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1.  序論

1.4.   研究の目的とアプローチ

1.4.3. 研究のアプローチ

1.3.3 で示したように、関連分野におけるコンピタンス概念のあり方について俯瞰すると、

①知能、②適性、③技能(スキル)、④知識、⑤実践行動、といった観点から概念化がなさ れているが、技術革新の速い現代では、専門内容の陳腐化が速いため、広い分野にわたる基 礎教育を重視し、多様な認識と行動への可能性を開いておくことが専門教育の国際的な動向 となっている(扇谷, 1990)ことからも、技能や知識に対象を絞ったコンピタンスは、人材 育成には十分とはいえない。すなわち、技能のレベルでもって顕在化している事象を対症療 法的に叩くことが適切な人材育成ではない。将来の活躍のためには、より根源的な領域の教 育も必要とされるであろう。 

また、ルシア&レプシンガー(2002)が、コンピテンシーモデルは行動の形で示され、

評価の対象となる行動は職務や役割に応じて異なると述べているように、行動レベルの記述 は、その背景となる職務や役割が明確に決定されなければ適切に規定することはできない。 

そこで本研究では、1.4.3 で示すように、現在のユーザビリティ業界で実際に広く要求さ れている経験的なコンピタンスを捉えるため、根源的なものから活動に直結したものまで、

多層的な概念関係となることを許容した上で、操作的に定義された知能や技能、知識といっ た特定領域に限定することなく、幅広く実践的にコンピタンスの明確化、体系化を行うこと とする。 

されたものとなっているはずであり、完全に理念的でのみあるわけではない。 

このようなアプローチでは、特定の観点を持った小規模な専門家グループで検討、作成さ れるため、自ずと論理的に整合性のとれたものとなりやすい。しかし、理念的な程度の強い アプローチでは、作成グループのコンピタンス観を反映したものとはなるが、これら作成グ ループのコンピタンス観によって作成されたコンピタンス定義が、実際の実践現場で広く求 められているコンピタンスであるかどうかは疑問が残る。また、そのグループが範としてい る、また注力している特定範囲にコンピタンスが集中してしまい、重要なコンピタンスが抜 け落ちてしまうことが懸念される。 

一方、コンピタンスリストの作成に際しては、マクレランドが外交官のコンピタンスを明 らかにする際に採ったように(マクレランド, 2001)、理念的なアプローチだけではなく、

実際に要求されている経験的なコンピタンスを、調査によって広く明らかにする、というよ り実践的なアプローチをとることもできる。 

ユーザビリティ関連分野とは、家電、情報機器、事務機器、ソフトウェア、自動車などの 製造業や、その工程の一部を請け負うデザイン事務所、直接ものづくりには関わらないもの のコンサルティングなどを通じて間接的にものづくりに貢献する人々などからなる、ユーザ ビリティの高い製品を実現するために、日々活動を行っている人々の集合体と捉えることが 出来る。 

ユーザビリティ関連分野においても、このようにより実践的なアプローチを用いることに よって、これらの分野における日々の実践の中で必要とされているコンピタンス、すなわち ユーザビリティの高いものづくりを目標とする人々の姿勢や考え方を明らかにすることが できると考えられる。 

彼らが日々の実践の中で求めるコンピタンス、すなわちユーザビリティの高いものづくり を目標とする人々の姿勢を明らかにすることは、適切なユーザビリティ専門家を育成するた めの重要な一歩となりうると考える。 

そこで本研究では、今までの取り組みと比較して、より実践的に、幅広い調査を行うこと によって、現在のユーザビリティ関連分野において、実際に要求されているコンピタンスを、

本研究の目的とする人材育成の観点から明らかにするアプローチを採るものとした(図  1-4)。 

なお、ここでは本研究のアプローチを端的に示すために、理念的/実践的、資格認定/人 材育成という2つの軸から構成される平面によって象限のように提示しているが、軸の表現 にも示されているとおり、これら2軸上の位置付けは、それぞれの研究がどの辺りを主なス コープとして捉えているかという程度の差異であり、本質的な違いを示しているわけではな い。 

 

        図  1-4  本研究の位置付け 

 

本研究では、具体的には以下のアプローチによって、より実践的な取り組みを進めた。 

まず、ユーザビリティ活動を実践しているユーザビリティ専門家に対するインタビューを 行い、コンピタンス概念に関するデータを収集し、ユーザビリティ専門家のコンピタンスリ ストのドラフトを作成する。 

コンピタンス概念は、本来ひとつながりである人間の能力を必要に応じて概念化したもの である。それらは様々な観点から自由に定義することが可能なものであり、演繹的に導き出 せるものではない。そこで、ガートナーが一般的な社会科学の理論のあり方として「長いあ いだに蓄積された多くの知見にもとづいて、その正当性を勝ち得たり失ったりするのであ る」(ガートナー, 2001)というように、コンピタンス概念集合についても同様に考えるべ きであり、本研究においても、多くの知見を得ることで、自らその概念集合を出来る限り収 斂させていくことが望ましい。 

そのため、引き続き、ユーザビリティ分野や関連分野において多方面から様々にコンピタ ンスリストに対する反応を得ることによって、コンピタンスリストの洗練と収斂化を図る。 

そして、ユーザビリティ活動は単一の活動ではなく、開発プロセス全体を通じた多岐にわ たる活動から構成されている。ユーザビリティ活動を単一のものとして捉えていては、必要 とされるコンピタンスについても適切な知見を得ることができない。 

そこで、ユーザビリティ活動そのものについての体系化を図った上で、ユーザビリティ活 動の内容によって求められるコンピタンスがどのように異なっているかについても示した い。 

同様に、得られたコンピタンス概念同士や、ユーザビリティ活動との因果関係を明らかに

することによって、コンピタンス相互の関係性を確認し、コンピタンスに対する更なる理解 を深めていく。 

なお、これらの研究活動は、財団法人ニューメディア開発協会からの委託によってテクニ カルコミュニケーター協会(TC 協会)が実施した「ユーザビリティ資格認定制度に関する 調査研究」(ニューメディア開発協会, 2004)および「ユーザビリティ資格評価に関する調 査研究」(ニューメディア開発協会, 2005)活動と連携して行われた。これらの活動の詳細 については、これら文献を参照されたい。