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コースの設計

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第 3 章 開発した日本語コースとその実施結果

3.1 開発した日本語コースの概要

3.1.1 コースの設計

本研究で開発したコースを実施した、留学生に提供されている「日本事情」は、人 間科学系科目に含まれる科目である。人間科学系科目全体の目標は「文化、社会、言 語に関する知識の獲得と論理的思考や表現力の向上」、「文章の論理的解読力、文書・

口頭での表現力の養成」、「コミュニケーションの基礎能力および積極的な活用力の 育成」となっている。本科目の目標は、人間科学系科目の目標を達成する基礎となる

「学習者の自律的学習能力の向上」に置く。具体的には、学習者が自己の学習目標の 達成に必要な手段や活動を自らの判断で選択して利用し、自己の活動を客観的に観察 して分析し、次の行動を企画することを可能にするメタ認知の活性化を目指す。

上の目標に鑑みて、本研究が教育及び研究の対象とするのは、文章のジャンルにつ いていえば、「学術的・実務的文章」(山路他, 2014)である。日本語の文章と一口に 言っても多くのジャンルがあり、展開の様態や全体構造の類型も極めて多岐にわたる。

しかしながら、2.1.3 でも述べたように、大学で学ぶ留学生たちにとっては、CALP

(Cognitive Academic Language Proficiency)の獲得が第一の課題であり、AJ教育 についての議論もこの前提の上に行われている。そこで、本研究での読解や文章作成

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の教育において扱う文章のジャンルは「学術的・実務的文章」とし、こうした文章に 広く見られる文章構造や表現の理解とその作成、及びそれに伴う技能の獲得を目指す。

実は、「学術的・実務的文章」の構造も一つの類型には収めきれるものではないが、

概ね「序論・本論・結論」という構造が基本であると考えられる。佐藤他(2013)で は、文系も理系も含む9分野270本の学術論文の構造が分析され、その結果、一つの 分野の中でも研究主題と研究手法によって多様な構造が見られたのであるが、基本形 は、概ね、いわゆる“IMRAD”(Introduction, Methods, Results and Discussion; 序・

方法・結果報告・考察)と見なせることが報告されている。石黒(2002)、一橋大学 留学生センター(2005)、大島他(2005)などアカデミック・リーディング及びアカ デミック・ライティング教材の多くでは、“IMRAD”の中の二つを「本論」としてま とめたとも見なせる「序論・本論・結論」という構造が提示されている。本研究でも、

基幹教育の諸科目の課題や専門教育段階での発信を行うニーズに鑑みて、「序論・本 論・結論」を文章構造の基本として想定する。

(2) シラバスの設計及び使用素材

シラバスの設計にあたっては、学習ストラテジーの知識の提示とその利用機会の提 供をできる限り多く含めることを基本方針として、学習者自身が必要と感じている技 能や知識に関連するストラテジーだけでなく、必要性についての学習者の認識が乏し くても、困難の克服に有用かつ必要であると教員が判断したストラテジーを教育内容 に含めるよう努めた。基本的なストラテジーとして、具体的には、先行研究の知見

(O’Malley & Chamot, 1990; Oxford, 1990)に基づき、表3-1に示したメタ認知ス トラテジー、認知ストラテジー、社会的・情意ストラテジーを取り上げた。

表3-1 学習内容に含めた学習ストラテジー メタ認知ストラ

テジー

計画を立てる、焦点化する、学習を自己管理する、モニタリングする、

問題点を見つける、ブレイクダウンする、優先順位をつける、ストラテ ジーを自己評価する、タイトルから予測する、予測を確かめる、文章構 造をつかむ、構成を考える、一貫性を確保する、推敲する、など。

認知ストラテジ ー

練習する、グループ化する/分類する、要約する、キーワードを見つける、

中心文を見つける、接続詞を使い分ける、問題提起文を見つける、結論表 示文を見つける、文末表現に注目する、引用表現を使う、書き言葉に直す、

名詞化する、など。

社会的・情意ス

トラテジー 質問して確かめる、友だちと協力する、自分の感情を把握する、など。

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学習ストラテジーの選定にあたっては、日本語の文章構造に着目し、大学初年次の 学生にとって特に重要性が高いと思われる読解やライティング活動、すなわち受信・

