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「出口」の会議での指摘に表れているように、資産形成ローンには、返済原資の変動 可能性、収益還元法による担保評価の難しさ、顧客の投資判断能力、不動産チャネルの 信用性、家賃保証・サブリースの危険などのリスク特性があった。

事後的に見れば、これらのリスク特性がシェアハウスローンにはより顕著に当てはま ることが分かっている。

第 1 に、融資限度額を算出する際の中心である返済原資の算出方法が緩やかであり、

返済原資の変動可能性を十分に考慮していなかった。シェアハウスローンでは、実質的 に、「年間所得の 40%+満室想定賃貸収入の 70%」をもって返済原資とみなし、その水 準までの年間返済額を許容する融資基準が適用されていた。

しかし、30~35 年等の長期間にわたって、現在の年間所得が維持されるとみなすこと は現実的でない。たとえば、現在40歳の借入人が仮に1,500 万円の年収を得ていたとし ても、その水準を35年間維持することは容易でない。

また、満室想定賃貸収入の70%についても、満室想定賃貸収入から30%を減じること で、空室リスク、家賃下落リスク、修繕費等の負担、固定資産税等の負担を見ているこ とになるが、満室想定賃貸収入のわずか 30%でこれらのリスクや費用負担を全て考慮し きれているのか懸念が残る。このような基準では、修繕費や固定資産税等の費用負担を 考慮すると、常時、75%程度以上の稼働率が確保されていない限り、返済原資が枯渇す

- 153 - ることを意味する。

実際にも、直近の状況で、物件完成済みかつ入居状況の確認が完了した物件の約半数 において、シェアハウスの入居率が 50%以下にとどまっており 64、満室想定賃貸収入に

対する 70%の掛け目が空室リスクを考慮するものとしては不十分であったことが事後的

に明らかとなっている。

第 2 に、不動産担保の評価を厳格に行い、担保評価額の一定割合を融資限度額とすれ ば、仮に延滞した場合であっても担保実行によって相当程度の回収が可能となるが、シ ェアハウスローンでは収益還元法による担保評価額の 100%までの融資が許容されてい た。

特にシェアハウスについては、建物が特殊な構造であるため、市場のニーズに合わず シェアハウスのビジネスモデルそのものが崩壊した際には、返済原資の枯渇によって延 滞が発生すると同時に、担保実行時の処分価値もより大きく下落することになってしま う(通常のアパートであれば相応の価格で処分可能である。)。そのため、収益還元法で の担保評価額が担保実行時の処分価値の実勢からより乖離しやすい可能性があった。実 際にも、シェアハウスローンの一部 127 件を抽出して検証した結果によれば、収益還元 法による評価額が積算法に比して平均1.7倍高くなっており(売買価格は積算法の平均2 倍となっていた。)、シェアハウスローンでは担保実行時に回収ロスが拡大する可能性が 懸念される。

さらには、担保評価額の120%程度までの貸出しを認める事実上の運用ルールがシェア ハウスローンにも適用され、担保実行時の回収ロス発生の可能性をより高めることにな ったと考えられる。

第 3 に、シェアハウスローンではサブリースを伴うことが多く、サブリースによるリ スクの増幅があり得る構造にあった。

そもそもサブリースが設定されるとしても、期間が5年や10年の有期であるなど、30

~35年に及ぶ長期間の返済期間をもともとカバーしていない。30年などの長期間にわた るサブリースが設定されることもあるが、シェアハウスのビジネスモデルが崩壊すれば、

サブリース会社の財務健全性も同時に毀損され、サブリースによる家賃保証が得られな い。このような懸念があるにもかかわらず、サブリースによる家賃保証が喧伝され、投 資者の投資判断を歪め、返済能力を超えた融資申込みを誘発するおそれがある。特定の サブリース会社への集中によって、ポートフォリオの分散が図られなくなるという問題 もある。

実際にも、シェアハウスを多く扱っていたスマートデイズ、サクト、ガヤルドなどは

64 スルガ銀行の調査によれば、2018821日現在で、1,655物件のシェアハウス等物件のうち、完成済 みで、かつ、入居状況の確認がなされた物件が728件存在し、そのうち371件(728件に対し50.96%)で 入居率が50%以下、71件(728件に対し9.75%)で入居率が50%超~70%以下、286(728件に対し39.29%)

で入居率が70%超となっている。1,655物件のうち、その他の707件は完成済みであるものの、入居率の 状況が確認未了であり、2件は売却済み、218件は未完成である。

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自転車操業を続けた後に破綻しており、サブリース会社の財務健全性を慎重に検証すべ きであったことが事後的に明らかとなっている。

(2) シェアハウスローンを新商品として扱わなかったこと

シェアハウスローンには以上のように、収益不動産ローンのリスクがより顕在化しや すい特性があった。にもかかわらず、スルガ銀行ではシェアハウスローンの取扱いが開 始された当初、アパートローン事務取扱要領が適用され、その後、資産形成ローン事務 取扱要領が適用されるのみで、独自の新商品としての審査が行われなかった。

