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接頭辞の分析と結果

6.2. 学習価値の高い派生接辞

6.2.2. 分析:生起頻度と実質的生産性の計測

6.2.2.1. 接頭辞の分析と結果

6.3.1.で詳細に述べるが,分析の結果,RNC-MとRNC-Sの高頻度5,000語内には動詞に付加さ

れる接頭辞が非常に多く含まれていることがわかった.語形成の過程を考えた場合,動詞接頭辞 は2つに大別される.そこで,分析の結果をまとめた表には,「動詞①」と「動詞②」という項目 を設定した.

(58) 動詞①と動詞②の欄の見方

a. 動詞① 1) брать → 2) убрать b. 動詞② 1) брать → 2) убрать → 3) уборка

brat' ubrat' brat' ubrat' uborka

take-V. clean-V. take-V. clean-V. cleaning-N.

「取る」 「掃除する」 「取る」 「掃除する」 「掃除」

例えば,a.の2) убрать/ubrat'「掃除する」は,基本形である動詞1) брать/brat'「取る」に動詞接

頭辞 у-/u-188が付いた派生語である.このように,「動詞に付いている」動詞接頭辞だけを対象と

して生起頻度と実質的生産性をカウントするやり方を「動詞①」とする.一方,b.の3) уборка/uborka

「掃除」は,1) брать/brat'に動詞接頭辞 у-/u-が付いた 2) убрать/ubrat'に対して,さらに接尾辞

-к-/-k-189が付加されてできた派生語である.この語は動詞убрать/ubrat'からの派生名詞であるが,

188 動詞接頭辞у-/u-はさまざな意味を有するが (cf. АН СССР 1980: 371-372; Ефремова 1996: 467-469),その 基本的・空間的な意味は「MOVE AWAY / 去る・去らせる」である (cf. Janda et al. 2013: 30-41)убрать/

ubrat'においてу-/u-はこの意味で基本形に付加されている.

189 ここでは,接尾辞-к-/-k-は基本形である動詞に付いて,その基本形が表す行為の特徴をもった名詞を形

ここに含まれるу-/u-は名詞ではなく動詞に付加された接頭辞である.b.のように,他の品詞の語 に動詞接頭辞が存在する場合は「動詞②」に分類して生起頻度と実質的生産性を計測する(6.3.2.

で言及するゼロ接尾辞化に際して動詞②の例は頻繁に観察される / 例:ходить/hodit'「進む」→

приходить/prihodit'「着く」→ приход/prihod「到着」).

また,1つの派生語に2つの動詞接頭辞が付いている場合,語形成の過程において最後に付加 された方のみを計測の対象とする.

(59) 動詞接頭辞が2つ付いている派生語

a. водить → b. проводить → c. сопроводить

vodit' → provodit' → soprovodit'

take-V. lead-V. accompany-V.

「連れていく」 「送る」 「同伴する」

上記c. сопроводить/soprovodit'「同伴する」は,まずa. водить/vodit'「連れていく」に動詞接頭辞 про-/pro-が付き,その結果形成された b. проводить/provodit'「送る」にさらに動詞接頭辞 с-/s- (со-/so-)190が付加されてできた派生動詞である191.この場合,сопроводить/soprovodit'の基本形は a. водить/vodit'ではなく b. проводить/provodit'である.сопроводить/soprovodit'を理解するのに,

動詞接頭辞2つと基本形の知識が必要と考えると,その学習負荷はかなり大きいと推測される.

そのため,基本形から数えて1つ目の接頭辞,つまり,本源形から2つ目の動詞接頭辞のみを分 析対象とした(сопроводить/soprovodit'であれば,с-/s- (со-/so-)がこれに該当する).ただ,RNC-M

とRNC-S両方においてこのような例は10を下回る192

他にも,生起頻度と実質的生産性の計測上の問題として,語形成の過程が2通り想定される場 合が挙げられる.例えば,否定の意味を表す接頭辞не-/ne-は,形容詞と副詞の両方に付加され得

成している (АН СССР 1980: 130).

190 с-/s- (со-/so-)のように,本稿は異形態を( )内に記す.

191 ここでは,про-/pro-は「DISTANCE / ある距離を通過する動作」の意味でводить/vodit'に付加されて いる(なお,この接頭辞の意味に関しては7章で詳細に扱う).また,2つ目の接頭辞с-/s- (со-/so-) は,「共同で行う動作」の意味で基本形に付加されていると考えられる (cf. Ефремова 1996: 438)

192 この場合におけるсо-/so-のような2つ目の動詞接頭辞は,あまり盛んに研究されておらず,記述も少 ない.ただ,Beliakov, Guiraud-Weber (1997)は,2つ目の動詞接頭辞は空間的な意味を示すことはないと 述べている.また,1つ目の動詞接頭辞と異なり,動詞語幹と直接関係していないため,動詞に与える 意味が限定的である,といった特徴も挙げている.

