第五章 考察と結論
第 9 節 シャオミのオープン・イノベーション事例の位置づけ
図 24 は,第四章の事例に対する分析結果を要約したものである.前述で分析したよう に,オープン・イノベーションのプロセスにおいて,企業が果たした役割に対する評価を する場合,知識所有者の関与度と知識の流動性という 2 つの分析要素がある.図24 は,
この2つの要素から作成され,縦軸は知識の流動性であり,横軸はオープン・イノベーシ ョン参加者の関与度である.この図で提示された事例の中で,知識の流動性の低いのは,
「バグの修正」と「システムのテスト」である.ユーザーは,システムのテストを行い,
あった問題をシャオミの従業員にフィードバックをする.よって,システムのテストはユ ーザーの関与度が高い.それに対して,ユーザーからのフィードバックを集めたうえで,
従業員はバグの修正を行っていく.この場合,従業員の関与度が高いが,ユーザーはバグ 修正のプロセスへの参加が少ない.この2つの行動には,ユーザーと従業員のやり取りが 行われたので,知識の流動性が低い.その一方,第四章で取り上げられた事例で説明すれ ば,既存した製品の機能を改善する場合,知識の流動性が最も高い.シャオミは,まず MIUI フォーラムを利用し,既存製品に関する意見を募集した.その次,この情報に対す る興味のあるユーザーたちは,積極的にフォーラムで発言をし,ユーザー同士間のコミュ ニケーションまたはユーザーと従業員の間のコミュニケーションがますます形成された.
それゆえ,このような事例は,知識の流動性の高い事例である.また,ユーザーの声が寄 せられた後,これらの意見を具現化するために,シャオミの開発者たちの関与が不可欠で ある.開発者たちは,ユーザーの意見をもとに,改善策を提出し,検討したうえで,
図 24 各オープン・イノベーション事例の位置付けと知識所有者の存在
出所:筆者が作成
能動的な存在 知識の流動性が高い
知識の流動性が低い
従業員主導 ユーザー主導
既存した製品・機能の改善
イベントの企画・主催 新製品の開発
バグの修正 システムのテスト
フォーラムでの意見募集 協力的な存在
自律的な存在 受動的な存在
フォーラムの管理
リソースの提供
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製品に取り組んでいく.したがって,この事例はユーザーの意見に主導されたが,従業員 も深く関与している.
その一方,新製品の開発では,ユーザーは自らアイデアを提供することもあるが,従業 員主導の場合と比較すれば,割合がまだ低い.また,イベントの企画はユーザー主導の場 合と従業員主導の場合両方ともあるが,現在ユーザーが主導するイベントが圧倒的に多い.
MIUI フォーラムで意見募集などのようなことがよくあり,多数のユーザーは価値のある 意見を貢献しているにも関わらず,知識の流動性が低い.その理由は,こうした活動では,
双方向のコミュニケーションを求める行動ではなく,発信者は自分の意見を主張すること が目的である.なお,システムのテストはほとんどユーザーが行っているので,ユーザー 主導である.それに対して,バグの発見がある場合,従業員は主導的にバグの修正を行う.
ただし,システムのテストも,バグの修正も,コミュニケーションの密度が高くないので,
知識の流動性が低い行動であると判断した.
以上では,図 24 にある知識の流動性とオープン・イノベーション参加者の関与度とい う2つの分析要素について説明した.次には,各事例において,企業側が果たした役割に 対する評価を説明する.図 24は 4 つの四角形から組み立てられた.右下の四角形の色は 最も薄く,そちらにある事例の中では,企業が果たした役割がオープン・イノベーション を促進する効果が小さいという意味である.一方,対角線にある左上の四角形の色は最も 濃く,この部分にある事例において,企業はオープン・イノベーションを促進することが できるような役割を果たした.
ユーザーは,主導権を取れる場合,知識の流動性の高まりとともに,自律的な存在から 協力的な存在に移転しつつある.それに対して,従業員は,主導権を持つ場合,知識の流 動性が高ければ高いほど能動的な存在になる.この点から見れば,企業は,ユーザーと従 業員が自律的な存在と受動的な存在である場合,オープン・イノベーションのインフラを 構築し,両方に対する働きかけが重要である.具体的には,ユーザーに対して,信頼関係 を作り,また会員登録によって,点在していたユーザーを集合させ,ユーザーとの連絡を 確保し,ユーザーの特徴を分析し,ユーザーのニーズを予測するなどのような行動によっ て役割を果たすことができる.その一方,受動的な従業員に対して,業務命令としてオー プン・イノベーションのプラットフォームに参加させることがこの段階においては効果的 である.
