本研究は、アクション・リサーチの研究方法を用いて進めることとする。
広辞苑第6版では、「アクション・リサーチ」を「小集団の人間関係等について、社会的 活動の行われる具体的な場面に研究者が介入するなどして、現状の改善をめざす実践的研 究」と記されている25。
アクション・リサーチについて、この概念を初めて提唱した Kurt Lewin[Kurt Lewin 1948/1954]は、次のように述べている。
集団相互関係の研究内容を少なくとも同程度の重要性をもつのは、それを社会生活の内部の適切 な場所に配置するということである。いつ、どこで、だれによって、社会研究が遂行されるべきで あるか。([Kurt Lewin 1948]Kurt Lewin『社会的葛藤の解決:グループダイナミックス論文集』、 東京創元社、1954、pp.274)
矢守は、アクション・リサーチとは、「こんな社会にしたい」という思いを共有する研究 者と研究対象者とが展開する共同的な社会実践のこととしている[矢守 2010]。目標とす る社会の実現へ向けて「変化」を促すべく、研究者は現場の活動に「介入」していく。
矢守は、アクション・リサーチのミニマムの定義として次の2点を指摘している。
(1)目標とする社会的状態の実現へ向けた変化を志向した広義の工学的・価値懐胎的な 研究
25 新村出編『広辞苑(第6版)』、岩波書店、2008
(2)上記に言う目標状態を共有する研究対象者と研究者(双方含めて当事者)による共 同実践的な研究
第1の特性については、普遍的な真理・法則性を追究しようとすれば、より多くの事例 を対象に観測や測定を行い、そこに反復される予測可能な現象を見出そうとする。これに 対して、「通常アクション・リサーチという言葉が用いられるのは、研究者が、ある集合体 や社会のベターメント(改善、改革)に直結した活動を、自覚的に行っている場合」[杉方 2007]であり、「現状よりも望ましいかくかくしかじかな社会状態をつくりましょう」と いう価値判断とともに遂行される研究活動である。
第2の特性については、当事者と研究者による共同実践的な研究という特性は、研究者 と対象者との独立性を 100%保証することはできず、むしろ、この点を積極的に評価・活 用しようとするものである。
矢守はまた、アクション・リサーチが要請される条件として次の3点を述べている。一 点目は、目標とすべき社会的状態について大きな変化が生じている場合、何らかの調整プ ロセスによって多様な価値の間の混乱や対立の収拾が期待されている場合である。二点目 は、研究者と対象者との間の固定した関係が目標達成を阻み、そうした固定的関係に構造 上の変化が要請させている場合である。三点目として、特定の現場(ローカリティ)にお いて、当面、成立可能で受容可能な解を研究当事者(研究者と当事者)が共同で社会的に 構成することを目標としている場合である。
本研究は「協働社会」という社会的状況を実現するために、研究対象者である市民と研 究者とによる実践的な研究とする。
研究方法とそのプロセスは次の通りである(図 1.4)。
図 1.4:研究プロセスについて
まず、研究の背景、商店街プロジェクト実施の経緯、研究目的、研究方法、関連研究に ついての整理を行う。続いて全国の「協働」の事例や地方自治体における「デジタルメデ ィアの利活用」の事例から、現在の「協働」の状況及び課題について整理を行う。そして、
それらの課題を克服するために、「行政が参加した協働」と「デジタルメディアの利活用」
の提案を行う。実践活動のフィールドは、神奈川県川崎市中原区の元住吉オズ通り商店街 とする。「商店街活性化」という社会的状況を実現するため、商店街や地域住民、研究者に よる実践活動を通じて、「行政が参加した協働」と「デジタルメディアの利活用」の有効性 について明らかにする。
そのため本研究では、5年間に及ぶ商店街プロジェクトに PDCA サイクルを適用した
(図 1.5)。プロジェクトの内容から5年間を3段階にわけ、段階ごとに PDCA サイクル を適用した。段階ごとに企画を立て、実施し、振り返りを行い、そして次の段階へつなげ るサイクルを3回実施している。各段階における振り返りでは、プロジェクトを実施した ことによって新たに生じた事象や参加者の変化等といった物理的な結果だけでなく、市民 やスタッフに対してヒアリング等も行い、参加者の意識の変化や課題等についても把握す ることを行っている。
そして本研究では、実践活動を通じて得られた成果を少しでも実社会に生かすことを目 指して、最終的に行政の役割について実務的な提案を行うこととする。そのため、商店街 プロジェクトの評価を行った後、改めて現在の行政における課題について具体的な抽出を 行い、それらの克服を含めた提案を行っている。
なお、商店街プロジェクト4年目から、それまでの商店街プロジェクトの成果を生かし て、東日本大震災を受け都会で避難生活を送る子どもたちを対象にした学習支援プロジェ クトを実施し、そこで得られた成果も一部参考にしながら提案につなげることとしている。
しかし、このプロジェクトは商店街プロジェクトの実施期間と比べるとまだ2年弱と短い 実施期間であり、成果や課題の検証がまだ十分ではないことから、商店街プロジェクトを 生かした参考事例として位置づけている。
図 1.5:商店街プロジェクトにおける PDCA サイクル
1.6.2 研究アプローチについて
本研究では、私が「行政職員(一般職員)」としての立場と「研究者」の立場の両方で「商 店街プロジェクト(協働)」に参加した。この「行政職員」の置かれている立場及び前提は、
「協働」に取り組むことに熱心ではない組織(地方自治体)、あるいは「協働」することが 業務に位置づけられていない組織に所属しているということである。従って、行政がプロ ジェクトに参加できるように、行政内部でプロジェクトの位置付けを調整したり、自身の プロジェクトにおける役割を所属する部署の所掌事務に沿って限定したりするなどの調整 を行った。従って、プロジェクトにおいては、「行政職員」と「研究者」の役割について切 り分けを行っている。しかし、プロジェクト3年目からは私が商店街をどうしても関連づ けることができない部署へ異動となってしまったため、さらに5年目でからは市役所を退 職したため、プロジェクトに「行政職員」の常時の参加はなくなってしまった。そうした 中においても、行政職員だからこそ持っていたノウハウや知見などを生かすことができた ため、その効果の部分を抜き出して「行政が参加した協働」とみなして評価に加えること としている。
プロジェクトにおいては、「デジタルメディア」を積極的に利活用して、目的に向けて成 果物や事象、変化などを新しくつくり出すことに力点を置いて参加している。
なお、研究を実社会に生かしたいとの考えから、行政の役割について最後に提案を行っ ている。特に「協働」を生み育てるために、現在行政内部におけるバリアについて、私が 所属していた市役所の中からその整理を行い、その改善に向けた提案を行っている。提案 は、「協働」に取り組むことに熱心ではない組織(地方自治体)、あるいは「協働」するこ とが業務に位置づけられていない組織を想定しており、今後「協働」がまちに広く生まれ 育つために、行政内における実務や組織に必要なこと、行政職員が取り組みやすい方法に ついて焦点をあてて考察を行っている。