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第 3 章 受身

3.3 各ジャンルにおける受身表現の集計結果およびその分析

3.3.1 新聞記事

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れらの解釈はコンテクストを与えられなければ明らかにならない」と主張している。こう した受身文の迷惑性に対する全般的、総合的解釈法は、かなり妥当性が高いと思う。そこ で本論文は、以上の基準と語用論的解釈に従い、データの分類・分析を行っていきたい。

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3-4 「新聞記事」の受身文100文についての統計データ

まずこの表で使われている用語および記号について、実例でもって説明しておく(各例 文の下線部)。

グループⅠは、受身動詞が文の主節に現れる(例(18))か、接続節に現れる(例(19))

かを表す45

(18)福島県須賀川市で、十一日朝から行方不明になっていた、十一歳の小6女子 が同県白河市の白河署に保護された。(読売新聞、2003/9/15)

(19)新潟県村上市で、今月2日から行方不明になっていた十五歳の中3女子が、

同県金井町(佐渡島)の民家で同県警に発見され、無事保護された。(読売新 聞、2003/9/15)

グループⅡは、受身文に使われている述語動詞が他動詞である(例(20))か、自動詞 である(例(21))かを表す。

(20)化学専攻は昨年、文部科学省の「二十一世紀COE(センター・オブ・エク セレンス)プログラム」に選ばれた。(毎日新聞、2003/2/25)

(21)ジャワ原人は百万年近く孤立した環境で独自の進化を遂げたが、現代人に取 って代わられ、数万年前にほぼ絶滅したらしい。(読売新聞、2003/2/28)

グループⅢは、受身文に迷惑性がある(例(22))か、それとも中立的である(例(23))

45 日本語では、複文において文末の述語を中心とした節は主節と呼ばれ、主節以外の節は接続節と 呼ばれている。しかし、本論文はそこに重きを置いていないため、統計の都合上、受身の単文も 主節のデータに入れることにした。そして紙面の都合上、主節や接続節に現れる受身は統計にと どめ、詳しい考察は割愛する。

28 かを表す46

(22)週刊文春の記事で名誉を傷つけられたとして、自民党の山崎拓幹事長が発行 元の文芸春秋などを相手取り、損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟で、東 京地裁は山崎幹事長の請求を棄却する判決を言い渡した。(読売新聞、

2003/9/15)

(23)緒方貞子・前国連難民高等弁務官は二十三日、ドイツ政府から「大功労十字 星章付大綬章」を贈られた。(朝日新聞、2001/4/24)

グループⅣとグループⅤは、受身文の主語・動作主の有生性を表す。「+」はそれが有 情物<+animate>、「-」はそれが非情物<-animate>であることを示す。さらに、

主語の場合、それが「ガ」や「ハ」47など(省略された場合もある)の格をとり、主語を なすものは、「+/-」として集計する。しかし、文に出てきてはいるが主格を取ってい ないもの、あるいは文に現れず前後の文脈から推定されるものは、「(+)/(-)」と して集計する。例えば、(23)の主語「緒方貞子・前国連難民高等弁務官」は主格「ハ」

をとっているため、「+」として集計される。ところが(24)では、「現行犯逮捕されま した」という受身構造の主語「梅原大希容疑者」は、同一文内に現れてはいるが、主格を とっていないため、「+」でなく「(+)」として集計されることになる。また(25)で も、「重用されない」のが「薬剤師」であることは文脈から分かるが、それが主格をとっ て受身動詞と同一の文に現れていないため、同じく「(+)」として集計される。

(24)乗用車を運転していた梅原大希容疑者の息から、アルコールが検出され、「酒 気帯び運転」の疑いで現行犯逮捕されました。(ANNニュース、2015/5/11)

(25)薬剤師の能力や意識に疑問が持たれている。だから、医療現場で重用されな

46 本節でいう「迷惑性」は受身文のそれを指し、つまり受身動詞で表される動きや事態が受身文の 主語にとって「好ましくない、嬉しくない、困った、嫌だ、迷惑だ」とかいう意味合いがあれば、

その受身文が迷惑性をもつと考え、そうでない場合は、当該受身文が迷惑性について中立的であ ると考える。これは3.2.4節でいう受身構文の「迷惑性」と若干異なっていることを注意された い。

47 「ガ」と「ハ」は文法上異なる機能をもっているが、本論文は「意味上受身構造で表される動き の働きかけや事態の影響の受け手となるもの」を主語と定義しており、そしてそれが「ガ」格と

「ハ」格のいずれかをとるのが一般的であるため、両者を同じ扱いにすることにしたわけである。

29 い。(読売新聞、2004/2/22)

そして、動作主の場合、それが「ニ」「カラ」「ニヨッテ」などの動作主マーカーを伴 って同一文内に現れないかぎり、「(+)/(-)」として集計される。例えば(24)(25)

