• 検索結果がありません。

分析結果の考察:後接辞,接周辞,連接辞

6.3. 分析結果の考察

6.3.3. 分析結果の考察:後接辞,接周辞,連接辞

6.3.3.1. 後接辞

本章の分析で確認された後接辞は-либо/-libo, -нибудь/-nibud', -то/-to, -ся/-sâの4つである231-либо/-libo, -нибудь/-nibud',-то/-toは疑問詞に付いて,что-либо/čto-libo「何か」, кто-то/kto-to「誰

229 ロシア語の教材で-к-/-k-に焦点が当てられることはあまりない.だが,女性の「日本人」「アメリカ人」

などの国籍を表す女性名詞の形成において導入されることがある(例:японец/âponec「男性の日本人」

– японка/âponka「女性の日本人」.この接尾辞は,-ист/-ist, -ец/-ec, -ик/-ik, -овик/-ovikなどの接尾辞を 持った男性名詞に対しての女性名詞を作り出す (Земская 2007: 151).ただし,分析対象の高頻度語の中 では,この意味で-к-/-k-が付加された例はеврейка/evrejka「女性のユダヤ人」しか確認されなかった.も ちろん,学習上,国籍を表す語の男性・女性の知識は非常に重要であり,(77)に加えてこの意味も導 する価値はあると思われる.

3.1.2.で言及したが,横川 (2006: 33-34)はコーパスに基づいた語彙リストの問題点として,学習や日常

生活に役立つsoup「石けん」bath「浴室」cushion「クッション」などの具象名詞の欠如を挙げている.

語の頻度はあるコーパスに含まれるテキスト群の内容を反映したに過ぎず,統一性にかけるため,日常 に有用な語が頻度リストから抜け落ちてしまうことがある (Stubbs 2001: 41-42).国籍を表す名詞群もコ ーパスには反映されづらい重要語と言えるであろう.

230 Земская (2007: 118-119)によると,現代ロシア語においては接尾辞-тел’/-tel'は,上記意味では潜在的な 生産性が低く,-щик/-ŝikや-льщик/-l'ŝikよりも活動的ではない,とされる.だが,既存の高頻度語に 限って言えば,-тел’/-tel'の方が生起頻度と実質的生産性の点で優っている.

231 これらの後接辞の生起頻度と実質的生産性は以下の通りである:

a. -либо: RNC-M/RNC-S – 生起頻度 89.2 / 0 実質的生産性 2 / 0 b. -нибудь: RNC-M/RNC-S – 生起頻度 469.0 / 1,393.5 実質的生産性 6 / 7 c. -то: RNC-M/RNC-S – 生起頻度 2,524.4 / 6,477.4 実質的生産性 11 /18 d. -ся: RNC-M/RNC-S – 生起頻度 12,536.5 / 9,690.1 実質的生産性 207 / 245

か」, где-нибудь/gde-nibud'「どこか」といった不定代名詞を形成する (АН СССР 1980: 412-413).

-нибудь/-nibud'と-то/-toは実質的生産性こそ低いが生起頻度は高い.両者は用法に違いがあり,そ

の使い分けは言語運用上極めて重要であるため,多くの教材がその説明を導入している.

なお,-либо/-liboは-нибудь/-nibud'と類似の意味を表す.ただ,Wade (2011: 164)が言うように,

-либо/-liboはより不定性が強いニュアンスを示し,-нибудь/-nibud'の文語的な形態として機能する.

実際,-либо/-liboを含んだ不定代名詞は文法書などには頻繁に現れる.ただ,本章の分析からは,

後接辞-нибудь/-nibud'と-то/-toの方が学習優先度は高いと言える.

後接辞-ся/-sâは生起頻度と実質的生産性が極めて高い.Ефремова (1996: 454-455)は,この後接 辞の「すべての場合に共通する役割は他動性の除去(これは,одевать/odevat'「着せる」–

одеваться/odevat'sâ「着る」<...> などの他動詞から形成される動詞に最も特徴的である),もし くは非他動性の強化(белеть/belet'「白く見える」– белеться/belet'sâ「ぼんやり白く見える」, <...>

などの動詞における)」であるとし,細分化した12の意味を挙げている(再帰,一般再帰,受動,

相互再帰,間接再帰など).

多くの教材は後接辞-ся/-sâについて言及しているが,その焦点は特殊な活用であり,意味では ない.ただ,沼野他 (2012: 108)は後接辞-ся/-sâがもたらす意味に関して以下の4つを導入してい る.

(79) 後接辞-сяの意味の例

a. 再帰: одевать → одеваться b. 受動: читать → читаться odevat' odevat'sâ čitat' čitat'sâ

apparel-V. dress-V. read-V. be_read-V.PASS.

