3.5 冪級数の収束円周上の点での収束発散 , Abel の級数変形法 , Abel の連 続性定理
3.5.2 Abel による 2 つの定理 ( 付録 A.6 も見ること。 )
議論がやや面倒なので (時間がかかりがち)、授業では省略することがありうる。少なくと も証明は「後で」と言っておいて、結局は出来ませんでしたね、ごめんなさい、という可能性 が高い。
まず、どういう応用があるかを書いておく。
• X∞ n=1
zn
n は |z|= 1, z 6= 1 を満たす z について収束する。
• 次の有名な級数の和の証明46 π
4 = 1−1 3 +1
5 − · · · . log 2 = 1
1 −1 2 +1
3 − · · · .
どちらの定理Abel の級数変形法を用いて、比較的容易に証明できる。これは微積分の部分 積分法の数列(級数)バージョンと考えることが出来る(微分 ←→ 階差,積分 R
←→ 和P )。
46これらは、微積分で個別に証明することが出来るが、複素関数の立場からは、正則関数の冪級数展開が収束 円の内部でもとの関数と一致するという定理と、Abelの連続性定理を使うのが分かりやすい。
補題 3.39 (Abelの級数変形法, 部分求和公式, summation by parts) 数 列 {αn}n≥0, {βn}n≥0 があるとき、sn :=
Xn k=0
αk とおくと、
Xn k=0
αkβk =snβn+
n−1
X
k=0
sk(βk−βk+1) が成り立つ。
証明 a0 =s0,ak =sk−sk−1 (k ≥1) であるから、
Xn k=0
αkβk =s0β0+ Xn
k=1
(sk−sk−1)βk =s0β0 + Xn
k=1
skβk− Xn k=1
sk−1βk
=s0β0+ Xn
k=1
skβk−
n−1
X
k=0
skβk+1 =s0β0+
n−1
X
k=1
skβk+snβn
!
− s0β1+
n−1
X
k=1
skβk+1
!
=s0(β0 −β1) +
n−1
X
k=1
sk(βk−βk+1) +snβn
=
n−1
X
k=0
sk(βk−βk+1) +snβn. これから次の定理が得られる。
命題 3.40 {αn}n≥0 は部分和が有界な複素数列、{βn}n≥0 は単調減少して 0に収束する数 列とするとき、
X∞ n=0
αnβn は収束する。
証明 sn :=
Xn k=0
αk とおくと、仮定から(∃M ∈R) (∀n∈N) |sn| ≤M. Abelの級数変形法に より
Xn k=0
αkβk =
n−1
X
k=0
sk(βk−βk+1) +snβn.
右辺第2項について、|snβn| ≤ M βn → 0 (n → ∞) であるから、n → ∞ とするとき、
snβn→0.
右辺第1項については
|sk(βk−βk+1)| ≤M(βk−βk+1), Xn k=0
M(βk−βk+1) =M β0−M βn+1 →M β0
であるから、優級数の定理より、n → ∞のとき
n−1
X
k=0
sk(βk−βk+1) は収束する。
ゆえに、n→ ∞ のとき、
Xn k=0
αkβk は収束する。
例 3.41 X∞ n=1
zn
n は |z|= 1, z 6= 1を満たすz に対して収束する。実際、αn :=zn, βn := 1 n と
おくとき、
Xn k=1
zk =
z(1−zn) 1−z
≤ |z|(1 +|zn|)
|1−z| = 2
|1−z|
であるから{αn}の部分和は有界であり、{βn}は単調減少して0に収束する。ゆえに X∞ n=1
αnβn = X∞
n=1
zn
n は収束する。
有名なAbel の連続性定理を証明するために、補題 3.39 を少し一般化しよう。
補題 3.42 数列 {αn}n≥0, {βn}n≥0 があるとき、任意の m ∈ N に対して、sn :=
Xn k=m
αk (n ≥m) とおくと、
Xn k=m
αkβk =snβn+
n−1
X
k=m
sk(βk−βk+1) が成り立つ。
証明 補題 3.39 の証明と同様である。
定理 3.43 (Abelの連続性定理 (Abel’s continuity theorem)) 冪級数 f(z) =
X∞ n=0
anzn
が z =R (R > 0)で収束したとする。このとき、任意の K >1 に対して、
ΩK :=
z ∈C
|z|< R, |1−z/R| 1− |z|/R ≤K
とおくと、冪級数f(z)は ΩK∪ {R} で一様収束する。ゆえに関数 f は ΩK∪ {R}で連続 である。特に
zlim∈ΩK z→R
f(z) = f(R).
