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スルガ銀行の組織規程上においては、支店長は営業店所属長と呼ばれている。ただし、

この規程の呼び方は必ずしも徹底されておらず、特にパーソナル・バンクにおいてはセ ンター長と呼ばれることも多い。

また、コミュニティ・バンクにおいては、一定の地域に所在する複数の支店を束ねて ブロックと呼んでおり、所属長の上位者として、このブロックの責任者としてのブロッ ク長が配置されている。ただし、ブロック長は所属長が兼ねることもある。

これに対して、パーソナル・バンクにおいてはブロック(長)という概念は存在しな い。その代わりに、首都圏の営業店を束ねる首都圏営業部と、それ以外の営業店を束ね る広域営業部という区分けがされている。

また、首都圏営業部の中には、首都圏営業と呼ばれる部署がある。この部署は、首都 圏の営業店を束ねる本部機能としての首都圏営業部とは別に、いわば首都圏営業部の直 轄の営業部隊として設けられている。このグループは、2016年3月以前は特別推進チー ムと呼ばれていたため、行内では「特推」と呼ばれるのが通例となっている(そのため、

本調査報告書でも、首都圏営業部と区別をするために、この首都圏営業のチームを「特 推」と表現することがある。)。

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したがって、この部署の部長(首都圏営業部部長。特推のリーダー)は、実質的には 所属長と同様の職掌を担っている(なお首都圏営業は2017年9月には旧DP日本橋と統 合されている。)。これに対して本部機能としての首都圏営業部の部長は首都圏営業部長 と呼ばれる。

組織規程上、所属長の業務は次の通りとされている。

① 副支店長以下を指揮統括し、支店の運営、管理に全責任を負う。

② 支店における経営方針並びにマーケティングを確立する。

③ 本部の経営方針を実践し、目標を設定し達成することにより業績の向上に努める。

④ リスク管理の徹底、収益管理の徹底を図る。

⑤ 人事管理、部下育成及び自己の徳性、識見、知識の涵養に努める。

⑥ 業務精度の向上、お客さまサービスの充実、信用の維持・増大に努める。

⑦ 企業を育成し、地域に貢献する。

(2) 支店長の権限

融資業務については、所属長(首都圏営業部部長を含む。)による専決事項は存在せず、

原則として審査部による本部決裁が必要とされている。ただし、各店から本部決裁に稟 議を申請する前には、融資申込案件について所属長に報告し、店内協議を行うこととさ れており、所属長が稟議を申請しないことを決定した場合には、融資は実行されない。

このほか金銭支出権限でいえば、所属長の専決事項として認められているのは、1万円 以下の寄附行為に関する事項や、3万円以下の営業店経費に関する事項である。

所属長には、これら以外に、支店の窓口業務における一定の裁量もある。例えば、異 例な預金の払い出しの決裁については、所属長が是非を判断していた。

(3) 支店長の義務

所属長の業務は、支店における労務管理(時間外労働の承認等)や支店業務(預金・

為替等)の運営・管理が中心である。

また、融資業務においては、上記のように所属長は本部決裁の稟議申請前の店内協議 を実施することのほか、収益不動産ローンにおける金融資産確認資料(具体的には、預 金通帳など)、所得確認資料のうち源泉徴収票、勤務先概要等の確認は所属長の責任にお いて各支店限りで実施することとされていた。

金融資産確認資料等の確認を所属長の責任により各支店限りで実施する制度は、2014 年5月29日に通告され、2014年6月2日の申請分より適用されたものである。それ以前 は、こうした資料も稟議関係書類として審査部に送付することとされていたが、この改 正によって金融資産確認資料等に関する審査手続が簡素化され、所属長の責任のもと各

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なお、初めて所属長となる者は新任支店長研修と呼ばれる研修を受けることとされて いたが、研修は 1日か 2 日程度で、労務管理や支店で使用するシステムの使い方の説明 等が中心であった。

(4) 支店長における情報共有

スルガ銀行において、所属長に対する行員からの報告義務を定めた規程は存在してい ない。そのため、各行員から所属長に対する業務相談も、支店によって、また所属長に よってまちまちなのが実態である。

