各グループ内で指導前後の総使用単語数は、グループAでは60.06から63.28、グル ープBでは59.70から63.88、グループCでは47.48から65.15、グループDでは63.45
から60.49に変化し、学年平均では59.28から62.92へと、わずかに増えた。何らかの
書く練習を行った処置群では、総使用単語数、異語数、1文当たりに使用した単語数、
語彙点、構成・展開点はわずかに伸び、意見を書ける割合もわずかに増えたが、統制 群であったグループDでは、1文当たりに使用する語がわずかに増えたが、他の項目 では、いずれもポストテストの点数はプレテストの点数をわずかに下回った。これは、
成績上位者と、プレテストで何も書けなかった生徒を除き、より均一な集団として抽 出したサンプルを使った分析でも、ほぼ同様の結果であった。実験1でのグループ間 比較においては、10-minute writingを行ったグループA、復文練習を行ったグループB、 両方を行ったグループC、継続的なライティング活動を行わなかったグループDの間 には、総使用単語数、文数、1 文当たりに使用した単語数、語彙点、構成・展開点に おいて、統計的に有意な差は現れなかった。これらの結果に基づき、仮説(1) の
「10-minute writingは復文練習に比べ単位時間に書く量は増える」に基づいて、グルー
プAとグループBを比較した。
実験1の指導前後に用いたGTEC for STUDENTSのライティング問題は20分間のテ ストであった。グループ内の変化で、グループAは総使用単語数の効果量の大きさは
小(r =.141)、異語数の効果量の大きさは無(r =.083)、文数の効果量の大きさは無(r
=.005)、1文当たりに使用した単語数の効果量の大きさは中(r = .322)、グループBは、
総使用単語数の効果量の大きさは小(r =.180)、異語数の効果量の大きさは小(r =.198)、
文数の効果量の大きさは小(r =.174)、1文当たりに使用した単語数の効果量の大きさ
は中(r = .390)であり、それぞれ伸びが見られた。しかし、グループAとグループB
の指導前後の伸びをグループ間比較すると、両者にはほぼ差が見られなかった(総使 用単語数r =.017, 異語数r =.114, 文数r =.014, 1文当たりに使用した単語数r =.016)。
従って、10-minute writing練習は、復文練習と比べて、英文を単位時間内に多く書ける
ようになると考えた仮説(1) は否定された。グループAもグループBも、統制群と比 べると、効果量での差が見られたので、方法によらず、継続的に何らかの意味のまと まった英文を書く練習をすることには効果があったと言えるだろう。しかし、この実 験において、高校1年生が20分間で書く量を伸ばす上で、練習方法としての10-minute
writingと復文練習の間に違いは生じなかった。
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表6-17 グループAとグループBの使用語数の平均(n=38)
群 n テスト 総単語数 異語数 文数 語数/文数
A 38 pre score 54.66 30.71 7.32 7.83
SD 29.67 12.28 4.03 2.48
post score 60.03 30.74 7.42 8.46
SD 27.79 10.45 3.68 2.32
B 38 pre score 57.34 31.87 7.82 7.49
SD 26.42 10.75 3.59 1.74
post score 59.61 32.84 7.24 8.24
SD 24.22 10.18 2.82 1.31
表6-18 指導前のグループAとグループBの使用語数の比較(n=38)
総単語数 異語数 文数 語数/文数
U 658.500 684.000 658.000 699.000
Z .660 .395 .668 .239
p .509 .693 .504 .811
r .076 .013 .077 .028
効果量 無 無 無 無
表6-19 指導後のグループAとグループBの使用語数の比較(n=38)
総単語数 異語数 文数 語数/文数
U 708.500 627.000 711.000 709.000
Z .140 .988 .115 .135
p .884 .323 .909 .893
r .017 .114 .014 .016
効果量 無 小 無 無
第 4章の、「ライティング」を選択した高校 3 年生の参加した実験では、10-minute
writingの練習群と、小テストを行った群の比較において、10-minute writing練習群の
総使用語数の伸びは効果量の大きさが大(r =.515)であった。この結果と比べると、
ここでの10-minute writingの処置群と統制群の使用総単語数の効果量の差は小(r =.228)
であり、伸びが少なかった。この2つの実験における違いは、参加者の学年と、測定 に用いたテストの種類である。Muller(2014)は、流暢さの伸びには学年が関係する と考えた。日本人の、国立高等専門学校の1年生に試みたfree writingでは、活動に対 する生徒の評判は良かったものの、書くスピードが最終的に伸びず、同じ活動を高校 3 年生の生徒に試みたところ、書くスピードが速くなった。Muller は、この違いの一
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因は、学年による基礎的な英語力の差があるとした。第 4 章で比較した高校 3 年生の 2グ ル ー プ で は 流 暢 さ の 差 が 大 き く 、 今 回 の 高 校1年 生 の 間 で 行 っ た 実 験 で は 、
10-minute writing を行ったグループ A に、総使用単語数が増える形での流暢さが顕著
に見られなかったというのは、Muller の推測を裏付けていると言えるだろう。
しかし、GTEC for STUDENTS が、20 分間の能力テストとして行われたため、参加者 の意識は、20 分間にできるだけ多く書くことより、できるだけ正確に書こうとしたので はないかとも考えられる。これは、Herder and King(2012)の、10minute writing の成果 を学力別に分析した結果、学力の高いものはより複雑な文構造へ、学力低位の物は流暢 さから正確さへ、自然と向かっていったと報告されていることと関連が見られる。第 5