発信活動に有効なストラテジーに焦点化した。具体的には、一橋大学留学生センター

(2005)、石黒(2011)、岩間他(2009)、門田・野呂(2001)に挙げられている読 解ストラテジーの中で、発信活動にも関わる基本的ストラテジーを選定した(資料12・ 資料13参照)。実際の授業実践では、その期の条件によって多くの項目を扱える場合 とそうできない場合があり得るが、最大限の活動が可能であった場合を想定して学習 内容を設計しておき、実施条件に合わせて調整することにした。

本コースの教材は、出版されている日本語教育教材を参考に筆者が自作するか、一 般書等の一部について筆者がタスクを考案して作成したものを、必要部数複写して学 習者に貸与し、活動終了後に回収するようにした。一般書の文章や新聞記事等を資料 として用いた場合には、原則として回収したが、学習者が強く希望した場合には、複 写を禁じて持ち帰りを許した場合もある。表3-2に、教材作成の参考とした素材を示 した。

表3-2 本コースの教材

使用の目的 教材作成の参考とした素材

・文化や社会に 関する知識の 獲得

日本語教育教材

・安藤節子・田口典子・佐々木薫・赤木浩文・坂本まり子(2001)『トピ ックによる日本語総合演習 テーマ探しから発表へ 上級』スリーエーネ ットワーク

・佐々木薫・赤木浩文・草野宗子・坂本まり子編(2011)『トピックによ る日本語総合演習 テーマ探しから発表へ 上級用資料集 第4版』スリ ーエーネットワーク

・亀井伸孝(2012)「手話の世界を訪ねよう」二通信子・門倉正実・佐藤 広子(編)『日本語力をつける文章読本 知的探検の新書30冊』東京大 学出版会, 68-74

・清水正幸・奥山貴之(2015)「血液型で判断してもよいのか」『日本語 学習者のための読解厳選テーマ10 中上級』凡人社

・宮原彬(2006)『留学生のための時代を読み解く上級日本語 第2版』

スリーエーネットワーク

一般書・国語教科書・新聞記事・インターネット記事等

・榎本博明(2015)『ほめると子どもはダメになる』新潮社

・Po Bronson and Ashley Merryman. (2009) NurtureShock New

Thinking About Children. 小松淳子訳(2011)「ほめられる子どもは

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伸びない」『間違いだらけの子育て―子育ての常識を変える10の最新 ルール』インターシフト, 18-38

・文章の論理的 解読力、文書・

口頭での論理 的思考や表現 力の向上の養 成

・コミュニケー ションの基礎 能力および積 極的な活用力 の育成

日本語教育教材

・アカデミック・ジャパニーズ研究会(2001)『大学・大学院留学生の日 本語①読解編』アルク

・石塚久与・高橋純子・二瓶知子・渡辺恵子(2013)「もっと中級日本語 で挑戦!スピーチ&ディスカッション」凡人社

・大島弥生・池田玲子・大場理恵子・加納なおみ・高橋淑郎・岩田夏穂(2005)

『ピアで学ぶ大学生の日本語表現―プロセス重視のレポート作成―』ひ つじ書房

・鎌田美千子・仁科浩美(2014)『アカデミック・ライティングのための パラフレーズ演習』スリーエーネットワーク

・黒崎典子編・石塚久与・高橋純子・二瓶知子・渡辺恵子(2013)『もっ と中級日本語で挑戦!スピーチ&ディスカッション』凡人社

・佐々木仁子・松本紀子(2010)『日本語総まとめN2読解』アスク出版

・二通信子・佐藤不二子(2000)『改訂版 留学生のための論理的な文章 の書き方』スリーエーネットワーク

・一橋大学留学生センター(2005)『留学生のためのストラテジーを使っ て学ぶ文章の読み方』スリーエーネットワーク

・三浦香苗・岡澤孝雄・深澤のぞみ・ヒルマン小林恭子(2006)『最初の 一歩から始める日本語学習者と日本人学生のためのアカデミックプレ ゼンテーション入門』ひつじ書房

