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これまで述べてきた通り、シェアハウスローンを含む収益不動産ローンについての問 題は、審査部の担当者において早期の時点から把握・認識されていた。

たとえば、一棟収益不動産であればレントロールの疑義、賃料設定の疑義などがあり、

審査担当者においても、ウェブサイトでの募集賃料とレントロールに記載された賃料が 乖離していることに気づくことが少なくなかったようである。自己資金確認資料の偽装 がありうることについても、年収水準に比して明らかに過大な自己資金額での稟議申請 がなされることなどから、不審に思うことも多々あったとのことである。シェアハウス ローンについても、空室リスクやビジネスモデルへの懸念が2015年頃から審査担当者内 で共通認識となっていた。さらには、特定の不動産チャネルが特定の営業店との間での 取扱件数を急激に伸ばしていることも、審査担当者は異常値として注視しており、なか には不正行為を厭わない不良チャネルも存在することが審査担当者にはなかば常識であ ったようである。

形式的には、これらの問題に対し、自己資金確認資料を所属長が厳格に確認すべきこ と、資産チェックシートと確認書の徴求を徹底すべきこと、不動産チャネルの信用調査 を実施すべきことなどの通達が出されるなどしていた。しかし実際の現場では、審査担 当者が営業担当者に対し、偽装の疑義などについて指摘したとしても、すぐに反論され、

再度疑義を指摘すると、所属長が登場して威圧的に反論がなされ、最終的には麻生氏が

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審査第二部長や審査部長に対し、直接かけあって、稟議を押し通していたとのことであ る。審査部の役職員のなかには、麻生氏の強圧的な姿勢をもって、恫喝と表現する者も いる(他方で、審査担当者のなかには、麻生氏の特性について、「恫喝というよりも、何 を指摘しても反論され、平行線に終わり、結局意見を押し通されることの方が多かった。」 と表現する者もいる。)。

このように審査の現場では、審査担当者が否定的な意見を述べたとしても、最終的に は営業側の意見が押し通されて融資実行されることが大半であり、資産形成ローンは 2015年の取扱開始以降、2017年度上期に至るまで、半期毎の承認率の平均が常に99.0%

を超えて推移している(2017年度下期は、件数ベースで 94.7%、金額ベースで 95.0%に 低下している。これは、サクト問題への対応によるものと思料される。)。収益不動産ロ ーン全般について見れば、2008 年度上期~2010 年度上期は半期毎の承認率は平均 80~

90%の水準で推移しているのに対し、2010年度下期以降に承認率が上昇し始めて90%を

超えるようになり、2014年度下期以降は99%を超えて推移するようになっている。この ような審査承認率の上昇と高止まりは、審査の独立性が徐々に毀損していったことを示 すものと思料される65

このように審査の営業からの独立性が確保されていないことを示す事象に関連して、

複数の審査担当者が次のように説明している。

 レントロールについては、数字がやけに良く、怪しいとは思っていた。審査として は、怪しいと思った点について指摘をすべきだった。ケースによっては、稟議を上 げた営業担当者や責任者に、相場に照らして家賃が高いという指摘をすることはあ ったが、家賃がきちんと入ってきていると言われて審査が押し切られていた。

 自己資金の偽装については、審査部内で勤務先や勤務年数に比して金融資産が多い という話になることはあった。当初は審査部で通帳等を確認して、怪しいと思って 指摘したことも度々あった。

 途中から規程が改訂され、審査送付資料が簡素化され、金融資産は営業の方で確認 し、審査には提出しないということになった。

 規程改訂後も、自己資金についておかしいとき考えたときは現場と話をして、資料 を確認しようとすることもあった。しかし、麻生氏から、「なぜ現場の所属長を信 じられないのか」「何をこそこそやっているんだよ」と怒られたりした。

 中古一棟物件のレントロール偽装が多数存在していたことや自己資金の偽装が横行 していたことについては認識していた。ただ、決定的な証拠がないため、営業から 詰められると反論できない。そのような場合には、審査部意見ということで、審査

65 なお、営業担当者が持ち込む案件のなかには、SSP会議で否決されたり、審査部の否定的な意見をもと に稟議申請が撤回されることもあり、上記の99%の数値は、これらSSP会議での否決案件や稟議申請の撤 回案件が除外されたものであるが、その点を考慮したとしても、審査部による本部決裁で否決された案件 がごく僅かしかなかったことが明らかである。

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部しか見られない欄に疑義ありと意見を記載していた。

 メインで見ていた不動産チャネル数社はすべておかしいと思っていた。レントロー ルが合わないからである。ネット上の募集賃料と合わなかった際に、営業担当者に 指摘したところ、釣り広告との説明を受けたため、宅建業法違反であるとメールで 回答したこともある。

 審査部としては、頑張って言うべきことは言うというスタンスで、付記事項に記載 したり、自動審査での審査部のコメント(特記事項)をつけていた。審査部できち んと言ったことは残すという趣旨で、特記事項にコメントを残していた

