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第四章 シャオミのケース・スタディ

第 3 節 MIUI について

3-1 MIUIフォーラム

シャオミのMIUIフォーラムは,シャオミのユーザーを中心としたオープン・イノベー ションコミュニティである.MIUI の開設は,ユーザーとのコミュニケーションを通して ユーザーの意見や要望を理解することを目的とした.MIUIフォーラムが開設された当時,

シャオミの従業員はわずか数十人であり,フォーラムの構築や,サイトのデザインができ るような人材がいなかった.人手が不足のため,従業員のうちの一人のエンジニアはメイ ン業務の合間でフォーラムの運営の職務を兼ねていった.それにもかかわらず,現在,シ ャオミは,MIUI フォーラム上の様々な機能を活用することによって,製品開発からサー ビスまで多数の便宜を得られている.

現在のMIUIフォーラムには,「バグリスト」,「新製品のリリース」,「機能に対する意見」,

「製品開発の物語」,「開発者とコミュニケーン」などの掲示板が開設されており,ユーザ ーのみならず,シャオミの従業員も各掲示板から多様かつ大量のデータを手に入れること ができる.また,シャオミは,毎週のアップデートで更新された機能などについて,フォ ーラムを通してユーザーにも提示し,フォーラムではベータテスター(Beta Tester)の募集も ある.よって,ユーザーは,MIUI フォーラムで,最新バージョンのシステムを早期に体 験することができる.それに,異なるユーザーの需要に応じて,シャオミは複数のバージ ョンを用意し,多様なユーザーへの対応に工夫している.さらに,MIUI フォーラムには ユーザーランキング,ポイントシステム,投票,仮想通貨,抽選などの機能が備えている.

ユーザーが新しく提出する要望に対して,ディスカッションや投票などを行い,結果をフ

64 黎万強著・藤原由紀訳 (2015)「シャオミ爆買いを生む戦略:買わずにいられなくなる新しい ものづくりと売り方」日経BP社,p.2

65 同上書,pp.2-3

- 60 - ォーラムでの公開もある.

MIUIフォーラムはシャオミにもたらしたメリットが主に2つある.まず,MIUIフォー ラムを通して,ユーザー同士およびユーザーと企業のコミュニケーションが活発に行われ ており,こうした投稿により多くのユーザーが集まり,また新たな投稿を呼び込む.ユー ザーに参加させるようなサイクルが形成されたため,オープン・イノベーションのインフ ラの構築ができた.また,MIUI フォーラムでの投稿が増加するとともに,ユーザーの問 題解決となる情報が生まれ,プラットフォームへの信頼感が高まっていく.

現在,MIUIフォーラムでの毎日の発言数が2000件前後ある(2018年9月).ユーザーの 書き込みは,シャオミの製品のみならず,シャオミの競争他社が発売している製品に対す るコメントなども多く含まれている.多数の掲示板の中で,「新機能に関する意見」と「バ グフィードバック」という二つのセクションでのユーザー発言が最も多い.それゆえ,こ の 2 つのセクションでユーザーからの声を大量に蓄積された.シャオミは,MIUI フォー ラムを利用し,これらのユーザーから寄せられた意見を取りまとめることによって,ユー ザーの要望を把握することができるようになってきた.

実は,現在,オープン・イノベーションのプラットフォームの構築は,シャオミのみな らず,多数の企業が推進している.例えば,富士ゼロックスは生産性向上やマーケティン グの取り組みを顧客企業にも見せ,一緒に課題解決するために「お客様共創ラボラトリー」

を設立した66.この仕組みを構築した狙いは,「顧客視点での新たな価値創造」である.た だし,この仕組みはまだ個人ユーザーに公開せず,法人ユーザーを中心に展開されている.

その一方,シャオミはMIUIフォーラムを開設した目的は,オープン・イノベーションの 場を構築することにあった.このような位置づけは,MIUI フォーラムをシャオミのオー プン・イノベーションの展開の土台にさせた.ユーザー参加型で新しいアイデアを考案す ることと,テスター募集をすることがユーザーの共感を得られ,より一層ユーザーを集合 させ,口コミにつながりやすい効果がある.

3-2 MIUIシステム

また,シャオミのスマートフォンに搭載したシステムも「MIUI」と呼ばれる.区別する ために,本論文では,オープン・イノベーションコミュニティを「MIUIフォーラム」,ス マートフォンシステムを「MIUIシステム」という.MIUIシステムは,アンドロイドをベ ースにし,カスタマイズしたオペレーティングシステム(Operating System,以下,システ ム)である.表19は,Statcounter global statsのデータにからまとめた世界におけるスマート フォンシステムの市場シェアである67.この表から見れば,アンドロイドシステムを利用 しているユーザーが圧倒的に多いということが明らかになった.2013年から 2018年,ア

66 富士ゼロックスのホームページを参照

https://www.fujixerox.co.jp/company/technical/laboratory

67 StatCounter社は,アイルランドにあるアクセス解析調査会社である.同社は世界約300万の

サイトにトラッキングコードを埋め込むことによってアクセスの分析を提供している.例えば,

同社は,ブラウザー,ブラウザーのバージョン,モバイル用ブラウザー,パソコン用OS,モ

バイル用OS,PC用検索エンジン,モバイル用検索エンジンのシェア,モバイルとデスクトッ

プPCの比率,ソーシャルメディアのシェアなどのデータを公開している.

