7.1. 動詞接頭辞 про-/pro-の意味分類と分類手法
7.1.2. 動詞接頭辞 про-/pro-の意味群の分類手法
ない243.
65における1. THROUGH, 2. PASS, 3. MISS, 4. DISTANCE, 5. DURATION, 7. THOROUGH, 8.
EXPEND).
次の手順b.では,про-/pro-が上記7つのうちどの意味で派生動詞に付加されているのかを,コ
ーパスのデータを用いて確認する:まず,現行RNC-Mで100回以上生起しているпро-/pro-の付 いた派生動詞(約300)を分析対象として抽出した244(なお,本章は後接辞-ся/-sâが付いた再帰 動詞を分析対象外とする245).次に,電子版ОжеговとУшаковの詳解辞典246が提示する300の派 生動詞の語義(約590)を対象とし,これらにおいて接頭辞про-/pro-が7つのうちどの意味で付 加されているのかを検討する.ただ,その際,うまく判断できない派生動詞(とその語義)に関 しては未分類とする.
そして手順 c.では,b.の作業と並行して про-/pro-の各意味の解釈構 ,意味的・統語的特徴
(7.1.2.1.),イメージ・スキーマ(7.1.2.2.)を検討する.これらは,про-/pro-の意味を設定する際 の判断基準として機能し,また,後述のC_1 における意味毎の頻度の計測(7.3.参照)において の分類の基準としても使用される.そして,手順d.ではこれら3つの観点から,b.の段階で未分 類とした派生動詞を処理するために新たな意味を2つ設定し(6. EXTENSION,9. HARM),この 2つの意味に対しても手順c.を実行した.
このようにして設定されたпро-/pro-の意味分類が表65である.つまり,現行RNC-Mで確認さ
れるпро-/pro-付きの派生動詞の分析に基づいて,この接頭辞の意味分類の記述を整備した結果が
表65であり247,後述のC_1における意味毎の生起頻度の計測にもこの枠組みを用いる.
次節において手順c.の解釈構 ,意味的・統語的特徴,そしてイメージ・スキーマの概要に言
244 このデータは,2016年4月に作成された(当時の現行RNC-Mの規模は,句読点を含めて192,689,044 語であった):具体的には,現行RNC-Mが提示しているタイプ単位の頻度データをレマ単位で再計算 した.そして,レマ単位の生起頻度が合計100を超えているпро-/pro-付きの派生動詞を分析対象とした 結果,約300の動詞が残った.
なお,Янда (2012), Janda et al. (2013)のデータベースの作成に倣って,本章も100回以上の生起頻度と いう閾値を採用した.この閾値の設定は,低頻度語まで分析対象に含めるとその数は膨大になってしま うため,それを避けるために取られた措置である.抽出の際に100という生起頻度を閾値とした言語学 的な根拠はないが,これは,接頭辞の意味の検証に十分な用例が確認できる数値と言えよう.
245 例えば,動詞接頭辞за-/za-の意味記述を行なっているЗализняк (1995)は,後接辞-ся/-sâが付いた再帰動 詞を分析対象外としている.理由は明記されていないが,接頭辞と後接辞-ся/-sâが付いた動詞は全体の 意味が複雑になり,接頭辞の意味と基本形の分析可能性が低下するためであると推測される.本章も再 帰動詞は分析から除外し,今後の課題とする(後接辞-ся/-sâを含めた分析をするにあたっては, про-/pro-だけでなく,-ся/-sâの意味記述も同様に整備されていなければならない).
246 ここでは派生動詞の語義すべてを分析対象としている.その際の語義の記述は,RNCが語の説明に採 用しているweb版の詳解辞典に基づく(検索で得られた語の語義を調べる際,RNCはその説明とし て
電子版ОжеговとУшаковなどの詳解辞典を用いている.ただ,両詳解辞典の細かな版まで記載されて
いない).URLは以下の通りである: http://dic.academic.ru/
247 現行RNC-Mに含まれる派生動詞を用いてпро-/pro-の意味の記述整備を行なったが,7.2.以降の各意味
の解説では,それぞれの特徴がよく現れている例を現行RNC-M だけでなく,web,C_1,研究書など からも引用する.
及する.
7.1.2.1. 解釈構造と意味的・統語的特徴
Кронгауз (1995)は,接頭辞 про-/pro-の意味群を分析する際,部分的ではあるが,解釈構
(структура толкования)という枠組みをその記述に用いている.解釈構 とは,ある文脈におい て当該の意味を獲得している一連の接頭辞付き派生動詞に共通する接頭辞の具体的な意味を指 す (Кронгауз 1995: 40).例えば,接頭辞про-/pro-が本章のTHROUGHに相当する意味で基本形に 付加されている場合,THROUGHは,この分類に属する派生動詞から判断して,以下のような解 釈構 を有している.
(95) Кронгауз (1995)の解釈構 の例(THROUGHに相当する意味)
a. 1) пробурить скважину в земле 2) прорубить окно в стене proburit' skvažinu v zemle prorubit' okno v stene bore-V.INF. chink-N.ACC. in ground-N.LOC. cut_through-V.INF. window-N.ACC. in wall-N.LOC.
「土を掘削して隙間をつくる」 「壁に窓用の穴を開ける」
b. действием V сделать отверстие Y в поверхности Z
「動作Vによって表面Zに穴Yを開ける」 (Кронгауз 1995: 40)
上記b.は,接頭辞про-/pro-がTHROUGHの意味で付加されている場合,基本形であるбурить/burit'
「穿孔する」,рубить/rubit'「切る」の動作Vによって,隙間/窓用の穴Yを土/壁Zに開けるとい う意味の構 を示している.
Зализняк (1995)も意味の型(тип значения)という類似の公式を用いて動詞接頭辞за-/za-の意味 記述を行なっている.Зализняк (1995: 160)は「接頭辞付き動詞の意味の型は,接頭辞付き動詞の 意味的特徴(複数の特徴)と特定の意味的・統語的特性の組み合わせで」決まる,としている.
(96) Зализняк (1995)における意味の型(FILL「覆う」の例)
a. засыпать яму землёй zasypat' âmu zemlёj
fill_up-V.INF. hole-N.ACC. dirt-N.INS.
「土を撒いて穴を塞ぐ」