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5.1 10-minute writingについて

この実験で取り組んだ10-minute writingとは、Elbow(1973)の提唱したライティン グの練習方法である。このアプローチでは、学習者は、何でも心に浮かんだことを10 分間書き続けるが、一度書いたことに対しては書き直しをしない。このアプローチに より、生徒は短い時間内に、頭の中にあった考えを言語化して伝える訓練をすること ができる。しかし、この手法を、英語学習としてそのまま初級レベルの生徒に用いる のは、学習者の語彙や文法力から考えて難しい。そこで、この研究では、長い英文を 書けない高校生でも取り組めるように、Elbowの10-minute writingを次のように改良 した。

1. トピックを与える。

トピックは、授業者が決めた。これは、生徒が何について書くか悩む時間を減らす ためである。また、その時教科書で学習した文法と関連させられるようなトピックを 選び、既習の文法や語彙を生かせるように工夫した。

2. 辞書の使用を認める。

辞書や教科書の使用を認めることで、時間内により多くの英文を書くことを可能に した。

3. 質問を認める。

近くに座る友達への質問を許可し、個別活動として静かに書き続けることよりも、

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教室でともに活動している一体感を大事にした。授業者への質問は、過度の依存を避 けるために、できる限り控えさせた。授業者は、生徒が英文を書く活動を援助するの を目的とした声掛けやアドバイスを行った。

4. 語数により自己評価させる

生徒は、語数を多く書くことが目的であるとあらかじめ知らされている。10分経過 後、スペリングのミスや文法の誤り、途中で終わっている文などに関わらず、何単語 を使用したか数えさせ、作文用紙に記録させた。授業者は、作文用紙を提出する前に、

口頭で「30語以上」「40語以上」…と、10区切りで数字を言い、何単語以上書けたの か、該当するところで生徒に挙手をさせた。これらの事後活動は、自分の活動を振り 返るセルフ・フィードバックとなり、同時に他の生徒の達成状況を知る機会にもなっ た。

授業者は、その後、作文用紙を集め、内容に関する短いコメントや質問を書き、次 の時間に返却した。

5.2 実験参加者

2012年度に「ライティング」を選択した 60名の生徒のうち、同時展開で授業の行 われた2クラスの生徒を対象に分析を行った。1つめのクラスには23名、他方には22 名が所属していたが、活動後のライティング力を測る学年末考査を、大学入学試験や インフルエンザのため欠席し、当日に受験しなかった生徒を除いたので、分析対象の となった生徒数は実験群19名と統制群18名であった。生徒が「ライティング」を選 択した2年生の1学期末の時点では、税員が短大あるいは4年制大学への進学を希望 していたが、実際に授業が始まった3年生の時点では、就職や専門学校進学を希望す る生徒もそれぞれの群に数名ずついた。

5.3 日常の指導

2単位の選択科目である「ライティング」の時間に、2人の教師によって、2つのグ ループに、違ったアプローチがなされた。4月から翌年1月までの授業で、週に1度、

グループAでは、10-minute writingを含む10分間のライティング活動が取り入れられ、

グループ Bでは、主に 10分程度を要した教科書に基づく文法の練習問題や小テスト が行われた。グループAは、前年度に行った内容に沿ったカリキュラムであった。こ れらのグループによる指導の違いは、実験のために意図的に作った対照群と処置群で はなく、授業担当者の授業に対する方針をあ互いに尊重したことによって生じたもの である。

両グループが3年次に受験した定期考査(前期中間・期末考査、後期中間考査、学 年末考査)では、毎回短い英作文が10点以内の配点で出題された。評価は書いた量で

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判断され、それぞれの授業者が共通基準を用いて点数化した。英作文の評価をするの に、高校現場で最も一般的な採点手段の一つとして、文法や記述に間違いがあると、

その都度満点から点数を引いていく減点法がある。しかし、減点法では、分量を多く 書いた生徒に取って不利になる可能性が高く(根岸, 2012)、またwritingから受ける印 象は本来分析的ではなく、総括的な印象であるため、コミュニケーション力を推定す るには、総合評価のほうが適していると考えた。共通基準は、意図していることが伝 わっているかどうかを基に判断し、その都度協議した。

