第五章 考察と結論
第 7 節 オープン・イノベーションの各段階における主導的役割
上述したように,シャオミは,オープン・イノベーションを実施することができるには,
ユーザーと従業員から構成されたインセンティブが不可欠である.しかし,こうしたイン センティブ仕組みを構築するために,まずユーザーがシャオミのオープン・イノベーショ ンプラットフォームに定着することが前提である.そして,ユーサーが企業に対する忠誠 心を引き出することはできなければ,従業員とユーザーから構成されているインセンティ ブ仕組みの必要条件が満たされることもできない.つまり,図22で提示しているように,
オープン・イノベーションの進捗とともに,企業が果たすべき役割が変化していく.オー
図 22 オープン・イノベーションの進捗度と企業の役割
出所:筆者が作成 企 画 参加者の構成のデザ
イン 目標設定 オープン・イノベーシ
ョンプロセスのデザ イン
インセンティブ仕組み の構築 インフラの構築
問題解決・改善 価値を選別する
実 行 品 質 管 理
時間 オ
ー プ ン・ イ ノ ベー シ ョ ンの 進 捗
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プン・イノベーションを実施する際,段階ずつ課題が異なることが明らかになった.よっ て,本節では,オープン・イノベーションの各段階において,シャオミは,いかなる役割 を果たしているかについて検討する.
7-1 オープン・イノベーションの企画段階
シャオミの事例を通して,オープン・イノベーションを企画する際,以下3つの内容を デザインすべきであることが明らかになった.すなわち,①オープン・イノベーションの 参加者の構成,②オープン・イノベーションの場に参加させる目標,③オープン・イノベ ーションの実施プロセスである.本項では,これらの内容について,それぞれ説明してい く.
オープン・イノベーションの参加者の構成:
オープン・イノベーションにおける参加者の構成を明確にすることは,これらの知識所 有者を集める方法を明らかにすることにつながっている.会社にとって,情報を伝達する 方法は,広告,新聞,口コミ,インターネットなど複数のチャネルがあり,オープン・イ ノベーションの参加者の構成から具体的な方法を選択しなければならない.シャオミの例 で言えば,オープン・イノベーションの初期段階において,参加者の構成は,従業員とス マートフォンマニアであると設定した.社内の従業員は,企業の指示に従って行動するこ とができるので,情報の伝達面での障壁がないが,ユーザーは社外の知識所有者であり,
企業と直接的な関係がないので,情報を伝達する方法を定められなければ,集められない 場合が多い.それゆえ,シャオミは,マニアたちがよく利用しているソーシャルメディア で発信して,彼らの注意を喚起した.
オープン・イノベーションの場に参加させる目標:
参加者が定められた後,いかにして相手を参加してもらうかが重要な課題になる.オー プン・イノベーションの目標は,社内の知識と社外の知識を融合することによって,新し い価値を作り出し,利益を得ることにつながることが当然である.ここで言う「目標の設 定」は,上述した大きい目標ではなく,オープン・イノベーションの場を構築する前考え るべき目標のことである.この場合,(1)情報収集,(2)お知らせ,(3)コミュニケーション,
(4)権限委譲という4つの内容をめぐって検討することができる.
詳しく説明すれば,オープン・イノベーションに参加する知識所有者は,必ず全員が価 値を創造することができるとは限らない.よって,企業は,知識所有者をオーペン・イノ ベーションの場に参加させる際,価値を創造させることを唯一の目的とすべきではない.
とりわけ,価値を作り出すことがない外部の知識所有者は,それ以外の役割を果たすこと ができる.それゆえ,企業は,上述した4つの目的をもって目標を設定することが合理的 である.
以上のように,企業はそれぞれの目的を明確した上で,オープン・イノベーションの場 の方向付けを検討することが重要である.情報収集は,外部の知識所有者からのフィード バックや製品・サービスに対する評価などを収集することを目的としている.そして,お 知らせは,一方的に企業側の情報を伝達することを目的としているので,ユーザーからの 反応を求めるべきではない.また,コミュニケーションを目的とする場合,知識所有者を
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オープン・イノベーションの場に参加させるゴールは,問題解決を前提にしたコミュニケ ーションではなく,ユーザーと従業員双方が互いの関係を深められることである.その次,
権限委譲は,問題解決を前提にし,ユーザーに大きな決定権を与えることを意味している.
要するに,オープン・イノベーションを実施する際,オープン・イノベーションの場に 関する目標を設定することが重要であり,はっきりした目標を定められることによって,
最後にオープン・イノベーションの進捗度を把握することができる.
オープン・イノベーションの実施プロセス:
オープン・イノベーションプロセスをデザインする場合,最も重要なのは,知識所有者 の協働を前提にして考えることである.協働という条件が満たされなければ,点在してい る知識は自律した状態のままであり,知識の融合を求めるオープン・イノベーションとは 言えない.第二章で説明したチェスブロウが「知識の流入と流出」を強調している理由は,
この点にある.つまり,知識を融合させることは,内部の知識所有者と外部の知識所有者 を協働させることの本質は,知識を融合させることにある.