接頭辞は接尾辞よりも語彙的であるため,ふつう他の接頭辞と結びついた時でもその意味は弱くなら ないとされるが (Янко-Триницкая 2001: 250),上記のような1つ目と2つ目の接頭辞で異なる特徴も指 摘されている.本稿では,2つ目の動詞接頭辞が付いた動詞の例は非常に少ないため,深い議論は行わ ないが,本来,1つ目の動詞接頭辞とは分けて扱うべきであろう.

る (АН СССР 1980: 402).そのため,副詞неинтересно/neinteresno「面白くなく」がどのような過 程で形成されたかに関しては,以下の2通りの解釈が考えられる.

(60) 2通りの解釈が可能な語形成の過程の例

a. 解釈①:1) интересный → 2) неинтересный → 3) неинтересно

interesnyj neinteresnyj neinteresno

interesting-ADJ. not_interesting-ADJ. not_interestingly-ADV.

「面白い」 「面白くない」 「面白くなく」

b. 解釈②:1) интересный → 2) интересно → 3) неинтересно interesnyj interesno neinteresno

interesting-ADJ. interestingly-ADV. not_interestingly-ADV.

「面白い」 「面白く」 「面白くなく」

a.における3) неинтересно/neinteresno「面白くなく」は,形容詞である2) неинтересный/neinteresnyj

「面白くない」を基本形とし,そこに接尾辞-о/-o(6.3.2.参照)が付いて形成された副詞である.

一方,b.における3) неинтересно/neinteresnoは,副詞である2) интересно/interesno「面白く」に接

頭辞не-/ne-(6.3.1.参照)が付加されたできた副詞である.

上記のケースが本稿の分析対象内には大量に確認される.これが,例えば,b.の副詞に対する 接頭辞付加の例であるという確固たる根拠はないが (Янко-Триницкая 2001: 314-315),本章では便

宜的にb.の例として処理する(つまり,形容詞ではなく,副詞に付いたне-/ne-として扱う)

なお,本稿では生起頻度と実質的生産性の計測に際して,異形態は主にЕфремова (1996)に基づ いて1つにまとめている(例:動詞接頭辞о-/o-об-/ob-は1つに集約する)193

以上の注意事項を踏まえて各接頭辞の生起頻度と実質的生産性を計算した.結果は以下の通り である.

193 Янда (2013: 12)が述べているように,接頭辞の異形態に関して数多くの理論的研究や記述がなされてき

た:例えば,Townsend (1975: 127), Барыкина и др. (1989: 29), Зализняк, Шмелёв (2000: 83), Timberlake (2011: 404), Wade (2011: 287)などは,動詞接頭辞о-/o-об-/ob-を異形態の関係にあるとして1つの接頭 辞と捉えているが,АН СССР (1980)は逆の立場を取っている.ただ,異形態のそれぞれ(о-/o-とоб-/ob-)

に当該の接頭辞のすべての意味が備わっているかどうかは難しい問題である.

о-/o-とоб-/ob-を1つにまとめるにはこの問題を検討しなければならないが,これは本稿の議論の範

囲外である.また,語彙学習に派生接辞の知識を利用する上で,このような厳密な区分が必要である とも思えない.ここでは,上記参考文献に倣って接頭辞の異形態を認め,例えば,о-/o-とоб-/ob-を1 つの接頭辞として扱う.

表56. RNC-Mの高頻度5,000語内における接頭辞の生起頻度と実質的生産性194 接頭辞195 基本形の品詞196 例 RNC-M

生起頻度(ipm) 実質的生産性

без-

名詞 / 0 0

形容詞 безопасный 161.1 2

副詞 / 0 0

в-

動詞① войти 661.8 9

動詞② 871.2 14

副詞 / 0 0

вз-

動詞① вспомнить 559.1 6

動詞② 981.1 10

名詞 / 0 0

воз- 動詞①

возмущаться 185.0 6

動詞② 378.1 10

вы- 動詞①

выйти 2,818.7 40

動詞② 3,750.5 54

до-

動詞① допить 309.0 7

動詞② 412.6 8

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

за-

動詞① заговорить 1,918.4 48

動詞② 2,987.0 67

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 заранее 63.0 1

из-

動詞① изучить 378.1 9

動詞② 666.5 17

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

кое- 代名詞 кое-что 42.4 1

на-

動詞① написать 1,632.0 22

動詞② 2,487.6 30

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

194 АН СССР (1980)には90 近い接頭辞が記載されているが,表にはRNC-Mにおいて確認されたものしか

記載していない:「反,非,対」を意味する接頭辞анти-/anti-は名詞と形容詞に付き得るが,本章の分 析対象内で確認されなかったため,表にはそもそも記載がない.なお,表57にもこれは適用される.

