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アクション 6:従業員の参加意識を引き出す

第四章 シャオミのケース・スタディ

第 9 節 アクション 6:従業員の参加意識を引き出す

9-1 従業員への権限委譲

ここまで,シャオミはユーザーをオープン・イノベーションのプロセスに取り組むため にいろいろな手法を採用していることについて論じてきた.特に,ユーザーが自発的に製 品の開発から商品化までのプロセスに参加し,またイベントの企画から開催までにも参加 することができるのはシャオミからの権限委譲とサポートに大きな関係がある.このよう なことによって,ユーザーはシャオミに様々な価値をもたらしている.しかし,オープン・

イノベーションを推進する際,ユーザー側の貢献のみならず,従業員の行動も重要である.

ユーザーだけが参加しているオープン・イノベーションは成り立たない.本節では,シャ オミはオープン・イノベーションプを実施する際,従業員側に対する働きなどについて説 明する.

Chesbrough(2003)は,オープン・イノベーションにおいて,直接に外部の知識を獲得す るのではなく,内部と外部のアイデアを結びつける部分が欠けてはいけないと強調してい る.言い換えれば,シャオミの従業員たちもオープン・イノベーションのプラットフォー ムやプロセスに大きな役割を果たすべきである.シャオミは,従業員たちをより積極的に オープン・イノベーションに参加させるために,従業員への権限委譲も実施している.シ ャオミが実施した権限委譲について理解するために,同社の組織構造について説明する必 要がある.シャオミは設立して以来,ずっと事業部製組織を採用している(図18).

一般的な事業部制組織であれば,各部門間の事業内容が大きな隔たりがあるので,協力 し合うことは困難である.また,事業部制組織のデメリットとして,事業部間でのコミュ ニケーションが少ないため,組織が硬直化しやすいことなどが挙げられる(伊丹他,1992).

しかし,シャオミの組織構造は,伝統的なピラミッド型組織ではなく,フラット化した組 織である.従来のピラミッド型組織は,「組織が大きくなればなるほど背の高いピラミッ ドができる」ことになる91.このピラミッド型組織では,企業が大規模になるのに伴って,

91 奥林康司・平野光俊 (2004)『フラット型組織の人事制度』中央経済社,p.2.

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図 18 シャオミの組織図

出所:シャオミのIPO申請書により筆者が作成

環境の変化への対応が遅くなり,官僚制になる傾向がある.この原因で,大企業において は意思決定までは数回もの検討が必要である.奥林他(2004)によれば,日本では「1990年 代の不況の中で,多くの企業は組織改革を行い,経営効率を高め,企業の競争力を回復さ せようとしたのである.その主要な1つの方向が管理組織の階層を短くする『フラット化』」

であった92.筆者は,奥林他(2004)の研究をまとめて,フラット型組織の特徴を次のように 4 点に要約した.①スピーディであり,経済性が競争優位をもたらすこと,②変化への対 応が柔軟であること,③組織にいる個人の自立性を尊重すること,④報酬は成果に応じる ことである.また,このようなフラット化型組織においては,意思決定を下位の従業員へ 委譲し,迅速的に意思決定を行うことを目指している93

シャオミは,フラット化した組織構造を採用しているので,分権化されていることによ り,事業ごとの責任が明確である.このような組織構造において,事業部長に大きな権限 が委譲されているため,問題解決や意思決定のプロセスが簡潔であり,迅速的な対応を行 うことができる.さらに,シャオミは従業員に対しても,徹底的に権限委譲を推進してい る.こうした分権化により,管理職が早い段階から幅広い意思決定をすることができるだ けではなく,従業員たちは責任を感じられている.それゆえ,従業員たちは,意志決断の 権限があるので,仕事中では自分の判断で仕事を推進することができる.ただし,適切に

92 同上

93 同上書,p.8.

監査等委員会 賃金委員会 選挙管理委員会 内部統制委員会 証券事務担当

取締役会 株主総会

代表取締役会

MIUI

AI

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権限委譲を推進することができなければ,デメリットが生じる恐れがある.例えば,従業 員の能力が足りない場合,適切に自分の判断で仕事を推進することはできない.シャオミ の場合は,権限委譲を徹底的に実行することができるには,仕事に対する最終責任は従業 員ではなくそれまでとおり従業員の上司が取ることが大きな原因である.シャオミの従業 員は委譲された権限を活用し,積極的にユーザーにソリューションを提供する例が多数あ る.

ここでは,シャオミの共同創業者である黎万強が著書『シャオミ爆買いを生む戦略:買 わずにいられなくなる新しいものづくりと売り方』の中で取り上げたことがある事例を用 いて説明を行う.ある日,おじいさんの顧客は,シャオミのコールセンターに電話をかけ て,「孫のプレゼントにしようとするスマートフォンを買いたかったが,どうしてもネッ ト上の支払いができなかった」と自分の悩みを言い出した.当時,シャオミの決済方法は インターネット上の電子決済しかなかったが,電話に出たサービススタッフは相手が困っ ていることに気づいた.電子決済のやり方を何回も教えたが,高齢者の顧客はなかなか順 調に操作できなかった.さらに,当日中に注文を完成することができなければ,プレゼン ト用のスマートフォンが孫さんの誕生日に届けることができない可能性が高い.実は,こ の時,電話をかけてきた相手は,まだ本当の意味でユーザーとは言えないにもかかわらず,

スタッフは顧客に,「それならば,お客様の代金を立替払いさせていただいてもよろしい ですか.その後,立替金額を私の個人口座に振り込みの形で支払うことができますので,

ご検討ください」と提案した.その結果,顧客はこの提案を喜んで受け入れた.コールセ ンターのスタッフから誠意と親切な対応に応えられるように,この顧客も,当日中に急い で銀行振込みを済ませた.その後,スタッフはいつも通り仕事をし,誰にもこの件につい て話したことがなかった.しかし,数日後,シャオミのコールセンターに顧客からの錦の 旗と感謝手紙が届いた後になって,やっと会社内で他のスタッフたちに知られた.よって,

この件は,一時的に社内の話題になった.

