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(1) チャネルの意義

スルガ銀行において、実需の商品であるか収益不動産ローンであるかを問わず、「チャ ネル」の存在は非常に重要である。

「チャネル」の定義は必ずしも明確でないが、一般的には借入人となる投資家に対し て勧誘を行い、投資家との間で不動産の販売に関する契約を締結する者が念頭に置かれ ている。例えば単純な仲介として売主と投資家の間に立つ業者がいる事例であれば当該 仲介業者がチャネルであるし、売主と投資家との間で、(仲介ではなく)売主から買取を

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した上で投資家に転売31する業者がいる事例であれば当該転売業者(第三者のためにする 契約を締結する業者であることから、三為(さんため)業者と呼ばれる。)がチャネルと なる。

しかし、不動産取引が複雑化し、不動産を探してくる業者と、投資家に勧誘をする業 者が別れるような場合には、売主と投資家の間に 2 つの業者が介在することになる。こ の場合に、投資家に勧誘をする業者(スルガ銀行では「客付業者」と呼ばれていた。)が チャネルに該当するという一般的な理解はあっても、不動産を探してくる業者(スルガ 銀行では「物元業者」「物出業者」と呼ばれていた。)がチャネルに該当するか否かは、

明確な決まりがなく、行員の間でも理解が分かれていた32

(2) チャネルの登録ルール

上記の通り、チャネルは不動産を購入する投資家(すなわちスルガ銀行からするとロ ーンを借りてくれる者)を見つけてくれる存在であるから、営業展開にとって重要なパ ートナーと位置づけられており、スルガ銀行としてもチャネルとのリレーションの確立 は重要な営業上の課題と認識していた。

こうした背景もあって、スルガ銀行は2008年6月2日に、チャネル版のCRMシステ ム(「チャネルPRM」)を稼働させた。当時、このチャネルPRMの狙いは、下記のような 点にあると通達された。

①営業担当者がチャネル情報を蓄積していくことで、自身や自店舗のチャネル情報を 一覧表示でき、チャネル管理が行いやすくなる。

②チャネル情報や訪問履歴を蓄積・活用することで、効率的な訪問頻度・有効面談を 目指すことができる。

③各営業店・個人において条件を指定することで自由検出でき、きめ細かい営業アプ ローチを行うことができる。

④ハウスメーカー、マンション業者といった業態別のニーズにマッチした DM を送付 するなどの的確なアプローチが可能となる。

⑤チャネルの名寄せ/分離を行うことでチャネル情報の精度向上が可能となる。

ところが、2008年6月2日の稼働開始の通告においては、アプリケーションとしての チャネルPRMの使い方のマニュアルは周知され、会社名・住所・電話番号等の基本情報 の登録方法や、チャネルを訪れた際の訪問日誌の登録方法は通知されたものの、営業部 門がどのような場合にチャネルPRMで登録をすべきなのか、訪問日誌等でどのような情 報を登録すべきなのかといった点については、もともとチャネルPRMが信用調査のツー

31 もっとも、売主と業者との間では第三者のためにする契約の形式で買取が行われ、不動産の所有権は売 主から投資家に直接移転するので、「転売」という表現は厳密に言えば正しくない。

32 実際、案件を行内で検討する際のSSPシートにおいても、従来は客付業者のみが記載されていたが、2017 5月以降に、物元業者についても記載する欄が設けられた。

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ルという趣旨ではなく営業推進のツールとして稼働したものであったこともあり、特段 のルールは設けられなかった。

そのため、上記 1 で述べた、そもそものチャネルの意義が不明確であるという問題と あいまって、チャネルPRMでの登録は徹底されたものにならなかった。特にサブリース 業者については、客付業者でも物元業者でもないことから、チャネルPRMに登録する理 由が外形的にも存在しなかった。

例えば、シェアハウスローンでいえばスマートライフは、当初東京シェアハウスとい う商号の段階で2013年3月22日にチャネルPRMに登録されたが、その後にスマートラ イフと商号を変更した際に、チャネルPRM上で当該商号変更は反映されなかった。

そのため、スルガ銀行では、長い間スマートライフについて、チャネルPRM上で取扱 いがない(したがって取引も無い)業者であるという誤解を生む状況が続いていた。

(3) 不芳情報の登録の仕様

ところで、チャネル PRM においては、稼働当初から、「不良情報」という情報を登録 することが可能な仕様となっていた。この不良情報には「書類偽造」「顧客属性の偽り」

