• 検索結果がありません。

第 5 章 自発

5.2 各ジャンルにおける自発表現の集計結果およびその分析

5.2.3 ブログ

「ブログ」の自発表現データ数があまりにも少ないため、これで傾向が見出せるとは言 い難いが、収集したデータに基づいて考察したい。

5-6 「ブログ」における二種類の自発表現形式の統計データ

表5-6から、「ブログ」の自発表現も接続節に来るものがあることが分かる。そしてテ ンスの面では「非過去」がほとんどで、人称の面では両形式とも一人称のみであり、既述 の主流傾向に合致している。特にすべて一人称であるのは、ブログの性質にも合致した結 果だと思われる。つまり、現在幅広い用途に使われるというが、ブログはまだ、個人的な 体験や日記、手軽な時事評論や意見表明などの内容が多いため、このように一人称主体に 限定される状況となっているであろう。これはさらに表5-7に示される動作主マーカーが 皆無という結果につながっている。一人称なら省略されるのが慣例である日本語の特徴を 示していると言えよう。

110

5-7 「ブログ」における動作主マーカーと各種構文の出現状況

自発形式

統計項目 (ラ)レル 可能動詞

動作主マーカー 10 2

構文

Yが(も) V-(r)areru 5 Y V-eru 1 Y(もの)と V-(r)areru 4 V-eru 1

V-(r)areru 1

相互に連動している自発の型と構文とをあわせて考察する。表5-6に示されるデータか ら、判断型自発が主流となっていることは一目で分かる。(ラ)レル形式に使われる動詞 は「思ウ」(4例)、「予想スル」(4例)、「望ム」(1例)である。「新聞記事」で言 及したように、動詞によって、慣用の構文に偏りをもっており、「思ウ」は「Yト V-(r)areru」

構文が好まれ、「予想スル」は逆に「Yガ V-(r)areru」構文が常用される。よって、表 5-7に示される(ラ)レル形式の構文もこの二種類に集中している。一方、可能動詞形式 では「思エル」によるものがほとんどで、したがって「Yガ(モ) V-eru」構文がなく

「Yト V-eru」の判断型自発表現が中核となる。

そして両形式に1例ずつ存在する対象不在の「V-(rar)eru」構文は、感情動詞「悔ム」

と「笑ウ」による感情生起型自発である(例(176)(177))。(176)はかなり特殊な 用い方で、改造すれば「私の部屋のテレビスペースを考えると二十インチが限界だという のは悔やまれる」となろう。しかしそうすると次の文と形式上重複することになり、その ため避けられたのではないかと考えられる。そして(177)は「文学(地の文)」の(173)

の「泣ケル」と類似し、対象の代わりにテ形で感情生起の原因を解釈する方法である。こ のほか、実際の統計は行っていないが、(178)のような連体修飾節や「Yハ 笑エル/

泣ケル」構文もよく使われるものと思われる。

(176)しかし悔やまれるか私の部屋のテレビスペースを考えると二十インチが限 界なんだよね。どうせテレビ買うなら大画面にしようって思ってたけど二十が 限界って切ない。(Yahoo!サービス)

(177)釣れすぎて1時間程で飽きてしまった。#手が生臭くて相当笑える#魚は友 人がクーラーボックスに入れて持ち帰る。(Yahoo!サービス)

(178)ほのぼのしてて笑える映画のお勧めは何ですか?王道では、「ホームアロ ーン」「ホームアローン2」ですね。単純に笑える映画なら三谷作品をオスス

111

メします。「ラジオの時間」や「みんなの家」は結構笑えます。(Yahoo!知 恵袋)

しかし、これまでに見てきた感情生起型の自発は、典型の感情動詞で作られたものが非 常に少なく、「ブログ」の「悔ム」「笑ウ」、「文学(地の文)」の「泣ク」(後掲する

「トーク番組」においても「泣ク」が1例)、「新聞記事」の「心配スル」「急グ」とそ れぞれ1例しかない。そこで、これらの感情動詞は、一体どういった形で使われているの かという素朴な疑問が浮かんでくる。堀川(1992:172)に挙げられている代表的な動詞を 中心に、感情表現が最も多用されると思われる「文学」を対象に、『現代日本語書き言葉 均衡コーパス』(BCCWJ)のオンライン版「中納言」で検索してみた。それぞれのヒッ ト件数は表5-8のとおりである91