例えば、行員に対して、チャネルから物件の情報が来た段階で全件相談をさせている 所属長もあれば、融資業務の経験豊富な行員に基本的に営業を委ね、稟議の段階で初め て個別の案件を目にする所属長もいる。

ただし、多くの支店で、支店全体における営業の状況を可視化するため、案件表(案 件管理表)と呼ばれる個別の融資案件についての整理表のようなものを作成していた。

案件表では、担当する行員のほか、商品の属性、債務者の氏名・勤務先、物件の所在地 といった融資案件の概要が記載されるほか、案件の状況(申請中、承認済み、実行予定 日等)も記載される。これにより、その月における融資の実行金額が支店全体でどの程 度まで到達しているか(裏を返せば、ノルマを達成するにはあとどれくらいの実行金額 が必要であるか)を支店全体で共有できるようになっていた。

上記のように、融資業務については案件管理表等を用いた情報共有が行われていたが、

それを超えた業務全般の状況については、少なくとも統一的なルールは存在しなかった。

一般的に多くの会社で取り入れられている業務日報についても、スルガ銀行において取 り入れている所属長は一部に留まっていた。

同様に、支店内での会議や情報共有についても、特に決まったルールはなく、朝礼で 共有をしているケースもあれば、また一部の規模の小さい支店では、必要に応じてその 都度口頭で所属長が指示をすることにより情報を共有していた。

(5) 支店長と営業本部の情報共有

首都圏の各所属長と営業本部(パーソナル・バンク)の情報共有は、主としてセンタ ー長会議と呼ばれる会議で行われていた。センター長会議は、時期によって毎週又は隔 週で開催されており(広域の所属長を含むパーソナル・バンクの全てのセンター長を集 めた会議は月に1回)、そこで各支店の営業状況の進捗報告並びに本部からの営業目標の 提示及び重点的な営業施策の指示等が行われていた。

例えば、クロスセルの徹底(有担保ローンの申込みに際して、無担保ローンの申込み

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や火災保険の加入についても提案すること)などはセンター長会議においても本部から の申し渡し事項として所属長に通達されていた。

このセンター長会議で、営業成績が振るわない支店の所属長は、パーソナル・バンク の幹部(麻生氏をはじめとする執行役員等)から叱責されていた。

行員アンケートにおいても、所属長経験者から、センター長会議において本部から「そ んな数字では(報告は)受け取れない」「無理やりでも数字を作れ」「目標達成できない のであれば(所属長が)存在する必要がない」といった反応をされるほか、「会議に出る 時間があれば営業をしてこい」などといわれて所属長が退席させられることや、会議へ の出席を認められずにコールセンターで若手の行員と一緒にテレマーケティングをさせ られるといったことも行われていた旨の回答が寄せられている。

さらに、所属長は、毎月の中間時点で当該月の中間報告を、また月末の前営業日にお いては前日報告を、さらに毎月の最終営業日においては月末報告を本部に対して行うこ ととされており、その都度、その時点での融資の実行状況について報告する運用となっ ていた。

以上に加えて、一部の所属長に対しては、営業本部から、上記のようなセンター長会 議や各種報告といった定期的な連絡以外にも個別に営業成績の報告の督促が寄せられて いた。

当委員会のフォレンジック調査においても、営業本部から所属長に対して、月曜日の 午前中に本部から予算達成率 40%以下の支店の所属長に「週末手を打ったのか?土日の 活動結果を報告せよ」といったメールや、「獲得できないままで終わるな」「各店とも実 行ゼロは不可」といった檄を飛ばすメールが検出された。

結果的に、首都圏営業部の所属長は、週次での会議に加えてこうした会議外での報告 も重なり、数日に一回は融資実行状況について営業本部に情報を上げるという体制とな っていた。

なお、上記は所属長全般と営業本部の情報共有方法であるが、これ以外に、横浜東口 支店においては、麻生氏が毎週水曜日の夕方以降に同支店を訪れ、同支店の所属長や、

湘南カスタマーセンター及び湘南ハウジングローンセンターから個別の案件の相談や営 業目標の相談を行っていた。これは非公式な会議であるが、横浜東口支店では、この会 議で麻生氏から承認を受けた案件については、審査部に稟議を申請するに際して、「パー ソナル・バンク協議済み」という記載を稟議書に記載していた。