• 検索結果がありません。

5. ライティング研究の課題

5.2 フィードバックについて

Semke(1984)は訂正フィードバックの有効性に否定的な立場をとっている。Semke

は、ドイツ語の学習者の自由作文の課題に対し、内容に関するコメントのみ、間違い 訂正のみ、内容と間違いの訂正の両方、間違いの箇所を指摘するという4種類のフィ ードバックを用い、グループを比較した。その結果、「学習者の進歩は、(フィードバ ックではなく)書く練習によってのみ強化される(p.195)」と結論付けている。また、

Kepner(1991)は、スペイン語学習者の書いたジャーナルに、内容に関するコメント

27

と、間違いの訂正の2種類のフィードバックを行った。学習者を言語能力の高いグル ープと低いグループに分けてデータを分析した結果、内容に関するフィードバックは、

内容の改善にも、文法面での間違いを減らすことにも効果があったが、間違い訂正で はどちらのグループにも効果がなかったことが確認された。そうした研究を踏まえ、

Truscott(1996)は、訂正フィードバックは必ずしも学習者のaccuracyを高める手助け

をするものではなく、むしろ内容の上達や流暢さの伸びに関しては有害であると主張

した。Fazio(2001)は、フランス語で教育が行われている学校で、フランス語を第1

言語とするグループ、フランス語以外を第1言語とするグループに分け、それぞれの グループに、内容に関するコメント、間違い訂正、内容に関するコメントと間違い訂 正の両方、と3種類のフィードバックを行った。その結果、他に文法学習の機会が与 えられているなら、ライティング指導での文法訂正は正確な文法の習得に有効とは言 えないと結論付けた。

一方、Ferris(1999)は、文法訂正は、積み重ねていく中で効果が生まれ、間違い訂

正のフィードバックには有効性があると反論している。Ferris and Roberts (2001)は,

ESLの学生を対象に調査し,間違いの訂正の方法が下線やコードのような間接的なも のであっても,間違いを指摘するフィードバックがあった方がフィードバックの無か ったグループよりも文法の定着の効果が高かったと結論付けている。これは、Chandler

(2003)が、間違いの箇所を指摘し、学習者自らに訂正させる実験を行ったことで、

誤りの箇所が減ったことと方向性を同じくしている。

日本人高校生を対象とした研究では,金谷(1993a, 1993b)が生徒自身は訂正された フィードバックをどのように受け止めているか研究し,学力の高い生徒は添削箇所を 正確に覚えているとの結論を導き出した。本章の3.1に記した、岩田(2008)の高校2 年生に行った自由英作文の指導も、ALTから間違いの訂正をうけ、JETからは、書き 出しや文章構造について、明示的な指導があった。学習の目的も、正確さと流暢さを 伴った、高度な英作文を書けるように指導することであり、トピックも身近なものか ら論文へと段階を経て移行し、過去3年間と比較し、高い成果が上がったことが報告 されている。間違い訂正には、効果があるだろうが、同じく日本人高校生を対象に調

査した O’Flaherty(2016)は,ほとんどの生徒が誤りの訂正には効果があったと答え

たものの,その訂正を常に見直す生徒は36%で,82%の生徒は間違いをノートに書き 留めていないことから,添削の活用は受動的だとしている。

訂正フィードバックの効果には、賛否があるが、ここで気を付けたいのは、フィー ドバックの目的である。Hyland(2003)は、文法的正確さにこだわると、生徒が間違 いを犯さないために、伝えたいことを適切に伝える努力をせずに、知っている範囲で のみ文章を書いてしまい、教師もそれを良しとしてしまう危険性があることを指摘し ている。村越(2012)の研究でも、高校1年生の自由作文を分析した結果、作品は平

28

易な表現に流れがちで、習得したとみられる文法を使わない(avoidance)傾向が見ら れ、既習の文法事項が使えるようになるまでには時間がかかることが指摘されている。

