第 3 章 受身
3.3 各ジャンルにおける受身表現の集計結果およびその分析
3.3.5 テレビドラマ
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何をする・した」という能動構文が多く見られ、中には普通受身文が使われることの多い
(53)のような文もある。
(51)ただ気象庁は、地下のマグマの動きの変化を示すデータがないことから、一 時的な火山活動の高まりだと見ています。箱根町はこの週末、大涌谷周辺への 立入を全面的に禁止していて、規制を続けるかどうか状況を見ながら、夕方に も判断する予定です。(ANNニュース、2015/5/11)
(52)警察によりますと、午前5時45分ごろ、北九州市小倉北区の11階建てマン ションのエントランスの上で、このマンションに住む小学3年の男の子が死亡 しているのを警察官が見つけました。男の子は昨日の夜から行方が分からなく なり、一緒に住んでいる祖母が捜索願を出し、警察が男の子の行方を捜してい たということです。マンションの屋上には、人が入った形跡があり、警察が男 の子が死亡した経緯を調べています。(ANNニュース、2015/5/11)
(53)東北地方を中心に広い範囲で揺れを観測しました。東北新幹線は運転を再開 していますが、ダイヤの乱れが続いています。(TBSニュース、2015/5/13)
以上のデータと分析から、「テレビニュース」については次のことが結論として言えよ う。①主節に現れる受身のほうが少し多いが、大した差はない。②間接受身や自動詞によ る受身がまったく現れないという極端の偏りが出現し、直接受身でも相手受身が1文ある ほかは、全部直接対象受身である。③中立的受身が7割も占めているが、犯罪事件・交通 事故などの社会的出来事に関する報道が多いため、迷惑受身は「新聞記事」より多い。④
「新聞記事」と同様に、主語は顕在の非情物(非情物が68%、全て顕在)、動作主は非顕 在の有情物(有情物が87%、そのうち95%(83/87)が非顕在)がそれぞれ主である。⑤
「新聞記事」と同じく「非情物主語顕在・有情物動作主非顕在」型受身が大多数(61%)
であるが、犯罪事件・交通事故などの被害者に関心が向けられがちであるため、「有情物 主語顕在・有情物動作主非顕在」型受身文も一定の数(20%)で出現している。
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ある。この表をみてまず気づくのは、迷惑性を有する受身が著しく増え、6割を超えてい ることであろう。それと同時に、有情物主語の数が逆転して、8割超となっていることも 非常に目立っている。「テレビドラマ」における会話は、登場人物が自分自身や他人に起 こった出来事について説明したり、意見を交わしたり、感想や評価を述べたりするのが中 心となっているため、自然と有情物主語が多くなっている。そして、「テレビドラマ」に は、起伏に富んだストーリーによって視聴者の心をつかみ、視聴率を高める需要がある。
迷惑性をもつ受身文の多用により、人物間の対立関係が明確に描き出され、衝突や矛盾が 強化され、物語が一層面白くなる効果がもたらされる。迷惑受身が多いのは、こうした理 由による可能性が考えられる。
表3-16 「テレビドラマ」の受身文100文についての統計データ
表3-17 「テレビドラマ」における直接・間接受身の各下位分類の統計データ
表3-18 「テレビドラマ」における主語・動作主の有生性の統計データ
また、主語の顕在や非顕在をとわず、有情物主語文の内訳を確認してみると、全部で86 文ある中で、一人称・二人称・三人称主語受身文はそれぞれ52、10、24文ある。ここか
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ら、話し言葉における受身文は、話し手が自分自身に生じた事柄について語るのに最も多 く使われていることが分かろう。日本語では、一・二人称主語が文に現れないのが普通で あると言われているが、ここも一人称主語受身文のうち38文(73%)、二人称主語受身 文のうち6文(60%)がそうである。
本論文が資料に使っている二つのテレビドラマは、『花咲』は銀行という職場が主たる 舞台で、同僚関係が中心となっているのに対し、『ラスフレ』は日常生活における友達同 士の関係が物語の中心となっている。こうした相違は、受身文の使い方にも反映している。
両ドラマの有情受身文を別々に考察すると、一人称・二人称・三人称主語受身文の順に、
『花咲』では19、4、19文と、『ラスフレ』では33、6、5文とある。つまり職場での会 話に使われる受身文は、(54)(55)のように話し手が仕事上で関わりのある第三者につ いて事情を説明したり、意見を述べたりすることが多い。一方、親しい友達同士間の会話 において、主人公は主に両者間に限定されており、たとえ第三者に言及しても、受身文が 用いられることは少ない。
(54)勤続年数の一番長かった田中さんは、最初に目を付けられて、転勤を示唆さ れたそうです。(『花咲』第1話)
(55)杉下さん、処分されないで済んでよかったですね。(『花咲』第2話)
「テレビドラマ」でもう一つ目立つ特徴は、相手受身が多いことであろう。前述したジ ャンルではだいたい10文前後しかないが、「テレビドラマ」では32文も現れている。こ こで特筆すべきは、この32文の相手受身文のうち、半分以上(17文)は他動詞「言ウ」
