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第 7 章 終章

7.1 本研究の総合的考察

第3章から第6章において、助動詞(ラ)レルの四つの用法-受身・可能・自発・尊敬

-が六つのジャンルにおいてどのように使われているのかを考察してきた。各用法におけ る六つのジャンルの類似点および相違点を各章の結論に従いまとめて示すと、表7-1から 表7-4のようになる(表7-1から表7-4における「>」「<」「=」は前項と後項の数の 関係を表す)。

表7-1は、受身における六つのジャンル間の類似点と相違点を示したものである。本論 文で考察した項目をみると、六つのジャンルはその多くで類似性を示しており、相違点が 認められるのは「主語の有生性」と「受身文の型」のみである。その「主語の有生性」も、

主語が顕在か非顕在かという点からみると、各ジャンルは同様な傾向にあると言える。

7-1 受身における六つのジャンル間の類似点と相違点

受身 説明 特殊なジャンル

主節と接続節に現れる受身文:ほぼ半々 なし 直接・間接 直接受身>間接受身 なし 受身動詞 他動詞による受身>自動詞による受身 なし

迷惑性 中立的な受身>迷惑性をもつ受身 テレビドラマ:

迷惑性をもつ受身>中立的な受身 動作主の

有生性 有情物動作主>非情物動作主 なし 主語の有

生性

主語が有情物の場合:非顕在が多い

主語が非情物の場合:顕在が多い なし

主語の有 生性

新聞記事、テレビニュース:非情物主語>有情物主語 テレビドラマ、トーク番組:有情物主語>非情物主語 文学(地の文)、ブログ:中間的

受身文の

新聞記事、文学(地の文)、ブログ、テレビニュース:

「非情物主語顕在・有情物動作主非顕在」型受身が第一位 テレビドラマ、トーク番組:

「有情物主語・有情物動作主」型受身が8割以上を占めており、主語も動作主も非顕 在のほうがはるかに多い

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表7-2は、可能における六つのジャンル間の類似点と相違点を示したものである。本論 文で考察した項目をみると、受身と同様に、六つのジャンルの間には類似性が認められる。

特殊なジャンルが多いように見えるが、それは「テレビドラマ」と「文学(地の文)」に 集中している。また、「テレビニュース」に実現可能がないことと、「新聞記事」と「ト ーク番組」に実現可能が少ないことも、ジャンル間の相違点をもたらす一因になっている。

7-2 可能における六つのジャンル間の類似点と相違点

可能 説明 特殊なジャンル

四つの可 能表現形

全体的に、可能の意味においても、可能の条 件においても、各形式はほぼ同様な傾向を見 せている。

文学(地の文):

形式間でずれが出たが、似ている部分 は多い

可能の意 味((ラ)

レル)

潜在可能>実現可能 非過去テンス>過去テンス 肯定形>否定形

テレビドラマ:

否定形>肯定形 文学(地の文):

実現可能>潜在可能 否定形>肯定形

過去テンスも大幅に増えている 可能の条

件((ラ)

レル)

状況可能:ほかより多い 文学(地の文):

心情可能>状況可能

相関性

((ラ)

レル)

潜在可能と非過去テンス、実現可能と過去テ ンス:強い相関性が見られる

テレビニュース:

実現可能がない トーク番組:

非過去テンスの実現可能=過去テンス の実現可能

パターン

((ラ)

レル)

潜在可能:「非過去+肯定」のパターンが主

実現可能:「過去+否定」のパターンが主流

テレビドラマ:

潜在可能:「非過去+否定」のパター ンが主流

テレビニュース:

実現可能がない

新聞記事、トーク番組:

実現可能の数が少ないため、特に目立 ったパターンはない

表7-3は、自発における六つのジャンル間の類似点と相違点を示したものである。本論 文で考察した項目をみると、六つのジャンルはここでも多くの点で類似性を示している。

可能と同様に、ここでも「文学(地の文)」に特異性が集中している。なお、音声言語の 三つのジャンルにおいては、自発表現の数や異なり動詞の数がきわめて少ないため、相違 が生じる一要因にはなっている。

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7-3 自発における六つのジャンル間の類似点と相違点117

自発 説明 特殊なジャンル

主節>接続節 なし

動作主体 一人称>三人称 文学(地の文):

三人称>一人称 動作主マ

ーカー 稀にしかない なし

テンス 非過去テンス>過去テンス 文学(地の文):

過去テンス>非過去テンス 構文

典型構文「Yガ(モ) V-(r)areru」のほか、

判断型自発に多用される「Y V-(r)areru」

構文もたくさん使われている。

テレビドラマ、トーク番組:

典型構文「Yガ(モ) V-(r)areru」

がない 自発の型 判断型の自発:主流

文学(地の文):

(ラ)レル形式:感情生起型>想起型

>判断型

根拠提示

の仕方 根拠示唆のタイプⅡ:優位

文学(地の文):

