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第 4 章 可能

4.3 各ジャンルにおける可能表現の集計結果およびその分析

4.3.5 テレビドラマ

表4-13をみると、まず「文学(地の文)」と同様に、「テレビドラマ」でも否定形が 多いことに気付くであろう。現実の厳しさを強調したり(例(114)(115))、自分の強 烈な思いや感情を表明したり(例(116)(117))、相手の過失を厳しく責めたり(例(118))、

またその詰問に対してやむを得ない苦情を説明したり(例(119))、さらに絶縁の宣言 をしたり(例(120))するとき、否定形を使うと、緊張感や衝突の雰囲気を醸し出し、

より視聴者に心惹かれる同感を呼び起こせる。否定形が多いのは、これが一因と考えられ る。

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(114)銀行っていうのは、一度飛ばされたら、二度と元には戻れない世界だ。(『花 咲』第1話)

(115)おたくの融資が受けられなかったら、うちの会社は立ち行かなくなってし まう。(『花咲』第4話)

(116)今日だけは負けられない、絶対に。(『ラスフレ』第2話)

(117)どうしても許せなかったの、辞めて行った3人のことを思うと。(『花咲』

第1話)

(118)何で約束守れないんだ!(『ラスフレ』第2話)

(119)美容師は私の仕事なんだよ。男のお客さんが来ることだってあるし、それ を断ってられないよ。仕事なんだもん。(『ラスフレ』第3話)

(120)私は、もう宗佑と一緒にはいられない。また同じことの繰り返しになる。

(『ラスフレ』第5話)

可能動詞で用例数も否定形数も最も多い動詞「言エル」は、「判断+ト言エル」構文の 数がさらに減り、1文しか現れておらず、「~ハ/モ/ニ/ッテ/○(無助詞)言エル」

など、「話ス、伝エル」という「言ウ」本来の意味で使われているのが大多数である。し かし、「文学(地の文)」のように心情可能が多いのとは違い、言うとまずい結果をもた らしかねない(例(121))とか、契約上秘密とすべきものだから(例(122))とか、客 観的外部状況に制限されているために言うのを控えさせられるのが殆どである。

(121)銀行では、間違ってることも間違ってるって言えないってことですか。(『花 咲』第2話)

(122)それは、言えないけど。(『花咲』第1話)

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4-13 「テレビドラマ」における四種類の可能表現形式の「可能の意味」による統計データ

一方、「潜在・実現可能」と「非過去・過去」では、「テレビドラマ」はこれまでの主 流の傾向と同様に、潜在可能と非過去テンスのほうが大多数をなしている。確かに日常の 会話では、過去を振り返るより、現在の様子に基づいて(近)未来の成り行きを予測した り(例(123))、何かの目的を実現させるために計画を立てたり(例(124))、人に頼 み事をしたり(例(125))するのが普通であろう。つまり未来に向かって絶え間なく発 展していく普段の生活や仕事などにおいて、既成の事実より、行為や事柄の実現の可能性 のほうがもっと重視され、話題に上がりやすいため、こうした結果につながっていると思 われる。そしてここにもまた、潜在可能と非過去テンスの間に連動が見られる。

(123)ああもう出られそうだから、多分8時くらいには…。(『ラスフレ』第2 話)

(124)100万円もの現金事故になれば、支店長に責任を負わせられるでしょ。(『花 咲』第1話)

(125)忙しいのは分かるけど、見に行ってあげられないかな。(『ラスフレ』第2 話)

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4-14 「テレビドラマ」における四種類の可能表現形式の「可能の条件」による統計データ

「可能の条件」による統計データである表4-14をみると、依然として状況可能が最も 多い。(ラ)レル形式では、それに次いで心情可能の割合もかなり高い。しかし、総用例 数が少ないためか、「文学(地の文)」で多用された「信ジラレナイ」「忘レラレナイ」

はそれぞれ1回と2回しか出ておらず、特に目立っているとは言えない。

最後に、これまで分析してこなかった結果可能について、考察を加えておきたい。(ラ)

レル形式の用例数がゼロで、合計からみても決して割合が高いわけではないが、「テレビ ドラマ」のデータでいくつか言及すべきと思う用例があるので、考察しておくことにする。

「テレビドラマ」の用例で、渋谷(1993a)が挙げている例のような典型的な結果可能文 は、次の1文しか出てこない。

(126)そう、難しいんだよ。でもさ、できたーって思うときあんだろ?爽快だろ そんとき?(『ラスフレ』第4話)

渋谷(1993a)で挙げている2つの典型例はいずれも過去形をとっており、「結果可能」

ならすでに起きた(過去の)ことでなければならないように見えるが、その定義「条件を 無視して単に実現の有無(結果)だけを問題にする用法」から考えると、必ずしもそうと は限らない。例えば(127)は銀行の支店長が融資課の部下たちに向けて発する言葉であ るが、ここの「取れる」も結果可能に当たると考える。もちろん多くの場合、新規の融資 をとるのは、主に業務員の努力次第であり、取れるかどうかはその業務能力に関わってい る。しかし、プロセス志向ではなく結果志向の職場においては、いかなる手段であれ、結 果として融資が獲得さえできればよいという、条件不問の可能表現と捉えたほうがより適 切であろう。この結果志向のニュアンスは、「まで」の使用によって強められていると感 じられる。(128)も同じ理由により、結果可能と判定した。

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(127)新規の融資が取れるまで、帰ってくるな。(『花咲』第3話)

(128)早く代わりの人材を手配してもらえるよう、人事部にお伝え下さいね。(『花 咲』第4話)

また、視聴者の心をつかむため、わざわざ原因を述べずに結果だけをひとまず教えてお いて、後で徐々に展開させていく手法も、結果可能の使用につながっている(例(129))。

さらに、事実だけ把握しており、その成立した条件がよく分からない場合(例(130))

や、行為自体が極めて簡単で、わざわざその実現の条件を問うあるいは言及する必要さえ ない場合(例(131)(132))、そして条件を無視するというより、条件(原因)自体を 厳しく詰問する場合(例(133))も、結果可能となる。このように一口「条件不問」と 言っても、実は様々な形式や様相があるわけである。

(129)相馬さん、この詐欺師、捕まえられるかもしれません。(『花咲』第3話)

(130)―そういえば、尾見機械工業って、うちからの融資が下りなくて、結局ど うなったんですか。 ―調べてみたよ。何とか不渡りは回避できたみたいだ。

(『花咲』第4話)

(131)―チケット、渡せたよ。 ―サンキュー。(『ラスフレ』第2話)

(132)あっ、美知留?よかった。やっと連絡取れて。(『ラスフレ』第4話)

(133)なんで約束を守れなかったのか言いなさい。(『ラスフレ』第2話)

以上のデータと分析から、「テレビドラマ」については次のようなことが結論として言 えよう。①全体的に、可能の意味においても、可能の条件においても、各形式はほぼ同様 な傾向を呈している。具体的に(ラ)レル形式をみると、②可能の意味の面では、「潜在 可能」「非過去テンス」が依然として大多数を占めているが、緊張感や衝突の雰囲気を醸 し出すため、「否定形」の使用が大幅に増え、7 割を占めている。③可能の条件の面では、

「状況可能」が約半分となっており、「心情可能」の割合もかなり高い。④潜在可能と非 過去テンス、実現可能と過去テンスの間の相関性は依然として見られる。⑤実現可能では 依然として「過去+否定」のパターンが比較的に多いが、潜在可能では初めて「非過去+

否定」のパターンが主流となった。

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