3. コンピタンス概念についての理解の深化
3.4. コンピタンスとユーザビリティ活動の構造モデル作成
3.4.5. 結果①コンピタンスからユーザビリティ活動への構造モデルの作成
3.4.4 によって得られた、コンピタンス行のクロスサポート行列から算出された正規直接 影響行列を用いて、コンピタンスからユーザビリティ活動へと繋がる構造モデルを作成する。
構造モデルは DEMATEL 法の計算によって得られた正規直接影響行列に対して、一定の しきい値(p)を設定し、しきい値以上の行列をもとに作成される。
しきい値によるパス数の変化を表 3-30 に示す。
表 3-30 しきい値とパス数
0.0200 296 0.0280 108
0.0210 264 0.0290 96
0.0220 239 0.0300 83
0.0230 205 0.0310 72
0.0240 179 0.0320 62
0.0250 158 0.0330 55
0.0260 137 0.0340 46
0.0270 125 0.0350 39
例えば、しきい値 p=0.0200 として作成すると、図 3-3 に示す構造モデルが得られる。
しかし、このようにパス数が多すぎると、情報が過大で適切な解釈が行いにくい。一方、
パス数が少なすぎると、ノード間の連係という構造モデルから得たい情報が少なくなってし まう。
そこで、いくつかのしきい値に対して検討を行い、縮約によるモデルのわかりやすさとノ ード間の連結による情報の豊かさを勘案した結果、最終的にしきい値を p=0.0290 として 構造モデルを作成した。
また、コンピタンス行のユーザビリティ活動経験(#26)を削除した。ユーザビリティ活 動経験とは活動の結果そのものの概念であり、多くの項目へパスが繋がる18が、活動からコ ンピタンスへと繋がる構造モデルについては 3.4.6 に示すため、ここでは煩雑さを避けるた めにモデル化の対象から外すこととした。
17 関連度(D+R)とは、総合影響行列において、項目毎の行和(D)と列和(R)を合計したもので ある。また、影響度(D-R)は、行和から列和を引いたものである。
18 図 3-3 に示す構造モデルの左端中央よりやや下に放射状にパスが集中しているのが「ユーザビリテ ィ業務経験(#26)」のノードである。
その他、構造モデル作成に際しては、3.4.7 にて後述する詳細分析を踏まえ、よりわかり やすいモデル表現となるよう、表 3-31 に示す修正を加えた。
字字
字存 切
ボ
字ボ
ポ
字ポ
ミ
ム
字布
存布
分存 存分
分分 存切
分切 分ボ
存ポ
分ポ 分ミ
存ム
分ム
切布
切字
切切
ボ切 ボポ
ボム
A字
A 字字 A存
A 字存 A分
A 字分 A切
A 字切 Aボ
A 字ボ Aポ
A 字ポ Aマ
A 字マ Aミ
A 字ミ Aム
A 字ム A 字布 ボ存
切ミ 切ム
存マ
存ミ
切存
ボ分
ボ字 ボ布
切分
ボミ 切ポ
切マ
分布 存ボ 存存
分マ 分
字切
分字 字分 マ
字マ
ボボ ボマ
切ボ
ポ布 存字
字
字ミ
字ム
存
図 3-3 コンピタンス→ユーザビリティ活動の構造モデルの例 p=0.0200
表 3-31 構造モデル作成の修正箇所
この構造モデルを図 3-4 に示す。構造モデルでは、ノードはコンピタンス/活動の番号 で示されている。コンピタンス項目は丸数字で、ユーザビリティ活動項目は白抜き数字で頭 に A を付加して表現されている。特に関係性の強いパスとして p=0.0400 以上を太線で示 してある。
この構造モデルからは、各コンピタンスおよびユーザビリティ活動の間の因果関係を読み 取ることができる。しかし、しきい値の存在が示すように、この構造モデルはすべてのコン ピタンス/活動間の関係を表したものではない。全体的な構造を把握するために、骨格的に 構成されたものであり、ここで示されたパスが因果関係の全てではないことには留意したい。
なお、右上および右下に配置された、いずれとも連結していないノードは、構造モデルに含 まれていないことを示す。
併せて、図 3-5 に各コンピタンスを関連度と影響度でプロットしたグラフを示す。
ここで、関連度の高さは、他のコンピタンス/活動との関係の大きさを示す。影響度は、
それが高いほど他のコンピタンス/活動へ影響を与えており、逆に影響度が低いほど他のコ ンピタンス/活動から影響を受けていることを示す。
1
11
2
12
3
13 4
14 5
15
6
16
7 17
8
18
19
20
21
31 22
32
23
33
24
34
35
36
27
37
28
38 29
39
30
40
41
51
