3.1 ライティング・フルエンシーへの注目
従来、高等学校の英語の授業でのライティング活動は、1 文単位の和文英訳が中心 であった。未だに、「英語表現」の授業は文法中心で、学習直後に、ターゲットとなる 文法を使った整序問題や穴埋め作文を復習として行うだけで、まとまった文章を書く 練習をさせる教師は多くない(小見山, 2018)。正しく英語を使えるようになるために、
語彙、文法からの積み上げは重要であり、まとまった文章を書く前に、まず1文単位 で練習をする、というボトムアップは重要である。しかし、表現活動においては、間 違ってもよい、間違いが起きる方が普通だ、ということを体感することも重要である。
「話す」ことの指導では、自由会話で逐一間違いを訂正するよりも、会話を続ける方 が重要であるという考え方も浸透してきたようであるが、「書く」ことにおいては、流 暢さより正確さが重視されている。しかし、「書く」指導を文法から始め、プロダクト に過度に正確さを求めると、ライティング作品は、文法上の間違いを避けるための平 易な作文で終わってしまうかもしれない。4 技能型の大学入試問題が、今後どのよう に推移していくのかは予測できないが、ライティング活動が、入試対策のためのテン プレートに従って単語を並べる作業になるのでは、目的とする発信力の育成にはつな がらない。間違いを正すから間違いを恐れるのだ、とまでは言い切れないが、流暢さ を抑制するほどまでに正確さを求めるのは、どの技能の伸長においても妨げとなる。
ライティングにも流暢さの観点を持ち込むことで、正確さを過度に求めがちな「書く」
技能において、バランスのよい指導が可能になり得ると考えられるので、特に指導者 は意識しておく必要があると考える。
3.2 Extensive writingの勧め
Extensive writingは、大学入試のためのライティング技術の練習を目的としているの
ではない。Extensive Readingは、英語を情報伝達の媒体とし、本を読むことで得られ る知識や情報が、つまり読書そのものが楽しくなるようなアプローチとして提言され た(Day and Bamford 1988)。同様に、extensive writingでは、英語を手段として、読み手
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に効果的に何かを伝えることや、読み手との間に意思疎通を図ることが楽しくなるよ うなアプローチとして、教育活動に用いることを提案したい。英語をコミュニケーシ ョンの道具として使うことで、「英語」は学校で習う教科ではなく実用性を持った言葉 となる。Extensive reading にもextensive writingにも「読む」技能、「書く」技能を伸 ばす上で、即効性の成果を期待するものではない。いわば、漢方薬のように、基礎体 力づくりをすることが狙いである。英語を道具として用いるということは、書きたい ことを書く、意図することを伝えるという、コミュニケーションへの前向きな態度の 育成ともつながっていなければならない。文法を通して言語の機能面を学習するだけ でなく、言葉本来の持つコミュニケーションの道具としての役割を実践練習を通して 知り、英語の技能の根底に土台として築かれるような、幅広いライティング指導が望 まれる。
3.3 授業で行う10-minute writing
Extensive writingを授業に取り入れる最も簡単なアプローチとして、10-minute writing の活用を提案したい。これは、可能な時に、可能な範囲で、10分程度の時間をライテ ィング実践に向けることを基本とする活動である。40名のクラスで、教師が生徒のス ピーキング活動を観察するのは難しい。しかし、ライティングなら、作品を通して、
個々の生徒と直接コミュニケーションが図れる。生徒の側でも、発信までに準備がで き、発信をモニタリングすることができ、学習の過程を記録することができる。まと まった文章を書く機会のない生徒にとっては、このわずかな時間でも、コミュニケー ションにつながるextensive writingの活動として効果が現れた。教科書での進度と独立 した活動にすれば、系統的な活動として学期や年間を通して行うこともでき、また、
10分さえあれば、いつ行ってもいいという流動的な側面もある。その時々の定着を確 認する目的で行われる文法の小テストや、単語テスト等の活動と組み合わせれば、お 互いが補完しあって効果を上げることも期待できる。評価の方法も、内容へのコメン トだけとするならば、小テストの採点と記録にかかる時間と比べ、短くなる場合もあ るだろう。また、内容へのコメントには、教師による差が出るのがコミュニケーショ ンとして自然であるので、学年で統一した基準を設ける必要はない。一斉に取り組ん でも、授業担当者が単独で取り入れても、どちらも無理のない指導方法と考えられる。
