10 Laurent 展開 , 孤立特異点 , 留数
10.1 Laurent 展開
定義 10.1 (円環領域) c∈C, 0 ≤R1 < R2 ≤+∞ に対して、
A(c;R1, R2) :={z ∈C|R1 <|z−c|< R2}
とおき、これを c を中心とする円環領域(annulus, annular domain, annular region) と 呼ぶ。
また
A(c;r1, r2) := {z ∈C|r1 ≤ |z−c| ≤r2} とおく。
「円環」という言葉にふさわしいのは、0 < R1 < R2 < +∞ の場合だけだろう。しかし、
Laurent級数の収束・発散を扱うときは、収束円のときと同様に R1 = 0 や R2 = +∞ の場合 も考えるのが有効である。
実はR1 = 0の場合が頻出する。これは円盤D(c;R2)からcを除いたものである。すなわち A(c; 0, R2) =D(c;R2)\ {c}.
特に A(c; 0, R2)⊂D(c;R2)である。
円盤領域D(c;R)で正則な関数は冪級数展開出来たが、円環領域 A(c;R1, R2)で正則な関数 は Laurent 級数展開出来る。
定理 10.2 (円環領域で正則な関数は Laurent展開出来る) c ∈ C, 0 ≤ R1 < R2 ≤ +∞. f はA(c;R1, R2)で定義されていて正則とするときa、ある{an}n∈Z ∈CZ が一意的に存在 して、
(64) f(z) =
X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c;R1, R2))
が成り立つ。右辺の級数はR1 < r1 < r2 < R2 を満たす任意のr1, r2 に対して、A(c;r1, r2) で一様に絶対収束する。
(64) が成り立つとき、R1 < r < R2 を満たす任意のr に対して、
(65) an= 1
2πi Z
|z−c|=r
f(z)
(z−c)n+1 dz (n∈Z) が成り立つ。
a正確にいうと: f: Ω→Cかつ、A(c;R1, R2)⊂Ω,かつf|A(c;R1,R2) は正則。
係数を表す公式(65)は、D(c;R) で正則な関数のTaylor 展開の係数の式と同じ形をしてい る。「覚えられない」とギブアップしないように。
この定理の中の「一様に絶対収束」の部分の証明は、冪級数についての定理3.21 と、次の
補題(証明は付録に回す, p. 254) から得られる。
補題 10.3 (負の指数の “冪級数” の収束) X∞ n=0
a−n
(z−c)n について、次の3つのいずれか1 つだけが必ず成立する。
(i) ∀z ∈C\ {c} に対して収束する。∀R∗ ∈(0,∞) に対して、{z ∈C| |z−c| ≥R∗} で 一様に絶対収束する。
(ii) ∃R∈(0,∞) s.t. {z ∈C| |z−c|> R}で収束し、D(c;R)で発散する。∀R∗ ∈(R,∞) に対して、{z ∈C| |z−c| ≥R∗} で一様に絶対収束する。
(iii) ∀z ∈C\ {c} に対して発散する。
定理10.2の証明 最初に係数についての等式(65)を証明する。mを任意の整数とする。(64) の両辺を (z−c)m+1 で割って
(66) f(z)
(z−c)m+1 = X∞ n=−∞
an(z−c)n−m−1 (z ∈A(c;R1, R2)).
R1 < r < R2 を満たす任意の r に対して、(補題10.3 直前の注意から) 円周 |z−c|=r 上で
Laurent 級数が一様収束するので、有界な 1
(z−c)m+1 をかけた(66)も一様収束する。ゆえに、
項別積分が可能であり、
1 2πi
Z
|z−c|=r
f(z)
(z−c)m+1 dz = X∞ n=−∞
1 2πi
Z
|z−c|=r
an(z−c)n−m−1 dz = X∞ n=−∞
anδnm=am. これから(64)を満たす{an}の一意性(存在すればただ一つしかない)と、(65)の積分がr に 依らないことも分かる。
以下、(64)を満たす {an} が存在することを示す。r1, r2 を R1 < r1 < r2 < R2 を満たす任 意の数とする。D :=A(c;r1, r2) とおくと、f が D を含む開集合 A(c;R1, R2) で正則である からことから、
(67) f(z) = 1
2πi Z
∂D
f(ζ)
ζ−z dζ (z ∈A(c;r1, r2))
が導かれる(例えば、定理 8.5を用いて証明できる。また、星型領域における Cauchy の積分 定理を用いた証明を§10.1.1で説明する。)。
ゆえに
I := 1 2πi
Z
|ζ−c|=r2
f(ζ)
ζ−z dζ, J :=− 1 2πi
Z
|ζ−c|=r1
f(ζ) ζ−z dζ とおくと
f(z) = 1 2πi
Z
∂D
f(ζ)
ζ−z dζ =I+J.
