(表−9)顕示比較優位指標の変化が顕著だった品目(タイ 1982−1987年) 1982年 1987年
3. 今後の課題
1998年11月に訪れたバンコクで、かつて東部臨海開発計画に関わりのあった多くの人々
とインタビューしたが、彼らの中で、この計画の成果に対する評価が最も慎重であったの は、意外なことにサウィット首相府大臣であった81)。東部臨海開発委員会の事務局の責任 者として、計画推進のエンジンとして活躍していた頃には考えられなかったことである。約十年の時間の重みが感じられた。
サウィットは、インタビューに応じた多くの人々と同様に東部臨海開発計画が達成した 成果の大きさを十分認識していた。ただ、同時に、二つの問題点を今後の重要課題として 強調した。第一は、急速な地域開発が地方の住民の伝統的な生活パターンを脅かしている ことへの懸念で、開発の社会的影響をできるだけ緩和したいとの問題意識である。第二は、
81 1998年11月9日のインタビュー
環境保全への一層の努力の重要性であった。なお、他の人々は、学者やジャーナリストを も含めて、これらの点に触れることはあっても事態がそれほど深刻でないとの認識を共有 していた。こういった現状認識の差はあるものの、東部臨海開発計画が達成した重要な成 果をさらに生かすためにも、サウィットの提起した問題を今後の政策課題の中心に据えて 検討する必要があろう。
この二つのテーマに取り組む最適なフィールドの一つとして、レムチャバンの漁村を挙 げたい。この村が、かつて、開発の中での漁民の生活権をめぐる論議の舞台として関心を 集めたからでもあるのだが、それだけが理由ではない。幸いなことに、今回訪れたレムチ ャバンの漁村は、まだ1985年頃の(東部臨海開発計画の事業実施以前の)面影と伝統的な生 活パターンをかなりの程度残しているように思えた(この点については、サウィットを含め たタイ側の多くの関係者が同意した)。マプタプット地区の海岸線が、全く以前の状況から 一変してしまったのと対照的である。大型船舶が出入りする水路と巨大な深海港の施設に 隣接しながら、小さな古い突堤を持つレムチャバンの漁港には、多くの小型漁船が活動し ていて、以前の機能をかなり残している。集落の家々や人々の姿にもかつての面影を探る ことができる。
「近代的工業港と漁村との 共生 の道」を実現するためのプロジェクトに着手するの には、まだ遅くないのかもしれない。もし、このコンセプトが事業化される日がくれば、
東部臨海開発計画は新しい世紀にふさわしい新しい次元に移行するのではないだろうか。
タイ「東部臨海開発計画」年表
1973年 シャム湾に商業生産ベースに乗る天然ガス田が発見される 1976年 JICAが「パタヤ観光開発マスタープラン」の開発調査開始
1978年 オランダの港湾コンサルタントNEDECOがクロントイ(バンコク)港の代
替港としてレムチャバン港の建設を勧告するF/Sをタイ政府に提出タイ 政府、世界銀行へ上記に関する援助を要請。世界銀行、過大投資である として応ぜずJICAが「岩塩ソーダ灰プロジェクト」(ASEAN共同プロジェ
クト)の開発調査開始8月
福田首相ASEAN訪問、ASEAN共同プロジェクトへの資金協力を意図表明1979年 世界銀行サタヒップ港拡張を勧告、F/Sへの支援開始(オーストラリアの
マウンセル社)
1980年 タイ政府、岩塩ソーダ灰プロジェクトのレムチャバン立地を決定パタヤ
住民を中心とする公害反対運動発生9月 JICA、岩塩ソーダ灰プロジェクトのF/S開始
12月
タイ政府、東部臨海工業化のための委員会(CDBIES, The Comittee to Develop Basic Industries on the Eastern Seaboard
、委員長プレーム首相)を設立1981年 1月
鈴木総理訪タイ、「東部臨海開発計画」への協力意向表明3月
東部臨海地域の重工業開発戦略(「アナット報告」)完成 岩塩ソーダ灰プロジェクトに関するJICAのF/S完成5月
経済協力総合ミッション(大来ミッション)訪タイ6月 CDBIESを「東部臨海開発委員会」 (ESDC,Eastern Seaboard Development Committee、委員長プレーム首相)に改組
9月
シャム湾天然ガスのパイプライン敷設完了10月
「第5次5カ年計画」に東部臨海開発計画を採択11月
プレーム首相訪日1982年
このころ深海港建設に関する日本人専門家の訪タイしきり5月 JICA「東部臨海工業港開発計画」(マプタプット地区)のF/S開始
7月
世界銀行・英国政府の資金支援による「東部臨海開発マスター・プラン」(クーパーズ・リブランド報告」)が、NESDBによって発表された
「天然ガス分離プラント建設事業」借款契約調印
「東部臨海地域送水管建設事業」借款契約調印
このころから世界銀行の同計画に関する消極姿勢が顕在化
11月
タイ政府、岩塩ソーダ灰プロジェクトのレムチャバン立地を断念タイ政府、日本人専門家の助言に基づき、レムチャバン、マプタプット 両港の建設を決定
NFC(National Fertilizer Corporation)
設立1983年 8月
フォスター・ウィーラー社NFC肥料工場のF/Sを作成9月 JICA「レムチャバン工業・都市団地プロジェクト」のF/S開始
1984年 1月 NPC(The National Petrochemical Corporation)
設立7月 NFC肥料工場の入札締め切り、開札
第11次円借款のNFC「肥料工場建設事業」交換公文(E/N)調印
12月
天然ガス分離プラント試運転開始1985年 4月
タイ政府、岩塩ソーダ灰プロジェクトの中止を決定9月
陸軍のクーデターが鎮圧されるプラザ合意、円安から円高への基調転換
プレーム首相、財政改善のための大型事業見直しを示唆
10月
