11 環境・社会配慮
11.1 環境社会面における現状分析と将来の予測
11.1.1
現状分析11.1.1.1
社会面の現状(1) 行政区画
東
Kalimantan
州はSamarinnda、 Balikpapan、 Baontang、 Tarakan
の4
市とBulungan、 Pasir、
Berau、West Kutai、East Kutai、Kutai Kertanegara、Malinau、Nunukan、Penajam North Paser、
Tana Tidung10
県から構成されている。州の面積は211,440km 2
とKalimantan
島全体の28%
を占める。(図 11-1参照)
出典:
図 11-1 東
Kalimantan
州の行政区画(2) 人口と先住民族
① 外来人口の急増
東
Kalimantan
州の先住民族はDayak
と呼ばれ、その大半は山地、川沿いや辺境地域に生息している。また、遠い昔から(年代不明)Sulawesiから移転し、沿岸地方と近海の洋上で 生活している
Bajo
という先住民族も存在する。一方、外来人口の急速な増加を背景に、同 州の人口は2000
年の245.5
万人から2010
年には355.3
万人へと44.72%増加し、10
年間における人口の年平均増加率は
3.8% 2
となり、全国でトップとなった。外来人口急増の原因は 同州における原油と森林資源の開発ブームにあると同時に、1970 年代から政府が人口密度 の高いJava
などの地域からの移民を促進する政策も一因である。外来人口は主に東Java
(35%)、南
Sulawesi(25.2%)、中央 Java(11.9%)、南 Kalimantan(11.8%)各州から
移住されてきたが、東Nusa Tenggara Timur、Bali、Maluku、北 Sumatra
からも少量の移民が 含まれている3
。外来人口は石油・天然ガスや森林資源の開発・伐採のほか、農業・水産養殖業にも従事 している。とりわけ
1980
年代より日本と台湾から導入されたえび養殖業が盛んになり、大 規模な養魚池作りが始まり、マングローブ林から養魚池への転換は1990
年代に加速し、2001
年にピークとなった。その後、環境負荷を超えた養魚池建設のマイナスの効果として、車 えび白点病が大面積に発生した結果、養魚事業の失敗例が続出した。そのため、多くの外 来投資者が養魚池の放棄を余儀なくされたが、多くの地元の農民は満潮時に養魚池に入り 込んだ小量な野生えびの漁獲で必要な最低限の生活を維持し、これより生じた貧困は一つ の社会問題となり、雇用の拡大ないしMahakam Delta
地域の持続可能な発展は地元政府に求 められた大きな課題である。② Dayak族の現状
Dayak
族は伝統的に焼き畑農業、果樹園や森林に依存して生活していたが、1950 年代から水稲の栽培も導入し、現在大規模なパームオイルとバナナの農園の経営もできるように なっている。
Dayak
族の慣習法では、土地と自然資源に対する所有権は共同財産権(CommonProperty Right)と私有財産権(Private Property Right)2
種類がある。前者は果樹園、原始林および共同体で指定された特定の土地、後者は、共同体で認可された個人所有の土地と林 産物を指す。
Dayak
族は、自分が耕作している土地は自分が所有するものであり、それ以外 のものではないとの信念が深く、これがその慣習法の一部となっている。中央政府の法令(State Minister of Agrarian Affairs Decree No. 5/1999: Guideline for the Settlement of Problems
related to the Communal Reserved Land of the Customary-law-abiding Community)においては、こ
のような慣習法上の土地所有権を認めるているが、詳細なガイドラインがないことに加え て、1999 年以降の地方分権化に伴い、地方政府の権限が大きくなり、土地をめぐるDayak
族と政府との紛争が過去にはしばしば発生し、現在でも根本的に解決されているとはいえ ない4
。2
インドネシア中央統計局(BPS
)のウェブサイトより。3 Website: Indonesia Tourism (http://sunborneo.blogspot.com)