また,第四章の事例から見れば,シャオミは,オープン・イノベーションのコミュニテ ィで実施した意見募集などは,ユーザーの能動性が求められる.つまり,オープン・イノ ベーションを採用する企業にとって,ユーザーとの提携は,他の組織と提携する場合と異 なる.ユーザーを特定した組織と見なすことができず,ユーザー個人と企業のつながりも 契約などの形態で維持することができないということが最大の特徴である.よって,企業 はユーザーの参加意欲を引き出すことを前提にしてオープン・イノベーションの仕組みを 設計し,役割を果たしなければならない.
本節で提示しているように,オープン・イノベーションは持続的なプロセスであり,各 段階における企業の役割が異なる.それゆえ,オープン・イノベーションのプロセスを明 確にした上で,推進方法を検討すべきである.次項からでは,シャオミの事例に対する考 察をもとに,オープン・イノベーションの各段階における企業の主導的役割について議論 を展開していく.
7-2 オープン・イノベーションの場を構築する段階
前項で説明したように,オープン・イノベーションを実施する前,それに関する企画が 必要である.その次,企業は,オープン・イノベーションの企画案を用いて,オープン・
イノベーションの場を構築する段階に入る.前述で説明したように,ユーザーをオープ ン・イノベーションに取り組む場合,外部の知識所有者は不特定性と自律性という特性が ある.よって,企業は,オープン・イノベーションの場を構築した後,自律した不特定の 知識所有者を参加させるために,彼らの注意を喚起することが重要である.つまり,企業 はこの段階において,オープン・イノベーションの参加者の注意を喚起する役割を果たす べきである.シャオミの方法で言えば,この段階において,既存した多数のソーシャルメ ディアを利用して,不特定多数のユーザーの注意を喚起した.
アメリカの心理学者マズロー(1954,1970)は,よく知られている欲求 5 段階説を提唱し て以来,人間の欲求が,「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求(帰属と愛の欲求)」「尊厳 欲求(承認欲求)」「自己実現欲求」という5つの段階に分けることができると思われている
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117.人間の5種類の欲求に対照すれば,組織として,個人に与えられるインセンティブに は,①物的インセンティブ,②評価的インセンティブ,③人的インセンティブ,④理念的 インセンティブ,⑤自己実現のインセンティブがある(伊丹他,1992).よって,オープン・
イノベーションの初期段階において,シャオミは積極的なテスター応募を促進するために,
多数のソーシャルメディアで宣伝を行った.一般的に言えば,知名度のない企業は初期段 階において,ユーザーに割引クーポンや賞金を用意する物的インセンティブが多い.シャ オミは同じような方法を採用した.
例えば,シャオミは,商品が入荷する前に先行して予約を受け,予約者の消費者が実販 売より低価格で商品の予約ができる.第四章で説明したシャオミの初代スマートフォンレ ッドミからこのような先行予約販売が導入され始めた.シャオミはQQゾーンという中国 の若者がよく利用しているソーシャルメディアで,初代スマートフォンの予約を開始した 後,700万件の予約があり,同じプラットフォームでレッドミNoteの予約は1500万台に も達した.また,シャオミは,ユーザーに重視されるという感じを与えられるために,取 り扱い説明書に先行予約者名も載せた.実は,近年,先行予約販売はプロモーション手法 として幅広く業界でますます採用されてきた.例えば,ファッション通販ZOZOTOWの洋 服,ソニーの電子製品,アマゾンの書籍,楽天市場の農産物などが挙げられる118.それゆ え,シャオミは,先行予約販売という方法でユーザーにインセンティブを与える効果があ るが,同社のオリジナル特徴ではない.ただし,シャオミの先行予約販売は,潜在したユ ーザーの注意を喚起するためである.この点は,他の企業と大きな区別がある.よって,
企業は,オープン・イノベーションの場を構築した後,外部の知識所有者の関与を喚起す る方法を検討すべきである.シャオミの場合は,初期段階において,潜在のユーザーの注 意を喚起するために,既存したソーシャルメディアを利用し,自社が開発したMIUIシス テムのテストを依頼した.それから,テストのプロセスに参加したユーザーは,シャオミ とのやりとりをして,ますます会社側との信頼関係を構築した.この段階を経て,シャオ ミ自社のオープン・イノベーションのプラットフォームであるMIUIフォーラムを開設し た.
その次,オープン・イノベーションのインフラを構築した後,ユーザーの参加を引き出 すために,会員登録は極めて重要である.ユーザーの会員登録によって,シャオミは①点 在するユーザーを集合させること,②ユーザーとの連絡を確保すること,③登録データか らユーザーのデータベースを構築することが実現した.特に,ユーザーに関するデータベ ースから,ユーザーの特徴を分析し,ユーザーのニーズを予測する目標を達成することが 可能である.会員登録について,シャオミのやり方は,会員登録は強制的に推進している のではなく,ユーザーは会員登録をせずに公開した掲示板を閲覧することができるが,多
117 マズローは晩年,「自己超越」という新しい段階を提示したので,マズローの理論を「欲求 の6段階」と呼ぶ場合もある.しかし,伝統的な心理学から見れば,欲求の5段階という考え 方がより主流である.
118 各社のホームページを参照 http://zozo.jp/
https://www.sony.jp/
https://www.amazon.co.jp https://www.rakuten.co.jp/