「着せる」 「着る」 「読む」 「読まれる」

c. 相互再帰: целовать → целоваться d. 自発: кончать → кончаться celovat' celovat'sâ končat' končat'sâ

kiss-V. kiss_one_another-V. finish-V. end-V.

「キスする」 「互いにキスする」 「終える」 「終わる」

上記-ся/-sâの意味と基本形である動詞の意味が既知であれば,派生語の意味は予想できる,もし くは暗記しやすくなるであろう.分析対象内において,後接辞-ся/-sâは上記4つの意味で頻繁に 付加されており,生起頻度と実質的生産性の点でこれらが中心的であると思われる.語彙力増加 の目的で後接辞-ся/-sâを導入する価値は高いと言える.

6.3.3.2. 接周辞

分析対象内において,接周辞の生起頻度と実質的生産性はそれほど高くはない.RNC-M と

RNC-Sの各高頻度5,000語内において,それぞれ約170例,約150例しか確認されない.その中

で 実 質 的 生 産 性 が 5 を 超 え , か つ , 両 コ ー パ ス に 共 通 し て 生 起 し て い る 接 周 辞 は , по-…-ому/po…-omu (по-…-ему/po-…-emu),с-…-а/s-…-aの2つのみであった232

(80) RNC-MとRNC-Sの両方で確認され,実質的生産性が5を超える接周辞

a. по-…-ому (по-…-ему):

1) другой → по-другому 2) хороший → по-хорошему

drugoj po-drugomu horošij po-horošemu

different-ADJ. differently-ADV. good-ADJ. proficiently-ADV.

「他の」 「異なるやり方で」 「良い」 「うまく」

b. с-…-а: 1) высокий → свысока 2) лёгкий → слегка

vysokij → svysoka lëgkij → slegka

high-ADJ. condescendingly-ADV. light-ADJ. lightly-ADV.

「高い」 「上から」 「軽い」 「軽く」

по-...-ому/po-...-omu (по-…-ему/po-...-emu)は基本形である形容詞から副詞を形成し,その形容詞が 表す特徴の状況的な意味を表す (Ефремова 1996: 380).с-...-а/s-...-aも形容詞から副詞を形成し,

その形容詞によって示される時間,場所,動作の状況的な意味を表す (Ефремова 1996: 439).

生起頻度と実質的生産性の観点から,これらの接周辞の学習優先度は低い.また,接周辞自体 が高頻度語内であまり使用されていないのであれば,そもそもこのカテゴリーを設定しない方が 良いのかもしれない.

6.3.3.3. 連接辞

Wade (2011: 31)が言うように,ロシア語において「合成語の構成要素は通常-о-/-o-によって繋が

232 これらの接周辞の生起頻度と実質的生産性は以下の通りである:

a. по-...-ому (по-…-ему): RNC-M/RNC-S – 生起頻度 225.5 / 350.3 実質的生産性 6 / 6 b . с-...-а: RNC-M/RNC-S – 生起頻度 711.4 / 505.3 実質的生産性 6 / 6

なお,片方のコーパスにしか確認されないが,実質的生産性が5を超える接周辞は3つ存在する:

1) в-...-ゼロ接尾辞/v-...ゼロ接尾辞(状況を表す副詞を形成する:конец/konec「終わり」→ вконец/vkonec

「すっかり」.2) о-...-и-/o-...-i-(基本形の特徴を対象に付与するという意味をもった他動 詞を形成す る:свобода/svoboda「自由」→ освободить/osvobodit'「解放する」3) у-...-и-/u-...-i-(基本形の 特 徴 を 対象に付与する,という意味などをもった他動詞を形成する:лучший/lučšij「さらに良い」

улучшить/ulučšit'「改良する

れる」.この連接辞-о-/-o-は合成語の連結部分として機能し (Тихонов 1985: 23),連接辞の中で最 も潜在的な生産性が高い (АН СССР 1980: 253).また,分析対象の高頻度語内においても,合成 語の形成に際しては-о-/-o- (-е-/-e-)が最も頻繁に用いられており,かつ,実質的生産性が高いこと がわかった233

(81) -о- (-е-)による合成語の形成の例

a. язык + знание → языкознание b. пеший + ход → пешеход âzyk znanie âzykoznanie pešij hod pešehod

language-N. knowledge-N. linguistics-N. pedestrian-ADJ. going-N. pedestrian-N.

「言語」 「知識」 「言語学」 「歩行用の」 「進行」 「歩行者」

-о-/-o- (-е-/-e-)が語と語のつなぎ目に現れる接辞であるという知識は,合成語の理解を促進するで あろう.したがって,この連接辞の学習優先度は高いと言える.