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(1) 営業推進項目(全社営業目標)の問題 ア 営業推進項目の実態と達成状況

2011 年度以降の営業推進項目(全社目標)の大項目の目標値及び当該全店目標の各バ ンクへの配賦値、並びに各実績値及び達成率を一覧化すると、別紙2「営業推進項目達成 ローンの問題を引き起こした決定的な要因であると位置づけることはできないと考えられる。

- 163 - 率一覧」の通りとなる。

このうち、収益不動産ローンの残高は、2011年度から2013年度までに関しては「個人 ローン純増額」に、2014年度に関しては「有担保ローン純増額」に、2015年度及び2016 年度に関しては「有担保FL 純増額」に、2017年度に関しては「パーソナルL純増額」

に、それぞれ含まれる。これらについて、全店の達成率を見ると、2011 年度は 114.8%、

2012年度は90.6%、2013年度は83.1%、2014年度は91.3%、2015年度は94.8%、2016

年度は48.8%、2017年度は25.3%となっている。

イ 策定プロセスの問題(トップダウン方式)

前述の通り、営業推進項目の原案は、各年度開始(毎年4月1日)の約3~4か月前に 営業企画において立案されるところ、この原案は、基本的に現場の意見等の聴取は行わ ずに立案されていた。

担当者のインタビューにおける発言等によると、営業企画における立案プロセスの実 態として、概ね、以下の事実が認められる。

 営業企画の中で大項目(個人ローンの数値や定期預金の純増目標等)について素 案を作成し、副社長、岡崎氏に確認しながら固めていく

 その際に考慮していたのは、進行中の年度(立案している営業推進項目の対象年 度の前年度)の4月~12月の足下の実績値(達成率)の経過

 各バンクのバンク長の意見を聞くかはケースバイケース

 麻生氏には、営業推進項目の立案のプロセスでローンについて確認をしたことは ある。相談は仁義を通すというような意味で行っていた

そして、執行会議、取締役会決議(ただし、下記ウ参照)、執行会議稟議によって決定 された目標数値を営業企画が各バンクへ配賦するに当たっても、基本的には現場の意見 等の聴取は行わずに実施されていた。

すなわち、営業現場となる各バンクにおける翌年度の見通し等は基本的に考慮されず、

進行中の年度の進捗を基礎に、経営トップ(実質的には副社長)の意向を加味するとい うトップダウン方式により営業目標が策定されていた。このため、現場で営業を担う各 バンク及び営業担当の行員からすると、毎年上から業績目標が降ってくるという状況に あった。実際、パーソナル・バンクにおいて営業を担当したことのある行員は、インタ ビューにおいて、概要、次のような発言をしており、営業現場の実態を勘案せずに営業 推進項目が策定されていた状況が看取できる。

 銀行として物件の需要をマーケティングできておらず、マーケットの大きさを把 握していなかったこと、実行額、実行残高額、前年比利益等だけをみて数字を設

- 164 - 定してしまっていたことに問題がある

 何を基にノルマの数字が決められているのか分からない。ノルマの問題は、その 地域における住宅着工事例や 1 か月の売買実績等の市況だとか、潜在的な市場が どのくらいある商品なのかといったことを全く考えず、単に数字だけ押しつけら れるところ。例えれば、釣り堀に魚が 10匹いないのに10 匹とってこいといわれ る状況

また、2011年度から2017年度までの間、営業企画が立案する営業推進項目の原案につ いて決裁する立場にあった岡崎氏は、インタビューにおいて、概要、次のような発言を した。

 具体的に岡崎氏が実務レベルで深く入るところまでやらずにもう全部、下の営業 企画部長が全部できちゃっていたので、任せていた

 (営業企画部長が、副社長存命中は副社長に相談していた様子があったか、との 質問に対し)あったかもしれないが、岡崎氏は気付かなかった

 (銀行全体の目標であり、人事考課の基礎にもなる数字の作成を営業企画部長が 実質的に担っていたということか、との質問に対し)ただ、やっていたと思う。

ほとんどそれが前期実績値に数パーセント上乗せする、5%も乗せなかったような 数字で出してたので、それほど難しくはない。例えば、無担保ローンの残高をも うちょっと増やしたほうがいいんじゃないかというのを副社長と話したりとか、

そういうオペレーションだけだったと思う。そのため、それ以外は営業企画部長 が全部やっていたと思う

ウ 取締役会決議の問題

前述の通り、取締役会規程において、「各部の基本方針(戦略目標)の策定」が決議事 項として定められており、毎年、取締役会において、営業推進項目・表彰考課基準に係 る議案が上程されている。ところが、2016 年度以前に関しては、取締役会資料に考課基 準の概略、表彰制度の概略及び営業推進項目の項目案の記載はあるものの、具体的な目 標数値の記載はされていない。取締役会議事録を併せて参照しても、具体的な数値目標 は決議されていない。

この点について、取締役会に提出される営業推進項目・表彰考課基準に係る議案を作 成していた営業企画の担当者は、インタビューにおいて、概要、次のような発言をした。

 当該議案の取締役会資料については、従前から同じフォーマットを使っていた

 2016 年度まで項目だけしか記載がなく、具体的数値の記載がないのは、従前の慣 例であり、具体的数値については、営業の実質的なトップである副社長に事前に 了解を得ていることもあって、特に問題意識を持たなかったように思う

