第五章 考察と結論
第 4 節 多様なユーザーセグメント
第四章の第5節では,シャオミはユーザーの多様性に対応するために,複数のシステム バージョンを提供していることについて述べた.この事例から,シャオミのユーザーは細 分化されていることが見られる.実は,こうしたユーザーに対するセグメントはシャオミ 側が意識的に行っているのではなく,ユーザーの増加とともに,ますます形成されてきた.
ユーザーに与える権限に対する細分化の本質も,ユーザーセグメントにもある.最終的に 委譲された権限を利用するのは多様化したユーザーであるからである.
シャオミのユーザーセグメント,年齢と職種に関係なく,関与度という尺度で行われて いる.この点は,企業がマーケティング調査を実施する際のユーザーセグメントとは異な る.伝統的なマーケティング調査で言えば,企業は,消費者の特徴と需要を理解するため
103 伊丹敬之 (2005)『場の論理とマネジメント』東洋経済新報社,p.133
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に,利用者層を世代,性別,学歴,職歴,趣味など,様々なユーザー属性から対象となる ユーザーを選定する.しかし,シャオミの場合,こうしたユーザー属性に関係なく,ユー ザーの関与度という基準に沿って多様化したセグメントの活用ができた.ユーザーに権限 委譲をするとき,多様化したユーザーに複数のシステムバージョンを提供するとき,こユ ーザーのセグメントが適用されている.よって,シャオミのユーザーに対するセグメント を理解するために複数のデータソースを利用して,図19が作られた.
図 19 参加度別シャオミのユーザーのセグメント
出所:下記のデータにより筆者が作成
データ:* MIUIフォーラム,** Alexaのデータ,*** シャオミ製品発表会,**** 第四回 世界インターネット大会
第四章の事例を通して,シャオミのユーザーの特徴は,年齢と職種のような属性に強く 関連していないということが明らかになった.シャオミは,各層にあるユーザーグループ の名前を付けていないが,筆者はMIUIフォーラム,Alexa Internetのデータとシャオミ交 流会などの公開された情報を調べたところ,それぞれの層にあるユーザーグループの特徴 に基づき,次のように名前を付けている104.関与度という属性から見れば,これらのユー ザーが,普通ユーザー,認証したユーザー,アクティブユーザー,バリュークリエイター,
コア・バリュークリエイターと区切られることができる.図 19 で示されているように,
現在,シャオミのユーザーは3億人に達している.これらシャオミの製品を利用している 消費者のことを区別なく「普通ユーザー」と定義する.
普通ユーザーの中では,1.9億人のユーザーはMIUI フォーラムに登録した105.この1.9 億人を「認証したユーザー」とする.シャオミのIOP申請書によると,認証したユーザー
104 Alexa Internetは,アメリカのインターネット関連企業である.同社は,1996年に設立され,
1999年にAmazon.comの傘下となった.Alexa Internetは,ウェブサイトの利用状況に関するデ
ータを集め,ウェブサイトがどれだけの人に見られているかを調査している.
105 シャオミは,MIUIフォーラムのみならず,例えばシャオミフォーラムなどのコミュニティ も開設している.しかし,MIUIフォーラムに登録したユーザーは,複数のコミュニティに登 録しているかどうかを知ることができない.よって,本論文では,ユーザー数が最も多いMIUI フォーラムのデータだけを利用することにした.
普通ユーザー(300,000,000人)****
認証したユーザー(190,000,000人)***
アクティブユーザー(1,300,000人)**
バリュークリエイター(78,156人)*
コア・バリュークリエイター(772人)*
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たちは,毎日 4.5 時間をシャオミスマートフォンに使っている106.アメリカの調査会社イ ーマーケター(eMarketer)の調査によると,中国人のスマートフォンの利用時間は平均 1日 3時間であり,世界で2 位にランクインしている107.イーマーケターとシャオミは,異な るサンプルからデータをとったにもかかわらず,シャオミのユーザーは,スマートフォン の利用時間は平均時間の1.5倍となっている.よって,認証したユーザーたちはシャオミ の製品を利用する頻度も高いということが明らかになった.
また,第四章第5節で算出したデータからわかるように,およそ130万人のユーザーは 毎日MIUIフォーラムを閲覧し,フォーラムで公開されている情報に対する興味を持って いる.これらのユーザーはアクティブユーザーである.ただし,ここでは注意すべきな点 がある.それは,アクティブユーザーたちは単にインターネット上の情報を閲覧するか,
積極的にシャオミのオープン・イノベーションに関与しているかをこのデータから判断す ることができないということである.
