2.1 「英語教育改善のための英語力調査」から見える課題
2015年12月の中央教育審議会で、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向け
た高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」がまとめ られた。その方針に従って、2020 年度より、「大学入学共通テスト」として大学入試 センターが出題する問題に加え、実用英語技能検定や TOEFLなど 7 種類の外部の資 格・検定試験の結果を受験に生かすことが認められた。
既に、2013年度より高等学校に導入された現行の学習指導要領では、発信力の重要 性を強調し、4 技能にまたがるコミュニケーション力の育成を目標としてきている。
しかし、大学入試センター試験が「読む」、「聞く」の2技能の評価にとどまってきた ことから、多くの場合、高等学校では、「話す」「書く」のアウトプットの技能を指導 する時間の確保に、充分努めてこなかった。
次期学習要領は、2022年度から高等学校に導入されるが、それに先立って 2018年 に発表された「高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編」の中でも、
高等学校の授業においては,依然として外国語によるコミュニケーション能力の育 成を意識した取組,特に「話すこと」及び「書くこと」などの言語活動が適切に行わ れていないこと,「やり取り」や「即興性」を意識した言語活動が十分ではないこと,
読んだことについて意見を述べ合うなど複数の領域を統合した言語活動が適切に行わ れていないことといった課題がある
(第1部 外国語編第1章 総説第2節 外国語科改訂の趣旨及び要点7)
と指摘されている。
4技能の指導に偏りのあることは2014年度より始められた「英語教育改善のための 英語力調査事業報告」の中でも明らかにされている。調査は、中学3年生と高校3年 生を対象に、英語に関する4技能がバランスよく育成されているか調べる目的で行わ れた。これは、4 技能を能力テストとして測定し、また質問紙を用いて、各技能に対
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する生徒と教員の意識を調査するものであった。この調査が始まって以来指摘されて いる問題点が、高等学校の英語教育における「書くこと」、「話すこと」の目標達成率 の低さと、言語活動の不足である。
「英語教育改善のための英語力調査」では、ヨーロッパ言語の使用レベルの指標に 使われるCEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning,
teaching, assessment 外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠)が用い
られている。「平成29年度英語力調査結果(高校3年生)の概要」によると、全国の 高校3年生約6万人を対象に「聞くこと」、「読むこと」、「書くこと」の3技能、また、
そのうちの約1万人に「話すこと」の技能に関する調査を行ったが、高等学校卒業時 での目標であるA2レベル以上の生徒の割合が、「話すこと」では12.9%、「書くこと」
では19.7%で、「読むこと」の33.5%、「聞くこと」の33.6%に比べ、達成率が低い。
A2レベルは、「ごく基本的な個人情報や家族情報、買い物、地元の地理、仕事など、
直接的関係がある領域に関しては、文やよく使われる表現が理解できる。簡単で日常 的な範囲なら、身近で日常の事柄について、単純で直接的な情報交換に応じることが できる」と設定されており、文部科学省は、4技能全てにおいてA2以上の生徒を50%
に引き上げることを当面の目標としている。
「聞くこと」、「読むこと」の技能も高等学校での目標に充分達していないのだが、
全国の6万人の中学3年生に行った「平成29年度英語力調査結果(中学3年生)の概 要」と比較すると、「書くこと」の指導については、特に注意を払うべき分野であると 思われる。それは、中学生への調査では、中学3年生段階で「書くこと」の目標を達 成した生徒の割合が46.8%であり、「聞くこと」の29.1%、「読むこと」の28.8%、「話 すこと」の33.1%に比べ、高い達成率となっているからである。
中学生の達成目標は、日本人学習者の実情に合うように、CEFR のレベルを細分化
したCEFR-Jが用いられ、中学卒業時の目標とされるA1上位レベルは、A1.3とA1.2
に分かれている。それぞれ、「自分の経験について、辞書を用いて、短い文章を書くこ とができる」、「簡単な語や基礎的な表現を用いて、身近なこと(好き嫌い、家族、学 校生活など)について短い文章を書くことができる」と設定されている。このレベル に、中学卒業時には半数近くの中学生が到達し、目標を達成していながら、高等学校 卒業時には、わずか 19.7%の生徒しか目標に到達していない。中学段階から、高校段 階へ移行する中で、目標達成へ向けて、最も難しい分野が「書くこと」であると言え るであろう。
最も、この「英語力調査」の中で用いられた、高校生の「書くこと」の測定には、
意見展開と情報要約問題が用いられ、情報要約問題では、2回読まれる英文(154語)
を要約するという「聞くこと」の技能も必要とされており、中学生に用いられた対話 文完成とテーマ作文という課題とは形式が異なっている。また、平成29年度の調査に
