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第 6 章 敬語

6.2 各ジャンルにおける敬語表現の集計結果およびその分析

6.2.5 テレビドラマ

表6-2における「テレビドラマ」のデータを見ると、4グループの間にそれほど差がつ いていないことに気付く。恩恵敬語は32%(25例)と最も多く、依頼敬語はそれに次い

で26%(20例)を占めている。低敬度敬語と高敬度敬語の量はほぼ同じで、それぞれ2

割ほどを占めている。

また表6-7における「敬語対象」による統計データを見ると、これまでのⅢ人称敬語が 主流をなしているのが一転して、Ⅱ人称敬語が中核となる。「文学(地の文)」のところ ですでに述べたように、敬語はもともとⅡ人称者に対するものが最も多いので、この結果 はごく自然と言えよう。

6-7 「テレビドラマ」における各敬語表現形式の「敬語対象」による統計データ

(ラ)レル形式を見ていこう。16例のうち、Ⅱ人称敬語は11例と大多数を占め、Ⅲ人 称敬語は5例しかない。まずⅡ人称敬語の用例(241)から(249)を検討する。(241)

から(243)の場面は銀行の支店という職場である。銀行本部の支店統括部臨店班の平行 員花咲から支店の窓口担当者中島に向けての発話である。お互い同レベルの社内的地位を もつ関係であるが、どちらかというと本部のほうが少し高いとも言えよう。こうした間柄 にふさわしく、軽い敬度の(ラ)レル形式が使われているわけである。

(241)だから(中島さんは)一人で後輩のフォローされてたんですね。(『花咲』

第1話)

(242)中島さんは、お待たせしたお客様には、お詫びの言葉と一緒に、ポケット ティッシュを渡されていますよね。(『花咲』第1話)

(243)杉下さん、どちらへ行かれるんですか。(『花咲』第2話)

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(244)課長が席を外されてましたので、そのまま出してしまいました。(『花咲』

第1話)

(244)の場面もまた銀行の支店という職場である。行員が支店長に向けての発話であ り、敬語対象はその場にいる第三者の課長である。三者の上下関係は、「話し手<第三者 の課長<聞き手の支店長」である。第三者は聞き手より下だが、自分より上で、加えてそ の場に居合わせるため、(ラ)レル形式ぐらいにとどめて妥当だと思われる。菊地

(2010:170-172)は「社内の敬語」についてアンケート調査を行っており、ここの用法と 似たような結果が出ている。

(245)の場面は銀行支店長のオフィスである。本部臨店班の相馬が不正をした支店長 新田に向けての発話である。二人は昔上司(新田)と部下(相馬)の関係にあったことが あるが、その時相馬は新田にミスを負わされたことがある。今回同じ手口で今の部下に責 任を負わさせようとする新田のことが許せず、詰問している場面である。新田の支店長と いう地位と、今の部下がその場に居合わせていることを配慮しているためか、敬語は使っ ているが、最低限の(ラ)レル程度に抑えているように見える。そのほか、尊敬語で高め ながら詰問するのは、より一層効果が出るという狙いも考えられる。

(246)と(247)はともに銀行員がお客さんに対する発話であるが、場面は異なってい る。前者はATMがトラブルを起こし、その解決に駆け付けた行員の発話で、お客さんに 対する言葉として敬度が足りないと言えるが、ここの「どうされましたか」はお客さん自 身のことより、当時の状況について聞いているので、それほど不適切ともいえない。また 後者は支店長須賀および営業課長門脇がお得意様の客と食事会をしている場面である。こ こも主語がお客ではなく「会社移転の話」となっているので、(ラ)レル形式で済ませて いると考えられる。

(248)と(249)は、親友の両親に向けての発話で、ともにくだけた日常の場面なので、

あまり敬度の高い敬語を使うと逆に距離をとりすぎる恐れがあり、軽い敬度の敬語でほど よい距離感および親近感を保つためには(ラ)レルが適切と言えよう。

(245)こちらも大事な話なんです。新田支店長、あなたが犯してしまわれた罪に ついて。(中略)あなたは、グランマリッジへの融資を、ある理由から、意図 的に推し進められましたよね。(中略)新田さん、あなたはこれまで、何か問

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題があっても、その責任を部下に押し付け、ご自身は生き延びて来られました よね。(『花咲』第2話)

(246)どうされましたか。(『花咲』第3話)

(247)会社移転のお話、決まられましたか。(『花咲』第3話)

(248)これ、全部お母さんが作られたんですか?(『ラスフレ』第5話)

(249)ー(タケル)どうぞ。 ー(修治)ああ…。 -大分飲まれていたような ので。 -(修治)フフッ。優しいんだな。(『ラスフレ』第10話)

Ⅲ人称敬語の(ラ)レル例文の例も挙げておく。(250)から(252)はお客、(253)

上司の支店長およびお客、(254)は自分より年上の行員(先輩)に対して使う敬語であ る。その中、普通上司やお客に対してはより高い敬度の敬語が望ましいが、純粋な第三者 であるため、(ラ)レルの敬度にとどめていると思われる。