2017年,天下電子商取引大会(中国語:天下网商大会)での雷軍の発表によると,現在,
シャオミのユーザーから集まった意見は 1.5億件以上になっている108.シャオミは,顧客 から寄せられた膨大な声の中から,有用な情報を拾い出した結果,実際に価値を創造して いるのは「バリュークリエイター」と「コア・バリュークリエイター」であることが明ら かになった.この二つのグループは,第四章で説明したシャオミの「内部テストファング ループ(中国語:内测粉丝组)」と「名誉開発メンバー(中国語:荣誉开发组)」である.現在,
内部テストファングループは96,264人から構成されている109.内部テストファングループ のメンバーは,優先権を与えられ,週4回のOTA (Over the Air)アップデーターが可能であ る.そして,ユーザーは,アップデートによる不具合やバグ,エラーなどをMIUIフォー ラムで問題を報告し,フィードバックを送信する.プログラマーは収集したバグを収集し 分析した上で見逃されたバグはますます修正されていく.こうして,ユーザーはシャオミ のバグソリューションシステムにおいて,重要な役割を果たしている.それに加えて,ユ ーザーはシャオミとスムーズなコミュニケーションを取ることができるため,自分の意見 が重んじられるように感じ,さらに自分の考え方を公開したがる.現在,シャオミは,ス マートフォンのみならず,テレビ,ルーター,スマート家電などの部門でもユーザーによ る内部テストの仕組が構築された.バリュークリエイターのセグメントにいるユーザーた ちはシャオミに多くの価値をもたらした.
また,ピラミッドの最も上に置かれているのは,シャオミに最も多くの価値を創造して いる「コア・バリュークリエイター」たちである.前述したように,MIUIフォーラムで,
彼らのことを「名誉開発メンバー」と称され,このグループは現在772人が参加している
(2018年12月4日).これらのユーザーはベテランユーザーであり,初期にシャオミに内部
106 シャオミのIPO申請書により
http://www.csrc.gov.cn/zjhpublic/G00306202/201806/P020180611106685793601.pdf
107 eMarketerは,eMarketerは1996年に創設され,ニューヨークに拠点を置いている調査会社
である.現在,1000社以上の企業同社の顧客は同社に依頼している.フォーチュン500企業の 2/3に上り,購読者も90カ国に及ぶ.ホームページ:https://www.emarketer.com/
108 https://v.qq.com/x/page/k05244y9j46.html
109 MIUIフォーラムのホームページを参照 (2018年12月4日) http://www.miui.com/index.html
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テストを行ったマニアたちも含まれている.名誉開発メンバーたちは,シャオミの研究開 発者と近距離で接触してコミュニケーションをすることができる.また,このグループの ユーザーは,内部テスト版がリリースされ次第,すぐに手に入れることができ,最新バー ジョンのテストと問題のフィードバックに参加することができる.現在,名誉開発メンバ ーたちは,シャオミに21,405件の機能に関する意見を提供した110.
上述したように,シャオミのユーザーセグメントについて分析した.実際に,シャオミ はこのユーザーセグメントの仕方のみならず,果たした職能などによって,シャオミはユ ーザーを複数の視点でセグメントをしている.例えば,第四章第8節では,権限委譲のと き,シャオミは多数の基準に沿って,ユーザーに委譲する権限に対する細分化を行ってい ることについて説明した.それゆえに,企業はユーザーに対するセグメンを論じる際,考 慮すべき点が以下2つある.
① 関与度別分割:このセグメントの仕方は,製品の開発から商品化までのプロセスに 適用される.ユーザーをオープン・イノベーションに取り組み手法を採用する場合,
各段階におけるユーザーの関与度を検討すべきである.それをもとに,多様化した ユーザーへの対応を設計することが合理的である.
② 機能別分割:このセグメントの仕方は,ユーザーがある程度関与度を持っているこ とを前提にしている.そして,企業のオープン・イノベーションに関与しているユ ーザーが果たした役割に着目し,権限委譲などを推進する.この分割の基準は,ユ ーザーのマネジメント価値を創出する役割を果たし,MIUIフォーラムでのユーザー 分割に使用されている.
ユーザーの特性を理解した上で,この2つの基準を用いてユーザーに対するセグメント を行うことは,よりよく異なる特徴のあるユーザーに対する働きかけることができる.ま た,オープン・イノベーションのデザインに価値のある参考にもなる.