(表−9)顕示比較優位指標の変化が顕著だった品目(タイ 1982−1987年) 1982年 1987年
2. 分析と評価
2.3 事業効果 2.3.1 定量的効果
(1) マプタプット工業港 (i) 貨物取扱量
本事業で整備された工業港の貨物取扱量は、1997年の実績で
4,154
千トン(多目的バース1,840
千トン、流体貨物バース2,314
千トン)に達している。これに加え、近年はRRC
社、STAR
社、NFC 社といった民間企業の専用バースも工業港内に整備され、活発な利用が始 まっている。円借款により整備された公共バース(多目的および流体貨物専用
)では、一般貨物にてつ
いては当初想定にほぼ匹敵、流体貨物については当初想定を大幅に上回る取扱量となって おり、マプタプット工業港は、同工業団地で発生する貨物取り扱い需要に十分対応し、同 工業団地における重化学工業の発展を物流面から支援してきたといえよう。表
2.7 マプタプット工業港の貨物取扱量(1997
年)単位:千トン 多目的バース 流体バース Rayong Refinery社
バース
Star Petroleum Refining社 バース
NFC社肥料用
バース
1,840 2,314 5,094 6,725 260
出所:IEAT、TTT社、TPT社
(ii) 財務的内部収益率(FIRR)
マプタプット工業港の
FIRR
のアプレイザル時と再計算結果を表2.8
にまとめた。なお、実績は拡張部分の費用と便益を含んでいる。また、アプレイザル時には
IEAT
が港湾のす べての施設の運営を行う前提で、すべての収入と運営・維持管理費用が計上されているが、実績では、港湾運営を受託している民間企業から
IEAT
への支払い額のみを港湾運営から の収入として計上し、運営・維持管理費用についてもIEAT
による負担分のみを計上して、事業主体である
IEAT
の財務的見地からのFIRR
を再計算した。実績の
FIRR
は、アプレイザル時のFIRR
をわずかに下回るものであり、マプタプット工 業港の開発は、効率的な投資であったと評価される。表
2.8 マプタプット工業港の FIRR
アプレイザル時 実 績
便益 ①港湾料金収入
②埋め立て地の販売収入
①港湾料金収入:TTT社、TPT社、SCM社からIEAT への支払い額合計
②埋め立て地リース料
③埋め立て地立地企業からの施設維持管理料収入
費用 ①建設費
(本事業(1)〜(3)総事業費)
②運営・維持管理費
①建設費(本事業(1)〜(3)総事業費および拡張部分 (東側埋め立て地)建設費)
②運営・維持管理費 プロジェクトライフ 完成後20年 完成後20年
FIRR 5.2% 4.5%
出所:JBIC資料、IEAT資料
注 :1998年価格にて計算。なお、費用および便益ともに1998年以降は一定と仮定して計算。埋め立て 地は全てリース済みで、また、多目的バースも現在の取扱量で手一杯であり、これらについては妥 当な仮定と思われる。ただし、流体バースにはまだ余裕があるため、流体貨物の取り扱い増加に伴 う収入、費用増は考えられる。資料の制約から流体バースによる収入および費用だけを取り出すこ とは不可能であるが、仮にすべての収入と運営・維持管理費用が1999年以降年率1%で増加したと 仮定すると、FIRRは9.0%となる。
(2) 工業団地 (i) 入居企業
工業団地の入居企業数(操業中)は、現地調査時点(1998 年
)で 48
企業に達し、工業用地と して利用できる5,030
ライ(約 800ha)全てが契約済みとなっている。進出企業の内訳として
は、石油化学およびその関連産業が最大のシェアを占め(40%)、肥料および化学製品(31%) がこれに次ぐ。この他、鉄鋼関連(15%)、電力など公益事業(10%)、石油精製(4%)となって
いる。(ii) 雇用創出
アプレイザル時には、本事業の対象となった区画において
5,880
人、拡張部分を含めた 工業団地全体の開発では9,800
人の雇用創出が見込まれていた。現在では13,464
