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以上のような資産形成ローンに関する規程・通達・事実上のルールに対し、実際の運 用場面では審査には多くの問題があった。

特筆すべきは、審査の問題点が部内でも明確に認識されていたことである。審査部に 属す融資管理部は、延滞債権等の管理(督促、法的措置対応等)等を行っており、融資 審査を「入口」とすれば、延滞事案の回収等を行う「出口」を見る部署であった。その ため、日常的な業務を通じて、多くの延滞事案に共通する問題点が見えてくることが期

- 144 - 待される。

この点に着目した岡野副社長が、融資管理部長と営業企画部長を交えて、「出口から見 た気づき」という会議を定例的に開催していた。この会議の前身は途上管理回収会議で あった。途上管理回収会議は2009年から、首都圏営業部での延滞増加に対処するために スタートした会議であり、当初は副社長のほかに、営業や審査の役職者が複数出席して いた。その後、営業や融資審査の担当者が同席すると忌憚のない議論が難しいのではな いかとの配慮により、岡野副社長、融資管理部長、営業企画部長らの少人数で不定期に 開催することになったのが「出口から見た気づき」の会議である。

「出口」の会議は、岡野副社長が逝去するまでの間、概ね 3 ヶ月に 1回程度の頻度で 開催されていた。融資管理部長から見た印象として、岡野副社長は一方で営業に発破を かけつつ、他方で一定の歯止めも必要だと考えており、そのための情報を得るための方 法として「出口」の会議を活用しようとしていたとのことである。実際にも、岡野副社 長が融資管理部長に対し、「出口」の会議での指摘を踏まえて、PA1の営業推進を縮小さ せる方針に転換した旨、説明したこともあったとのことである。

この会議に議事録は存在せず、会議資料が存在するのみである。以下は融資管理部が 作成していた資料の一部を抜粋したものである。

① 2015年2月6日の「出口から見た気付き(営業軌道修正への提言)」

・ 通帳(自己資金)原本確認の徹底

 架空自己資金の排除

 偽造確認資料の排除

・ 納税確認の徹底

 融資実行後1年以内の差押が散見

⇒資金収支がマイナス

・ 滞納税金ある先への融資の是非

 納税は一過性のものではない

 ⇒翌年度から資金収支がマイナス

・ 地方の一棟収益物件の評価・入居率厳格化

 大都市圏への人口集中による空室増加

 債務者の管理が行き届かない

・ 満室想定での返済比率算出は危険

 概ね賃貸住宅の入居率は90%~70%

・ 家賃保証の罠

 融資期間は25年~35年という長期

 家賃保証は概ね1年~3年で見直し

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 見直し金額は概ね管理会社の一存

・ 歯科医師=即高属性と見るべきか否か

 供給過剰(1980年の約2倍)

 ⇒人口はピークアウト

・ 犯罪歴のある医師への融資の是非

・ 法的破綻経験者への融資の是非

・ 借換対象借入の延滞履歴の重要性を再検討

これらはいずれもシェアハウスローン以外の収益不動産ローンに関するものであるが、

自己資金確認資料の偽装があること、空室リスクが重大リスクとして懸念されること、

返済原資として満室想定賃貸収入の 70%を勘案することの危険性、家賃保証への依存が 不適当であること等、収益不動産ローンのリスクが指摘されている。

② 2015年2月6日の「出口から見た気付き(有担保編)」

・ 満室想定での返済比率算出は危険

 賃貸住宅の概ねの入居率は75%~90%

 入居者チェンジの時には予想外のリフォーム代必要

 多数

・ 家賃保証の罠に嵌らない

 家賃保証は概ね1~3年で見直し

 見直し後の金額は管理会社の言い値

 PA1に多い

・ 三大都市圏以外の収益物件への融資は慎重に

 そもそもの家賃設定が低い

 処分時に多額のロスが発生する可能性が高い

・ 通帳(自己資金)は原本確認を再徹底

 デフォルトに至った案件のほぼ全てが架空や偽造

・ 納税確認は徹底して行なう

 不動産取得税未納での差押が散見される

ここでも、収益不動産ローンにおいて、満室想定での返済原資の算出に危険が伴うこ と、家賃保証は期間限定であり過度に依存すべきでないこと、延滞案件のほぼ全てで自 己資金確認資料が架空・偽造であったことなどの重大なリスクが指摘されている。

③ 2015年2月6日の「出口から見た気付き(入口審査編)」

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・ 現状の年間賃料を大きく上回る賃料保証の妥当性を慎重に検証する

 基本的に有り得ない

 販売価格に上乗せしている可能性が高い

・ 家賃保証契約の内容を検証する必要あり

 オーナーの意向では解約できない契約や保証額の随時変更が保証会社の一存で変 更できる契約も散見される

 PA1に多い⇒処分時に買手が不在や大幅な原価要因になる

・ 保証会社・管理会社の調査を徹底する

 登記上の住所に存在しているか否か、帝国データバンクのレポートだけでは足り ない

 事件にならないような事でも、業界の人間に聞けば有名な業者もいる

・ 承認条件違反や虚偽申請には厳正な処分を

 モチベーションの高揚⇔モラルの低下の相関

ここでも、家賃保証の危険や虚偽申請などの問題が指摘されているほか、保証会社や 管理会社などの不動産業者の信用調査の必要性が指摘されている。

④ 2015年10月5日の「出口から見た気付き」

・ 【与信五原則に忠実に】

 申込み経緯・・・投資物件の場合、購入する理由の妥当性のチェックを慎重に(デ ート商法等の排除)