はともに動作主「(+)」、(26)は動作主「+」、(27)は動作主「-」として集計さ れる。

(26)孤独な美の作り手たちもみな、数少ない理解者に支えられていた。(朝日新 聞、2002/3/8)

(27)離着陸の騒音が市民を悩ませ、反米デモでは多数の死傷者が出るなど、穏や かだった農業と交易の町は「戦時下」の緊張に包まれていた。(朝日新聞、

2001/10/24)

続いて分析に入る。「新聞記事」において、主節と接続節に現れている受身の数は58 対42で、ほぼ半々である。しかし、直接vs.間接、他動詞vs.自動詞、中立vs.迷惑といっ た三分野は、いずれも片方が圧倒的な優勢をもっている態勢を呈している。直接受身は

99%で圧倒的に多く、各下位分類の割合(表3-5)をみても、「直接対象受身」が92%と

いう高い使用頻度を示しており、相手受身、部分受身や間接受身はわずかしか使われてい ないことが分かる。

3-5 「新聞記事」における直接・間接受身の各下位分類の統計データ

また、直接・間接にかかわらず、受身文に使われる述語動詞は、他動詞が99%と非常に 高い割合を占めている。そして、ただ1つの自動詞受身文(例(28)=(21))は少し特 殊で、説明しておく必要がある。

(28)ジャワ原人は百万年近く孤立した環境で独自の進化を遂げたが、現代人に取

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って代わられ、数万年前にほぼ絶滅したらしい。(読売新聞、2003/2/28)

辞書によると、「取ッテ代ワル」は自動詞として認定されており、典型的文型は「Aガ Bニ取ッテ代ワル」である。自動詞が受身文の述語動詞に使われると、それが必ず間接受 身48になると思われがちであるが、「取ッテ代ワラレル」のように直接対象受身になるも のも少なくない。鈴木(1972a:280)の指摘のとおり、「もとになる動詞があい手49を要求 するものであれば、その自他の別はとわない」。その例として、ほかに「抱キツク」「挨 拶スル」「触ル」「絶交スル」などが挙げられる。

グループⅢの意味分野においても、迷惑性について中立的な受身文は96文もあり、迷 惑性を有する受身文は4文(例(22)(29))しかない。新聞記事に求められる客観性は、

こうした中立的意味の受身文が多いことに自然とつながっているのであろう。

(29)元カメルーン代表FWで神戸のパトリック・エムボマ(三十四)の現役引退 が決まった。十六日、神戸が発表した。 右ももの肉離れなど相次ぐけがに悩 まされ引退を決めた。(「迷惑」、朝日新聞、2005/5/17)

さらに主語の有生性の面からみると、100文のうち、75文が非情物受身という非常に偏 った使い方の傾向が見てとれる。動作主のほうは、87%が有情物であるが、そのうち8割 以上(74/87)が文から消えている。また主語と動作主の組み合わせ(表3-6)をみると、

特に目立つのは主語「-」・動作主「(+)」、すなわち「非情物主語顕在・有情物動作 主非顕在」という型であろう。これは、(30)(31)のように、事実報道や、ある出来事 に関する世論のあり方を伝えることが主たる役割となっている新聞記事の性格によるも のと考えられる。こうした事実や出来事に対する世間の関心は、ふつう事実や出来事自体 に向けられており、動作主が誰であるかは、情報として価値が低いか、文脈から自明であ るか、あるいはそれが不特定多数や人一般であるかといった理由により、多くの場合背景 化されて、明示されないことになる。

48 たとえば熊(2013:9)では「間接(自動詞)受身文」と書かれている。

49 鈴木(1972a:280)は本論文と異なり、こうした文を相手受身として扱っている。(筆者注)

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3-6 「新聞記事」における主語・動作主の有生性の統計データ

(30)以前は軍民共用で1本ずつ使用し、カラチ往復が週3便あったが、駐留後か ら停止された。(主語「-」、動作主「(+)」、朝日新聞、2001/10/24)

(31)北米向けの不振で前期業績は急悪化したが、今期は急回復が予想されている。

(主語「-」、動作主「(+)」、産経新聞、2002/6/7)

以上のデータと分析から、「新聞記事」については次のことが結論として言えよう。① 主節と接続節に現れる受身の数はほぼ半々である。②直接受身(特に直接対象受身)、他 動詞による受身が圧倒的に多い。③中立的受身が96%も占めており、ここに新聞報道に重 んじられた客観性が反映されている。④主語は顕在の非情物(非情物が75%、そのうち

95%(71/75)が顕在)、動作主は非顕在の有情物(有情物が87%、そのうち85%(74/87)

が非顕在)がそれぞれ主である。⑤「非情物主語顕在・有情物動作主非顕在」型受身が59%

も占めており、客観的な事実報道を主たる役割とする新聞記事の特徴を示している。