195 この欄には異形態を記載せずに,Ефремова (1996)が代表的であるとしている形態を載せている.また,

57にも同様のことが当てはまる.なお,各異形態を代表する形態は,生起する位置に汎用性がある,

もしくは生起頻度が高いものであるなどの決め方がある (Янко-Триницкая 2001: 51-52)(例えば,с-/s- со-/so-であればс-/s-)

196 接頭辞が付加される品詞の情報は,アカデミー文法 (АН СССР 1980)の記述に基づく.また,表には当 該の接頭辞が付加され得る品詞すべてを列挙してある.なお,表57にもこれは当てはまる.

副詞 навсегда 98.5 2

над-

動詞① надписать 49.9 1

動詞② 49.9 1

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

наи- 形容詞 наибольший 32.5 1

не-

名詞 неудача 130.3 4

形容詞 небольшой 1,473.6 27

副詞 неплохо 1,000.8 20

代名詞 негде 918.8 6

ни- 代名詞 нигде 2,484.4 7

о-

動詞① обойти 772.8 22

動詞② 1,742.2 39

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

от-

動詞① открыть 1,261.4 21

動詞② 2,141.1 33

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 откуда 336.9 4

пере-

動詞① перевести 569.0 11

動詞② 973.7 19

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

по-

動詞① поставить 5,479.9 73

動詞② 7,498.3 108

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

под-

動詞① подготовить 883.5 15

動詞② 1,462.0 24

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

пре-

動詞① прервать 84.3 3

動詞② 152.3 5

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

пред-

動詞① предстоять 228.7 4

動詞② 256.8 5

名詞 / 0 0

形容詞 предыдущий 55.3 1

при- 動詞①

прибежать 2,628.5 31

動詞② 3,012.4 42

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

про-

動詞① пропустить 1,628.3 21

動詞② 1,942.4 29

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

противо-

動詞① противоположить 43.4 1

動詞② 43.4 1

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

раз-

動詞① разбить 1,454.2 27

動詞② 2,400.5 43

名詞 разум 84.7 3

形容詞 / 0 0

с-

動詞① сделать 3,808.5 47

動詞② 5,468.8 70

名詞 / 0 0

副詞 свыше 24.2 1

у-

動詞① увидеть 3,047.2 38

動詞② 4,658.3 62

名詞 / 0 0

表57. RNC-Sの高頻度5,000語内における接頭辞の生起頻度と実質的生産性

接頭辞 基本形の品詞 例 RNC-S

生起頻度(ipm) 実質的生産性

без-

名詞 / 0 0

形容詞 безопасный 18.9 1

副詞 / 0 0

в-

動詞① войти 400.7 12

動詞② 486.5 16

副詞 / 0 0

вз-

動詞① вспомнить 252.0 4

動詞② 330.0 7

名詞 / 0 0

воз- 動詞①

возмущаться 10.1 1

動詞② 41.6 2

вы- 動詞①

выйти 2,774.4 61

動詞② 3,148.7 72

до-

動詞① допить 551.9 16

動詞② 567.0 17

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

за-

動詞① заговорить 2,947.5 71

動詞② 3,257.4 81

名詞 заграница 10.1 1

形容詞 заочный 26.5 2

副詞 заранее 55.5 2

из-

動詞① изучить 354.0 11

動詞② 375.4 12

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

кое- 代名詞 кое-что 54.2 2

на-

動詞① написать 1,982.9 34

動詞② 2,224.7 40

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 навсегда 93.2 3

над-

動詞① надписать 0 0

動詞② 12.6 1

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

не-

名詞 несчастье 50.4 2

形容詞 небольшой 845.6 24

副詞 неплохо 1,223.2 22

代名詞 негде 312.5 6

ни- 代名詞 нигде 3,957.4 9

о-

動詞① обойти 338.9 19

動詞② 589.7 33

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

от-

動詞① открыть 1,246.2 28

動詞② 1,734.0 41

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 откуда 492.6 4

пере-

動詞① перевести 840.3 27

動詞② 1,034.4 33

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

по-

動詞① поставить 9,217.1 122

動詞② 9,694.5 140

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

под- 動詞① подготовить 1,044.4 19

動詞② подготовить 1,244.9 28

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

поза- 形容詞 / 0 0

副詞 позавчера 26.5 1

после-

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 послезавтра 22.7 1

пра- 名詞 прадед 12.6 1

пред-

動詞① / 0 0

動詞② 0 0

名詞 / 0 0

形容詞 предыдущий 23.9 1

при-

動詞① прибежать 4,166.6 30

動詞② 4,388.3 37

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

про-

動詞① пропустить 1,388.4 31

動詞② 1,615.3 40

名詞 / 0 0

形容詞 / 0 0

副詞 / 0 0

раз-

動詞① разбить 1,589.9 33

動詞② 1,868.4 38

名詞 разум 22.7 2

形容詞 / 0 0

с-

動詞① сделать 5,053.6 65

動詞② 5,794.4 79

名詞 / 0 0

副詞 / 0 0

у-

動詞① увидеть 3,101.0 43

動詞② 3,431.0 56

名詞 / 0 0

この結果は6.3.1.で考察する.