(250)三上社長が来店されたとき、店内はとても混み合っていました。(『花咲』

第1話)

(251)そちらに署名された方は全員、入会金を支払ったのに、誰も紹介されてい ないそうなんです。(『花咲』第2話)

(252)うちの支店、毎日何人か要注意なお客様が来られるんですが、今日はその 全員、花咲さんに回されてたんですよ。(『花咲』第3話)

(253)(支店長と)よく一緒にゴルフや食事に行かれてたようですから。(『花 咲』第2話)

(254)この方達は、他の支店に異動されたんですか。(『花咲』第1話)

さらに最多の恩恵敬語(32%、25例)については、(255)から(257)のような話し 手にとって望ましい行為を恩恵的に捉える表現がむろん最も多くて一般的であるが、少し 異例な表現も存在する。たとえば、(258)は対立立場の相手同士の間の発話で、敬語を 使うことで逆に風刺・皮肉のニュアンスが生まれている。

(255)でも、相馬さんだって支店長の口座、調べてくださったんですよね。(『花 咲』第1話)

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(256)それでは、早速社員の給与振り込みなど、一括してお願いしたいと思って るんですが、口座を開設して頂きたいんです。(『花咲』第3話)

(257)お前、親切に言ってくださってるのに。(『ラスフレ』第2話)

(258)牧野支店長には、問題の本質がご理解頂けていないようだ。(『花咲』第5 話)

2番目に多い依頼敬語の「オ/ゴ~クダサル」形式は、これまでと同様に、すべて依頼 表現の「オ/ゴ~クダサイ」形をとっている。20例のうち、14例も(259)のような「お 待ちください」文であり、銀行や美容室などにおける接客業務およびそれに準じた場合に 使われている。日常生活において馴染みのある言い方であろう。

(259)では、こちらの番号札でお待ちください。(『花咲』第1話)

最後に高敬度敬語については、主にお客様(例(260)(261))や会社(ここは銀行)

の要職についた人物(例(261)(262)(263))を直接相手にした場合に使われており、

人間関係が使用の要因となっている。ただ、(264)のように詰問するのに用いられた威 厳の表現も観察され、「文学(地の文)」で述べた皮肉用法と同様に、「優越感で使う敬 語」(大石1975:66)となっている。敬語に相手との距離を遠ざける語用論的効果もある ため、この用法に使われる敬語は、敬度が高いほど、皮肉や軽蔑、威厳の程度も高くなる と思われる。

(260)お急ぎでしたら、後で出して頂いても構いません。(『花咲』第3話)

(261)ああ。でしたら、こうボリュームを出して。よくお似合いになります。(『ラ スフレ』第1話)

(262)真藤本部長、お呼びでしょうか。(『花咲』第4話)

(263)お聞きしたいことがあるんですが、支店長はなぜ、この融資を承認なさら なかったんでしょう。(『花咲』第4話)

(264)これだけの融資資料を隠蔽しているということは、おたくの支店はよっぽ どやましいことがおありなんでしょうね。(『花咲』第4話)

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ここで二つのドラマの相違についてもすこし触れておきたい。表6-8に示されていると おり、両者の敬語用例数には著しい差がある。『花咲』が8割以上を占めており、『ラス フレ』は1割余りの程度である。この結果には、両ドラマのセリフの密度も関係している と思われるが、それよりも、上下関係をもつ職場(『花咲』)と友達同士の日常生活(『ラ スフレ』)という「場」と「人間関係」が関わるところが大きかろう。定義にあるように、

敬語の使用がこの二つの要素に左右されていることを裏付ける証拠と言えよう。

6-8 両ドラマにおける敬語表現の内訳

以上のデータと分析から、「テレビドラマ」については次のことが結論として言えよう。

①全体的に敬語表現は多いが、同じ話し言葉でも、友達同士の「場」より、職場のほうが 敬語使用がよほど多い。②話の相手があることで、Ⅱ人称敬語が大幅に増え、9割近くを 占めている。③「オ/ゴ~クダサル」は依然としてすべて命令形をとっており、特に接客 業務の場面に丁寧な依頼表現として多用されている。④それを除いた他の諸形式では、「文 学(地の文)」や「ブログ」と同様に、恩恵敬語が主流をなしており、全体の3割以上を 占め、他人の行為を恩恵的に捉えることを好むという日本語の特徴を端的に表している。

⑤高敬度敬語が増えてきたが、職場でも日常生活でも軽い敬度の敬語がふさわしい場面が あるので、(ラ)レル形式がまだ2割ほどを占めている。そのうち、「話」を主語とする 特殊な用法も観察されている。⑥「オ/ゴ~イタダク」形式と「オ/ゴ~ダ(デス)」形 式では皮肉・軽蔑や威厳に使われる特殊な敬語用法も観察されたが、それぞれ1例しかな かった。