第12次円借款(「レムチャバン工業団地建設事業、「マプタプット工業団 地建設事業」「マプタプット工業港建設事業」を含む)借款契約調印11月
世界銀行バンコク事務所が、NESDBスノー長官宛の文書で、「第5次5カ年計画」からレムチャバン、マプタプット両港を削除し、クロントイ港 とサタヒップ港の能力増強で対応するよう提言
タイ政府、「三閣僚によるレビュー委員会」を設置し、東部臨海開発計 画の根本的見直しに着手
12月
タイ政府、「東部臨海開発計画を 原則として 計画通り実施する。た だし、マプタプット港の建設はNFC肥料工場に関する借款契約調印をま って開始する」ことを決定し、実質的に建設スケジュールを延期1986年 2月 NFCチャトモンコン会長辞任、カセム前電力公社総裁が新会長に就任
タイ政府NFCの増資(2億バーツから22.5億バーツへ)決定、事業実施に踏 み出す
3月 ASEANソーダ灰会社が解散
5月
連立与党間の内紛によりプレーム首相国会解散 円高に伴うNFC肥料工場の収益性見直しの論議高まる6月 IFCT(タイ産業金融公社)、円借款受け入れによるNFC肥料工場への融資
を決定
7月 NFC肥料工場建設に関する借款契約調印
8月
第5次プレーム内閣成立10月
東部臨海開発委員会、レムチャバン工業団地の着手を決定、マプタプッ ト工業団地の実施はNFC肥料工場の動向をまって決めることとし、NFC 肥料工場の実施はNFCの株主である民間部門の意思にゆだねることとな ったNFCカセム会長辞任、後任は大蔵省のアラン局長が兼任11月
木内駐タイ大使がNFC肥料工場事業への日本政府の変わらぬ支援の意向 を表明レムチャバン港建設事業の借款契約調印
12月
レムチャバン地区の漁民300名が移転計画に対して抗議デモ1987年 1月 NFCの依頼を受けて肥料工場のフィージビリティー調査を行ってきたチ
ュラロンコン大学教授グループが、懐疑的な結論を報告
2月
東部臨海開発委員会、マプタプット港関連事業の着手を決定、NFC肥料 工場については特に決定無し10月
タイ政府、NFC肥料工場に対する追加資金支援を日本政府に要請11月
ノンコー・レムチャバン送水管建設事業着工12月
レムチャバン、マプタプット両地区で工事着工1988年 3月 NFC、肥料工場の実施を当面見送ることを決定
タイ「東部臨海開発計画 マプタプット工業港建設事業(1)〜(3)、 マプタプット工業団地建設事業」
評価報告:1999年
9
月 現地調査:1998年11
月 事業要項事業名 マプタプット工業港
建設事業(1) 同(2) 同(3) マプタプット工業団 地建設事業
借入人 タイ工業団地公社(IEAT)
保証人 タイ王国
事業実施機関 タイ工業団地公社(IEAT)
交換公文締結 1984年 7月 1985年 9月 1991年 9月 1985年 9月 借款契約調印 1984年 9月 1985年10月 1991年 9月 1985年10月 貸付完了 1995年 3月 1993年 9月 1997年 2月 1991年10月 貸付承諾額 5,611百万円 16,045百万円 3,395百万円 3,207百万円 貸付実行額 3,112百万円 3,017百万円 2,267百万円 1,415百万円 調達条件 一般アンタイド
(コンサルタント部 分は部分アンタイド)
一般アンタイド 一般アンタイド 一般アンタイド (コンサルタント部 分は部分アンタイド) 貸付条件 金利 3.5% 金利 3.5% 金利 3.0% 金利 3.5%
償還期間 30年 償還期間 30年 償還期間 25年 償還期間 30年
(うち据置 10年) (うち据置 10年) (うち据置 7年) (うち据置 10年)
参 考
(1) 通貨単位:バーツ
(2) 為替レート、消費者物価指数
表
1.1 為替レート、消費者物価指数(CPI)の推移
1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
B/$ 27.2 26.3 25.7 25.3 25.7 25.6 25.5 25.4 25.3 25.1 24.9 25.3 31.4
$/¥ 238.5 168.5 144.6 128.2 138.0 144.8 134.7 126.7 111.2 102.2 94.1 108.7 120.9
¥/B 8.8 6.4 5.6 5.1 5.4 5.7 5.3 5.0 4.4 4.1 3.8 4.3 3.9
CPI 2.4 1.9 2.5 3.8 5.4 6.0 5.7 4.1 3.3 5.1 5.8 5.8 5.6
出所:IIF、IFS ¥/Bレートは上記より算出
(3) 略語
・
IEAT
:Industrial Estate Authority of Thailand (タイ工業団地公社)・
NFC:National Fertilizer Company Ltd.
・
NPC:National Petrochemical Company Ltd.
・
SCM:S. C. Management Co. Ltd.
・
TPT:Thai Prosperity Terminal Ltd.
・
TTT:Thai Tank Terminal Ltd.
(4) 用語:
・
DWT (Dead Weight Tonnage)
:ばら荷専用船などの大きさを表示する単位。積載許容限度 までの全装備排水トン数と空船時排水トン数の差であらわ す。・バース占有率:バースの利用率を図る指標。バースの利用可能総時間を分母とし、実際 のバース利用時間(荷物の積み上げ・積み下ろし時間にアプローチ時間を 加えたもの)を分子とする。45-65%が適正水準とされる。
・ライ:面積単位。1ライ=1,600m2=0.16 ha。
事 業 地
工業団地本事業部分
(都市区画)
工業団地本事業部分
(工業用地)
工業団地拡張部分
工業港拡張部分 工業港本事業部分
マプタプット
N