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ンドロイドの市場シェアが急速的に増加してきた.MIUI システムはアンドロイドをもと に開発されたシステムなので,アンドロイドの膨大な顧客ベースがシャオミに有利な条件 をもたらした.現在,シャオミの主力事業はハードウェアであるが,創業したときはソフ トウェアを中心に事業を展開していた.実は,2010年8月16日,シャオミはMIUIシス テムをリリースした一年後の2011年にスマートフォン市場に参入し始めた.

表 19 世界におけるスマートフォンシステムの市場シェア

Android iOS(iPhone) Windows その他

2013年 39.21% 24.03% 1.59% 36.76%

2014年 53.65% 23.95% 2.35% 22.40%

2015年 64.20% 20.20% 2.29% 15.60%

2016年 69.11% 19.29% 1.75% 11.60%

2017年 71.95% 19.59% 103% 8.46%

2018年 74.69% 22.34% 0.36% 1.91%

出所:Statcounter global statsのデータにより筆者が作成 http://gs.statcounter.com/os-market-share/mobile/worldwide/2018

現在MIUIの利用者数の推移について,表20のようにまとめられている.初期のシャオ ミは,アンドロイドシステムをカスタマイズすることを皮切りに,自社のROM(Read Only

Memory)を作り上げてきた68.しかし,その時,上述したシャオミ自社のコミュニティMIUI

フォーラムはまだ作られていなかったので,製品のリリースがすべて既存したスマートフ ォンに関するコミュニティでリリースされていた.最初のMIUIシステムは,スマートフ ォンマニアをターゲットにし,アルファ版をリリースしたときは100人のユーザーしか集 まらなかったが,翌年は 50 万人を突破した.ユーザーの人数が増加するとともに,その 後ユーザーの需要も変化してきたため,シャオミは複数のバージョンを提供し始めた.

2011年8月16日,MIUIシステムが発表された1年後,シャオミは始めて自社のスマート フォンを市場に出した時点,MIUIのユーザーはすでに50万人に達していた.シャオミは,

MIUI システムを通して,既存したユーザーから信頼を得たので,これらのユーザーがシ ャオミのスマートフォンの潜在ユーザーになった.つまり,MIUI システムのリリースが 成功を収めたことは,シャオミのビジネスを展開させるための土台となっていた.各バー ジョンのMIUIシステムの相違点については第5節で詳しく説明するが,ユーザーが1000 万人を超えた時,シャオミは,より多くのユーザーにサービスを提供するために,MIUI システムの安定版を公開した.つまり,現在,MIUI システムはスマートフォンマニア向 けではなく,幅広い顧客層をターゲットにしている.

従来のスマートフォンシステム開発はクローズド・イノベーションであり,ユーザーを そのプロセスに取り組み手法を採用する企業は少ない.その理由は,従来,OS の開発は 複雑であり,長時間もかかるため,ユーザーをそのプロセスに参加させることは困難であ る.しかし,シャオミは,従来の開発手法と異なり,イノベーションのプロセスを公開し

68 Read Only Memoryとは,読み出し専用であり,記録されている情報を読み出すことがで

きるメモリのことである.

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表 20 MIUIシステムの利用者数

2010816 MIUIシステムの内部テスト版がリリースされ,ユーザーは100 20111225 MIUIユーザーは100万人突破

201319 MIUIユーザーは1000万人突破 2013716 MIUIユーザーは2,000万人突破 20131224 MIUIユーザーは3,000万人突破 2014515 MIUIユーザーは5,000万人突破 2014816 MIUIユーザーは7,000万人突破 2015213 MIUIユーザーは1億人突破 2016510 MIUIユーザーは2億人突破 2017124 MIUIユーザーは3億人突破 出所:筆者が作成

た.こうして,シャオミのユーザーは,MIUI システムの開発,バグのフィードバックお よび更新などの活動に参加し,シャオミの製品に対して高い関心を示している.シャオミ は,ユーザーをMIUIシステムの開発に参加させることができる理由は,主に以下の2つ がある.

まずは,MIUI システムの更新サイクルが短いからである.一般的に言うと,スマート フォンシステムの開発は3 ヶ月から6ヶ月単位であるが,シャオミは1 週間単位でMIUI システムの更新を行っている.システムの更新サイクルが短いので,品質確保が難しくな る面があるが,多数のユーザーを新機能の開発と既存した機能の改善に取り組んでいるの で,バグの修正なども迅速的に推進することができる.

もう1つの理由は,MIUIフォーラムの活用である.例えば,上述したMIUIフォーラム でのバグソリューションシステムの簡略版がある.シャオミは,短時間でバージョンの更 新ができるのは,このバグソリューションシステムが不可欠である.簡易版のバグソリュ ーションシステムにおいて,ユーザーの提案に対してエンジニアのフィードバック欄には,

「収録済」,「解決中」,「解決済」,または「検証済」などの状態があるので,このやりと りが情報の発信者であるユーザーを満足させ,繰り返し情報を発信していく.結果的に多 くのユーザーが繰り返し利用するサービスとなっていく.こうしたシステムを利用するこ とによって,ユーザーはフォーラムをいつ確認しても新鮮さを感じ,アクティブ率の向上 につながっている.

また,新しいバージョンをリリースした翌週,MIUI フォーラムを通して,ユーザーに 使用した体験を尋ねた上で,次の更新を円滑に実施することができる.こうして,スマー トフォンシステム更新の好循環を生み出し,新しい機能の開発もますます迅速になってき た.さらに,シャオミは,1 ヶ月後のアップデートプランも MIUIフォーラムでユーザー に提示する.それゆえ,同社は,情報の発信などのようなMIUIフォーラムの活用によっ て,ユーザーの関心を喚起することができる.この点について,第6節で事例をもって説 明する.