人が雇用 されており、当初想定を上回る雇用創出効果があったといえる。(iii) 財務的内部収益率(FIRR)
マプタプット工業団地の
FIRR
のアプレイザル時と再計算結果を表2.9
にまとめた。実 績は拡張部分の費用と便益を含んでいる。なお、工業団地においても一部の施設の運営・維持管理は民間企業に委託されているが、工業港とは契約が異なり、IEAT が料金を徴収 しその中から受託企業に手数料を支払い、個別の維持管理費用についても基本的に
IEAT
が負担することになっている。実績の
FIRR
は、アプレイザル時を下回るものの、13.1%と高い数字となっており、マプ タプット工業団地の開発は効率的な投資であったと評価できる。表
2.9 工業団地の FIRR
計 画 実 績
便益 ①団地販売収入
②水道料金収入
③その他維持管理手数料
①団地リース収入
②水道料金収入
③下水処理料金収入
④その他維持管理手数料
費用 ①建設費
②運営・維持管理費
①建設費
②運営・維持管理費(BJT社への支払いを含む) プロジェクトライフ 完成後13年 完成後13年
FIRR 20.5% 13.1%
出所:JBIC資料、IEAT資料
2.3.2 定性的効果
(1) 石油化学産業を中心とした重化学工業開発
マプタプット地区の開発は、同地区に上陸するシャム湾からの天然ガスを利用した重化 学工業開発を企図したものであった。当初の構想では、石油化学コンプレックス、肥料工 場、ソーダ灰工場、製鉄所の
4
業種が立地産業として計画されていた。種々の検討を経て、第
12
次円借款アプレイザル時には、石油化学コンプレックスと肥料工場の2
業種を中心 として、マプタプット工業団地が計画されていた。前述のとおり、肥料工場の建設が見送 られた結果、同工業団地は石油化学コンプレックスを中心に大きく発展し、タイ国初の石 油化学基盤として整備された。表
2.10
は、石油化学の上流部門であるエチレンおよびプロピレンの、タイの1998
年の 生産能力を示したものであるが、マプタプット工業団地に立地する第1
期および第2
期石 油化学コンプレックス(NPC−1 および2)が、エチレン生産能力の 68%、プロピレン生産能
力の
61%を占めている。また、TPI
社による石油化学コンプレックスはマプタプット工業団地近郊のラヨン市に位置している。さらに、1998 年末にはサイアムセメントグループに よる石油化学コンプレックスの上流部門である
ROC
社のエチレンおよびプロピレンのプ ラントがマプタプット工業団地に完成しており、同工業団地の整備を契機にラヨン県がタ イ国の石油化学基盤として発展したことが窺える。表
2.10 タイのエチレンおよびプロピレン生産能力
単位:千トン/年 エチレン生産能力 プロピレン生産能力 NPC−1
NPC−2 TPI
401 350 350
127 190 200
合計 1,101 517
出所:「1999年版 アジアの石油化学工業」重化学工業通信社
また、これら上流部門の整備の結果、表
2.11
に見るとおり、タイのエチレンおよびプロ ピレン需要はほとんど国内生産により賄われるようになっている。下流部門もマプタプッ ト工業団地を中心に発展しており、タイの石油化学産業は、1997 年以降の経済危機の影響 により困難な状況に直面してはいるものの(1998 年の現地調査時点)、マプタプット工業港 および工業団地の整備により大きく発展したといえる。表
2.11 タイのエチレン、プロピレンの生産および輸入
単位:千トン/年
1985年 1991年 1996年
エチレン 需要
国内生産 輸入
15 0 15
320 230 90
744 633 111
プロピレン 需要
国内生産 輸入
0 0 0
190 70 120
404 293 111 出所:「アジアの石油化学工業」各年版、重化学工業通信社
(2) 東部臨海地域の工業化
表
2.12
は、マプタプット工業港および工業団地完成後の、ラヨン県、東部臨海地域、タ イ全国の指標を比較したものである。表
2.12
東部臨海地域およびラヨン県の工業化ラヨン県 東部臨海地域 タイ全国