章で、10-minute writing 練習群であったグループ A は、文法点の指導前後の効果量が
中(r =.329)であったが、復文練習群のグループ B では、文法点の指導前後の効果量
は無(r =.089)であったことが確認されている。ここでの実験参加者は高校 1 年生で
あり、Herder and King の高校 3 年生に対する分類に照らすと、学力は低いグループに相
当するであろう。彼らが分析した通り、グループAは、学力の低いグループが10-minute
writingを練習したことになり、流暢さから正確さへと向かう段階にあったかもしれない。
単位時間に書く量が増えたという点で、最も効果を上げたのは、10-minute writing と復文練習の両方を行ったグループ Cであり、グループ内での指導前後の効果量の大 きさは大(r =.543)であった。しかし、クラスカル・ワリス検定でグループ間比較を したところ、H(2)=.533、 p=.766 となり、3 つの処置群(グループ A から C)の間に 統計的有意な差はなかった。また、各群をマン・ホイットニー検定で調べると、グル ープ A とグループ B の間の差の効果量はいずれも無であった。総合点、文法点、総使 用単語数のいずれにおいても効果量の大きさでは一番大きかったグループCについて、
両方の練習を取り入れることでなぜ効果が高くなったのか、更に検討が必要である。
次に、仮説(2) の「10-minute writing で語彙は伸びない」について、各グループ内で 指導前後の語彙点の効果量を調べた。語彙点のグループ内比較で、グループ A では r
=.254、グループ B では r =.107 で、ともに効果量の大きさは小であった。両方の練習を
行ったグループC の効果量の大きさの中(r = .434)には及ばなかったが、統制群のグル ープD の、マイナスの効果量の大きさが小(r =.138)であったことと比べると、処置群 の 3 つのグループでは、全て語彙点は伸びた。これら 4 群全ての指導後の結果をクラス カル・ワリス検定で多重比較すると、H(3)=8.524 、p=.036 であり、ボンフェローニで修 正をすると、4 群は有意差のある集団ではなかった。マン・ホイットニー検定でそれぞれ 2 群の差の効果量を測定すると、グループA、グループB の間では効果量の大きさは無(r
=.099)であり、語彙点に関しても、グループ A とグループB に差はみられなかった。ま
た、グループC との間にも差はみられなかった(r=.069)が、グループ Dとの間には効 果量中(r=.266)の差が見られた。語彙点については、書く練習をした3 つのグループで は、練習法によらずある程度伸びたという結果から、仮説(2) は否定され、10-minute
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writing でも、語彙は復文練習群と同程度に伸びることが確認された。
グループAでは、10-minute writingで、自分の考えを表すための語彙を自ら探して
使い、グループBでは、高校1年生の語彙レベルを伸ばすための単語や表現を書く練 習を行った。また、統制群のグループDも同じ教科書を使い、小テストなどで語彙指 導を受けたが、実際に文章を段落として覚えて書いたグループBに比べ、語彙点は伸 びなかった。グループAとグループBでは、書くことに対するアプローチは違うが、
文章を書くという活動が語彙の定着につながっていったのであろう。異語をいくつ使 ったかを比較すると、グループAとグループ Bでは Bの伸びの方が大きく、その差 の効果量は小(r=.114)であった。しかし、復文練習には劣ったものの、10-minute writing でも語彙の伸びる可能性は充分あると考えられる結果であった。
表6-20 グループAとグループBの語彙点の平均(n=38) 群 n テスト 語彙点
A 38 pre score 2.70
SD .76
post score 2.96
SD .61
B 38 pre score 2.67
SD .79
post score 2.77
SD .80
表6-21 指導前のグループAとグループBの語彙点の比較(n=38) 語彙点
U 688.500
Z .360
p .719
r .042
効果量 無
表6-22 指導後のグループAとグループBの語彙点の比較(n=38) 語彙点
U 641.500
Z .860
p .390
r .099
効果量 無
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最後に、仮説(3)の、「10-minute writingは復文練習に比べ、構成・展開の力はつかない」
に関して、構成・展開点を、グループAとグループBで比較すると、平均点はグループ Aが2.28から2.54へ、グループBが2.23から2.36へと伸びた。しかし、グループ内で の指導前後の伸びに対する効果量の大きさは、グループAでは小(r =.179)、グループB
では無(r=.048)であった。マン・ホイットニー検定でグループ間比較をすると、指導前
では効果量は無(r=.028)であったが、指導後は小(r =.106)となり、A群がわずかに伸 びた。仮説(3) では、構成・展開について指導を受けない 10-minute writingは、効果が 出ず、インプットとして段落構成や接続詞・接続語を意識すると期待できた復文練習の 方に効果が現れると考えたが、結果は逆となった。従って、「10-minutewritingは復文練 習に比べ、構成・展開の力はつかない」という仮説は否定された。
表6-23 グループAとグループBの構成・展開点の平均(n=38) 群 n テスト 構成・展開点
A 38 pre score 2.28
SD 1.00
post score 2.54
SD .88
B 38 pre score 2.23
SD .94
post score 2.36
SD .99
表6-24 指導前のグループAとグループBの構成・展開点の比較(n=38) 構成・展開点
U 699.500
Z .239
p .811
r .028
効果量 無
表6-25 指導後のグループAとグループBの構成・展開点の比較(n=38) 構成・展開点
U 635.500
Z .922
p .356
r .106
効果量 小