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8.9  学習室の評価

9.1.1  行政内部におけるバリア

  まず、行政内部において、現在「協働」を広く生み育てるためのバリアについて、次の5 点を考えてみたい。 

 

9.1.1.1  垂直方向の業務組織・業務形態による垂直方向の意識 

  一点目は、行政内部での垂直方向の組織と業務形態である。いわゆる縦割り組織による縦 方向の業務の進め方である。 

  公務員は、業務の遂行にあたり、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機 関の定める規定に従い、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。服務義務が国 家公務員法第98条第1項及び地方公務員法第32条に定められている。 

  地方自治体組織は、例えば川崎市でみると、職員数は、2011(平成23)年4月1日現在 で13,626人55、市長部局として、財政や健康福祉、区役所、病院、消防等17局があり、その

55 川崎市総務局行財政改革室「地方公共団体定員管理調査に基づく川崎市の職員数について」、2012(平成24)

年3月16日付公表

http://www.city.kawasaki.jp/templates/press/cmsfiles/contents/0000003/3574/item10746.pdf

(2012年12月31日閲覧)

下に部­課­係(担当)がある56。また、このほかに教育委員会や選挙管理委員、監査委員、

市民オンブズマンなど委員会組織が5、市議会局がある。業務は、条例や規則、要綱に基づ き、組織ごとに所掌事務と組織目標がつくられ、職員は、自分のポジションに応じた役割と 業務を割り当てられて業務を行う。それぞれの部署の中で業務は完結することがほとんどで ある。また、部局間には目に見えないヒエラルキーが存在しているのも事実である。 

  区役所には「協働」を行う担当課があるが、このことが却って「協働」はその担当課だけ が行うといった職員間の認識になってしまっている。企画課は「協働」を行うために区役所 を横断して調整するための部署として位置付けられているが、区役所職員は「協働」を行う 意識になっていないことから、例えば地域からの要望に対して各部署の所管にあてはまらな い業務を企画課が自ら対応することになってしまっている。 

  垂直方向の細分化された組織において業務分担による業務を行うことのメリットは、決め られたことを忠実に守り、平均的に一律に行うことが可能なことである。異動した際に誰で も業務を中断することなく、仕事を継続することができる。また、東日本大震災後に被災地 の役場へ全国の自治体職員が応援に駆けつけたように、基本的には全国の地方自治体で実施 している業務は同じなため、有事の際に協力し合えることも可能となる。 

  しかしながら、このことは定められた業務以外は「余計な仕事」と見なされやすい。また、

横の連携・協力を生みにくい。隣の部や係どころか、席の隣や後ろの職員が何をしているか、

全くわからないといった場合も往々にしてある。硬直化した組織の中では、業務がルーティ ン化・フォーマット化しやすい。過去の仕事の繰り返し・焼き直しが大半を占めるようにな りがちである。決められた仕事をしていればよいことから、工夫や改善も生じにくい。いわ ゆる、指示待ち職員を大量に生み出すことにもつながり、職員のモチベーション低下の一要 因にもつながっている。そして、「余計な仕事」の意識が地域に対しての無関心も呼び、「協 働」の看板が掲げられると、行政と市民(団体)との関係は、業務委託といった委託­受託 の関係となって表れてしまう。 

 

9.1.1.2  人事評価システム 

  二点目は、努力した職員が報われない人事評価システムである。 

  例えば、川崎市でも人事評価のシステムはあるが、部署ごとに割り振られた業務をもとに 個人の業務目標を設定するため、年度初めにおいて内容が具体的でない企画や成果が見込め ない業務、年度途中からの新たな企画の組み込みは事実上不可能となってしまっている。人 事評価の成績で給与や昇進に目に見えた差はほとんどつかない。 

  「協働」することを特段に評価するようなしくみになっていないのである。 

 

56 川崎市人事委員会事務局任用課「川崎市の組織」、2012(平成24)年9月28日付公表

http://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/61-1-4-0-0-0-0-0-0-0.html(2012年12月31日閲覧

9.1.1.3  異動及びキャリア制度 

  三点目は、行政における異動とキャリア制度である。 

  現在の3年前後の短いスパンでの異動サイクルは、幅広い業務を数多く体験でき、ゼネラ リストとしての視点は持つことができるかもしれないが、地域と関係をつくり「協働」で成 果を出すにはあまりにも短い。現場で地域住民との関係ができたり、業務が好きになったり しても、数年後には全く関係やつながりのない部署へと異動となってしまう。ころころと担 当が変わることについて、行政職員はよく市民から皮肉を込めて指摘されることである。短 期間で異動することは、やらない得、課題や改善の先送りにもつながりやすい。 

  また、行政におけるキャリアは、年数を重ねるにつれて、どんどん市民との現場から遠ざ かってしまう。「協働」の業務を続けたいと思ってもある一定の年齢からは難しくなってし まう。優秀といわれる職員は、早々に現場から遠ざかってしまいがちである。 

 

9.1.1.4  政令指定都市における区役所組織 

  四点目は、政令指定都市における区役所のことに限った問題かもしれないが、各部署が区 役所の中ではなく、本庁における上部組織とつながっている組織形態である。 

  政令指定都市において、区役所は事実上、本庁の出先機関の位置付けになっている。本庁

­区役所のヒエラルキーがある。 

  川崎市の場合を見ると、区役所内部の各部署は、本庁組織と縦につながっているため、区 役所の中では組織間のつながりが大変弱い。地域の課題を発見し、「協働」の拠点となるべ き区役所であるが、各担当は市民や地域でなく、本庁の上部組織の方向を見て仕事をしてい る。そのため区役所内部で他部署との連携や地域とのつながりがなかなか生じない。地域の 課題も見つけることが難しい。このことは、地域課題対応事業を見ると、地域と「協働」で 地域課題の解決にあたったり、工夫改善を行ったりしている部署はごく一部に偏っているこ ととして表れている。 

 

9.1.1.5  入庁試験 

  五点目は、学力試験に比重を置いた公務員の入庁試験である。 

  レジェンダ・コーポレーション株式会社による「2013年新卒  就職活動意識/動向調査 4月度」57によると、公務員を志望している学生に対する公務員として働くメリットについ て最も多い回答は「長く勤められる」であり、次いで「リストラされない」であった。つま り、自治体には地域社会のために貢献したい、といった職務内容ではなく、長く勤められる ことに魅かれて入庁してくるのである。また、入庁試験は、ペーパー試験に重点を置いた内

57 レジェンダ・コーポレーション株式会社「2013年新卒 就職活動意識/動向調査4月度」、2012(平成24)

年5月22日付公表

http://www.leggenda.co.jp/news/press/pdf/news̲120522̲01.pdf(2012年12月31日閲覧)

容となっている。つまり、入庁当初から、地域社会のために市民と一緒に汗を流して仕事を したい、という熱いモチベーションを持った職員が少ない現実がある。