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参加した高校3年生が、中学3年生の時点でどのような「書くこと」の力を持ってい たかについてはデータがない。そのため、単純に両データを比較するわけにはいかな いだろうが、それでも、このデータは、A1からA2への上達は、日本人学習者にとっ て一つの大きな壁になっていることを示していると言えるのではないか。従って、高 等学校の教育では、CEFR-Jで「書く力」のA2.2に設定されている「身の回りの出来 事や趣味、場所、仕事などについて、個人的経験や自分に直接必要のある領域での事 柄であれば、簡単な描写ができる」という能力を養い、次の段階へのステップとする ために、従来の指導に加えて、何らかの手立てをする必要があるのではないかと考え る。
2.2 「『外部検定試験の活用による英語力の検証』報告書」から見える課題
文部科学省が2003年3月に制定した「『英語を使える日本人の育成』のための行動 計画」の中で、2008 年に達成を目指した目標は、「大学を卒業したら、仕事で英語が 使える」技能の育成であり、高等学校卒業段階の目標は「日常的な話題について通常 のコミュニケーションができる(卒業者の平均が実用英語技能検定準2級~2級程度)」
であった。この行動計画は、主にオーラル・コミュニケーション能力を養うことを目 的に設定されたが、2011年6月に外国語能力の向上に関する検討会によってまとめら れた「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」の中で、2008 年度時点の達成状況は、「一定の成果はあったものの、生徒や英語教員に求められる英 語力など、必ずしも目標に十分到達していないものも」あると結論付けられた(p5)。
更に、「『英語を使える日本人の育成』のための行動計画」は、2012 年に『「外部検 定試験の活用による英語力の検証」報告書』により、その成果がまとめられた。この データは、45都道府県、218校の高等学校卒業年の生徒が参加した調査から取られた ものである。調査参加者は、公益財団法人日本英語検定協会による英語能力判定テス トか、株式会社ベネッセコープレーションによる技能検定、GTEC for STUDENTSの いずれかをうけてその平均点を全国平均点と比較された。
前者のテストにおいては、調査参加者の平均点が全国平均を上回り、後者のテスト においては、調査参加者の平均点は全国平均点を下回った。このことから、調査に参 加した生徒は、全国の平均的な高校3年生を代表しているかのように思われがちだが、
後者の調査に用いられたGTEC for STUDENTSを受験している生徒とは、一般受験に より大学への進学を目指している生徒たちである。つまり、この「外部検定試験の活 用による英語力の検証」の統計に用いられた参加者の英語力は、大学受験を念頭に置 いたグループの中では平均をやや下回り、全国的な高等学校の中では上位に位置づけ られるグループと推察できる。
調査参加者による英語能力判定テストの結果を、実用英検に当てはめると、筆記・
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リスニングにおいては32%が英検準2級以上と判定されており、これは2011年度に 行われた、「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」に係る 状況調査」に参加した生徒のうち、英検準2級以上と判定された者の割合である30.4% よりやや高い。しかし2011年度の調査では、どのように実験参加者が抽出されたのか は明らかにされておらず、2012年度の調査が、全国でも平均的な高校生の英語力を反 映したものか、それとも上記で推察したように、全国の高校生のうちでは、やや上位 にいる生徒とみなす方が適切なのかは断定できない。従って、これらの2011年、2012 年の調査結果を高校生全般の平均を表したものと考えるわけにはいかない。しかも、
調査対象校は、統計的に抽出されたものではない。調査校一覧を見れば、対象となっ た218校のうち、かつてのSELHi指定校が28校含まれている。2008年実施の「SELHi に関するアンケート結果集計」から SELHi の成果を判断すれば、教師集団は従来の 英語教育より成果があがったと評価している。このことを思えば、『平成24 年度「外 部検定試験の活用による英語力の検証」報告書』に使用されたデータは、全国平均よ り英語教育に力を入れている学校や、大学進学がカリキュラムとして考慮されている 学校の高校生から得られたものであると理解することが妥当でないかと思われる。
報告書では生徒に対する質問用紙を使った調査も行われた。授業は①ほぼできてい る、②どちらかというとできている、③どちらかといえばできていない、④ほとんど できていない、⑤授業でやったことがないと思う、の5段階で評価された。それによ り、「まとまった英文を書く体験」が「ほぼできている」または「どちらかといえばで きている」と回答した高校生は合計 35%、「和文英訳」が授業で「ほぼできている」
または「どちらかといえばできている」と回答した割合は合計37%であった。
○授業の中で出来ていないと思う活動のうち、主なものは以下の通りである。
・和文英訳(約60%)
・ライティング(エッセイなど、ある程度まとまりのある英作文)(約59%)
○授業でやったことがないと思うという回答が多かった活動は以下の通りである。
(文部科学省:平成24 年度「外部検定試験の活用による英語力の検証」p57) この調査は、全国の平均的な高等学校より、英語教育に力を入れている集団に対し て行われた。それにもかかわらず、writingへの取り組みがこのように弱かったことを 示している。
この内容は、その後、前述した「英語力調査」に引き継がれていくが、2015年、2017 年の質問で、「第2学年での英語の授業では、聞いたり読んだりしたことについて、そ の内容を英語で書いてまとめたり自分の考えを英語で書いたりしていたと思います か。」という問いに対して、「③どちらかといえば、そう思わない」「④そう思わない」