I は円盤における正則関数のTaylor 展開と同じで、
I = X∞ n=0
an(z−c)n, an := 1 2πi
Z
|ζ−c|=r2
f(ζ)
(ζ−z)n+1 dζ.
J については、|ζ−c| =r1 のとき ζ−c
z−c
= r1
|z−c| <1 であるから (等比級数の和の公式 より)
1
ζ−z = 1
(ζ−c)−(z−c) = −1
z−c· 1
1− ζz−−cc =− X∞ n=1
(ζ−c)n−1 (z−c)n が導かれるので
(68) J = 1
2πi Z
|ζ−c|=r1
X∞ n=1
(ζ−c)n−1
(z−c)n f(ζ)dζ.
M := max
|ζ−c|=r1
|f(ζ)| とおくと|ζ−c|=r1 ならば
(ζ−c)n−1 (z−c)n f(ζ)
≤ M
r1
r1
|z−c| n
が成り立つので、Weierstrass M-testが適用できて、(68)の右辺に現れる級数は、円周|ζ−c|=r1 上で一様収束する。ゆえに項別積分が可能で
J = X∞ n=1
1 2πi
Z
|ζ−c|=r1
f(ζ)
(ζ−c)−n+1 dζ 1 (z−c)n =
X∞ n=1
a−n
(z−c)n. まとめると
f(z) = X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n (r1 <|z−c|< r2).
r1, r2 が任意であることから、この級数は A(c;R1, R2) で収束する。
注意 10.4 任意の X∞ n=1
a−n
(z−c)n について、次の3つのうち、どれか1つ(だけ)が成り立つ。
(i) 任意のz ∈C\ {c}に対して収束する。
(ii) あるR ∈(0,+∞)が存在して、|z−c|> R ならば収束、|z−c|< R ならば発散する。
(iii) 任意のz ∈C\ {c}に対して発散する。
(i) のときR = 0, (iii)のときR = +∞ とすると、いずれの場合も
|z−c|> R ⇒ 収束, |z−c|< R ⇒ 発散.
さらにr > R を満たす任意のr に対して、{z ∈C| |z−c| ≥r} で一様に絶対収束する。
実際、任意のz ∈C\ {c} に対して、ζ := 1
z−c とおくと、
X∞ n=1
a−n (z−c)n =
X∞ n=1
a−nζn,
|z−c|> r ⇔ |ζ|< 1 r,
|z−c|< r ⇔ |ζ|> 1 r,
|z−c|=r ⇔ |ζ|= 1 r
が成り立つことから、原点中心の冪級数の収束・発散に帰着されるので、ほぼ自明である。
Laurent展開を孤立特異点のまわりのものに限るテキストもあるが、ここでは円環領域で正
則な関数に対して定義しておく。特に正則点のまわりの Laurent 展開、留数も定義されるこ とになり、Laurent 展開はTaylor 展開の一般化であることになる。
定義 10.5 (円環領域における Laurent 展開, 点のまわりの Laurent 展開と主部・留数) c∈C, 0≤R1 < R2 ≤+∞, f は A(c;R1, R2) で定義されていて正則とするとき、
(∗) f(z) =
X∞ n=0
an(z−c)n+ X∞ n=1
a−n
(z−c)n (z ∈A(c;R1, R2)) を満たす{an} が一意的に存在する。
この(∗) を f のA(c;R1, R2) における Laurent (級数)展開と呼ぶ。
特に R1 = 0 のとき、f の c のまわりの (c における) Laurent (級数)展開とも呼ぶ。
さらに X∞ n=1
a−n
(z−c)n をLaurent (級数)展開の主部 (主要部、the principal part)、a−1 を f のcにおける留数(residue)と呼び、Res(f;c) で表す:
Res(f;c) = a−1.