4 Martinus Nanang of Institute for Global Environmental Strategies (IGES), “Forest Management by the Bahau Sa
People of East Kalimantan”
③ Bajo族の現状
Bajo
族は「海洋民族」又は「海上遊牧民族」とも呼ばれ、漁獲を伝統的な生計手段とす るため、定住地のない船上生活が日常となっている。Bajo 族の人々は悪天候の場合には5
~30隻の集団で海岸地方に停泊し、近辺の村人との間で魚とキャッサバ・木炭・淡水の物々 交換を行うが、普段はいつも小集団で優良な漁場を探しながら漁獲をする。このような特 殊な生活様式と生活環境と関連して、Bajo族は土地所有権や領土の概念がない
5
。しかし、Bajo
族は海洋が神様から恩賜であり、漁獲が自分の当然の権利という考え方が極めて強く、彼らの漁獲活動に影響を与えるあらゆる事業と活動を妨害行為と思って過激な反発を起こ しがちである
6
。11.1.1.2
環境面の現状(1) Mahakam Delta(Mahakam Delta)におけるマングローブ林の破壊状況
Mahakam
川は東Kalimantan
最大の川であり、水源地のLong Apari
からMakassar
海峡への出口までの全長は
980km、流域全体の面積は 77,100km 2
となっている。Mahakam 流域には76
の湖もあり、そのうちの30
個はMahakam
川の中流地域に集中し、Lake Jempang
(15,000ha)、Lake Semayang(13,000ha)、Lake Melintang(11,000ha)という 3
大湖も含まれている。この流域には、5,000 年ほど前から
Mahakam
川の土砂の堆積プロセスにより形成された総面積1,800km 2
の扇形地帯があり、これがデルタ平野(Delta plain)と呼ばれ、そのうちの1,500km 2
のが湿地帯である
7
。Mahakam Delta
地域は大面積のマングローブ林の存在で特徴付けられ、同地域内における各種用地の総面積
108,251.31ha
のうち、マングローブ林は43.89%(47,513.75ha)を占め
る。(表 11-1参照)表 11-1
Mahakam Delta
地域におけるマングローブ林面積の割合養魚池 マングローブ林 空地 工業用地 再定住地域 合計 面積(ha)
60,288.52 47,513.75 252.93 116.43 79.68 108,251.31
割合(%
)55.69 43.89 0.23 0.11 0.07 100.00
出典:東Kalimantan
州海洋漁業局2008
年報告しかし、1970 年代から始まった外来移民ブームの中、外来投資者による水産養殖業とり わけ車えびの養殖が盛んになり、養魚池が大量に作られた。上表に見るように、Mahakam
5 “The Bajo and the Ocean” Website: Indonesia-Tourism.com (http://indonesia-tourism.com/blog/tag/indonesia-tribe/)
6
海洋漁業省海洋、海岸と離島総局へのヒアリング(2011
年4
月19
日)7
東カリマンタン州海洋漁業局2008
年報告Delta
地域の各種用地に占める養魚池の割合は55.69%となっている。その結果として、マン
グローブ林面積の減少が発生している。マングローブ林面積の減少幅の具体的な数字につ いて未だ定説がないが、インドネシア学者の研究報告8
と上述表表 11-1の数字を合わせて見 れば、Mahakam Delta地域のマングローブ林面積は2003
年の60,818.4ha
から2007
年には47,513.75ha
へと4
年間で13,304.65ha
減少し、年平均3,326.16ha
の減少となった。もっとも、前述したように、マングローブ林の養魚池への転換は
2001
年にピークとなったが、にもか かわらず、マングローブ林面積の縮小がこの時期になってもなお続いていた。マングローブ林の破壊が生態系に与えるインパクトは海水の
Mahakam
川への浸食である。上述したインドネシア学者の研究報告によれば、乾季の場合、Mahakam 川に侵入した海水 は河口沖から