5.3.1 グループAに対する指導

グループAでは、4月の第1回の授業から、10分間のライティング活動を取り入れ た。1回目には、アイスブレイクとして自己紹介を英文で書かせた。2回目、3回目は 隣の席の者とペアになって筆談をした。お互いの誕生月を英語で質問させ、生まれ月 の小さい数字の生徒から筆談を始めさせた。How are you? を筆談会話の出だしとして、

与えられたテーマについて用紙に英語で書き、相手から返事をもらった。また、相手 からの返事に対してコメントや質問をするという、ライティングによる会話をさせた。

これは語数ではなく、10分の間に何回、ワークシートの往復ができるかをタスクとし た。また、付加疑問文を使うことや過去進行形を使うことなど、教科書のレッスンに 合わせた形で複数のタスクを組み合わせた。

4回目以降、13回目までは、10-minute writingに継続的に取り組んだ。生徒に口頭で 確認したことは、「作品を一つずつ採点したり添削したりはしない」、「よい作品があれ ば、教師はその内容を日本語でクラスに紹介する」、「取り組み状況を平常点として、

学年末の成績で考慮する」ということであった。これらのルールの説明はその後もた びたび繰り返して、活動の目的を確認した。

6 回目以降の活動では、ペアワークを活用し、互いに相手の書いた内容に対してコ メントを書かせた。コメントを書くのに、1 から2 分の時間が必要になったため、全 体での活動が10分を超える時もあった。コメントは英語で行うことを原則とした。英 語では伝えきれない感想の交換が、日本語を用いて、口頭で、自発的にペア内で行わ れた。

14回目と15回目の活動は、4名1組のグループワークであった。物語の出だしとな る1文の書かれた4種類の用紙が、グループ内の一人一人に配られた。それぞれの生 徒が、1 分間で、前の文を読み、そこに1 文から数文を付け加えいった。グループ内 で4つの違う話を、同時進行で書く活動であった。生徒は辞書や教科書を使うことは できたが、短い時間制約の中では、自分の持つ語彙、文法を駆使して作文した。なお、

15回目に違うセットを用いて同じ活動をしたのは、14回目の活動を終えた生徒たちか らの「次の時間も同じような活動をしよう」というリクエストに応じたものであった。

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上記の活動のうち、中心となって用いた10 minute writingのテーマは、その前年度 の実践で、生徒の評判がよかったもの、教科書で使う表現や、文法事項の使えそうな ものを考慮して選んだ。(資料1)

5.3.2 グループBに対する指導

グループ Bは3回目まではグループAと同じ活動をしたが、4回目以降は教科書を 学習し、和文英訳、整序問題の小テストを行った。このテストには、教科書に練習問 題として載っているものがそのまま使用された。これらの練習問題は、定期考査の際 に、同じ英文を使て出題されることが予告されてあった。小テストの出題は、10問で、

10点満点であった。

5.4 効果測定の方法

5.4.1 実験前の英語力測定

プレテストを行わなかったが、英文エッセイを書くという点においては、両グルー プとも3年生になるまでは、まとまった内容の英文を書く指導を受けず、選択教科に おける違いはあったものの、学校での授業を中心に英語を学習する小さな集団であっ たため、前年度の定期考査の結果を、事前の英語力測定に用いた。定期考査の目的は、

一定の期間に学習した内容がどのように定着しているかを測るもので、個々の生徒の 直前の努力によって差が生じる。定期考査の点数をもって英語力を推測するのは最適 な方法とは言えない。しかし、実験校においては、前期・後期制を取り入れており、

比較的広い範囲から考査問題が作られていたため、定着した学力がないと、高得点に は結びつかなかった。また、実験参加者の進路希望が進学であることから、学習への 意欲、動機もある程度似ていると判断できた。こうした背景から、実際にエッセイを 書かせて両グループを比較するようなプレテストではなかったが、同一校のカリキュ ラムの中で、英語の授業を受けてきた生徒の英語力を推し量る手段として、定期考査 にもある程度の信頼性が認められると考えた。

両グループを比べると、前年度の後期定期考査における「英語Ⅱ」の平均点は、グ ループAが高かった。サンプル数が少ないため、ノンパラメトリックであるマン・ホ イットニー(Mann-Whitney)の検定で、統計的有意差を調べた。その結果は、 U = 128.500, z-score = 1.292, p = .196, r= .213となり、両グループの間に実験前の統計的有 意差はなく、効果量は小であった。