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9.1 フィードバックにおける課題

今回、グループ A の生徒たちが、より多くの文法項目を用いて文章を書いたのは、

最初から正確に書ける自信があったためだろうか。事実、グループAが用いた間違い のない文法項目は、4.21項目中、4.00で正しく使えた率は95%、グループBでは3.33 項目中、2.78項目に間違いがなく、正しく使えた率は 83.5%であった。今回の実践で は、グループAをでのフィードバックは、内容に関するものを、作文用紙を集めた直 後に口頭で行うか、短い感想を書いて返却するのみであった。一方。グループBでは、

レッスンごとの小テストで、文法は強化されていたはずである。しかし、グループ B の方が、既習文法を使うことが、より少なく、正しい使い方の率も低かった。第1言 語であれ、第2言語であれ、使うたびに訂正が返ってくるのでは、学習が楽しいもの になるとは考えづらい。グループAの生徒が、書くことに意欲を示し、時には考査解 答用紙や提出ノートに、自発的に英語でコメントを書いてきたのは、内容に対するコ メント・フィードバックによって、コミュニケーション意欲が促進されたことの現れ ではないかと考える。今後、コミュニケーション力を伸ばす目的のフィードバックの 在り方についても再考すべきであるが、同時にコミュニケーションを促進する目的で 行ったフィードバックが文法にも効果を上げた現象についても考える必要がある。

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英語教師の多くは間違いの訂正に意欲的で、その背景に自らの、学生時代に強いモ ティベーションを持って英語を学習していたという経験があるのであろう。教師に対 するアンケートでも、間違い訂正のフィードバックを行う理由が「生徒は正しい英文 を身につけたいと望んでいる」から、という回答がいくつかあった。また、間違いを 訂正しないことに不安と、罪悪感を持つ者もいた(小見山, 2018)。しかし、残念なが ら、実際にそのように強い意欲を持って、「正しい英語」を身に着けたいと望む生徒は、

特に学力中位の生徒の中では少ない。今回の実践でも、その前年の2012年度における 実践、2016年、2017年における実践の中で、進路や、入試に関わって、英文の誤り訂 正のフィードバックが必用な生徒は申し出るように促したが、どの年度も1クラス40 人中、多くても3人であった。生徒の間違いを正すことが、生徒のモティベーション を高めることにつながっているかどうか検討したうえで、間違い訂正以外のフィード バックについても工夫する必要を感じた。

9.2 Extensive writingの量に関する課題

この実践で中心的に用いた10-minute writingを含め、自己紹介や、英語での筆談な ど、英語で書くことをコミュニケーションの道具として、アウトプット活動を行った。

しかし、これらの活動を合わせて、extensive と呼ぶには、書いた総量は少なすぎる。

とは言え、わずかこれだけの練習量の増加でも、学力中位の平均的高校生において、

ライティング力が伸びる可能性が示された。時間的にも、カリキュラム的にも、また、

1クラスの生徒の人数や、1人の教師が担当する生徒の総数的にも、高等学校では様々 な制約や制限がある。教室内でできる活動として、週に1度、10分間は無理のない範 囲での取り組みである。Extensive writingの第一歩として、10-minute writingの取り組 みを推進して行くことは、高等学校での現状を踏まえた、現実的な改善策になると考 える。今後、学年の違いや、教科の特性、教室の外の活動なども考慮して、英文を書 く総量を増やすために、更にどういった活動が考えられるか検討の必要がある。

9.3 文法的正確さにおける課題

今回の実践で、10-minute writingの練習を取り入れたグループの方が、既習の文法事 項をより多く取り入れたことにより、英文を書くことに対し、「間違ったらどうしよう」、

「英語が通じるのだろうか」といった不安を取り除くことにも、10-minute writingは一 定の成果を上げたと判断し得た。しかし、授業中の10分間、文法の定着を念頭に置き ながら、与えたトピックで作文を書かせるというだけでは、文法的正確さの向上につ いての効果を期待するのは難しい。「言葉の通じることが嬉しい」という言語学習の喜 びを感じた先に、より正確な、より深いコミュニケーションを図りたいという強い意 欲を生徒の中に育てるには、新たな工夫が求められるであろう。より良いコミュニケ