ユーザーが能動的な存在,従業員が自律的な存在になるにつれて,企業は企業内部の企 業外部の知識所有者から構成したインセンティブ仕組みを設計すべきである.この段階に おいて,企業は,ユーザーに対して,参加意識を引き出し,価値創造の方法論を教え,オ ープン・イノベーションのプロセスにおいて役割を担わせ,管理権限を与えることのよう な行動が効果的である.ただし,なるべくオープン・イノベーションの直接参加者の間に 介入しないことを注意すべきである.
第 10 節 まとめ
本章では,オープン・イノベーションのプロセスにおいて,なぜシャオミは,ユーザー
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とともにオープン・イノベーションの遂行に成功したか,シャオミはオープン・イノベー ションのどの段階で,どのように役割を果たしたかという視点でシャオミの事例に対する 分析を行った.第四章で取り上げられたシャオミの事例に対する考察を通して,以下の示 唆が与えられた.第一に,オープン・イノベーションのプロセスにおいて,企業外部の知 識所有者が創造する価値は多様的である.第二に,ユーザーをオープン・イノベーション に取り組む場合,ユーザーを知識所有者とすることが前提である.また,外部の知識所有 者として,ユーザーは,不特定性と自律性を備えているので,ユーザーをオープン・イノ ベーションに取り組む場合,この2点は重要な検討要素である.第三に,オープン・イノ ベーションに取り組まれたユーザーの特性を理解した上で,ユーザーに対する合理的なセ グメントは,オープン・イノベーションのデザインに価値のある参考になる.また,具体 的なセグメントの基準は主に,①関与度別分割と②機能別分割という2種類がある.この 2 つのセグメント基準を活用することによって,オープン・イノベーションの遂行により いい効果を与えられる.第四に,オープン・イノベーションの場を開設することが不可欠 である.第五に,オープン・イノベーションの参加者を互いにインセンティブ提供者にさ せることが内部と外部の知識所有者の貢献意欲を引き出すことにつながる.シャオミの事 例から与えられた以上の示唆によって,なぜ同社はユーザーをオープン・イノベーション に取り組むことが成功することができたのかを明らかにした.
また,オープン・イノベーションにおける企業が果たすべき役割について説明したうえ で,企業の役割を評価する要因を分析した.オープン・イノベーションにおいて,知識の 流動性と知識所有者の関与度を向上させることができるような企業の行動が求められて いる.この2つの要素を用いて,企業側がオープン・イノベーションに果たす役割を検討 し,またその効果を評価することができる.
ここまで論証したように,オープン・イノベーションのために構築されたコミュニテ ィについての研究では,企業がコミュニケーション・プラットフォームを構築すること の重要性を提示しているが,成功事例に関する研究はまだ少ない.ツールキットに関す る研究において,企業が外部の価値創造を促進する可能性が示唆されているが,企業の 役割に対する説明は,ツールキットの提供にとどまり,その後いかにして企業内部の知 識所有者と外部の知識所有者を一致してオープン・イノベーション活動を推進するなど のような問題については論じられていない.よって,本章では,シャオミの事例に対す る議論を通して,オープン・イノベーションにおける企業の主導的役割を明らかにした.
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終 章
第 1 節 はじめに
本研究では,先行研究に対する考察を通して,従来の研究には,①オープン・イノベー ションのプロセスにおける企業の主導的役割に関して,点在している知識を流動させると いう点に着目した体系的な理論展開が少ない,②組織の視点で知識の融合に関する研究は,
外部の知識所有者と内部知識の所有者を1つの組織としてマネジメントする事例は少ない,
③オープン・イノベーションによって創造された価値の多様性について検討したものは少 ないという3つの問題が存在していることが明らかにされた.
この現状から,本研究の方向性が示され,従来の研究では十分に論じられていないオ ープン・イノベーションにおける点在している知識の流動性に関する問題を明らかにす ることを目的とした.つまり,オープン・イノベーションにおいて,企業はいかにして 点在する知識を流動させ,オープン・イノベーションを促進することができるかという 問題である.この課題を明らかにするために,以下の 3 つの問題に対する回答を求めら れる.すなわち,本研究の課題は,①なぜオープン・イノベーションにおける企業の主 導的役割が重要であるか,②企業は,オープン・イノベーションにおいて,どの段階で 役割を果たすべきか,③企業はいかにして異なる役割を果たすことができるかを明らか にすることである.また,オープン・イノベーションに対する認識の変化と研究動向を まとめ,先行諸研究を整理することによって,分析の枠組みを導出した.
本章では,これまでの検討の要約を中心にして,オープン・イノベーションにおける企 業の主導的役割を理論的に示すとともに,この構想の意義と今後の実践またオープン・イ ノベーション理論の発展に対する若干の示唆を付加する.以下では,本研究を要約するこ とによって,論点を整理し,結論を導き出す.