一般書・国語教科書・新聞記事・インターネット記事等

・苅谷剛彦(2002)『知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスケッ チ』講談社

・苅谷剛彦(2009)「隠れたカリキュラム」岩間輝生・太田瑞穂・坂口浩 一・関口隆一(編)『高校生のための現代思想ベーシック ちくま評論 入門』筑摩書房, 38-49

・苅谷剛彦(2014)「考えるための作文技法」『知的複眼思考法』(講談 社)

・学習技術研究会(2011)『知へのステップ 第3版-大学生からのスタ ディ・スキルズ』くろしお出版

・中沢けい「雨の日と青い鳥」光村図書『国語2(中学)』

・「子育てとお手伝いに関する小学生母子の意識調査-毎日褒められてい る子どもは「友達が多い」!?」(株)ライオン.

www.lion.co.jp/ja/company/press/2014/.../2014063.pdf

・「血液型占い(性格判断)に関する調査」(株)バルク.

www.vlcank.com/mr/report/004/

・「女性の権利憲法判断へ 夫婦別姓 再婚禁止:年内にも初の最高裁判 決」 2015年11月5日付西日本新聞

53 (3) 学習活動

メタ認知の活性化を促すため、「A.学習ストラテジーの明示的な提示とその行使機 会となる課題の提供」と「B.内省活動の定期的実行」の二つを全ての授業に組み入れ た。内省活動は、「計画」と「評価」の両方の要素を包含し、学習者自身がイニシアテ ィブをとって行う学習者自身の活動(田中・斎藤, 1993)であると同時に、自己の認識 の仕方を認識し学習の仕方を学習するという役割を持つ「自己評価」に直接繋がる(梶 田, 2010)活動である。

A.学習ストラテジーの明示的な提示とその行使機会となる課題の提供

学習ストラテジーの指導にあたっては、CALLA(O’ Malley & Chamot, 1994)と Metacognitive Model(Chamot & O’ Malley , 1999)の指導の流れ(表2-6・表2-

7参照)を部分的に参考にして、学習者が自主的に行うべき課題を与え、その中で使 用可能な学習ストラテジーを明示的に提示し、タスクの遂行の中で利用するよう求め た。課題実行後の内省段階では、活動をふり返り、評価するというプロセスを学習者 自身に課し、次の活動への示唆を認識するよう促した。

学習ストラテジーの利用を促す活動として、相手の考えを聞き取り自己の考えを発 信する意見交換とプレゼンテーション活動、周囲の日本人との関係構築のきっかけを 作るインタビュー活動、文章の全体構造や要点の把握を重視して効率的な読解に導く 読解活動、文章の論理的構成に注目したレポート執筆活動などを考案して実施した。

さらに、これらの活動を総合的に組み合わせる活動、すなわち、AJをめぐる議論の 中でも頻繁に提言されアクティブ・ラーニング33 の例としても言及される「問題(課 題)を発見して解決する学習」(以下、課題解決学習とする)34 を、可能な限り行っ た。これは、一つの主題による活動に3~5週を費やして「課題設定(問題発見)→課 題解決→まとめ」というプロセスを内省しつつ遂行していくもので、資料読解、イン タビュー、レポート作成などの作業を行う中で「認知プロセスの外化35」(溝上, 2014,

33 『新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成す る大学へ~』平成24828日中央教育審議会答申による。

34 アメリカの教育学者のジョン・デューイの学習理論である課題解決型学習(PBL:Project-Based Learning)と同義ととらえる。

35 知覚・記憶・言語、思考(論理的/批判的/創造的思考、推論、判断、意思決定、問題解決など)とい った心的表象としての情報処理プロセスを指す(溝上, 2014)。

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