5-8 「文学」における感情動詞の出現状況

表5-8から、これらの感情動詞はもとより使用率が低いと分かる。そのうち用例数の一 番多い「心配」について考察してみると、64例のうち、24例の発話文を除けば、地の文 は40例ある。この40例に使われている「心配」は、形容動詞(21例)、動詞(12例)、

名詞(7例)の順に用例数が多い。具体的に言えば、形容動詞では「心配ソウニ」「心配 ソウナ」「心配デタマラナカッタ」など、動詞では「心配シテイタ」「心配シナクテイイ」

「心配サセナイヨウニ」など、名詞では「心配ガアル」「心配カラ解放サレ」「親ノ心配

91 具体的には、検索対象の範囲設定は「特定目的・ベストセラー(非コア)、文学、2000年代」

である。「心配」「懸念」「危惧」の数には名詞としての用例も含まれている。また、発話文の 用例も含まれているため、ここは「文学(地の文)」ではなく、「文学」となっている。

112

ヲヨソニ」など様々な用法が見出せる。使い方はそれぞれであるが、他の感情動詞も大体 同じ状況を見せている。このようにほかにいくらでも感情を表わす表現があるなかで、わ ざわざ自発性を強調する表現を選んで表すのは大げさと感じられるためか、自発のプロト タイプであるというものの、実際には感情生起型の使用は少ないのが現状である。

想起型の動詞についても考察を付け加えておく。今回の資料で、想起型自発が出現した のは「文学(地の文)」のみで、使われた動詞は「思イ出ス」「窺ウ」の二つである。こ こも引き続き上の方法を用い、堀川(1992:179)に挙げられている代表的な動詞からいく つかを選び、それらが「文学」における使用状況を確認してみた。「中納言」で検索した 結果は表5-9のとおりである。

5-9 「文学」における想起動詞の出現状況

表5-9から、想起動詞の使用も全体的に非常に少ないことが分かる。さらにその中から、

ほかよりはるかに用例数の多い「思イ出ス」を代表に使用状況の詳細を覗いてみる。具体 的には、「思イ出シタ」「思イ出シテ」「思イ出シテイル」「思イ出シナガラ」「思イ出 ソウトスル」など多様な使い方が53例、使役形「思イ出サセル」「思イ出サセテクレル」

などが3例、可能形「思イ出セナイ(ナカッタ)」が2例、自発形「思イ出サレタ」が1 例、あと「思イ出シ玉」という連用形で名詞を構成するものが1例という具合である。使 われるとしても、使役・可能・自発などの意味を付加せず、動詞そのものとしての使い方 が主流であると言える。

こうして感情動詞も想起動詞も元来使用頻度が低く、くわえて感情や想起を表す言い方 が多種多様なのでわざわざ自発を使う必要性も薄いため、自発表現の使用における感情生 起型と想起型の低出現率が観察されたわけである。

最後に表5-6に示される判断型自発の根拠提示の仕方と「肯定・否定」をみると、依然 として根拠示唆のタイプⅡが中心となっており、否定形は可能動詞形式の「思エル」にの

113

み使われている有様である。とくに特徴といえるところがないので、詳しい考察を略す。

以上のデータと分析から、「ブログ」については次のようなことが結論として言えよう。

(ラ)レル形式の自発は、①「主節」と「接続節」の両方に現れている。②すべて一人称 主体となっており、動作主も一切文中に顕在せず、個人的内容が多いという「ブログ」の 特徴の現れとして捉えられる。③すべて非過去テンスである。④動詞による構文上の偏り に関連し、典型構文「Yガ(モ) V-(r)areru」と、判断型に多用される「Yト V-(r)areru」

構文の二種類が依然として中核である。⑤「新聞記事」と同様に、判断型自発が圧倒的に 優位を占め、根拠提示の仕方もタイプⅡが大多数である。⑥以上の傾向は可能動詞形式に おいても大体同じであるが、「肯定・否定」の面では、また「新聞記事」および「文学(地 の文)」と同様に、(ラ)レル形式がすべて肯定形であるのに対し、可能動詞形式では否 定形も用いられている。