綿密に捉えるとともに、

それらの変化に活動形態や学習素材、担当者による学習者への対応の在り方が果たし た役割を分析し、組み入れた活動の自律的学習能力向上支援のための教育方法として の妥当性を検証する。

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