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シェアハウスローンは、収益不動産ローン全般に存在していた問題の延長線上にある 融資であり、また、様々な既存の原因が結実した商品であると表現することができる。

まず上記 2 で述べた営業のプレッシャーは、当然シェアハウスローンを実行した多く の行員・支店にとっても同様に当てはまる。特に、シェアハウスローンを多く実行した 支店は、横浜東口支店を別にすると、たまプラーザ支店や川崎支店といった、開店して から歴史の浅い支店が多く、例えば首都圏営業や新宿支店のように収益不動産ローンに ついて多くの実績を挙げていた支店が含まれていない。

この点について、シェアハウスローンを取り扱わなかった支店に所属する者にインタ ビューしたところ、「シェアハウスについては新築でリスクが高いと思ったし、分割実行 をしなければならないから手続も煩瑣だったので、取り上げなかった」との回答を得た。

こうした銀行内での認識からすると、歴史が浅く固定の業者との繋がりが弱い支店が、

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ノルマを達成するために、他の支店が積極的ではなかったシェアハウスローンに乗り出 したという事情が推認できる。

また、上記 3 で述べた効率性指向とチャネルへの依存も、シェアハウスローンでも同 様に当てはまる。

とりわけスマートライフについては、スマートライフが取引停止となって表に名前が 出せない状況下で、チャネル C 社に販売会社の統括的な立場の当事者を設け、効率的に 案件を取り扱うスキームが構成されていた。形式的な書面主義に支配されていた点も同 様で、横浜東口支店では、通常の確認書に加えて、自己資金確認資料についての確認書76 という別途の確認書も徴求して、業者から偽装された書面が提出されるという問題に対 処できるものと整理していた。

上記 4 で述べた業者の管理の不徹底がシェアハウスローンにおいても等しく当てはま ることは、最大のシェアハウスの運営業者であったスマートライフですらチャネル PRM に登録されることがなかったことからも裏付けられる。

以上の通り、シェアハウスローンが発生した主な原因と考えられる要素は、いずれも シェアハウスローンに固有のものというわけではない。収益不動産ローン全般で見られ た数々の問題点がシェアハウスにも等しく合致したことが、現在のような事態が生じて いる原因であると考えられる。

第3 内部監査体制の問題

内部監査のうち、業務監査と臨店監査の実施状況を調査したが、いずれも内部監査規 程等の社内規程を遵守して職務遂行されていること自体は確認できた。

もっとも、いずれの監査も事前に作成した監査計画、監査方針、監査チェックリスト などで特定した項目について形式的かつ事務的な確認をするにとどまり、実質的かつ実 効的な監査が行われていたことは見受けられない。

まず、臨店監査については、収益不動産ローンを活発に推進していた首都圏営業部に も臨店監査が行われているが、同部では極めて多数に及ぶ不正行為があったにもかかわ らず、その兆候がほとんど発見されていない。

たとえば、2015年11 月に実施された首都圏営業部に対する臨店監査報告書では、「融 資業務について、所属長ならびに役席者は、融資関係書類の管理が不徹底であり、適切 な取扱を部下行員に指導・徹底していない。また、担当者は、『業務手続(融資)』等を 十分確認・理解せずに、業務処理を実施している。このため、『預り物件管理表の取扱不 備』、『融資契約書の不適切な保管』および『火災保険の受付・管理不備』等、全般的に 不備が認められ、不十分な水準である。」と指摘されているが、これらの指摘はいずれも

76 これは、債務者が提出した自己資金確認資料について、「原本相違無きこと確約します」という旨を記し た確認書である。

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社内規程等で定められた事務手続の遵守状況を検証するにとどまる。

臨店監査は各営業店における広範な業務の適正性等を監査するものであることから、

各種の事務手続が社内規程を遵守しているか否かの確認にとどまりがちであることは致 し方ない面もある。スルガ銀行においても、そうした指摘を踏まえて、臨店監査と分け て業務監査を導入し、リスクアセスメントに基づく監査計画のもとでの監査を実施して いた。この業務監査が実効的に実施されていれば、極めて多数に及ぶ不正行為をより早 期に発見し、抑止することができた可能性がある。

しかし、2014年~2017年に実施された業務監査の結果を見ても、シェアハウスローン を含む収益不動産ローン全般に蔓延していた不正行為の兆候がほとんど何も指摘されて いない。

