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推進者個人のアウトカムに関連する要因について

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第 6 章 考察

III. 推進者個人のアウトカムに関連する要因について

先行要因である個人要因と職場特性、さらにはプログラム要因が推進者個人のアウトカムの下 位概念と関連しているかをみるために、階層的重回帰分析を行った。その結果、推進者個人のア ウトカムの下位概念のうち、<皆で進める継続的な仕組みづくりを目指した戦略的な方法の獲得>

は、個人要因の「年齢」と負の関連がみられた。また、<自身の成長と自信の獲得>とプログラム要 因の「参加度」と「改善実施数」が正の関連が認められた。残り 2 つの下位概念<安全や健康リス クに対する感度の向上>と<労働者との関係性構築による成果の実感>はいずれの要因とも有 意な関連が認められなかった。

個人要因の「年齢」との負の関連、つまり、年齢が若いほど推進者個人のアウトカムの下位概念

<皆で進める継続的な仕組みづくりを目指した戦略的な方法の獲得>が高くなる傾向が認められ た。推進者の年齢が若いことで、職場内の年齢階層的な位置づけでは職場の労働者と比較的フ ラットな関係性が構築されやすく、指示的ではなく支持的なリーダーシップスタイル、すなわち民主 的なリーダーシップ(高木,2000)が発揮された可能性がある。また、Tsutsumi et al.(2009)は、参加 型職場環境改善の介入研究において、参加型職場環境改善が十分に効果をあげられなかった理 由の一つとして、年齢を挙げ、高年齢層の労働者が参加型職場環境改善に十分コミットできなか ったと述べている。吉川(2013b)は、「職場環境改善」に対して、現在の職場や自分たちの仕事の

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やり方を否定されるのではないかと抵抗感を示す労働者の存在を指摘している。特に長い期間そ の職場で働いている労働者ほど現状を変えたくないという思いが強く、職場環境改善の 取り組み 自体に対して否定的な感情を持つ可能性を指摘している。推進者は、その職場で参加型職場環 境改善の取り組みを進めるキーパーソンとなるため、職場環境改善自体にネガティブなイメージを もってしまうと、その職場全体での取り組みが停滞してしまう可能性もある。しかし、参加型アプロー チにおいては、ポジティブシンキングが推奨されており、まずその職場の良い点を見つけること、自 分たちの職場の役に立っている工夫を皆で話し合い共有することから始めている(Kogi, 2012)。年 齢層の比較的高い推進者に対しては、職場環境改善に対するネガティブなイメージや自 分たちの 職場を否定されるという先入観を払しょくできるような丁寧な説明ときめ細やかな対応を行うことが必 要であろう。推進者が前向きに職場環境改善に取り組めるように、職場環境改善に対してどのよう なイメージを持っているか、今後どのような姿勢で職場環境改善を推進していくべきか、職場環境 改善のとらえ方や現在の職場や職場のメンバーに対する思いなどを把握しながら、推進者それぞ れの思いや気持ちにそった支援が重要であると考える。

また、プログラム要因である「参加度」と「改善実施数」が推進者個人のアウトカムである<自身の 成長と自信の獲得>と有意に関連していた。松尾(2011)は、職場において精神的な成長を促す ために経験を通じた学習が重要であると述べている。職場環境改善はまさに「改善」という経験を 通じた学習ともいえるので、この取り組みにより積極的に参加すること、そして改善をなるべく多く実 施することで推進者として職場環境改善に対する経験値が高くなり、精神的な成長につながる可 能性が指摘できる。そのため、プログラムの参加度や改善実施数と推進者自身の成長と自信の獲 得を示すアウトカムが関連していたと考える。推進者個人の成長や自信の獲得のアウトカムを高め るために、参加型職場環境改善プログラムへの参加度をより高め、職場での改善実施数を増やせ るような支援が重要であることが示唆された。

推進者の選定基準は事業場によって異なっており、係長クラスなど通常の業務において調整役 を担っている人材が選出される職場もあれば、比較的勤務経験年数が浅い人材が選出される場 合、衛生管理者や総務担当といった職務の者が推進者となる職場もある。錦戸 (2012)は、参加型 職場環境改善において、より効果的な取り組みをすすめ、その職場の主体性を高めるためには管 理監督者とともに推進者の存在が重要になると述べている。そのため、参加型職場環境改善の取 り組みを推進するキーパーソンとして、推進者が取り組みを通じて経験値を高め、職場のメンバー を戦略的に取り組みに巻き込んでいく民主的なマネジメントスキルを培っていくことが、参加型職場 環境改善の成果をより高めることにつながる可能性がある。さらには、参加型職場環境改善の取り

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組みを通じて、推進者が職場組織全体へのはたらきかけをおこなっていける人材として成長し、自 信を深めていくことが、職場における仕事の資源を高める重要な方策につながっていくのではない かと考えられる。

