7.2.1 「デジタルメディア」の利活用と「協働」による成果について
まず、デジタルメディアを導入したことは、商店街振興において、次の点で有効であった。
一点目は、商店街に情報発信の手段が増え、「早く」「リアルタイムに」「コストをかけ ずに」より多くの人々に発信ができるようになった。また、個店によっては、直接消費者(市 民)とツイッターを通じた「双方向での」やりとりをする事例も現れ始めている。商店街ゆ るキャラ「おずっちょ」や「おずっちょ」ツイッターは、商店街と市民との距離を縮めるの に一役買っている。また、デジタルメディアを導入したことが、若い世代が商店街へ関心や つながりを持つきっかけにつながっている状況が見られることである。サイネージのコンテ ンツ制作やツイッターの運営などにおいては、近隣からボランティアとして応募があったり、
大学生が積極的に関わったりしている。これまでアプローチが難しかった若い世代や地域か らの働きかけが新しく生じ始めている。
二点目は、メールマガジンやツイッターが商店街という「まち」単位での情報ネットワー クをつくりつつあるという点だ。この小さなネットワークは、日常は商店街やまちのイベン トについて発信し、震災に備えた防災訓練にも活用でき、さらには震災時においては町にお ける避難所や救援物資の状況、その後の商品の入荷状況など非常時においても身近で必要な 情報を機動的に、柔軟にパーソナルに発信することができる。「まち」の「安全・安心」の ネットワークになり得るだろう。
三点目は、これまでの情報発信の取組が、商店街自らを振り返り、モチベーションの向上 につながり始めていることである。情報を発信するということは自らをさらけ出すことであ る。商店街として何を市民に伝えるか、PRしていくのか、その繰り返しの作業を5年間続 ける中で、次第に自分の店だけでなく商店街としてのこと、商店街と地域との関係を考える ようになり、商店街に主体性・積極性が生まれることにつながった。会議に参加する役員の 数が増え、実施する事業の数が増えていくことになったのである。
次に、「協働」で商店街振興に取り組んだことは、次の点で有効であった。
一つ目は、専門的なスキルを持ち寄ることで新しい事業や取組を実施することができたこ とである。商店街の中だけで考えるのではなく、企業、行政、大学、市民(ボランティア)
の参加と協力を求めることで、それぞれの専門性や持ち味を活かし、役割分担をしながらい ろいろな新しい取組を実施できたことである。
二つ目は、外からの視点を持ち込むことができたこと、つまり社会におけるニーズや課題 を捉えることができたことである。内部の人間だけではひとりよがりになりそうなところを、
外部からの視点で改めて自らを見つめ直すことができ、ニーズや課題に沿った、また時流に
乗った事業展開につながっている。役員会議に、中小企業診断士、大学、行政が参加してい ることもこれらの点において有効に働いていると考えられる。
三点目は、「協働」を通じて、商店街や個店に活気が生まれることである。多くの人が参 加する「協働」が重層的に継続的に繰り返されることで、商店街が刺激を受けて自発的・積 極的な姿勢が生じ始めている。
7.2.2 行政が果たした役割とその有効性について
オズ通り商店街におけるこの商店街プロジェクトに行政(自治体職員)が果たした役割は 大きい。2010(平成22)年度から私が中原区役所から異動したこと、また2012(平成24)
年3月には川崎市役所を退職したことから、2010(平成22)年度から行政職員としてのプ ロジェクトへの参加はなくなったが、自治体職員だったからこそ果たせた役割と効果があっ た。
まず一点目は、行政は、内部にさまざまな部署や公共施設を持っていること、自治体職員 はそれらとのネットワークを持っていることから、行政のバックアップを得やすいことであ る。川崎市において商店街振興に関する業務は経済労働局の所管であるが、“映像のまちづ くり”であれば総合企画局(現在は、市民局)、“防災対応”であれば危機管理室、“子ども支 援に関すること”であれば区役所こども支援室など、どこがどういう所管をしていて、どう いう協力が得られるかということを知っている。さらには、どういう内容でどういう程度ま でなら、どういうお願いの仕方なら協力を得られるかという感触も持っている。