 審査部の特記事項は、審査部内でしかみられない。

 審査部限りでの記録として、審査役の意見を残す担当者もいた。それ自体が何かの 決め手になるということはないが、営業本部に対抗するには、デフォルトした案件 の傾向値・データで反論するしかない。ケース毎に指摘しても、営業は反論してく る。審査の意見を残しておくことが、デフォルト時に審査部の抵抗材料として役立 つという判断で、審査部限りで審査としての意見を記録に残していた。

 (麻生氏からの恫喝はあったかという質問に対し)自分自身が麻生氏から恫喝を受 けたことは数少ないが、審査第二部長が麻生氏の部屋で厳しく叱責されていた場面 は何度か目撃した。自分が麻生氏から呼ばれることもあったが、麻生氏から審査第 二部長や審査副部長と相談したのかと言われ、相談した結果難しいと判断したと伝 えると、審査第二部長や審査副部長が麻生氏に呼ばれていた。

 審査第二部長によく相談をし、審査第二部長がやってはいけないと言ってくれてい たので、私たちは営業担当者に言うべきことが言えていた。しかし、審査第二部長 は最終的には、麻生氏から厳しく叱責され、押し切られていた。

 麻生氏からは、否決するのは簡単であるが、承認するロジックを考えろということ を言われた。稟議を上げるのであれば、きれいな服を着せろと言われたことがある。

以前、稟議を副社長が否決したことがあった。そのときは、問題点を指摘しながら 稟議を上げた。その後、麻生氏から、上司が判子を押しやすいように稟議を作成す るのも仕事であろうと言われた。納得できるところもあるが、納得できないところ もあった。

 麻生氏は審査部にほぼ毎日来ていた。冗談っぽく、全部承認しろと言っていた。プ レッシャーは感じた。麻生氏が怒鳴ることもあった。

 営業からのプレッシャーとしては、所属長から、「ふざけるな」、「覚えてろ」な どと言われたことがあった。担当者に対して、「レントロールがおかしい」、「そ んなに預金ないだろう」などと指摘すると上席者からそのように言われた。

 審査部には独立性が必要であった。審査部の執行役員は当時柳沢審査部長であった が、スルガ平に常駐しており、東京に常駐ではなかった。組織において、部下が上 司におかしいとは言えないので、担当の執行役員が不在のときに、他の部署の執行

- 159 - 役員が来て怒鳴られると何も言えない。

 麻生氏などは怒っていると怒鳴っていく。月に一度や決算の前月などはよく怒って いた。例えば、「この野郎ふざけるな」と審査部の個人名を名指しで言うこともあ る。また、営業担当者に電話で審査結果を伝えると、別の日に麻生氏が来ることも あった。実際、私も、一度否決にしたところ、麻生氏が反論してきて、承認せざる を得ないこともあった。

 たとえば、キャッシュフローは七掛けというルール(注:毎月の返済額を満室想定 賃料の7割以下とすべきルールを指す)があったが、ひどいときは想定収入が12万 円しかないというケースがあり、それでは返済余力がないではないかと指摘すると、

麻生氏から電話が来て、「何言っているんだよ」と怒鳴られた。

 否決すべきような案件、たとえば事故者(延滞歴の登録や貸倒登録等の事故)が借 入人の場合であっても、営業から怒鳴られて承認するようなことがあった。

 以前は、審査から営業に対し、担保や属性の点からこの案件は大丈夫かと言うべき ことは言っており、営業との攻防もあったが、そのうち、営業側は最終的には麻生 氏と協議してOKが出ているということを決め手に使うようになっていった。

 審査からの指摘に対し、営業担当者が理詰めで回答できないとパーソナル・バンク を使う。そういうときに麻生氏が出てくる。最後に麻生氏に伝えればどうにかなる という考えがあるのかもしれない。

 麻生氏と協議済みといわれてしまうと、審査役のレベルで反論することは難しかっ た。審査役としては、審査を通したくない案件については当時の審査第二部長や審 査副部長と相談していた。

 SSP シートで「パーソナル・バンク協議済み」と記載されるようになったのは、審 査から営業に「おかしい」と横浜東口支店の所属長に指摘したところ、麻生氏に全 て相談していると反論してくるので、「本当に確認しているのか」と聞いたら、「パ ーソナル・バンクで相談して許可を得ている」と言うので、「だったらそう書けよ」

といったら、「パーソナル・バンク協議済み」と書いてくるようになった。

 DP横浜では所属長が麻生氏と親しかったので、いきなり最初から稟議書に「パーソ ナル・バンク協議済み」と書いてきていた。

 首都圏営業では、いきなり最初から「協議済み」と書かれることはなかったので、

通常の審査をしていた。

 「パーソナル・バンク協議済み」になると、審査としてはどうしても指摘しづらく なる。それでもおかしいものがあれば言うし、社内規程に適合していない場合にも 指摘するが、スルガの規程は運用でゆるめられている部分が多い。

 「パーソナル・バンク協議済み」とあると、「目線が下がる」ことはあった。つま り、例えば、「協議済み」の場合には、属性基準で年収 700万円でなければならな いものが年収 680 万円でも審査が通ってしまうことになり、審査基準の例外を認め