(注意: R1 >0の場合は、主部、留数という言葉は使わない。)
以下この講義に現れる Laurent 展開の9割以上が、点のまわりの Laurent 展開で、そうで ない円環領域における Laurent 展開は、あまり登場しない。これは(以下に導入する)孤立特 異点の話が長くなるせいであるが、他のテキストを読んでいる人には注意が必要かもしれない (テキストによっては、円環領域における Laurent 展開を定義していないものもある)。
10.1.1 (67) の証明について (しばらく工事中。)
講義の後に (67) がなぜ成り立つのか、分かるように説明してほしい、と言われたので、説 明してみる。
私自身は、Greenの定理は重要で、(67)を証明するのにうってつけであると感じているのだ が、現実には、関数論を学習する人にとって、Greenの定理はとても常識とは言えない(その 説明に十分な時間を割けない、そもそも必修科目の範囲に入っていない、そういうのがありが ちと思われる)。以下では、講義科目内の self-contained を目指し、Greenの定理は使わずに、
定理6.18と、定理??を使った証明を説明する。
ε >0, D(a;ε)⊂A(c;r1, r2) とするとき (69)
Z
|z−c|=r2
f(z) z−a dz −
Z
|z−c|=r1
f(z) z−a dz =
Z
|z−a|=ε
f(z) z−a dz
を示そう。右辺は円盤領域における Cauchy の積分公式により、2πif(a)に等しいことが分か る。ゆえに (67)が成り立つ(z を ζ, a を z に置き換える)。
a=c+ρeiφ, ρ >0,φ ∈R とする。
C11: z =r1eiθ (θ ∈[φ, φ+π]), C12: z =r1eiθ (θ ∈[φ+π, φ+ 2π]), C21: z =r2eiθ (θ ∈[φ, φ+π]), C22: z =r2eiθ (θ ∈[φ+π, φ+ 2π]), γ1: z =a+εeiθ θ∈[φ, φ+π], γ2: z =a+εeiθ θ∈[φ+π, φ+ 2π], L1: z =tei(φ+π)(t∈[r1, r2]),
L2: z =teiφ (t∈[r1, ρ−ε]), L3: z =teiφ (t∈[ρ+ε, r2]),
Γ1 :=C21−L1 −C11+L2−γ1+L3, Γ2 :=−L3 −γ2−L2−C12+L1+C22
と Γ1, Γ2 を定義すると、どちらも閉曲線であり、Γ1+ Γ2 に沿った線積分で、往復する経路 (±L1, ±L2, ±L3)に沿う線積分が打ち消しあって0になるので、
Z
Γ1+Γ2
f(z) z−a dz =
Z
C21−C11−γ1−γ2−C12+C22
f(z) z−a dz
= Z
C21+C22
f(z) z−a dz−
Z
C11+C12
f(z) z−a dz−
Z
γ1+γ2
f(z) z−a dz
= Z
|z−c|=r2
f(z) z−a dz −
Z
|z−c|=r1
f(z) z−a dz −
Z
|z−a|=ε
f(z) z−a dz が得られる。以下 Z
Γ1
f(z)
z−a dz = 0, Z
Γ2
f(z)
z−a dz = 0
を示す。それができれば 0 =
Z
Γ1+Γ2
f(z) z−a dz =
Z
|z−c|=r2
f(z) z−a dz−
Z
|z−c|=r1
f(z) z−a dz−
Z
|z−a|=ε
f(z) z−a dz から、移項により (69)が得られる。
以下、積分路 Γ1 を、積分の値を変えずに、像が星型領域に含まれるような Γ′1 に変形でき ることを示す。
R1,R2 より、角度2∆φ以下の任意のバウムクーヘン扇領域が星型となるような∆φ >0が 定まる(定理??)。
c から γ1 へ接線を引き、その偏角を φ+δ とする(接線が z = c+tei(φ+δ) という意味で ある)。
中心角が小さなバウムクーヘン扇領域 B で Z
∂B
f(z)
z−adz = 0 が成り立つので、L1, C11 の 定義式にあるφ+πを少し(∆φ 以下) 減少させても積分
Z
Γ1
f(z)
z−adz の値は変わらない。そ の変形を繰り返すことで、積分の値を変えずに、φ+π のところを φ+δ+ ∆φ3 に変えること ができる。
L2, L3 の像は、直線 z = c+teiφ (t > 0) の像に含まれるが、積分路を変形して、半直線 z =c+tei(φ+δ−∆φ3 ) (t≥0)の像に含まれるようにできる。もちろん同時にC11 と γ1 の部分も 変形する(C11 はまだしも、γ1 の変形を式で書くと複雑になるので、それはあきらめる)。— 以上は a を避けた、ということである。
こうして得られた閉曲線Γ′1 は、その像が B(c;R1, R2, φ+δ−∆φ2 , φ+δ+∆φ2 )に含まれる。
この領域は星型であるので、
Z
Γ1
f(z) z−adz =
Z
Γ′1
f(z)
z−adz = 0.
同様にして Z
Γ2
f(z)
z−adz = 0 が証明できる。
(個人的な感想: 定理??さえ理解してしまえば、後は図を眺めるだけで積分路の変形が納得
できるのだが、こうして言葉で説明を書くのは面倒で、また出来上がった説明が読む人にかな り分かりにくくなっている、と思われる。)