可能動詞形式:根拠提示を伴わないタ イプⅢが多い

肯定・否

(ラ)レル形式:すべて肯定形

可能動詞形式:否定形も用いられている なし

表7-4は、敬語における六つのジャンル間の類似点と相違点を示したものである。敬語 について、本論文では各表現形式の数を集計することと、敬語対象に絞って考察した。そ のため、相違点が二つしかないようにみえるが、大きな違いがある。敬語表現は「場」と

「人間関係」によって決定されるものであり、この二つはともにジャンル自体の性質、即 ち内容や表現上の規範があるのかどうか、またどれほど読み手や聞き手を意識しているの かに関わっている。そのため、六つのジャンルの間に顕著な差異が現れるのは当然なこと である。

117 「テレビニュース」の自発表現はゼロなので、この表には記していない。

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7-4 敬語における六つのジャンル間の類似点と相違点

敬語 説明 特殊なジャンル

「オ/ゴ~

クダサル」

形式

1例以外はすべて命令形の「オ/ゴ~クダサ イ」をとっており、丁寧な依頼表現として 使われている。

テレビニュース:

「オ/ゴ~クダサル」形式がない

「オ/ゴ~

クダサル」

を除いた他 の諸形式

恩恵敬語の占める割合:一番多い

新聞記事:

(ラ)レル敬語>恩恵敬語 テレビニュース:

恩恵敬語がない

(ラ)レル 敬語

軽い敬度の敬語がふさわしい場合に使われ ている

テレビニュース:

皇室敬語に使われた(ラ)レル形式は 敬度の問題ではなく、ニュース報道の 中立性、客観性および簡潔さを求める 性格によるところが大きいと考えられ る。

新聞記事、テレビニュース、文学(地の文):

敬語の使用はきわめて少なく、形式の種類も非常に限られる。

ブログ、テレビドラマ、トーク番組:

ジャンル自体の性質という制限がなくなり、自由に表現できるため、敬語使用が前三 者より大幅に多い。

敬語対象

新聞記事、文学(地の文)、ブログ:Ⅱ人称敬語とⅢ人称敬語がほぼ半々 テレビニュース:Ⅲ人称敬語>Ⅱ人称敬語

テレビドラマ、トーク番組:Ⅱ人称敬語>Ⅲ人称敬語

表7-1から表7-4をみると分かるように、用法をとわず、六つのジャンルの間には相違 点よりも、類似点のほうが多い。この点については、類似点はその用法自体の特徴を示し ているが、相違点はジャンルの性格によるところが大きいと言ってよい。たとえば、ほか のジャンルに比べ相違点の多い「文学(地の文)」の場合、その要因は、主に物語を過去 の出来事として描く作法や、登場人物の心理・感情などの内面描写を重視すること、三人 称小説という特殊な表現技法などといったジャンル自体の性質に求めることができる。

次は助動詞(ラ)レルだけを対象に考察する。1.3節の表1-4と表1-5を、表7-5と表 7-6として再掲する。この二つの表に示された各ジャンルの使用率から、まず第一に、「ブ ログ」は非常に話し言葉に近い性質を見せており、「テレビニュース」は非常に書き言葉 に近い性質を見せているという結論が導き出せるだろう。

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7-5 六つのジャンルにおける助動詞(ラ)レルの四用法の使用率

7-6 可能・自発・敬語のほかの形式も含めた場合の統計データ

助動詞(ラ)レルの分布のみを示した表7-5を検討する。(ラ)レルの四つの用法の使 用率はジャンルをとわず似たような傾向を示しており、大きな差はない。受身の用法はい ずれのジャンルにおいても主流をなしており、最も割合の低い「テレビドラマ」でも8割 近くを占めている。そのなかでも「テレビニュース」はもっとも極端であり、受身用法が 96%と高い。助動詞(ラ)レルはジャンルをとわず受身用法を中心に使われていることが 分かる。

可能用法の(ラ)レルは受身に次いで二番目に高い使用率を示している。しかし、最も 割合の高い「テレビドラマ」でも16%に過ぎず、「テレビニュース」にいたってはわずか 3%に過ぎず、受身との間にきわめて大きな差が認められる。受身に比べると、可能に用 いられる助動詞(ラ)レルは大幅に少ないことが分かる。そして、日常の話し言葉に最も 近い「トーク番組」に出現した(ラ)レルの可能表現は、その半分が「見レル」「食ベレ ル」のようないわゆる「ら抜き言葉」である。図7-1に見られるように、話し言葉は常に 書き言葉に先立って変化していると言われるが、こうした「ら抜き言葉」の可能表現の使 用が広がっていくにつれて、それが文法的に正しい表現と認定される可能性がある。そう すると、「ら抜き言葉」の可能表現は助動詞「ラレル」による活用ではなく、「書ケル」

「飲メル」のような可能動詞として変更を成し遂げ、(ラ)レルの可能用法もそれで終末 を迎えてしまう可能性も考えられよう。