第四章 シャオミのケース・スタディ
第 5 節 アクション 2:多様なユーザーをシステムの開発に取り組む
上述したように,現在,シャオミのユーザーは急速に増加してきた.シャオミにとって,
ユーザーの増加とともに,新しい問題が現れてきた.従来,ユーザーは人数が少なく,ほ とんどがスマートフォンマニアであったので,これらのマニアをオープン・イノベーショ ンに巻き込むことによって,製品・サービスの開発と改良の効率を向上させることができ た.しかし,ユーザーが多くなると,ユーザーの特徴も多様化になっている.従来のマニ アのみならず,まったく製品に関する知識がないユーザーも急増してきた.よって,特徴 が多様化したユーザーのニーズを理解することは極めて重要になっている.
本節では,シャオミのスマートフォンに搭載されているMIUIシステムの例を取り上げ,
シャオミはいかにして異なる特徴を持っているユーザーへ対応するか,また,いかにして 多様化したユーザーをシステムの開発に取り組むかについて検討する.
5-1 体験版
現在,膨大なユーザー数を抱えているシャオミは,ユーザーの意見を最大限取り入れ,
多様化するユーザーのニーズに応えていくために,体験版,内部テスト版,開発版,安定 版のMIUIシステムを提供している.その中では,スマートフォンに関する知識を持って いるマニアのためのMIUI体験版を提供している.第三章で論じたように,現在,ユーザ ー自らがイノベーションを起こす可能性への注目が集まっている.ユーザーをオープン・
イノベーションに取り組む手法を採用する場合,ユーザー群の中からリードユーザーグル ープを特定することが重要である(Urban & von Hippel,1988;).シャオミの体験版MIUIシ ステムが公開されることは,単にシステムのテスターを募集するのではなく,リードユー ザーグループを察知する効果もある.
具体的に言えば,MIUIシステムのテストに対して参加意欲のあるユーザーは,MIUIフ ォーラムで申請することができる75.ユーザーは,オンラインで必要事項を入力して送信 した後,シャオミの事前審査を待つ.シャオミはユーザーから寄せられた情報を確認した
73 シャオミのIPO申請書を参照
http://www.csrc.gov.cn/zjhpublic/G00306202/201806/P020180611106685793601.pdf(p.118)
74 黎万強著・藤原由紀訳 (2015)「シャオミ爆買いを生む戦略:買わずにいられなくなる新しい ものづくりと売り方」日経BP社,p.4.
75 MIUIのオンライン申請サイトhttp://www.miui.com/extra.php?mod=apply/index
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上で,テスターを特定する.この場合,シャオミは,ユーザーのオンライン時間,フォー ラムでの投稿数などに加えて,申請理由を審査する.シャオミは,ユーザーがテストファ ングループに参加する資格があるかどうかを判断するために,こうした独自の審査システ ムを構築し,ユーザーを特定することができた.よって,より少ない時間と労力でリード ユーザーを発見することが可能であった.よって,シャオミの審査基準に満たしたユーザ ーは,内部テストファングループに参加する権限を与えられ,MIUI システム体験版をダ ウンロードすることができるようになる.これらのユーザーたちは,体験版を通して,MIUI システムのテストに深く関与しており,最も新しく開発された内容や改善された機能を体 験することができる.これらのユーザーの声とニーズを迅速に理解するために,MIUI 体 験版は,頻繁に更新されおり,毎日内部テストファングループのメンバーにアップデート を提供している.その一方,MIUI システム体験版というバージョンのアップデートは極 めて速いので,テストを行う時間が短くて,バグが多いことは避けられない現状である.
それにもかかわらず,MIUI システム体験版を利用しているユーザーは,シャオミに認 められ,ある程度スマートフォンに関する知識を持っているマニアであるので,バグを見 つけてフィードバックする熱意を持っている.それゆえ,シャオミは,内部テストファン グループのメンバーのフィードバックから,迅速に当該バージョンの問題点を発見するこ とができるので,改善するスピードを向上させるというメリットがあり,本節の5-2から 説明する開発版と安定版の公開が可能となっている.一般的に言えば,ソフトウェアのテ ストは研究開発者が行うが,シャオミは上述したように,ユーザーを対象にして,テスト の希望者を募集することによって,ユーザーから寄せたフィードバックを収集した上でバ グの修正などを行っている.