IV. 集団レベルにおける労働者個人ならびに職場組織全体のアウトカムに関連する要因につ いて

本研究では、アウトカム各概念について、職場レベルでの変動(バラつき)を考慮した上で、職場 レベルでのバラつきが個人の属性の違いによるものなのか、職場の特徴によるものなのかについて マルチレベル分析を用いて検討した。

労働者個人のアウトカムにおいて、3つの下位概念<情緒的な結びつきの深まりによる職場メン バーとの関係性の促進>、<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>、<参加型職 場環境改善の必要性の認識>はすべて職場間でのバラつきが確認された。そのため、個人レベ ルの変数を構成要因、職場レベルの変数を文脈要因として、労働者個人のアウトカムの下位概念 との関連性を検討した。労働者個人のアウトカムの下位概念である<情緒的な結びつきの深まりに よる職場メンバーとの関係性の促進>、<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>は、

構成要因(個人レベルでの特性)のうち、参加型環境改善プログラムの「参加度」と有意な関連を みとめた。また、<情緒的な結びつきの深まりによる職場メンバーとの関係 性の促進>、<安全衛 生に対する意識の向上と行動する力の獲得>、<参加型職場環境改善の必要性の認識>は、構 成要因(個人レベルでの特性)である参加型環境改善プログラムの「満足度」と有意な関連を示し ていた。文脈要因(職場レベルにおける特性)の変数と有意な関連をみとめた下位概念はなかった。

これらの結果から、労働者個人のアウトカムにおいては、職場レベルにおける要因、すなわち職 場特性よりもむしろ、個人レベルにおける参加型職場環境改善への参加度や満足度を高める働き かけを行うことで、労働者個人のアウトカムも高まると考えられる。つまり、参加型職場環境改善の プロセスにおいて、プログラムへの参加度や満足度を高める働きかけを行うことで、労働者個人の 安全衛生に対する意識や行動の変化や、職場メンバーとの情緒的な結びつきが深まったり、関係 性が促進される可能性がある。既存の研究において、参加型職場環境改善による改善の事例数 や改善内容を分類し、分析した研究(Ito et al., 2006, Itani et al., 2006, Kawakami et al., 2011)

は多く存在するが、労働者個人の意識や認識の変化、関係性の促進をアウトカムとしてとらえ、職 場環境改善のプログラムとの関係性について検討した研究はみあたらない。この点からも本研究の

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知見は新規性があり、効果的な職場環境改善を進めるうえで重要な視点を明らかにすることができ たといえる。

取り組みに対して満足度が高いということは、職場環境改善の取り組みが労働者自身にとって 良い効果やメリットをもたらしたもの、意味のあるものであったことが考えられる。職場環境を改善し、

安全で健康的な働きやすい職場を自分たち自身の手でつくりだすことができたという達成感や、実 施した職場環境改善が良い効果をもたらすものであったという成功体験が自己効力感を高 め、個 人の意識や行動を変容し、取り組みに対する必要性の認識が高まった可能性がある。Bandura

(1977)は、自己効力感を高める 4 つの情報源として、「成功体験」、「代理体験」、「言語的説得」

「生理的、感情的状態」をあげている。参加型職場環境改善では、労働者自身が職場のメンバー とともに話し合いながら主体的に職場環境の改善計画を立案し、実施していくので「自分たち自身 の手で職場をより良い環境にすることができた」 という達成感や自信、成功体験が得られたのでは ないかと考える。そして、複数の職場で同時に職場環境改善の取り組みをすすめているので、この 情報を共有することで、自分自身が職場環境改善に直接的に関与していなかったとしても、自身 の職場あるいは近隣の職場がより良い環境になっていく様を代理体験することも可能である。そし て、参加型職場環境改善の原則である職場の「良い点」を共有していくプロセスによって、言語的 な励まし、すなわち言語的説得も行われている。参加型職場環境改善の取り組みのプロセスの中 に自己効力感が高められる要素が備わっており、より積極的に参加することで自己効力感を高め るこれらの体験を自身の経験として強く自覚し、達成感や成功体験に基づく満足度が高まること で、労働者個人のアウトカムがより良い方向へ作用している可能性が示唆された。参加型職場環 境改善の取り組みにより積極的に参加できるような仕組みと、職場環境改善の取り組みが個々の 労働者にとって満足度が高まる取り組みとなるように工夫することが重要である。具体的には、参加 型職場環境改善の参加度をより高めるための組織的合意の明確化が必要であると考える。すなわ ち、参加型職場環境改善が事業場の事業計画に位置づけられていること、事業場全体でその必 要性、重要性について合意していること、これらの組織的な合意が職場全体に周知されていること が、より多くの職場、労働者のこの取り組みへの参加、ならびに参加する機会の増加につながって いく可能性がある。あわせて、参加型職場環境改善のメリットを見える化すること、職場のニーズを 反映した職場環境改善が進められるように支援することも参加度のみならず、満足度を高めること につながると考える。さらに、どのような取り組みの進め方や、また、どのような改善内容が「満足度」

や「参加度」を高めるのか、引き続き検討していく必要もあると考える。

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