たとえば、2016 年度の業務監査では、審査部に対し、信用リスク管理態勢についての 監査がなされており、「個別与信の審査監理部門が十分機能していない」という固有リス クが監査項目として取り上げられている。

この固有リスクについて、監査の前に行われたリスクアセスメント手続のなかで、審 査部が監査部に対し内部統制の概要について「審査部門は、営業推進部門から独立し、

審査部門の担当取締役を営業推進部門等の取締役が兼務していない等、営業推進部門等 の影響を受けない体制となっている。」と回答している。

この回答に対し、監査部は以下の方法で内部統制の検証を行っている。

・ 信用リスク管理規程ならびに組織規程を閲覧

・ 審査部門の独立性ならびに営業推進部門に対する牽制機能の発揮状況について責 任者にヒアリング

そして監査部は検証結果として、「審査部門は、組織上も営業部門から独立しており、

担当役員の兼務もなく、営業推進部門から影響を受けない体制となっている」という結 論を導いている。

しかし実態は、審査部の営業部門からの独立性は全く確保されていない状況にあった。

信用リスク管理の根幹を担う審査部においては、審査部の意見を無視した融資実行、融 資管理部による多数の問題点の把握など、個別与信の審査監理部門が十分機能していな いことを顕著に示す事情が多数存在していたはずである。そうした内部統制の機能不全 の兆候が全く発見されておらず、むしろ担当取締役の兼任者がいないという形式的な根 拠を主な理由として、独立性が確保されているという結論が導かれているのである。実 質的・実効的な監査が行われているとは言い難い。

その他にも、次のような検証結果が要約されており、全般にわたって、社内規程の整 備状況や組織機構などの外形的・事務的な事実のみに着目し、実質的な運用状況の検証 が行われていることを基礎付ける証跡はほとんど見られない。

・ 決裁権限は融資権限規程に明確に定められており、審査第一、審査第二および審査 第三では各権限者による決裁について部長の校閲が行われていた。

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・ 審査第一では、稟議申請時におけるヒアリング等を通して、融資担当者への目利き を含めた指導を行っている。研修においては、全社的研修スケジュールの中で、審 査部が担当する講座について、講師として参加している。

以上の通り、業務監査の実施が事前に作成した監査計画・監査方針・監査チェックリ ストに基づき、社内規程の整備状況などの形式的かつ外形的な確認のみに終始していた ことから、実効的な業務監査が行われず、多数の不正行為や審査の機能不全の兆候が見 過ごされたものと思料される。

実際にも、2014年~2017年に業務監査を行っていた複数の役職員にインタビューした ところ、以下の重要な事象を把握・認識していた役職員は一人もいなかった。

・ 2015年頃から、シェアハウスローンが急増していたこと

・ 収益不動産ローンの融資で、自己資金確認書類やレントロールの偽装が多数存在し ていたこと

・ 融資管理部が副社長と「出口から見た気付き」の会議を開催し、融資管理から見え る融資審査の問題等について多数把握していたこと

・ 審査部によって収益不動産ローンの物件調査が実施されており、シェアハウスロー ンについて2015年9月の時点で多数の物件で空室率が50%程度にとどまると見受 けられたこと

・ 横浜東口支店の実行する収益不動産ローンでは稟議書に「PB 協議済み」と記載さ れ、実効的な審査が行われていなかったこと

・ 審査部による指摘、反対にもかかわらず、営業の意向が優先されて融資実行された 案件が多数に及び、審査部がその形跡を残すために自動審査システム内で融資実行 への疑義を多数記録していたこと

・ 2016年にシェアハウス会議が開催され、シェアハウスローンに特有のリスクが把握 されていたにもかかわらず、ローンの継続が決定されたこと

これらの重要な事実は、多数の審査役が認識していたものであり、業務監査の際に 実質的なヒアリングを行うなどしてその兆候を掴み、経営会議に報告するなどすれば、

より早期に審査の機能不全を改善することができた可能性がある。しかし、これらの 兆候は業務監査で把握されていなかった。

以上の通り、形式的・事務的なチェックリストの確認にとどまったことが、実効的 な監査を阻害したと考えられる。

実効的な監査が行われなかったその他の要因としては、次の点も指摘することがで きる。

① 監査部長に社内の重要な会議体への出席権限が与えられていなかったこと 監査部長は執行会議への参加権限を与えられていたが、スルガ銀行において重要な リスク情報が協議されていたSSP会議、「出口から見た気付き」の会議などの非公式の