しかし,上述したサービススタッフの対応し方にはリスクも存在している.コールセン ターの事例で言えば,代金を払ってもらえないとどうしようもなくなる可能性もあるとい うことが事実である.それにもかかわらず,このスタッフはそのような方法で対応した.

その理由は,本人が次のように述べた.「第一に,おじいさんが困っているので助けたか った.第二に,おじいさんがウソをついているとも思えなかった.第三に,もし代金を回 収できなくても,マネジャーは私に自腹で払えと言わないはずだから」94

つまり,このスタッフは,会社からの権限を与えられているので,業務マニュアルに載 せていない状況であると,自ら業務上の判断を下すことができる.実は,こうした権限委 譲の考え方について,従来,日本では「衆知経営」という言い方があり,松下幸之助によ って提唱された(松下,1978).松下幸之助は,衆知の実践について,次のように述べてい る.「経営者みずからが衆知を集めてものを考え,仕事をしていくということも大切だが,

それとともに,できるだけ仕事を任せて部下の人びとの自主性を生かすようにしていくこ とも,衆知を生かす一つの行き方である.そうすることによって,その場その場で,それ

94 黎万強著・藤原由紀訳 (2015)『シャオミ爆買いを生む戦略:買わずにいられなくなる新しい ものづくりと売り方』日経BP社,p.184

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ぞれの人の知恵が最大限に発揮され,全体としてはみなの衆知が生かされることになる」

95.また,稲盛和夫が遂行したアメーバ経営の中では,社員たちが「自分たちも経営者だ」

という考え方も存在している96.つまり,従業員は一人ひとり経営者の意識を持つことは 重要であり,全員が共通した目的を持って仕事に取り組むことは大きな力になる.シャオ ミの理念は,こうした衆知経営と自分たちも経営者であるという考え方と似たような部分 が多いが,一番大きな区別は,スタッフに判断させる権限のみならず,経済上のサポート があることである.

シャオミは,スタッフに権限の委譲を遂行しているが,ただ従業員に自由にさせること ではない.上述した例の中で,そのスタッフが言った通り,企業側は,確かに従業員にあ る程度の経済的なサポートを提供している.具体的に言えば,例えば,シャオミのカスタ マーサービスのスタッフには,消費者の問題を解決する際,会社側へ申告せずに少額のプ レゼントを消費者に贈る権限が与えられている.このようなプレゼントがすべて特定した ものではなく,スタッフは状況に応じて,プレゼントの内容を決めることができる.また,

保障期限に過ぎた製品の修理について,状況に応じて修理の料金を安くすることのような 権限もある.つまり,シャオミは,従業員に限度のある経済上の権利を与えている.よっ てシャオミはスタッフたちに十分な信頼を与え,権限を委譲しているので,スタッフは会 社から与えられた権限をもちいて,自分の判断で顧客が持っている問題の解決方法を選択 することができる.それによって,スタッフたちは,マニュアルに載せているもののみな らず,マニュアルにない行動も責任をもって行っている.

表 24 でまとめているように,シャオミの販売・サービスにかかわっているスタッフは

現在6,048 人がおり,全体従業員の41.67%を占めている(シャオミIPO申請書).上述した

コールセンターのスタッフはただその中での1人である.シャオミでは,判断の権限と経 済上の権限を委譲の仕組みが構築されたので,従業員一人ひとりの参加意識を引き出すこ とに効果的である.こうしたやり方によって,自律したメンバーが集まり,企業がもっと 効率的に動いていく.また,シャオミの販売・サービス部門では,マニュアルがあるが,

一般的なサービス業務と異なり,丁寧語と尊敬語の使用は強制的ではない.例えば,イン ターネット上でのやり取りをする場合,状況に応じて若年層の顧客にネットワーク用語で 対応することも勧められている.その理由は,ユーザーの好みに合わせるだけではなく,

潜在的なユーザーの注目を引く効果もある.とりわけ,サービススタッフがウェイボーの ようなソーシャルメディアで,ユーザーとやり取りをする場合,すべてのプロセスは公開 されている.よって,こうしたやり取りを閲覧している相手の中には,潜在的なユーザー が含まれている.現在,シャオミのスタッフの対応は,たびたびネット上の話題になり,

良い面で注目されている.

要するに,シャオミは権限委譲を徹底的に実施し,意思決定に加えて,ある程度の経済 上の支援も与えているので,シャオミの従業員が,自分の意志をもちいて仕事を推進する ことができた.それゆえ,フラット化したシャオミの組織において,従業員全員は参加意 欲があるならば,業務上の問題を一々経営者に尋ねる必要がないので,管理層のリーダは

95 松下幸之助 (2000)『実践経営哲学』日本写真印刷株式会社p.86

96 稲盛和夫 (2006)『アメーバ経営 ひとりひとりの社員が主役』日本経済新聞社p.84