さらに
lim
x∈[0,R) x→R
f(x) = f(R).
(ΩK の「形」が見たければ、例えばMathematicaでR=1; Manipulate[ RegionPlot[ x^2 + y^2 < R^2 && Abs[1 - (x + I y)/R]/(1 - Abs[x + I y]/R) <= K, {x, -2, 2}, {y, -2, 2}], {K, 1, 10, 0.1}] とする。K を大きくすると…)
|z| < R のとき、|1−z/R| ≥1− |z|/R >0 であるから |1−z/R|
1− |z|/R >1. ゆえに K ≤1 なる K に対して、ΩK を上と同じ式で定義すると、ΩK =∅ である。
証明 K を任意の正の数とする。z を ΩK の任意の要素とする。任意の n∈N に対して αn:=anRn, βn:=
z R
n
, fn(z) :=
Xn k=0
akzk
図 3: R= 1, K = 4.8の場合の ΩK と円周 |z|=R とおく。akzk =αkβk であり、
fn(z) = Xn
k=0
αkβk, fn(R) = Xn
k=0
αk.
|z|< R であるから、
|βn|= |z|
R n
<1.
また X∞ n=0
|βn−βn+1|= X∞ n=0
z R
n 1− z
R
= |1−z/R|
1− |z|/R ≤K <∞. 仮定から lim
n→∞fn(R) =f(R) であるから、{fn(R)}n∈N は Cauchy 列であるので、次式が成 り立つ47。
(29) lim
n→+∞sup
ℓ>n
|fℓ(R)−fn(R)|= 0.
m, n∈N, m > n とするとき、補題3.42 から fm(z)−fn(z) =
Xm k=1
αkβk− Xn k=1
αkβk = Xm k=n+1
αkβk = Xm k=n+1
sk(βk−βk+1) +smβm.
47任意の正数 ε に対して、十分大きい N を取ると、n, m ≥ N ならば |fm(R)−fn(R)| < ε. ゆえに sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)| ≤ε.
ただし sk :=
Xk j=n+1
αj とおいた。sk = Xk
j=0
αj − Xn
j=0
αj =fk(R)−fn(R) であるから、
|sk|=|fk(R)−fn(R)| ≤sup
ℓ>n
|fℓ(R)−fn(R)|. ゆえに
|fm(z)−fn(z)| ≤ Xm k=n+1
|sk| |βk−βk−1|+|sm| |βm|
≤sup
ℓ>n
|fℓ(R)−fn(R)| Xm k=n+1
|βk−βk+1|+|βm|
!
≤(K+ 1) sup
ℓ>n|fℓ(R)−fn(R)|.
mlim→∞fm(z) = f(z)であるので(これは既に証明済みの定理を使っても良いし、この不等式から {fn(z)}n∈N が Cauchy 列であるから収束する、としても良い)、この不等式でm → ∞として
|f(z)−fn(z)| ≤(K + 1) sup
ℓ>n
|fℓ(R)−fn(R)|. z についての上限を取って
sup
z∈ΩK
|f(z)−fn(z)| ≤(K+ 1) sup
ℓ>n
|fℓ(R)−fn(R)|. (29)より、関数列 {fn} は ΩK で f に一様収束する。
余談 3.44 (Stolz の路) 多くのテキストで、Abel の連続性定理は、
「α ∈ (0, π/2) を満たす任意の α に対して、|arg(z−R)−π| < α を満たしなが ら、z →R とするとき(このことを「Stolzの路に沿って z →Rとする」という)、 f(z)→f(R) が成り立つ。」
という形で与えられている。つまり
(30) lim
|arg(z−R)−π|<α z→R
f(z) =f(R).