自由作文やテーマ作文など、エッセイ型のライティングにおいて、高校生が新しく学 習した文法構造の使用を避けるのは、その構造を充分理解していない、もしくは使用 するだけの自信がないことを反映しているのであろう。学習者が、特定の構造だけを 用いてアウトプットを行うのは、間違いを避ける(avoidance) ために行う、 コミュ ニケーション・スキルでもある。単調な作品を無難に書こうとするのは、間違いを減 点する方法で英作文を評価してきた弊害であり、多くの学習者が間違いのリスクを避 けようとする。逆に、英語での表現に様々な文法構造を用いることは、単に書き手の 言語に対する知識や習得状況を反映しているだけではなく、その文法構造を英語で表 現することに不安の無い状態でいることを示しているのであろう。また村越(2013, 2015)は、神奈川県の公立学校の生徒209名の1年次、2年次、3年次の自由英作文を 分析して、学年が進むにつれてどのように文法項目を使いこなせるようになっていく のか調べ、また統語的複雑さがどのように発達するのか調べた。村越は、中学校で既 習の項目である関係詞でも、アウトプットとして使えるようになるのは高校3年生で あり、3 年になるとエッセイの語数は減るが、統語的複雑さ、従属節が作れるように なり、内容としての充実が感じられるようになったと述べている。しかし、どうすれ

ば avoidance が減り、作品に多様さを生みだせるのかについては触れていない。鈴木

(2004)は流暢さを伸ばす活動として、中学生と高校生に英語で日記を書かせ、その 効果を示した。活動の前後に2名のアメリカ人ALTがfluency, accuracy, total evaluation の3項目を10点満点で採点したところ、中学生、高校生共にfluencyが伸び、中学生 の一部ではaccuracyも伸びた。鈴木は「これまでの英語指導がaccuracy重視であった ため、語数を多く書くという指示にも関わらず、生徒は英文を書くときには正しく書 くことに集中した」ため、accuracy はプレテストの段階ですでに高く、伸びしろは少 ないはずであることを指摘している。それにもかかわらず、中学生の英文産出量の多 い群で更にaccuracyが統計的優位に伸びたことが示された。高校生のaccuracyの平均 点は、プレテストの段階で10点満点中 8.81点であり、統計的優位な伸びは見られな かったものの、ポストテストの平均点は 9.13 点にまで伸びている。Herder and King

(2012)も10-minute writingが、流暢さや意欲を向上させ、成績の上位の生徒はやが

て文法的正確さの向上や複雑な文法構造での表現へと意欲が向いたと報告した。いず れの研究も、自由作文が文法の伸びを示す可能性を示した。

正確さの求められる場ではそれに応じた指導が必要なのは当然である。しかし、正 確さにこだわりすぎてHyland(2003)や村越(2012, 2013, 2015)の指摘したような新 しい表現の取り込みや、既習の文法事項を使わない傾向があるとすれば、アウトプッ ト仮説での試行錯誤による検証が起こらず、インプット仮説にあるように、アウトプ

29

ットは単なる学習の結果で終わってしまう。Extensive writingはコミュニケーション活 動であり、その目的は「正確さ」の向上ではなく、書き馴れること、もしくは書くこ とそのものにある。従って、extensive writingでのフィードバックも、学習者の書いた ものに対し、興味を持って読んだという読み手の存在を示すべきであると考える。

例えば、

・それからどうなったの?

・担任の先生にも読んでもらっていい?

のように、更なる情報を促したり、広げたり、あるいは

・楽しく読みました。

・私も○○に興味があります。

のように、読み手である教師が、書き手である生徒の書いた内容や書き手そのものに 興味があるのだとメッセージを伝えるようにすれば、コミュニケーションは促進され るのではないか。コミュニケーションを重視したフィードバックは、学習者にとって も指導者にとってもプレッシャーの少ないものになるはずである。正確な訂正や的確 な添削は英語力のみならず、英文に対する感性を持たないことには難しい。また、正 確性の向上という効果に対して、現場の教師が誤りの訂正を行う労力と能力が適正か どうかについては、鈴木(2015)が、非ネイティブ教師の限界として、全ての誤りを 特定することができないことを指摘したように、学習者が間違い訂正の直接的なフィ ードバックを望んだとしても(Leki, 1991)、高等学校の現場では極めて非現実的な指 導であると言わざるを得ない。しかし、コミュニケーションを指導の中心にすること で、指導者の英語の能力に関わらず、どのレベルの生徒にでもスタンプでも、口頭に よるコメントでも、何らかのフィードバックが返せる。Extensive writingにおけるフィ ードバックの目的は、コミュニケーションの一部として考えることが重要だと考える。