要するに,内部テストファングループに参加しているマニアユーザーはユーザー全体か ら言えば,少数であってもスマートフォンのソフトウェアやROMなどの関連分野に理解 がある.言い換えれば,これらのユーザーは,スマートフォンシステムに関する問題の本 質や新しいトレンドをつかむことができる.よって,これらのユーザーを特定することで,
ある程度ユーザーの需要と市場の動向を把握することができる.
5-2 内部テスト版
シャオミの開発者は,体験版のユーザーから寄せられたフィードバックをもとに,多数 のバグ修正を行い,パフォーマンスを大幅に向上させた.しかし,MIUI システム体験版 は少数の機種に搭載されていない.それゆえ,小規模なグループでテストを行うために,
シャオミは,MIUI 体験版のみならず,内部テスト版も提供している.上述したように,
体験版がリリースされた後,内部テストファングループのメンバーは先にダウロードして テストを行う.その次,体験版をもとに,内部テスト版を作り出される.体験版と同様に,
内部テスト版は普通ユーザーに対して非公開であり,公開された後,特定のユーザーがダ ウンロードすることができる.内部テスト版を利用することができるユーザーは,内部テ ストファングループのメンバー以外,「名誉開発メンバー」もある.テスト管理者が体験 版のバグ修正状況やバグ修正完了後の再テストを把握するために,もっと多くのユーザー からのフィードバックを得ることが必要である.よって,ここでは名誉テストメンバーの
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意見が重要となる.つまり,一度に大幅な変更を加えるよりも,少しずつの変更を数多く することがシステムの開発に重要な役割を果たしている.
体験版と内部テスト版を利用することができるユーザーはスマートフォンに関する知 識を持っているので,システム開発の視点で意見を述べる.第三章で論じたように,リー ドユーザーは,将来の市場を見通すことができ,von Hippel (1986) も,既存のマーケット リサーチの代替としてリードユーザーを活用することを主張している.確かに,シャオミ のユーザーから寄せられた多数の意見はMIUIシステム新バージョンの開発に活用され,
取り組まれている.
一般的に言えば,内部テスト版のリリースは,開発版(第5 節の 5-3 で説明する)と安定 版(第5節の 5-4で説明する)が公開される2 週間前で行われ,アップデートのスピードが 速い.このような手順でシステムのリリースをすることによって,開発者たちはより早く 緊急修復することが可能になる.ユーザーは,毎週月曜日から木曜日の間,いつでもMIUI システムの内部テスト版をダウンロードすることができる.名誉テストメンバーから寄せ られたMIUIの開発と改善に関する意見について,また開発チームは確認した上で修正と 改善を行う.
5-3 開発版
上述した体験版と内部テスト版という二つのバージョンの目的は,オープンテスト版に 相当する「開発版」を作成する前,内部テスト版を利用して小規模なグループテストを行 う.体験版と内部テスト版のユーザーからのフィードバックがあるからこそ,参加者のフ ィードバックが大量に収集されることが可能になった.よって,シャオミは,もっと安定 したバージョンを開発することがより容易になり,毎週金曜日に一般ユーザー向けの開発 版をリリースしている.
MIUI 開発版は新しい機能や古いバージョンの改善を積極的に取り組み,不安定である 可能性も体験版と内部テスト版より低い.それゆえ,早めにMIUIシステムの新機能を利 用したいという要望を持っている普通のユーザーにとって,毎週更新されている開発版が 適用されている.システムの開発はこの段階になると,より多くのユーザーでテストを行 うことが必要である.この理由で,開発版は一般ユーザー向け公開され,多数のユーザー はテストに参加している.こうしたサンプル数が多いため,かなり異なった行動をとるユ ーザーも出てくる.多くのユーザーは,それぞれの操縦しかたによってスマートフォンを 使用するとき,シャオミに報告すると,確認と修正を行ってくれる.一方,シャオミの研 究開発に参加したユーザーは開発版を利用すれば,自分の提言で採用された機能を利用す ることができ,続いてバグを発見して報告するチャンスもあるので,これらのユーザーも 毎週の金曜日を楽しみにしている.シャオミとユーザーはこの日のことを「オレンジ・フ ライデー(シャオミのロゴマークはオレンジ色)」と呼ぶ.開発版は,体験版と内部テスト 版より更新のスピードが遅いが,利用者にとって毎週新機能を楽しむことができる.した がって,毎週アップデートの日になると,スマートフォンに対する興味のあるユーザーか ら多くの期待が寄せられる.開発版を利用するユーザーたちは,バグの発見と報告に執着 しているのではないが,新しいバージョンあるいはアップデートによってもたらされた変