実は、z が扇形
{z ∈C| |z−R|< Rcosα, |arg(z−R)−π|< α} に属するとき (図が欲しい…)
|1−z/R|
1− |z|/R = |R−z|
R− |z| <2 secα (念のため: sec = 1 cos)
が成り立つ(証明は省略する。辻・小松[22]のp. 91に載っている。)。すなわち、K := 2 secα とおくと z ∈ΩK が成り立つ。ゆえに上の定理3.43を用いれば、(30)はすぐに証明できる。
例 3.45 (有名なグレゴリー・ライプニッツ級数について)
(31) f(z) :=
X∞ k=0
(−1)k
2k+ 1z2k+1 (|z|<1)
とおく。収束半径は1とすぐ分かる。ゆえにf は D(0; 1)で正則である、
冪級数f(z)は z = 1で収束するので(絶対値が単調減少して0に収束する交代級数だから)、 Abel の連続性定理より
1−1 3 +1
5 − · · ·=f(1) = lim
x→1 x∈[0,1)
f(x).
f(z)が、z =x∈(−1,1)のとき実関数のtan−1x と一致することは証明しやすい(ここでは認 めることにする)。tan−1: R→R は連続であることから、右辺の極限は tan−1 = π4 に等しい:
1− 1 3+ 1
5− · · ·= tan−11 = π 4.
以上の論法は慣れると便利である(多くの場合に同じ論法が使えるので、考える手間が省ける)。 この論法を使わずに、微積分の知識だけで π
4 = 1− 1
3 +· · · の証明が出来ないわけではな いが(付録の A.9 を見よ)、少し手間がかかるし、一般化しにくい議論になりがちである。
余談 3.46 (Abel とはどういう人) 昔は、Abel は若くしてなくなった天才であるということ
を、学生も良く知っていたと思うのだけど、最近そういうのに疎い人が多いような気がするの で、少し紹介しておく。
Niels Henrik Abel (1802–1829,ノルウェー) は、冪級数の収束発散についての基礎を確立し た(定理3.23, 補題3.39, 定理3.39)。それ以外に
1. α が一般の複素数であるときの (1 +x)α の展開(一般2項定理)の証明 2. 5 次以上の代数方程式が有限回の四則と冪根では解けないことの証明 3. 楕円関数論
などの仕事を行った。後の二つは、数学読み物にも良く出て来る偉大な仕事である。(偉大な 数学者は、彼らの名前を有名にした大きな業績以外に、基礎的なことへの貢献も大きいことが 多い、と感じている。Abel は良い例である。)
4 複素関数としての対数関数と冪関数
この節では、対数関数を複素関数に拡張するが、それは変数の1つの値に対して、関数の複 数の値が対応する多価関数となる。これは、前節までに論じた多項式関数、有理関数、指数関 数、三角関数、双曲線関数には見られなかった特徴である。
実は、冪関数w=zα (α∈C\Z)、逆三角関数、逆双曲線関数も多価関数となるが、これら は対数関数を使って表されるので、これら関数の多価性は、対数関数の多価性を通じて理解で きる。(前節で、いくつかの関数は、その Taylor 展開の収束半径が有限で収束円が C 全体で はない、と述べたこと48とも関係がある。)
この節は短いけれども非常に重要である。
48(復習) log(1 +z) = X∞ n=1
(−1)n−1
n zn, (1 +z)α= X∞ n=0
α n
zn, tan−1z= X∞ k=0
(−1)k
2k+ 1z2k+1. これら冪級数の収 束半径はすべて1である。