第 4 章 可能
4.3 各ジャンルにおける可能表現の集計結果およびその分析
4.3.6 トーク番組
82
83
(137)今思うと、大事にしてもらえてたんだなと思いますね。(『徹子』佐佐木 希)
(138)宗佑だってたたきたくてたたいてるんじゃなくて、私をたたくときは自分 も苦しんでるんだと思うんだ。分かってもらえないかもしれないけど…(『ラ スフレ』第4話)
(139)ごめんねお父さん。私は普通の女の子とは違うんだ。だからお父さんが望 むような形では、幸せを見せてあげられない。(『ラスフレ』第10話)
表4-15 「トーク番組」における四種類の可能表現形式の「可能の意味」による統計データ
「潜在・実現可能」と「非過去・過去」の面では、「トーク番組」もまたこれまでの主 流傾向と同じく、潜在可能と非過去のほうが大多数である。ここには「テレビドラマ」の 場合と類似したところもあれば、異なったところもある。前者は、たとえば(140)のよ うに将来の可能性を予測する用法も普通に出ているところである。後者は、たとえば(141)
のように自分の過去の体験を追憶しているが、それを非過去形で話すことによって、まる でその出来事の場に立ち戻っているような感覚で発話している用法があるところである。
これはつまり工藤(1995:186, 212, 214)の言う「歴史的現在用法」、あるいは「心理的
84
現在用法」である。用例数は多くないが、工藤が指摘しているように、「非常に素朴な表 現方法」であり、普段の話し言葉でよく使われる表現方法であると思われる。
(140)まだちょっと大きいんですけど、もう少しで着れると思って。(『徹子』
木村佳乃)
(141)だいたいで時間を決めて、ご飯を食べる前に、体重計に乗って、あ今日は どれぐらい食べれるとか。(『テレフォン』田中理恵)
表4-16 「トーク番組」における四種類の可能表現形式の「可能の条件」による統計データ
「可能の条件」による統計データである表4-16をみると、依然として大部分が状況可 能であり、それに次いで能力可能もかなりの割合を占めているという結果である。渋谷
(2006)は各地方言において、各可能表現形式の表す「可能の条件」についての研究を通 して、日本語の可能表現内部の意味変化は、「状況可能→能力可能→心情可能といったか たちで進むのが一般的である」という結論を出している。そして、各可能の条件の間にも 非対等性が見られ、まず中核をなすのは能力可能と状況可能であり、さらにこの2つの条 件のうち、能力可能よりも状況可能のほうが優位を持っていると指摘している。これは可 能形式の面における研究であるが、今回の集計結果をみると、現実の使用上でもそうした 非対等性が確認されたと考えられる。
最後に「トーク番組」におけるもう一つの特徴について述べておきたい。今回の統計で は、全部16文の(ラ)レル可能文のうち、その半分は「見レル」のようないわゆる「ら 抜き言葉」の形で現れている(「食ベレル」が4回、「見レル」が2回、「着レル」「出 レル」が1回ずつ。例(135)(136)(140)(141))。このような「ら抜き言葉」を 可能動詞の一種と捉える研究もあるが、小矢野(1980:21)の言うように、二つの形式間 に「意味的な違いとか表現性の差といった尺度ではなく、「見られる」より「見れる」の ほうが音声言語(口頭語)で発音しやすいとか、「見れる」は誤用だという規範意識の有
85
無などの尺度で説明できそう」ということを考え、本論文はこれを可能の助動詞「(ラ)
レル」による可能表現に分類している。こうした「ら抜き」の可能表現は、現在はまだ主 に話し言葉に限られているとしても、使用人数の拡大につれて、将来は可能表現の世界に おける正式な市民権を得ていくのであろう。