100km
も離れたSamarinda
まで到達し、長期的には、Mahakam Deltaの生物相 に高密度植生から低密度植生ないし荒野へ、および低耐塩性から塩分環境へという2つの 変化を徐々にもたらす懸念がある。(2) Mahakam
川の水質状況Mahakam
川の水質状況は東Kalimantan
州環境局から提供された同流域のSangasang
とAngganan2つの場所の最新水質測定値に反映され、巻末の参考資料 5
に示されている。上述のデータを見る限り、2 つの場所で測定されたほぼすべての指標は
2001
年の政令第82
号「水汚染の制御」(Government Regulation No.82/2001: Control of Water Pollution)で発表 された水質基準のクラスII
ないしクラスI
を満たしているが、SangasangaのpH(水素イオ
ン指数)値(5.74)はクラスIV、 2
つの場所のBOD
(生物化学的酸素要求量)値(Sangasanga3.37、Angganan5.21)はいずれもクラス III
と比較的低い水準となっている。2001年の第82
号政令第
8
条で規定された4つの水質クラスの定義は表11.1-2
に示す。水中における
pH
が7
の場合は中性と呼ばれ、これが小さくなればなるほど酸性が強くな り、水質が低下すると見られる。BOD の場合、数値が高いほど水中の酸素が低くなる水質 が悪いと理解される。この2つの数値が悪化した場合の原因について、森林の破壊や過剰 な有機物の排出と腐敗による酸欠などが考えられる。しかし、上述水質測定値は経年のデ ータにより、数値が悪化しているかを確認する必要がある。8 Ahmad Syafei Sidik, Faculty of Fisheries and Marine Science, Mulawarman University, “The Changes of
Mangrove Ecosystem in Mahakam Delta” (Paper presented at The South China Sea Conference 2008)
表 11-2 水質クラスの定義
クラス 定義
I
飲料水及び同様な品質が要求されるその他用途に適する水質II
娯楽施設、小規模淡水魚養育、畜産業、農園灌漑などに適する水質III
大規模淡水魚養殖、畜産業、農園灌漑などに適する水質IV
農園灌漑などに適する水質出典:
2001
年の政令第82
号「水汚染の制御」(Government Regulation No.82/2001: Control of Water Pollution
)一方、石炭の輸送に起因する
Mahakam
川水質汚染というような問題は、現時点では確認 されていない9
。11.1.2
将来予測11.1.2.1
本件と関連のある社会問題の今後の見通し本プロジェクトと潜在的な関連性のある社会問題として考えられるのは養魚池の経営破 綻にもたらされた貧困問題と先住民問題であり、これらの問題の今後の見通しは以下のよ うに推測される。
(1) Kalimantan
経済回廊の整備に寄せる貧困問題解決の期待インドネシア政府は、前述した「インドネシア加速・拡大経済発展マスタープラン(2011
~2025年)」に示しているように、今後
15
年間に6
つの経済回廊の整備を中心に経済発展 を加速させる中長期計画を策定した。そのうちのKalimantan
経済回廊は「国家鉱物・エネ ルギー資源生産加工センター」として位置づけられ、石油・天然ガス、石炭、パームオイ ル、鉄鋼、ボーキサイト、木材という6
つの資源加工分野に発展のプライオリティが置か れている。このような経済回廊の整備計画の実行ができる鍵は必要な投資が確保されるこ とである。仮にこの計画が順調に実施される場合、経済回廊の建設が新たな起爆剤となり、持続的な経済成長に伴う雇用拡大により、養魚池の経営破綻がもたらした貧困問題の解決 が期待される。
(2) 政府の先住民配慮法規政策の更なる整備
後述するように、現行のインドネシア先住民族に関する法規では、先住民族の社会サー ビスネットワークにアクセスできるように社会福祉的な指導を強化するような内容が中心 となり、用地取得や非自発的住民移転の発生による先住民族への影響に対する特別な保護 と支援措置が未だ定められていない。これはこれまで