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 副社長が亡くなった後、2017 年度から大項目については数字を埋めるようになっ た。副社長がいなくなったため、数字を入れるというインセンティブが働いたの ではないかと思うが、取締役会から数字を入れるよう指示があったわけではない

取締役会規程において定められた取締役会の決議事項は「各部の基本方針(戦略目標)

の策定」であり、2016 年度以前において、取締役会資料に数値の記載がなかったことの 一事をもって直ちに取締役会規程違反であったとまではいえない。もっとも、目標とし て定める具体的数値が示されていなければ、取締役会としても、策定する「各部の基本 方針(戦略目標)」が適切であるか否か、本来、判断のしようがないように思われる。こ の点において、経営判断の基礎が十分とは言い難く、少なくとも適切であったとは言い 難い。

エ モニタリング体制の不在

上記イの通り、営業推進項目の策定及び各バンクへの目標値の配賦は、実質的に営業 企画と、営業企画部長の上席者である営業本部(旧カスタマーサポート本部)の部長が 担っていた。しかしながら、営業推進項目の達成状況について、営業企画や営業本部に おいてモニタリングを行う仕組みが存在していなかった。

この点について、営業企画の担当者は、インタビューにおいて、概要、次のような発 言をした。

 営業推進項目の達成状況について、営業企画で定期的なモニタリングはしていな い

 営業本部では半期ごとに目標達成率を中心に考慮して表彰式を行っており、表彰 対象の選定という観点での管理は、営業本部内の所管部署でしていたと思うが、

営業企画で見ていたのは、翌年度の営業推進項目を立案するに際して、進行中の 年度の4月~12月の足下の達成率を確認するといった程度。モニタリングという 発想はなかった

 今思えば、営業企画の方で、達成率がよすぎる場合にはその原因を検証し、行き 過ぎた営業行為があったのではないかと牽制するべきだった。達成率が悪いとこ ろは目立つし、自ずと課題認識が浮かび上がってくるものだが、成績がよいとこ ろへの意識が欠けていた

 執行会議では、営業推進項目の達成率や数字の進捗報告を麻生氏が行っていたと 聞いているが、それはモニタリングというよりは執行報告の性質のもの。第三者 的なモニタリングは、どの部署の職務分掌にもなっていないと思う

このように、営業企画を含む本部組織において、営業推進項目の進捗をモニタリング

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する仕組みは存在しなかった。このため、目標が過大で現場に歪みを生むリスクがない か、といった観点からの検証はされることなく数値目標が策定されていた。

なお、2015年5月に自動審査システムが更改されたことにより67、営業企画を含む本 部部門においても、シェアハウスに係る融資案件を特定して、その融資残高等を把握す ることが可能となった。具体的には、当該システムの「資金使途」欄に「シェアハウス」

が追加されたため、以後、営業企画の担当者においても、銀行としてシェアハウスロー ンを行っている事実、及びその残高の状況を知り得ることとなった。もっとも、営業企 画の担当者は、インタビューにおいて、概要、次のように発言しており、営業現場にお ける融資の実情が十分に把握されることなく、営業目標の策定が行われていたように見 受けられる。

 シェアハウス案件を取り扱っているという認識は2015年頃からあった。ただ、こ こまで案件の数が多いとは認識していなかった。

 スマートライフの案件があるという認識もなかった。シェアハウスを手掛けてい るのは別の業者だと思っており、スマートライフの関係業者からの案件の持ち込 みがあることは知らなかった

 営業推進項目の策定に際して、商品別の内訳として、資産形成ローンについては、

PA1や一棟収益、アパートローン等の項目別にどの程度伸ばすかということは意識 するが、資金使途として中古物件・新築物件なのか、一戸建てなのかマンション なのかといったレベルの精査はしていなかった

オ 結果としてのパーソナル・バンク依存

別紙2「営業推進項目達成率一覧」の「目標値PB依存度」は、営業推進項目の各大項

目の目標値につき、パーソナル・バンクに配賦された数値の全店目標値に占める割合を 示している。近年のスルガ銀行の収益を支えたとみられる収益不動産ローンが包摂され る項目(2011年度から2013年度までの「個人ローン純増額」、2014年度の「有担保ロー ン純増額」、2015年度及び2016年度の「有担保FL純増額」、2017年度の「パーソナルL 純増額」)につき、パーソナル・バンクへの依存度を見れば、順に、92.3%、93.9%、98.9%、

100.0%、94.5%、89.3%、71.4%と、極めて高い割合で推移している。また、これらは純 増目標であるため、年度によっては、他のバンクのマイナス(純減)をパーソナル・バ ンクがカバーするようなことにもなっている。

要するに上記イ乃至エのような実態の結果として、高い営業目標値の大半をパーソナ ル・バンクに依存していた構造が窺える。

かかる依存構造は、別項で述べる人事等における越権行為に対して本部や他のバンク としても黙認せざるを得ないという結果につながり、また、パーソナル・バンクも自身

67 「有担保ローン商品改訂の変遷」参照。