以上のデータと分析から、「トーク番組」については次のようなことが結論として言え よう。①全体的に、可能の意味においても、可能の条件においても、各形式はほぼ同様な 傾向を呈している。具体的に(ラ)レル形式をみると、②可能の意味の面では、「潜在可 能」「非過去テンス」「肯定形」が中心をなしている。③可能の条件の面では、「状況可 能」が 6 割超となっており、次いで「能力可能」の割合もかなり高い。④潜在可能と非過 去テンスの間の相関性が依然として見られる。⑤潜在可能では「非過去+肯定」のパター ンが中心をなしている。
4.3.7 「ウル・エル」及び「デキル」について
本節では、これまでの分析で保留にしておいた(注72と4.3節の最初の部分を参照)
可能形式「ウル・エル」及び「デキル」について考察する。まず「ウル・エル」形式につ いては、表4-3をみれば分かるように、その出現回数および割合はジャンルを問わず数が 少なく、割合も非常に低い。また表4-17(括弧内は数)に示されているように、異なり動 詞数も非常に限られている。
表4-17 六つのジャンルにおけるウル・エル形式可能表現の異なり動詞とその数
文字 言語
新聞記事 ある(2)、成る(2)、行う(1)
文学(地の文) ある(4)、成る(3)、起こる(1)、持つ(1)
ブログ ある(6)、禁じる(1)
音声 言語
テレビニュース ある(2)
テレビドラマ ある(6)
トーク番組 ある(1)
これらの動詞のうち、最も出現頻度の高いものは言うまでもなく認識の可能の典型例
「アル」であり(21回)、そのうち4例以外はすべて否定形の「アリエナイ」である。「ア ル」に次いで、「成ル」も5回現れており、肯定形が3回で否定形が2回である。それ以 外の動詞は、特に肯定形や否定形に偏る傾向は観察されていない。そしてテンスの面では、
全例文のうち、2例しか過去テンスは存在しておらず、はっきりした偏りを見せている。
86
また可能の条件の面(表4-6、表4-8、表4-10、表4-12、表4-14、表4-16)からみると、
状況可能と心情可能がそれぞれ5例と1例出現しており、ほかはすべて認識の可能である。
実際の使用において、ウル・エル可能表現はかなり強い傾向を持っていることが確認でき た。
次に、「デキル」形式について、三つのタイプごとに六つのジャンルにおける数と割合 をまとめると、表4-18のとおりになる77。
表4-18 六つのジャンルにおけるデキル形式可能表現の数とその割合
表4-18から、デキル形式の三つのタイプは、各ジャンルの間に大きな相違があること が一目で分かる。割合からみると、「(名詞+ガ+)デキル」タイプでは、「トーク番組」
と「テレビドラマ」が最も高く、「テレビニュース」が最も低く、表4-3における「可能 動詞」のデータと同様な傾向を示している。これが「名詞+デキル」タイプでは正反対と なり、「テレビニュース」が最も高く、「トーク番組」と「テレビドラマ」が最も低い。
そして「動詞連体形+コトガデキル」では、「新聞記事」や「テレビニュース」において 文字数の制限があるためか、今度は「文学(地の文)」が最も高い。
「動詞連体形+コトガデキル」、ウル・エル形式は文章語的で、可能動詞は口語的であ ると多くの研究が指摘している(奥田1986、渋谷1995、庵ほか2001など)が、可能動 詞と同様な傾向にある「(名詞+ガ+)デキル」も話し言葉性の高い表現だと考えられる。
そして、サ変動詞自体が硬い表現であるので、その可能形式「名詞+デキル」も硬い可能 表現だと言えよう。各表現形式のこうした特徴は、表4-3と表4-18のデータによってあ らためて確認できたと思う。
77 実際の統計において、「頭では理解できても、すぐできるかどうかまだ、自信はない。」のよう に「名詞+ガ」の部分が消える例や、「しかし浪人生でしかない今の自分に本当に彼女を幸せに できるのか?」のようにもともと「名詞+ガ」の部分がない例もあるが、整理の都合上、全部「(名 詞+ガ+)デキル」の類に加算している。
87