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動詞接頭辞 про-/pro-の意味分類

7.1. 動詞接頭辞 про-/pro-の意味分類と分類手法

7.1.1. 動詞接頭辞 про-/pro-の意味分類

接頭辞の意味の数は設定された何らかの基準により決まるため,本質的な問題としてではなく,

副次的な問題として議論すべきである.Кронгауз (1995: 38)が述べているように,接頭辞の「意味 は多くもあり,同時に少なくもあるが,これらの意味は異なるレベルにおいて規定されているの である.より正確に言うと,多くの具体的な意味はより抽象的な意味に統合され,さらに1つの レベルの意味群としても,異なるレベルの意味群としても互いに作用し合っている」.例えば,

次の2つの例に含まれるпро-/pro-の意味は,АН СССР (1980: 369)では異なるものとして提示され ているが,Janda et al. (2013: 107)では同じものとして1つに集約されている.

241 放射状カテゴリーは,主に認知言語学において多義語の意味分析などに用いられる(7.4.にて詳細に扱 う)

(93) про-/pro-の異なる意味分類の例

a. По пути мы проехали небольшую станцию <...>.

Po puti my proehali nebol'šuû stanciû <...>.

on_the_way we ride_past-V.PST. small-ADJ.ACC. station-N.ACC.

「途中で私たちは小さな駅を通り過ぎた.」

b. Главное, не проглядеть нужный момент <...>.

Glavnoe, ne proglâdet' nužnyj moment <...>.

important_thing not look_over-V.INF. necessary-ADJ.ACC. moment-N.ACC.

「重要なことは,必要な瞬間を見逃さないことである.」

(現行RNC-Mより引用: アクセス日 2017/10/30)

АН СССР (1980: 369)によると,a.の下線部проехать/proehat' (> проехали/proehali)「(乗り物で)通 過する」の про-/pro-は何らかの対象の側を通る動作を,b.の下線部 проглядеть/proglâdet' 「見落

とす」のпро-/pro-は逃す・逸する動作を意味する.一方,Janda et al. (2013)では,その記述から判

断してこの2つの意味はPASSという1つのグループにまとめられている.

広く捉えれば,側を通り過ぎる動作と逃す・逸する動作の類似性は高い.Janda et al. (2013)はよ り抽象的なレベルでこれらを1つに集約しているものと推測される.一方で,より細かく,具体 的に意味を分類する立場からすると,この2つの意味を分けて扱うという判断が成り立つ(後述 の7.2.2で詳細に述べる).

つまり,接頭辞の意味分類に関して厳密な規定は存在しないため,「『複数の意味,もしくは 1 つの意味のどちらが良いのか?』という問題には終わりがない」(Кронгауз 1995: 34-35) のである.

他にも,Зализняк (1995: 144)は,意味の分類に際してそもそも「どの接頭辞も1つの意味,それ とも,複数の意味を有しているのか?もし接頭辞が多義と認められるなら,異なる意味の間にし っかりとした関係性は存在するのか? <...> 接頭辞の意味間にどう境界線を引くのか?」といっ た問題が提起されると述べており,意味の個数に関する議論は成立自体が難しいと言える.

そのため,意味の分類には,必然的に便宜的にはなるが,研究者によって事前に設定された何 らかの基準が求められる.本章では,動詞接頭辞про-/pro-の意味分類を行うにあたって,まず先 行研究の記述 (АН СССР 1960, 1980; Кронгауз 1995, 1998; Ефремова 1996; Ожегов, Шведова 1997;

Janda et al. 2013)を参考とする.そして,その際,7.1.2.で言及する各意味の解釈構 ,意味的・統 語的特徴,イメージ・スキーマという判断基準を設定し,分類の妥当性を裏付ける.

先に分類の結果を提示する(本章はпро-/pro-が持つ意味群を次の9つに分類した).

表65. 本章における動詞接頭辞про-/pro-の意味分類

用語242 意味 基本形と接頭辞付き派生動詞の例

1. THROUGH 何かを通過・貫通する動作 ломать「壊す」

break

проломать「穴を開ける」

bore

2. PASS 何かの脇・側を通過する動作 ехать(乗り物で)進む」

ride

проехать(乗り物で)通過する」

ride past

3. MISS 何かを逃す・逸する動作 спать「寝る」

sleep

проспать「寝過ごす」

miss…due to being asleep

4. DISTANCE ある距離を通過する動作 бежать「走る」

run

пробежать「ある距離を走って通り過ぎる」

run through a certain distance

5. DURATION ある時間を通して何かに

従事する動作

сидеть「座っている」

sit

просидеть「ある時間座っている」

sit for a certain time

6. EXTENSION 何かが伸びる動作 тянуть「張る,引く」

pull, draw

протянуть「差し出す,伸ばす」

extend 7. THOROUGH

何かを徹底的に, 通しで 行う動作

варить「煮る」

boil

проварить「十分煮る」

boil enough 8. EXPEND

何かを消費する・使い尽くす 動作

пить「飲む」

drink

пропить「飲酒に費やす」

waste money on drinking

9. HARM 何かに害・損傷を与える動作 студить「冷やす」

cool

простудить「風邪を引かせる」

let catch cold

1〜5, 7〜8 の意味は,АН СССР (1980)の記述に基づく(ただし,用語は著者による).6.

EXTENSION, 9. HARMの意味はАН СССР (1980)には欠如している.だが,例えば,東郷他(編)

(1988)ではEXTENSIONに相当する意味は個別に記載されている.また,HARMに相当する意味

に関しては,АН СССР (1960), Кронгауз (1995), Ожегов, Шведова (1997),Барыкина, Добровольская

(2015)において部分的な記述が確認される(各意味の詳細は7.2.を通して詳細に論じる).

なお,本章では,АН СССР (1980)に記載されている「基本形の動詞によって表される動作を(結 果に至るまで行う)遂行する」という,いわゆる体の転換を担う意味((91)の e.)は設定してい

242 1, 2, 4, 5, 7の用語は,Janda et al. (2013)におけるпро-/pro-の記述に倣っている.他の用語は,Janda et al.

(2013)における他の接頭辞の意味分類に用いられている用語や,該当する意味に分類される動詞の語義

を参考にして著者が考えた.なお,Зализняк (1995)やJanda et al. (2013)に倣って用語は英語の大文字で 記すこととする.

ない243