それは、各 部署の置かれている位置づけや状況ばかりでなく、各部署における「人」の情報も持ってい るからである。地域における公民館、学校、消防、公園なども行政の中では数ある部署の一 つである。場所の提供や助成金、情報提供、人の紹介、事業の連携等が必要な場合、早く確 実に協力を得やすい。それどころか、行政の部署によっては、協力先の「コマ」を探してい るところが往々にしてある。行政が地域と連携して自らの業務目標を達成したことに見える ようになることで、行政も喜ぶのである。行政職員であれば、そういった行政と市民とが win-winの関係になるマッチングもしやすい。
二点目は、行政は、地域においてさまざまな情報やネットワークを持っていることである。
行政には多くの地域の情報が集まる。町内会や商店街、PTA、地域の子育てサークル等の 団体のほか、企業やマスコミ等ともつながりを持っているため、事業計画の立案やその実施 にあたっては連携協力のための仲立ちがしやすい。
三点目は、行政は一応でも市民からの信頼性を持っているため、市民から参加協力が得や すい点である。一応、というのは、市役所窓口における自治体職員に食ってかかってくる市 民、市長への手紙におけるクレームの多さといった日常があるにしろ、イベントや事業に際 し、自治体の共催や後援があると交渉ごとや助成金の申請等、対外的な調整ごとで有利に働 く点が事実上あるからである。また、参加する側にとっても、イベントのチラシに自治体名 称が入っていると、安心感を持つ傾向がある。
つまり、今回の商店街プロジェクトで私が務めた役割を振り返ると、行政(自治体職員)
が持っているリソースとは、「行政内部及び地域における情報とネットワーク」、「市民か らの安心感」ということになる。このことは、行政と商店街との関係は、これまでの補助金 というお金を介したつながり、主従の関係だけではないことがわかる。行政が地域社会で期 待されている役割や活躍できるフィールドは、補助金助成以外にも数多くあることがわかる。
7.2.3 行政からみた商店街プロジェクトの有効性と評価
行政(地方自治体)にとっての、この5年間の商店街プロジェクトの有効性及び評価につ いて考察してみたい。
商店街振興は行政にとって経済振興、雇用促進、ひいては定住人口の増加にもつながり、
ひいては市税収入の増加を期待するものである。
行政にとって嬉しいことの一つは、税収増加が今後期待できない現在、地域で税収だけに 頼らない公共の福祉が数多く生まれることである。協働社会の構築のためには、「自助」「共 助」「公助」のうち、「共助」の厚みを増さなければならない。今回の取組が情報発信の地 域商店街ネットワークをつくり、震災に備えた取組を商店街が中心になった「まち」単位 で実現できることについて、つまり商店街は「共助」の一つの場になる可能性があることを 示していることについて、まず行政として成果の評価ができるだろう。川崎市が、商店街を コミュニティ形成の場として捉えているのは、それが単に商店街への客の増加につながるだ けでなく、商店街を中心に相互扶助のまちとして再構築する可能性を持っていると考えてい るからである。そのことをこの商店街プロジェクトは具体的に示していると言えるだろう。
評価の二点目は、自治体職員が商店街と一丸となってその振興策に5年間関わってきて、
補助金助成以外の役割を果たしてきたことだ。助成金以外の目的で行政と商店街とが連携す ることについて、個店おのおのの売上増についての協力は、行政としてその立場上からもマ ンパワーからも協力がしにくい。しかも行政では、そのようなノウハウも持ち合わせていな い。しかし、最終的にそこにつながるものとして、商店街という「まち」として捉えて、そ の価値や意義を高める取組であれば、行政としてむしろ積極的に関わりを持ちやすい。そう いった点から、プロジェクトの方針やテーマ設定は行政の理解や協力を得やすいものであっ た。むしろ、行政がいたからこそ、そのような企画を組むことができたとも言えるだろう。
行政が持つ行政組織内外での情報やネットワークを活用したり、企画や連携の仲立ちをした りしながら、商店街プロジェクトを継続できたことは、これからの行政の業務について、ま た、行政と市民との関係について、それらを転換することができる可能性を示唆しているも のとも考えることができる。