第五章 考察と結論
第 2 節 本研究の発見
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終 章
第 1 節 はじめに
本研究では,先行研究に対する考察を通して,従来の研究には,①オープン・イノベー ションのプロセスにおける企業の主導的役割に関して,点在している知識を流動させると いう点に着目した体系的な理論展開が少ない,②組織の視点で知識の融合に関する研究は,
外部の知識所有者と内部知識の所有者を1つの組織としてマネジメントする事例は少ない,
③オープン・イノベーションによって創造された価値の多様性について検討したものは少 ないという3つの問題が存在していることが明らかにされた.
この現状から,本研究の方向性が示され,従来の研究では十分に論じられていないオ ープン・イノベーションにおける点在している知識の流動性に関する問題を明らかにす ることを目的とした.つまり,オープン・イノベーションにおいて,企業はいかにして 点在する知識を流動させ,オープン・イノベーションを促進することができるかという 問題である.この課題を明らかにするために,以下の 3 つの問題に対する回答を求めら れる.すなわち,本研究の課題は,①なぜオープン・イノベーションにおける企業の主 導的役割が重要であるか,②企業は,オープン・イノベーションにおいて,どの段階で 役割を果たすべきか,③企業はいかにして異なる役割を果たすことができるかを明らか にすることである.また,オープン・イノベーションに対する認識の変化と研究動向を まとめ,先行諸研究を整理することによって,分析の枠組みを導出した.
本章では,これまでの検討の要約を中心にして,オープン・イノベーションにおける企 業の主導的役割を理論的に示すとともに,この構想の意義と今後の実践またオープン・イ ノベーション理論の発展に対する若干の示唆を付加する.以下では,本研究を要約するこ とによって,論点を整理し,結論を導き出す.
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ために,多数の研究におけるイノベーションの定義を考察し,イノベーション概念におけ る最も重要となる構成部分は「新しい価値」と「経済的効果」であることを明らかにした.
また,イノベーションとよく混同されやすい用語を比較した上で,イノベーションとは,
経済的効果がある新しい価値を創造するプロセスであると定義付けている.よって,イノ ベーションの定義をもとに,オープン・イノベーションとは,企業内部と外部の知識を融 合することによって,経済的効果がある新しい価値を創造するプロセスであると定義した.
また,企業はオープン・イノベーションのプロセスにおいて,主導的役割を果たすもう 1 つの前提は,外部知識と内部知識の所有者を同一の組織にある存在とすることである.
第三章で説明したように,外部知識の所有者として,ユーザーは無視することができない 存在として,しばしば強調されている.実は,イノベーションにかかわる研究領域のみな らず,他の研究分野でも,ユーザーの重要性について強調している.例えば,組織の成立 の3要素を提唱したバーナードは,顧客の協働行為の重要性を指摘している(Barnard, 1948).
また,Simon(1997)は,バーナードに従って,顧客は組織行動の体系の構成要素であると主
張する119.さらに,村上(2015),顧客は組織のシステムを構成する一員であるので,「いか に顧客からの指示を増大するかという実質的,現実的な問題」を考えるべきである.よっ て,ユーザーと従業員は同一の組織にある存在であるということを前提にすることは大き な意義を持っている.
2-2 企業の主導的役割の継続性
オープン・イノベーションは,静的なものではなく,動態的なプロセスである.企業 にとって,そのプロセスにおける主導的役割には継続性があるということを見落とすと,
オープン・イノベーションの方向性を失ってしまう危険性がある.よって,オープン・
イノベーションの進捗状況に応じて,企業は異なる役割を果たすべきである.第五章で は,シャオミの事例に対する考察によって,オープン・イノベーションは,進捗度で企 画段階,実施段階と品質管理段階に分けることができることが明らかにされた.各段階 における企業の役割についてそれぞれ説明すると,以下の通りである.
オープン・イノベーションの企画段階では,企業は,オープン・イノベーションの方 向付けを設計する役割がある.具体的に,以下 3 つの内容を設計すべきである,すなわ ち,①オープン・イノベーションの参加者の構成,②オープン・イノベーションの場に 参加させる目標,③オープン・イノベーションの実施プロセスという3つの内容である.
そして,オープン・イノベーションの実施段階には,オープン・イノベーションの場 を構築する段階と,オープン・イノベーションの展開段階が含まれている.オープン・
イノベーションの場を構築する段階において,企業は以下 4 つの役割を果たさなければ ならない.①オープン・イノベーションの参加者の注意を喚起する,②不特定多数の外 部知識所有者からオープン・イノベーションの参加者を特定する,③リードユーザーを 特定する,④外部の知識所有者に関するデータを蓄積することである.その次,オープ
119 H.A. Simon, Administrative Behavior (4th ed.), NY: Free Pr., 1997, p.14
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ン・イノベーションの展開段階において,企業は,①点在している知識を統合するため に,コミュニケーションの場の提供,②関与度を向上させるために,特定した知識所有 者への権限移譲,③オープン・イノベーションの参加者の貢献意欲を引き出すために,
インセンティブ仕組みの構築という3つの役割を果たすべきである.
最後に,オープン・イノベーションの品質管理段階になる.前述した段階において,
オープン・イノベーションの場とインセンティブの仕組みが構築された後,オープン・
イノベーションの参加者は,能動的にコミュニケーションをとることができる.さらに,
インセンティブ仕組みによって,好循環が生まれたので,自発的に新しい課題の解決に 向かっていく可能性も高い.ただし,企業は,この段階において,知識所有者と創造さ れた価値を放置してはけないということを注意しなければならない.その理由は,オー プン・イノベーションによってもたらされた価値を選別することができるのは知識所有 者ではなく,企業の意思決定者である.商品化にならないものは企業の経営利益につな がらないので,価値の選別が極めて重要である.よって,オープン・イノベーションの 品質管理段階では,企業はオープン・イノベーションによって創造された価値を選別し,
既存したオープン・イノベーション戦略を改善する能力が求められる.
要するに,上述したように,オープン・イノベーションとは動態的なプロセスであるの で,企業の役割は継続性という特性があり,進捗に応じて実現すべきである.
2-3 企業の主導的役割の構造
オープン・イノベーションにおける企業の役割は,主に企画,実行,管理,問題解決・
改善から構成されている.オープン・イノベーションプロセスの各段階における企業の位 置付けと企業の主導的役割の構造を要約すると次のようになる.
① オープン・イノベーションの企画者としての企業
企業は企画者として,方向付けの段階において,オープン・イノベーションの方向性 を含め,オープン・イノベーションを推進する方法を定める必要がある.デザインした オープン・イノベーションの計画をもって,オープン・イノベーションの参加者に対す る働きかけをすることが合理的である.
② オープン・イノベーションの推進者としての企業
オープン・イノベーションの推進者としての企業は,オープン・イノベーションの展 開段階において,オープン・イノベーションのインフラの整備,参加者の貢献意欲の喚 起と十分な権限移譲などを推進することが求められる.
③ オープン・イノベーションの品質管理者としての企業
オープン・イノベーションによって創造された価値は多様的であり,品質管理者とし ての企業は,これらの価値を選別し,マネジメントすることは極めて重要である.その 理由は,作り出された製品価値が商品化に至らなければ,利益につながらないからであ る.また,外部の知識所有者は,製品価値のみならず,企業にとってのマネジメント価 値,サービス価値などのような間接的な価値を作り出す可能性もある.よって,企業は,
これらの価値を見分ける能力を備えるべきである.
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