「協働」を広く生み出していく中において、現在ではこれらのように「行政」ではその内 部組織・制度に、「市民」にはその意識にバリアがあると考えられる。しかしながら「行政」
の内部組織・制度を変えるのは、強いリーダーシップを持つ首長がいたり、国の制度自体が 変わるくらいの力が働いたりしないと簡単には変わらない。
今回のケーススタディが実施できた理由は、「行政内部のバリア」のうちの一つ、「垂直 方向の業務組織・業務形態による垂直方向の意識」について、上司の理解により行政職員が 参加でき、また市民と「参加」し合う意識であったことである。
また「市民意識」のバリア、商店街が行政に対する要望や苦情とったスタンスではなく、
職員との「参加」を求めてきたことである。
そうした中で、「行政が参加した協働」と「デジタルメディアの利活用」で商店街プロジ ェクトを実施することができた。
次章では、「協働」を広く生んでいくための協働社会構築に向けてのデザインについて、
行政の役割に焦点をあてて考察し、提案することとしたい。
第10章
協働社会のデザイン
最後に、「協働」を地域社会に広く生み、これからの協働社会をデザインするために、第 9章の課題をふまえて行政の役割に焦点をあててその道筋を考察することを試みたい。
10.1 これまでの行政のかたち、行政と市民との関係のかたちの再構築 第9章でみたように、行政が参加して「協働」の商店街プロジェクトをつくりあげること ができたのは、行政における「垂直方向の業務組織・業務形態による垂直方向の意識」では なく、業務として新たに位置付け、「他人任せ」の意識を転換したからであり、市民として の商店街も、行政に対する要望・苦情といった「他人任せ」のスタンスではなく、共に「参 加」し合う意識だったことである。
ここで、行政、市民双方の「他人任せ」の「かたち」についてまとめてみる(図10.1)
これまでの行政の「かたち」、つまり業務の進め方は、「法令(条例や規則等)」に基づ き、「権限(組織、職位)」「業務分担」による上からの垂直方向の人のつながり、指示・
命令による進め方であった。
ところが、「協働」の「かたち」、つまりプロジェクトの進め方は、「地域の未解決の課 題」に基づき、「人間性」や「納得性」により水平方向の人のつながり、共感でつながった 進め方である。つまり、「協働」をつくるためには、行政においてこれまでの業務の方法・
進め方とは反対のあり方、意識が求められているのである。
図10.1:行政と協働のかたち
行政と市民(協働の団体及び市民個人)との関係もこれまでは主に垂直方向のものであっ た(図10.2)。
例えば、これまで地域における「協働」の活動体としては町内会組織がある。第1章でみ たように、市の広報紙の配布、日常のゴミ出しの協力に始まり、地域の清掃、防犯パトロー ル、防犯灯の管理、さらには選挙時の事務協力や民生委員の選出など地域に張り巡らされた この地縁組織は、行政にとってはなくてはならない存在である。町内会組織もまた町内会長 をトップにした垂直方向の組織であり、決められたことを同じレベルで広く行うには行政に とって大変都合がよい。二者をつなげているのは「金」であり、行政は「他人任せ」のスタ ンスである。町内会にとっては、行政事務に協力することで得られる補助金は、町内会を運 営するためになくてはならない資源となっている。しかしながら、町内会の多くが組織にお ける高齢化、加入率の低下等の問題を抱えていることから、地域の新たな課題に対して新た に機動的に対応するのが難しくなっている現状がある。町内会といった地縁組織のほかに、
NPOやボランティア組織、いわゆる「協働」体との関係もやはりこれまでは垂直方向の関 係であった。行政からみれば、市民から応募を受け付け、審査し、補助金を助成する、とい った、言い換えると、町内会やNPO等への業務委託受託といった、主従の関係である。こ こでも二者をつなげているものは「金」であり、行政は「他人任せ」のスタンスである。
図10.2:これまでの行政と市民との関係のかたち
また、市民は行政に対して、陳情、要望、クレームといったかたちでの関わり、つまり、
行政に対して「他人任せ」といったスタンスである。
今後、地域社会に数多くの「協働」を生むためには、一つは行政と市民ともお互いを依存 した一方通行な「他人任せ」の意識ではなく、「参加」し合う意識への転換が必要である。
そこで、行政と市民とが「参加」し合うその「協働」を生み育てるには、商店街プロジェ クトで試みを行った「行政が参加した協働」と「デジタルメディアの利活用」によるデザイ ンが有効であると考える。
さらに、これらを継続して協働社会を構築していくためには、行政内部のバリアを撤去し ていくことも必要である。
これらのために、行政がすべき、実現が可能と考えられる取組内容と道筋について、実現 性を考慮して3段階に分けた提案を次に行う。まず必要なことは、行政(地方自治体)とし て「協働」することを業務として位置づけることである。その後、第1段階として行政と市 民との「共感づくり」を行いお互いが参加をしやすくする土壌をつくること、第2段階とし て行政も参加しての「協働づくり」を数多く行うこと、第3段階は「行政のかたちの再構築」
を行い地域全体に継続的に「協働」を育てていくことについて提案を行う(図10.3)。