 資金使途・・・事業性借入のリファイナンスには特に注意が必要

 返済能力・・・貸家業に常時満室稼働などありえない

 保全・・・担保取得物件として問題があるか否かの検証を慎重に

 人物・・・法律で認められているとはいえ不在者決済や、購入物件も見ずに購入 するケースが多い(当事者意識の欠如)

・ 設定家賃額の妥当性に充分な調査が必要(一棟収益)(多数)

 実行後短期間での破綻先を検証した場合、取組時から家賃金額が大幅に減少して いるケースが散見される

 当初のレントロールの検証が確実になされているか疑問

 収益物件の与信総額からして、審査部として家賃相場を把握しておく必要がある のでは?

・ 取得税を諸費用に見込むべき(一棟収益)

 高額物件の場合は高額の取得税がかかる

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 評価額を把握することにより売買価格の妥当性も検証できる

・ 販売価格と担保評価額の妥当性の検証(一棟収益)

 破綻⇒処分時に多額のロスが発生する

 不動産賃貸に関し全くの素人を、悪徳業者から守ることにも繋がる

・ 既存有担保貸出先への無担保追い貸しは特に注意が必要

 既存融資…収益不動産購入資金、追い貸し使途…収益不動産の修繕資金

⇒キャッシュフローを流用していないか、検証

⇒購入当初からの収支の見込みが甘く、追加融資でなく抜本的な対策が必要

⇒賃貸経営のノウハウがあるか検証

⇒両建て(手元資金あるが今回借入)は別として、借入しないと回らないは赤信 号

 既存融資…収益不動産購入資金、追い貸し使途…おまとめ(カードローン)

⇒収益不動産の収支悪化 → 持出し捻出 → 借入

⇒おまとめ後は当社無担保分の返済増加、収益不動産の再度の持出し捻出 → 再度他社借入 → 破綻の懸念

⇒おまとめではなく、根本的な対策が必要

⇒そもそも貯蓄性向が低く、収益不動産購入属性であるか検討が必要

ここでも、満室想定での返済原資の算出に対する疑義、レントロールの妥当性への疑 義、担保評価額の実勢価格との乖離など、収益不動産ローン全般に共通する問題点が指 摘されている。

⑤ 2016年1月22日の「出口から見た検討事項」

・ 一棟収益の物件評価

 実査の度に感ずること⇒近隣物件に比較し2割程度高い・・・

 数多くの投資家・資産形成層の中の一握りの人による購入価格(値決め)と、銀 行評価は相違して当然

 事業開始時の投下資本額が大きければ、債務者の負担は大きい⇒破綻リスク増加

 仮にここ数年を不動産価格のピークとするならば高値掴みになる可能性が高い

・ 一棟収益の賃料算定

 不動産賃貸業に継続的に満室などあり得ない

 経年が進めば基本的に家賃は下がる

 入居者チェンジ⇒収支悪化⇒破綻という構図が散見されている

・ 一棟収益の物件実査

 急傾斜地崩落危険区域にある土地(=無価値)などへの融資が散見される

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 実質的に公道に接面していない土地などへの融資が散見される

 違法建築物件への融資の排除

・ 一棟収益の返済余力

 高額融資破綻先の多くに、当初から返済余力が僅少のものが見られる

 空室や賃料が低下した時には、即収支がマイナスになる⇒破綻

ここでも、特に一棟収益不動産への融資において、物件の評価額が近隣物件に比して 割高になっていると感じられること、投資者が不動産を高値づかみしている可能性があ ること、取得不動産のリスク(急傾斜地崩落危険区域など)が見落とされていること、

返済原資の想定(入居率及び賃料)が甘いことなどの問題点が再度指摘されている。

⑥ 2016年4月18日の「出口から見た検討事項」

・ 一棟収益の賃料妥当性

 業者から提出された賃料の検証 レントロールの妥当性

サブリース・・・サブリース会社の財務健全性(エイペックス 17債務者47億円)

入居までの家賃保証・・・最近多く見られる⇒一過性のものでしかない 1年間の家賃保証・・・最近多く見られる⇒一過性のものでしかない

・ 売買金額の妥当性

 バックファイナンスの禁止・・・売買価格を時価評価とすることの危険性(価格 引上げに繋がる)

・ 不動産賃貸経営の指導

 不動産を取得さえすれば、永続的に不労所得を得られると勘違いしている債務者 が多く感ずる

 修繕費発生に伴う破綻と、空室発生に伴う破綻が多い

・ 今後の課題(債務者)

 既存PA1先の動向:債務者の壮年化(所得減少)と債務者を取巻く不動産業者と 弁護士の動き

 一棟収益先のキャッシュフロー:物件の経年劣化と修繕費負担破綻

 シェアハウス案件の動向:(今後調査予定)

・ 今後の課題(社内)

 当初貸出額と処分額の差異:何をもって実勢価格とするのか

 信用コストの増加:突然死・無担保貸出の増加により、非常に読みづらい状況

 処理スピード:不動産価格の予測ありきではなく、債務者の状況・物件の陳腐化 や換価阻害要因を基本と考えたい