第 6 章 考察
II. 参加型アプローチを用いたことによるアウトカムの構成要素について
参加型アプローチを用いたことによるアウトカムの 構成について、労働者個人のアウト カム、推進者個人のアウトカム、職場組織全体のアウトカムの特徴について述べる。参加 型職場環境改善の既存の研究においては、職場環境改善自体のアウトカムについては検討され てきたが、これらのアウトカム以外に参加型アプローチを用いたことによるアウトカムの視点、すなわ ち労働者・推進者個人の意識、行動や関係性の変化、職場組織全体の変化についてはほとんど 検討されてきていない。本研究では、参加型アプローチを用いたことによる個人(労働者・推進者)
と職場組織全体のアウトカムを明らかにすることを試みており、既存の研究では得られなかった新し い知見を得ることができたと考える。
1. 労働者個人のアウトカムの特徴
参加型職場環境改善を実施している職場の推進者ならびに労働者へのインタビュー調査と文献 検討から導き出したモデル概念と、因子分析によって抽出された下位概念の違いから労働者個人 のアウトカムの特徴を述べる。
参加型職場環境改善による労働者個人のアウトカムとして、<情緒的な結びつきの深まりによる 職場メンバーとの関係性の促進>、<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>、<
参加型職場環境改善の必要性の認識>の 3 つの概念が抽出された。
<情緒的な結びつきの深まりによる職場メンバーとの関係性の促進>は仮説モデルの概念のう ち【労働者の情緒的な結びつきの深まりによる職場の愛着形成】の項目が含まれた。これらの項目 に加え、「職場環境改善の成果が褒められ、承認されることで意欲が高まった」は仮説モデルでは
【成果に基づく自信と達成感の強化】に含まれていたが、成果を褒めて承認してもらえるという行為 は「相手」との関係性が促進されると解釈できる。同様に、仮説モデルでは【参加型アプローチに対 する肯定的な理解】に含まれていた「職場の皆 と一緒に楽しみながら取り組みに参加するようにな
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った」についても、職場メンバーと一緒に楽しみながら取り組むことで、職場メンバーとの関係性が 深まると解釈され、<情緒的な結びつきの深まりによる職場メンバーとの関係性の促進>に含まれ たと考えられる。さらに、「安全や健康を向上する視点からの様々な意見を上層部に言えるようにな った」は、様々な意見を上層部に言うという行動の一つととらえ、仮説モデルでは【自主的に行動す る力の獲得】に含まれていたが、上層部に意見を言う行為は職場メンバーとの関係性が促進された 上に成り立っているととらえられるため、この因子に含まれたと推察される。
<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>は、仮説モデルにおける概念のうち、
【安全や健康に対する意識の向上】と【自主的に行動する力の獲得】の項目により構成された。安 全や健康に対して意識が高まることで自分から行動する力につながっていくのであるが、意識の向 上と行動する力は互いが密接に関連しながら醸成されていくものなので、概念として分けがたいも のであり、同じ因子として抽出されたと考える。また、「お金をかけなくても知恵を出し合いながら改 善できることに気づいた」は、仮説モデルでは【成果に基づく自信と達成感の強化】に含まれていた 項目であったが、低コスト改善を工夫していくことに対する気づき自体は安全衛生に対する意識の 高まりともとらえられるため、<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>に分類された と考えられた。
<参加型職場環境改善の必要性の認識>は仮説モデルの【参加型アプローチに対する肯定 的な理解】に含まれる 2 つの項目のうち、参加型の取り組みの必要性や取り組みを継続していく重 要性の認識に関する項目で構成されおり、<参加型職場環境改善の必要性の認識>と命名した 。
仮説モデルのうち、【成果に基づく自信と達成感の強化】は独立した因子としては抽出されなか った。「職場環境改善の成果が褒められ、承認されることで意欲が高まった」は、<情緒的な結び つきの深まりによる職場メンバーとの関係性の促進>に「お金をかけなくても知恵を出し合いながら 改善できることに気づいた」は<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>に分類され た。【成果に基づく自信と達成感の強化】が下位概念として抽出されなかった理由は、この概念に 含まれる項目が自信と達成感について直接的に尋ねる項目でなく、改善を承認 されることで意欲 が高まる、自分たち自身の力で改善が進められることに気づくなどの間接的な事象を自信と達成 感の強化の概念としてとらえる内容が多かったため、各々が直接的に表現している事柄そのままの 意味合いとして別々の概念として解釈されたためと考えられる。
下位概念の内的整合性をクロンバックαの信頼性分析にて検討したところ、0.886~0.949 とす べての概念において 0.7 以上であり、全体的に内的整合性があると考えられた。予備研究で作成 した仮説モデルと本研究の因子分析の結果の下位概念の内容において、大きな相違はなく、構成
107 概念妥当性があると考えられた。
以上のことから、参加型職場環境改善による労働者個人のアウトカムの特徴として、意識、行動 の変化については、<安全衛生に対する意識の向上と行動する力の獲得>による自主的な安全 衛生の取り組み姿勢が醸成されていた。当事者として参加型職場環境改善に参加し、職場の環 境を安全や健康の側面でとらえ、職場の良い点や改善すべき点を皆で共有し、自分たちで考えた 改善計画を実施するプロセスの中で、職場環境や職場の安全・健康に対する当事者意識が高まり、
意識や行動の変化につながったと考える。そして、関係性の変化として、<情緒的な結びつきの深 まりによる職場メンバーとの関係性の促進>が明らかになった。参加型アプローチのプロセスの中 では、職場の環境や仕事をすすめる上でのちょっとした困りごとや工夫点を皆で共有する場がある。
共有された内容は日常的な些細な気がかりであるかもしれないが、職場メンバーにそのことを聞い てもらえたという安心感や、職場メンバーも同じことに気がかりを持っていたという気づきや思いの共 感によって、情緒的な結びつきが深まり、職場メンバーとの関係性が深まっていったのではないかと 考えられる。そして、当事者としての安全衛生に対する意識の高まりや行動する力の獲得、職場メ ンバーとの関係性の促進といった労働者個人の意識、行動の変化や関係性の変化が、参加型職 場環境改善の必要性や継続の重要性を実感するというアウトカムである<参加型職場環境改善 の必要性の認識>、すなわち取り組み自体への思いとして特徴づけられたと考える。
2. 推進者個人のアウトカムの特徴
因子分析の結果、参加型職場環境改善による推進者個人のアウトカムは、<皆で進める継続 的な仕組みづくりを目指した戦略的な方法の獲得>、<自身の成長と自信の獲得>、<安全や 健康リスクに対する感度の向上>、<労働者との関係性構築による成果の実感>から構成された。
仮説モデルの下位概念【全員が参加できる継続的な仕組みづくりを目指した戦略的な取り組み 方法の獲得】は<皆で進める継続的な仕組みづくりを目指した戦略的な方法の獲得>に含まれた。
この概念は、推進者が職場の労働者を巻き込みながら取り組みを拡大・浸透していくために、様々 な経験を通じて得た戦略的に取り組み方法を獲得していく様をとらえているが、仮説モデル【労働 者との関係性の構築と信頼感の醸成】の項目である「労働者から様々な意見やアイ デアが出てくる ことの重要性を認識するようになった」、「労働者とのコミュニケーションをとることの重要性を認識す るようになった」は、職場の労働者とコミュニケーションをとり、意見を聞きながら一緒にすすめていく ことを、取り組みを継続し、浸透せるための戦略的な方法の一つととらえたため、この因子に含まれ たと推察される。単に参加するだけでなく、いかに労働者を巻き込みながら一緒に進めていくか、