42
52
43
53
44
54 45
55
46
56
47
57
48
58 49
59
50
60
A1
A 11 A2
A 12 A3 A 13
A4
A 14
A5
A 15
A6
A 16 A7
A 17 A8
A 18 A9
A 19
A 10 9 10
25
図 3-5 関連度および影響度のプロット
構造モデル(図 3-4)と、関連度と影響度のグラフ(図 3-5)からは、以下のような解釈 を行うことができる。
構造モデルは、大きく捉えると、A.調査評価活動+B.設計デザイン活動からなる直接的 活動と、C.戦略的活動+D.センター活動からなる間接的活動の2つのクラスターにわけて 考えることができる。ただし、D.センター活動のユーザビリティ活動のほとんどは構造モ デルには含まれておらず、これらの活動がコンピタンスリストとして挙げたコンピタンスを あまり必要としていないことが伺える。この結果は、3.3 の結果とも整合するものであった。
直接的活動では、興味・関心・態度、知識、ユーザビリティエンジニアリング能力が主な 構成ノードとなっている。
それらの中では、ユーザビリティ関連学問分野に関する知識、調査・評価手法に関する知 識と、一部の基本能力が分析考察能力に結実していること、ユーザビリティテスト活動への ノードが多いこと、要求分析や要求仕様作成へは多層的に繋がるノードが多く、これらの活
動には総合的な能力が必要とされることが伺える。
間接的活動では、基本能力、ビジネス活動能力、ユーザビリティマネージメント能力が主 な構成ノードとなっている。
それらの中では、組織マネージメント活動が、総合的にコンピタンスを要求する活動であ ることがわかる。また、コミュニケーション能力が重要な役割を果たしていることが伺える。
関連度、影響度を見ていくと、いくつか特徴的なコンピタンスを挙げることができる。
コンピタンスの中には、影響度と関連度のいずれも高いものがいくつかある。特に高いの が「ユーザビリティ業務経験(#26)」、「ユーザビリティ活動に対する興味、関心(#1)」、
「学習意欲(#5)」で、続いて「ユーザーインタフェース(UI)に関する知識(#11)」、「HCD、
UCD に関する知識(#21)」などが続く。これらは、ユーザビリティ活動を行う上で根源的 なコンピタンスであることが伺える。構造モデルでは、特に「ユーザーインタフェースに関 する知識(UI)」の根源性が顕著である。
「ものづくりに対する興味、関心(#2)」は、影響度は標準的であるが、関連度は高く、
根源的なコンピタンスとユーザビリティ活動に近いコンピタンスの中継的な役割を果たし ていることが伺える。
「コミュニケーション能力(#41)」や「分析考察能力(#49)」は、影響度は低めだが関 連度が高い。多くのコンピタンスがこれらの能力に結実していることが伺える。
これらのコンピタンスは、他のコンピタンスとの関係性が高く、コンピタンスリストの中 でも中核的な役割を担っていると考えられる。
続いて、ユーザビリティ活動に繋がらないコンピタンスについて見ていく。
知識の中では、「社会学に関する知識(#9)」、「人類学や民族誌学に関する知識(#10)」、
「法令や規格、基準に関する知識(#15)」、「倫理的態度に関する知識(#20)」、「経営学に 関する知識(#24)」が構造モデルに含まれていない。いずれの関連度も低く、コンピタン スとして独立していることが想定される。これらのコンピタンスについては、3.4.7 に後述 するコンピタンス/活動毎のモデル分析からも、他のコンピタンスや活動との関係性が薄い ことが示されている。
「想像力(#32)」、「持久力(#33)」、「自律能力(#39)」といった基本能力の一部も構 造モデルに含まれなかった。「ユニバーサルデザインに関する知識(#22)」、「機転能力
(#29)」や「モチベーション(#35)」、「学習能力(#36)」、「新しいもの、領域への積極 性(#37)」についても、ユーザビリティ活動へ繋がるパスは見られなかった。これらのコ ンピタンスについても同様に 3.4.7 のコンピタンス/活動毎のモデル分析によって詳細に 見てみると、「ユニバーサルデザインに関する知識」、「想像力」、「新しいもの、領域への積 極性」は「実設計・デザイン作成活動」などへ、「持久力」、「自律能力」は「マネージメン ト能力」へ、また、「文書作成能力」はビジネス活動能力へ、「インタビュー実施能力」は「コ ミュニケーション能力」や「ユーザビリティテスト実施能力」へと繋がっており、構造モデ ルには現れなかったものの、その他の項目への関連性が伺える。一方で、「機転能力」、「モ