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ーションのためには語彙や文法が必要であるのは言うまでもない。トップダウン型の 練習、ボトムアップ型の練習の両方向がバランスよく働く必要がある。どれだけ正し いインプットが行われようが、アウトプットでは間違いが生じる。アウトプットでの 間違いをどのように内省し、正しい言語の習得、あるいは定着を図るかが鍵になるだ ろうが、そこには、まず、生徒側の、正しい英語を身につけたいという意欲、強いモ ティベーションが必要となる。教師は、最初から、正しい英語を使えるようになりた い、という強い意欲を持った生徒ばかりが教室に坐っている訳ではないという現実を 踏まえ、効果的な教授方法や授業の方策、フィードバックの在り方について検討する べきである。

Extensive writingの目的は、文法力の強化ではない。今回、より多く書かせることで、

総合的な書く力は伸び、既習文法を使おうという意欲も伸びたと判断できる結果を得 た。しかし、初級、中級レベルの生徒にとって、文法的正確さを身に着けることは重 要な課題の一つである。流暢さに重きを置くことで、正確さへの支障が出ないか、検 討の必要がある。これについては次章で検討したい。

54 第510 minute writingの文法への影響

1. はじめに

第1章で述べたように、高等学校におけるライティング指導は、従来、和文英訳の 練習を通じた文法の定着に時間をかけることが多かった。平成21年に告示された指導 要領の改訂で、「ライティング」と、聞く・話す技能を育成する目的の「オーラル・コ ミュニケーション」が統合され、「英語表現」という教科が作られたが、「英語表現」

の教科書のレッスンやユニットは、文法の説明、文法項目の練習、会話練習、エッセ イ課題から構成されたものが多く、授業も文法事項を中心に教えられることも多い。

中井(2014)は、8社の「英語表現Ⅰ」の教科書を調べ、その練習問題の多くが「『並 べ替え』、『和文英訳に準じる問題』など多くは正解を求める文法理解トレーニング型 の問題」であり、こうした「仕組まれた表現活動」により、「生徒は常に正解を求める ようになるのではないか」と問題提起している。アウトプット重視と言いながら、生 徒が伝えたいことを表現するために行うライティングではない。コミュニケーション 力育成の観点からすれば、ライティングを文法の学習だけで終わらせるのではなく、

伝えたいことを適切に表現できる意欲・能力を育成することが重要であると考える。

そのためには、実際に書く活動こそ推奨されなければならない。

しかし、長年、正しい英文を再生する事がライティングの中心活動であったために、

自由に書かせると文法的誤りが化石化するのではないか、ということがしばしば問題 とされる。多くの教師は、文法や語法、語彙選択の誤りに気付かせるために、自由作 文にフィードバックを行っている。滋賀県の教員に行った「英語表現の指導に関する アンケート」(小見山, 2018)でも、エッセイ課題へのフィードバックは、内容に対す る感想よりも誤りの訂正を行う教員が多かった。しかし、誤り訂正のフィードバック の効果について、Truscott(1996)は、多くの教師がエネルギーを費やす誤りの訂正は、

むしろ有害であると断じ、Ferris(1999)は文法訂正の有効性を主張しているように、

何に対してどのようなフィードバックが効果的なのかについての結論は未だに出され ていない。また仮に、間違いを訂正するフィードバックが文法的正確さの習得に効果 が高いのだとしても、高等学校教員にとって、生徒の書いたもの全てを添削すること は、教員の力量からも、時間的制約からも難しい。訂正や添削の時間を確保するため に、他の教育活動や教材準備を犠牲にしなければならないという別の問題が生じてく る。正しく書かせたい、という教育目的に過度に偏ってしまうと、高等学校の教育現 場では、指導にも成果が表れるにも、時間のかかる自由作文やテーマ作文などのエッ セイ・ライティングはますます敬遠されてしまうだろう。そこで、間違いの訂正とい うフィードバックを受けない10-minute writing活動では、文法にどのような影響を与 えるのかに注目して実験を行った。前章では、実験参加者も少なく、文法については 使用項目数の調査だけに終わり、文法の難易度を含めての比較ができていない。この