で作られていることである52。「言ワレル」受身は、「新聞記事」で1回(直接対象受身)、
「文学(地の文)」で2回(相手受身)、「ブログ」で6回(3回が相手受身)、「テレ ビニュース」で0回出現している。ここから、書き言葉ではあまり使われないが、日常の 話し言葉では、「言ワレル」受身はある発話内容を聞き手に伝えるのに多く使われている ことが分かろう。先取りして言えば、この特徴は、後で分析する「トーク番組」において より顕著になっている。この点は、テキストジャンルの話し言葉性を判定する際の一つの 根拠になりうるのではないだろうか。
52 「テレビドラマ」において、「言ワレル」受身は全部で19文ある。
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(56)産休を取ろうとしていた石井さんは、「だから女はだめなんだ、周りの迷惑 を考えろ。戻る場所なんかない。」と言われて、退職。(『花咲』第1話)
(57)お母さんにも、誰にも言うなって言われたし。(『ラスフレ』第1話)
もう一つ興味深いことは、毎回の放送時間がさほど変わらないのに、両ドラマの回ごと に出現する受身文の数が大きな差を示していることである(表3-1953)。この結果には、
両ドラマにおけるセリフの密度も関係していると思われるが、改まり度が比較的に高い職 場において、受身文がより頻繁に使用されていることも大いに関わっているだろう。
表3-19 両ドラマの回ごとに出現する受身文の数
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 合計
『花咲』 37 23 26 21 28 135
『ラスフレ』 10 7 9 14 11 51
この節の最後に、「テレビドラマ」におけるいくつか特殊な文について、少し検討を加 えたい。まず(58)を見られたい。この文は、「私が瑠可に嘘をついてることはタケル君 に了知されている」という意味を表しており、もともと自動詞である「分カル」は、ここ で他動詞として使われていると言えよう。それゆえ、本論文ではこの文を直接対象受身と 判定した54。
(58)分かってるんでしょ、私が瑠可に嘘をついてること。タケル君には分かられ てる気がするんだ。(『ラスト・フレンズ』第5話)
また、日本語間接受身文の迷惑性を議論するときに、よく問題にされる「風に吹かれる」
という文があるが、「テレビドラマ」では、それが1回現れている。
53 総合的な状況を示すため、この表の数字は、被修飾語が受身構造の主語となっている連体修飾節 も、使役受身も含めたものである。また、『ラスフレ』は受身文数が『花咲』より著しく少ない ため、前5話のほか、最後の2話も統計した。その結果、第10話に1文、第11話に12文あっ た。
54 『明鏡国語辞典』では、「分カル」という項目に、「「君は誰が犯人か[物事の本質]を分かっ ていない」のように、俗に他動詞としても使う」と記述されている。この文もその一例と言って よかろう。
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(59)この苦しさ、この胸の痛み、全部風に吹かれて、なくなればいい。(『ラス フレ』第2話)
この文は登場人物の発話でなく、傍白という形でその内心のつぶやきが語られたもので ある。主人公は、自分の苦しさや胸の痛みが、まるで目に見えた実物に化し、風に吹き飛 ばされてなくなることを願っている。この意味で言えば、主語「苦しさ・胸の痛み」が「風」
から受ける働きかけはいかにも直接的であり、その結果、物理的変化さえ起こっている。
しかも迷惑どころか、この文に受益の意味さえ感じ取れる。
山下(2001:2-3)は「迷惑受け身のプロトタイプ」について考察し、「風ニ吹カレル」
受身は、単文かつ独立文の形で使われないと指摘している。そのうえ、「主文ではなく従 属文に受け身が現れることで、迷惑性が稀薄になるどころか恩恵性が含意されることもあ」
り、「また連体修飾節に現れる受け身も迷惑性が稀薄になる」と主張している。これは妥 当な主張と思われる。
上の二点を合わせると、「風ニ吹カレル」受身は、「吹ク」が自動詞であるにもかかわ らず、主語が受ける働きかけや影響がかなり直接的であるとともに、基本的に従属文に現 れることによって、迷惑性が甚だ稀薄になり、まして恩恵の意味合いさえ生じるという特 殊な受身と言ってよかろう。
以上のデータと分析から、「テレビドラマ」については次のことが結論として言えよう。
①主節と接続節に現れる受身の数はほぼ半々である。②直接受身、他動詞による受身が圧 倒的に多い。直接対象受身は依然として第一位であるが、特に「言ワレル」受身の多用に より、相手受身の数が著しく増えている。③物語を面白くするためと思われるが、迷惑受 身が大幅に増え、6割を超えている。④有情物主語は86%を占めており、そのうち72%
が一人称・二人称であり、しかも一人称主語の73%、二人称主語の60%が非顕在であり、
話し言葉の特徴を示している。また、別々にみれば、改まり度の低い『ラスフレ』では一 人称が大多数(75%)であるが、改まり度のより高い『花咲』では三人称の割合もかなり 高い(45%)。そして動作主は、99%が有情物という非常に偏った使い方がみられ、その
うち60%(60/99)が非顕在である。⑤「有情物主語・有情物動作主」は85%を占めてお
り、そのうち主語の60%(51/85)、動作主の59%(50/85)が非顕在である。