その背景としては、新商品とした場合、営業企画、審査企画、コンプライアンスなど の各部署による商品設計の評価が行われ、試験的な融資実行額の総枠が設定されるなど、

厳しいチェックがなされるという事情があり、そうした検証を避ける目的で、既存の商 品の事務取扱要領が適用されたのではないかと推察される。実際にも、そのような推察 を肯定する審査担当者が複数存在している。

審査担当者のなかには、シェアハウスローンの稟議申請がなされるようになった当初 の時点から、そのビジネスモデルの合理性を疑っていた者が複数いたようであり、そう であればなおさら、シェアハウスローンを独自の商品とみなして新商品の検証を実施す べきであったといえる。

(3) シェアハウスローンのリスクの顕在化に対処しなかったこと

当初の時点ではシェアハウスローンの試験的な取扱いを許容することがあり得たとし ても、事後的に見れば、シェアハウスローンのリスクは 2015 年中頃から2016 年にかけ て、複数の審査部内の担当者において認識されるようになっていた。

第 1 に、シェアハウスローンについては他の収益不動産ローンよりも空室リスクが重 大であることが2015年中頃から明らかになりつつあった。

前記の通り、スルガ銀行では 2013 年 10 月から一棟収益不動産の定期的調査が実施さ れていた。

物件調査の担当者や審査役の説明によれば、物件調査開始当初は中古物件(残高 1 億

5,000万円以上の一棟収益マンション)の調査ばかりであったところ、2014年頃からシェ

アハウスの新築物件が急激に増え始め、シェアハウスローンも資産形成ローンの一つで あったことから、この定期的調査が開始されるようになったとのことである。

特に審査部内では、2013年から2014年にかけてシェアハウスローンが実行され、それ から半年~10ヶ月程度の期間を経てシェアハウスが各所で建ち始めたことから、2014年 から2015年にかけての頃に、実際にどのような物件が建築され、入居状況がどの程度で あるかを確認すべきとの声が大きくなり始めたとのことである。

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そこで実際に物件調査担当チームにて、2015年4月頃からシェアハウスの物件調査が 開始された。

いざ物件調査を開始してみると、シェアハウスの入居状況については、外からカーテ ンで判断する方法などでしか確認することができないという事情が明らかとなった。同 じ資産形成ローンであっても、一棟収益マンションであれば部屋ごとに電気メーターや ガスメーターの回転などを見れば入居状況が分かるのに対し、シェアハウスは集合体と なっているため、電気メーターやガスメーターの状況で入居率を推測することができず、

外観から推測するほかなかったのである。また、女性専用のシェアハウスであれば、外 観からの調査をすること自体を控えるべきという事情もあった。

ただし、シェアハウスの現地を確認すると、ドアが養生されたままであるなど、一見 して明らかに入居していない状況が多々見受けられたり、運営会社のウェブサイトを見 て募集状況を確認すると空室が多く存在することが判明したりした。

たとえば、担当者が物件調査の過程で作成した原資料として「2015.4 末 新築シェア ハウス 完成済76件」という名称のExcelファイルが残っており、そのなかでは調査対 象 72件の入居状況について、「明らかに満室」が3件、「明らかに未入居」が8件、「問 題あり先」が1件、「他 目視では入居率50%程が妥当と思える。」と記載されている。つ まり、2015年4月頃の時点で、約60件のシェアハウスは入居率が50%程度にとどまると 推測され、その他12件についても満室が3件で、未入居と問題あり先が9件となってい るなど、シェアハウスの入居状況が芳しくないことが担当者レベルでは判明していたの である。この原資料は、物件調査の担当者から、審査第二部長に 2015年9月 29日、電 子メールで送付されている。

もっとも、この原資料が審査管掌取締役や審査部長に共有された証拠はなく、むしろ 物件調査結果を報告する審査部内の定例ミーティング用の資料では、シェアハウスにつ いては入居状況の確認が困難であることが記載されるにとどまり、上記の原資料の内容 は記載されていない。

また、2016年1月7日の信用リスク委員会では、柳沢執行役員審査部長(当時)が資 産形成用不動産の定期的調査についてという議題で、シェアハウスについては、「目視で の入居状況の詳細確認が困難であったため、現地では事業の稼働状況のみ確認し、合わ せて口座へのサブリース料の振込金額を確認することで対応している」と報告している。

つまり、入居状況の厳格な調査に代えて、サブリースの振込状況を確認するにとどめた ということである。これではサブリース会社が自転車操業のようにして既存オーナーへ の返済原資の支払いに努めることで、当面の間は空室リスクの顕在化を先送りすること ができてしまう。

さらには、2016年5月のシェアハウス会議では、シェアハウスローンに関するリスク として、木造投資物件のリスク、投資地域のリスク、無制限にシェアハウスを取り扱う リスクが網羅的に指摘され、サブリース会社が自転車操業に陥るリスクまで指摘されて