トピックの選定が生徒の意欲を左右するが、目の前の生徒に合わせて、その場でトピ ックを決めることもでき、自由度の高い取り組みが可能である。生徒に辞書を使わせ ると、10分を持て余す生徒は出なくなり、机間巡視をすれば、英文での表現が難しい 生徒に個別指導もできる。ノートに使用単語数を記録すると、学習者の進歩が可視化 でき、取り組みの最初と最後を比べることで、学習の成果がわかる。一般に、ライテ ィング指導への不安として挙げられる、成果が現れにくく、モティベーションを保つ のが難しい、生徒にも教師にも時間がないという問題に対し、一つの対応策として、
150 教室内活動の10-minute writingを提案したい。
3.4 宿題を活用したextensive writing
宿題は、個人の取り組み方によって、効果に大きな差が出てくる。教室外の取り組 みをデータとして取り上げたのは、第7章のケース・スタディであるが、3 年生であ ったこと、元々、その集団の中では英語力が高いと判断されるグループに属していた ことから、どの生徒も一定、まじめに課題に取り組み、指示したわけではなかったの に、より長い文、より詳しい説明を書こうとした形跡、傾向が見られた。11回の課題 であったが、取り上げたケースの中には、提出が11回に満たなかった者もいた。ライ ティングの宿題は、学力の高いものにとっては刺激になり得るが、成績下位の者にと っては、負担の大きい場合もある。高校3年生での取り組みでは、成績下位の者でも 積極的に取り組むものも多く、プラスの効果はあったと考えられるが、締め切り前に まとめて提出する者もいた。宿題としての取り組みには、誰にとっても提出可能な量、
継続的に取り組める内容であることが重要で、かつ、動機を継続させる工夫が必要で ある。内容に対するコメントや、定期考査を動機づけとして利用することも、一つの 方策として有効であった。
過去に取り組んだ、教室外でのExtensive Writingを記録しておく。
(1) Book Report 2年生 選択教科「英文講読」
Extensive readingと合わせて、読んだ本の感想を短い英文で書かせる。好きな表現を書
き留める。
(2) Writing Marathon 3年生 選択必修「英語表現Ⅱ」
好きな時に、あらかじめ選んでおいたテーマの中から、好きな順番で書いていく。自 分で書きたいテーマで書いてもよい。
(3) 週末課題 1年生
毎週末、文法課題の1枚プリントで「英語表現Ⅰ」の復習を行う課題のうち、隔週で、
課題作文のコーナーを作った。テーマは「コミュニケーション英語Ⅰ」と関連のある ものから選び、教科書の表現を参考にして取り組めるようにした。
(1)、 (2) の活動は、加点評価として成績に加えた。取り組んだ生徒たちは、もとも
と、モティベーションや表現意欲の高い生徒たちであったため、全員が良く取り組み、
提出率も高かった。(3) では、1回目の提出課題では、各クラス40人中に3名から5 名、該当の問題を白紙のままで出す生徒がいたが、学年度末までには、3 文程度の英 語を、ほぼ全員の生徒が書くようになった。定期考査に類似の問題を出題したことで、
取り組みへのモティベーションが上がったと考えられる。
授業外の活動の利点は、生徒は納得のいくまで時間をかけて課題に取り組めること である。そのことにより、授業内活動よりも書く量を増やすことができる。また、
10-minute writingでは、授業時間を無駄なく活用するためは、授業者がトピックを与え
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る方が良いと思われるが、宿題なら生徒自らに書きたいことを考えさせることもでき る。興味関心のあることを表現することで、アウトプットへのモティベーションを高 めることに繋げられる。しかし、いきなり宿題とすると生徒はどのように取り組めば いいかわからず、不安になる。夏休みなど、長期休暇に英作文を宿題とする学校もあ るが(小見山、2018)、その際には、事前の指導を行って、生徒の英作文に対するイメ ージが「難しい」「何を書いていいかわからない」のままで固定することの無いように 注意することが必要であろう。宿題を与える方法や時期について、充分検討した上で 活用するならば、授業中の取り組みより更に大きな効果が期待できると考える。