①一人当たりGDP成長率 (1991-1996年平均) 15.4% 11.7% 6.6%
②製造業付加価値成長率 (1991-1995年平均) 17.3% 22.0% 10.7%
③製造業付加価値のタイ全国に対する割合 (1995年) 1.5% 14.9% 100%
④製造業付加価値/総生産 (1995年) 22.1% 55.0% 30.8%
⑤鉱工業付加価値成長率 (1991-1995年平均) 6.9% 8.5% 4.9%
⑥鉱工業付加価値のタイ全国に対する割合 (1995年) 41.7% 42.1% 100%
⑦鉱工業付加価値/総生産 (1995年) 22.0% 15.4% 1.5%
出所:NESDB、NSO統計より計算。
注 :いずれも1988年を基準価格とする実質値。
同表に見るとおり、1991 年から
1996
年にかけて、タイ全国の一人当たり実質GDP
は年率
6.6%の成長を遂げたが、東部臨海地域およびラヨン県の一人当たり実質 GDP
は、タイ全国を大きく上回り、それぞれ年率
11.7%、15.4%の成長を遂げた。
東部臨海地域の製造業の成長はさらに目覚しく、1991 年から
1995
年にかけてタイ全国 で製造業の付加価値額が年率10.7%
成長したところ、東部臨海地域は年率22.0%、ラヨン
県は
17.3%と、全国の約 2
倍のスピードで成長した。この時期のラヨン県の製造業の成長は大きいものの、東部臨海地域の製造業の発展の中心はチョンブリ県であったため、ラヨ ン県が全国の製造業付加価値額に占める割合はそれほど高くはない。一方、ラヨン県はシ ャム湾で採掘される天然ガスがマプタプットで上陸することから、ラヨン県単独でタイ全 国の鉱工業生産の
4
割を占めている。1995年には、ラヨン県の鉱工業と製造業を合わせた 付加価値額が同県総生産の44.1%
を占めるに至っており、天然ガスの採掘と天然ガスを利 用した石油化学工業などの製造業によりラヨン県が発展したことが窺える。本事業は、特 に後者の成長に大きく貢献したものであるといえよう。3. 教訓
(1) 経済状況や需要の変化に合わせた柔軟な計画変更は、事業目的の達成や事業効果の発
現を図るため、必要に応じ、弾力的に対応することが重要である。特に産業育成に係 わる事業は、経済状況の変化や個別産業の動向変化に大きく左右されるため、本行は、これら事業の実施段階において、借入国政府や事業実施機関と十分に協議しながら、
状況変化の有無と事業計画見直しの必要性につき、継続的にモニタリングを行ってい く必要がある。
マプタプット工業港は、重化学工業育成を目的とするマプタプット工業団地の立地企業 の輸送需要への対応を目的に建設された。同工業港の円借款対象部分として、当初、同工 業団地に建設予定であった肥料工場の貨物への対応を中心に、バース整備が計画されてい た。その後、同工業団地における肥料工場の建設延期と石油化学産業の伸長により、石油 化学関連の貨物輸送需要への対応を中心としたものにバース整備計画が変更された。その 結果、同工業団地の輸送需要への対応という当初目的を達成し、事業効果が発現すること となった。
マプタプット工業団地は、重化学工業という、それまでのタイにはない新規産業を誘致 する意欲的な事業であった。新産業育成という開発課題の困難さを鑑みると、同工業団地 は、経済状況の変化を睨みつつ事業計画を慎重に見直すことが不可欠な事業であったと思 われる。慎重な検討により立地産業の計画が見直され、かつ同工業団地の輸送需要に対応 する工業港の事業計画が変更されて、結果的に事業効果がおおいに発現したことは、今後 も参考とすべき成功例
(Good Practice)
であると考えられる。特に、産業育成に係わる事業は、経済状況の変化や個別産業の動向変化に大きく左右さ れるものであり、事業実施段階において、状況変化の有無と事業計画見直しの必要性を継 続的にモニタリングすべきである。事業目的達成や事業効果発現のために計画変更が必要 であれば、マプタプット工業港の例のように、同変更を積極的かつ柔軟に認めていくこと が必要であろう。