「金額虚偽、物件瑕疵」「チャネル先所在不審」といったプルダウンメニューがあった。

これは、裏を返せば2008年当時、既にスルガ銀行が、このような不良行為を行うチャネ ルの存在を認識していたことを意味する。

しかし、この不良情報の登録についても特段のルールが定められていなかったため、

チャネルPRMへの登録については統一された取扱いは行われなかった。

さらに、チャネルPRM上には不良情報のコメントとは別に「審査部不良情報コメント」

という欄があり、審査部は当該欄に、審査部だけが閲覧できるコメントを登録すること ができた。そのため、審査部は不良行為を行った業者のチャネルPRMの「審査部不良情 報コメント」欄に、不良行為の内容及び取引中止とする旨を記載することができた33。 ただし、当然ながらそのような記載がされるのは、審査部が不良行為に気付いたチャ

ネルに限られるから、審査部が不良行為に気付く前に営業店が当該チャネルに是正を促 す(又は審査部に気付かれないような偽装を教唆する)場合には、審査部による取引中 止のコメントの記載は行われることが期待できなかった。

なお、仮に審査部によってこのようなコメントが登録された場合には、審査部の担当 者がアクセスした場合にはコメントがそのまま閲覧できるが、営業店の担当者がアクセ スした場合にはコメントそのものは表示されず、代わりに「審査部不良情報コメント」

欄に「***」という画面表示がされる仕様となっていた34。もっとも、営業店の担当者

33 2011年度から2017年度における不良情報が登録されたチャネルに係る登録件数は、それぞれ、3件、3

件、23件、22件、17件、50件、114件である。

34 審査部が何らかの登録をするとそれがアラートとして全営業職員に通知されるような仕組みにはなって いなかった。

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は、この「***」という画面表示があると、審査部が何らかのコメントを当該チャネ ルに行っているという事実は認識することができたため、実際上は、当該画面表示が当 該チャネルとの取引中止(いわゆる「出禁」)を意味することは、営業店の担当者にもよ く知られていた。

(4) 登録ルールの改定

上記のように、チャネルPRMについては、もともと営業推進のツールとして稼働した ものであることもあり、何を登録すべきなのかという肝心のルールがはっきりしない状 況が続いていたが、2013年11月15日に、融資業務の業務手続において、基本事項とし て「融資案件に係る不動産販売業者、仲介業者については、新規取扱時に会社詳細情報 の収集、訪問調査を徹底し、十分な確認をしたうえでチャネルPRMに詳細な情報登録を 行なう」旨が規定された(2013年10月24日の経営会議でこのような改定を行うことが 承認された)。

このルールの改定が行われた背景として、スルガ銀行が2013年2月以降、PA1の販売 をめぐって、いわゆるデート商法による販売勧誘が行われたとして投資家から集団訴訟 を提起される動きが生じており、これを受けてスルガ銀行側としても、従来よりもチャ ネルの管理を厳格にする必要性に迫られたという事情があった。これにより、チャネル PRM は従来の営業推進のツールとしての役割のほかに、チャネルの信用調査のツールと しても用いられることとなった。

しかしながら、このルール改定でも、①対象が「不動産販売業者、仲介業者」に限ら れていたため、物元業者にまで適用されるのかが不明である、②業者の新規取扱時に限 ったルールであり、既に取引がある業者に対して不芳情報がもたらされたような場合に まで適用されるのかが不明であるという問題があり、チャネルPRMに正確な情報が適時 に登録される運用が確立されることにはならなかった。

(5) 反社会的勢力への対応

スルガ銀行においては、反社会的勢力への対応として、「反社会的勢力への対応手続規 程」を定めている。

この中で、N情報先(反社会的勢力ならびに各種犯罪者等)に対しては、取引の未然防 止ならびに排除等(取引の制限を含む)を図るものとされ、かつ、データベース化する ことが義務付けられている。その上で、N情報先の定義には、いわゆる反社会的勢力のほ か、「各種犯罪者」として、①窃盗、強盗、詐欺、恐喝等の犯罪者、②脅迫、強要、暴力 行為等の犯罪者、③その他の犯罪者が列記されている。

さらに、営業店において、地元の風評や顧客との取引状況等から、取引先が N 情報に